帝都ゼブルディアにおいて名を上げ続けている有力クランである【始まりの足跡】に所属するパーティのメンバー募集が行われている酒場では一時、揉め事が行われようとしたがクランマスターのクライによる介入でそれは阻止された。
その後、クライはしっかりとクランに所属する皆に言うべき事を言い、罰を与えるべき者には罰を与える事を告げると揉め事を起こしたトレジャーハンターの少年から没収した大剣を傍に立てかけつつ、【嘆きの亡霊】のテーブルに座り、懐から取り出した黒革の手帳から紙を一枚、破り取って何事かを書いた。
「じゃあ、ティノ……これを探協のガーク支部長に届けて……それにしてもいつもはこの時期、クロエと一緒か、あるいはソロでハントに行っているよね?」
ティノに用事を頼みつつ、問いかけた。因みにクロエとはクロエ・ヴェルターというティノと同じくソロで【始まりの足跡】に所属する女性であり、『剣士』を務めるトレジャーハンターで探協のガーク支部長の姪でもある。
「えっと、今日、ますたぁの【嘆きの亡霊】がパーティメンバーを探すって聞いたので……」
「メンバーを募集するなんて言ってないよ。いつものように顔を出すくらいは言ったけど……」
クライは困ったように苦笑しながらもちょっとの噂で人を集められるのならまた、噂を流そうとは思った。
【嘆きの亡霊】はともかく、優秀なメンバーを探すパーティは【始まりの足跡】にもいるのだから。
「ともかく、頼んだよ」
「はい。それと今日はすみませんでした」
「反省しているなら良いって」
ティノが頭を下げたのに手を上げて応じると酒場から出る彼女を見送った。
「やぁ、クライ。さっきは手を煩わせてごめんね。ティノと無礼な彼を止めようとはしたんだけど」
そんなクライへ近づいたのは【始まりの足跡】に所属しているがクライ達、【嘆きの亡霊】がゼブルディアで活動を始めてから競い合ってきた【
認定レベルはこの帝都でも五人しかいないレベル7で『
因みにアーク以外の【聖霊の御子】のメンバーは女性だけであったりする。
そんな彼はクライに近づくと苦笑を浮かべつつ、謝る。
「ああ、ちゃんとアークが動こうとしたのは見えていたよ。ただ、このクランのマスターは僕だし、先にも言ったようにこの酒場のオーナーとは長い付き合いだからね。揉め事を止めるなら僕がやるべきだ」
「相変わらず真面目だね……それに今回は潜入していたのは驚いたよ」
「偶には抜き打ちのような事をしてみないとね。毎回、僕がいるから揉め事を起こさないだけなんてのは困るし……まあ、今回は残念な結果だったけど」
アークの言葉にクライは答える。【始まりの足跡】のパーティメンバー募集の際、クライはマスターとしての顔見せをしているがいつもは潜入せず、堂々とその場にいるのだが今回は抜き打ちのような事をしたのである。
「まったくだね……それにしても今日は髪を結んでないんだ?」
「丁度、紐が切れたんだ。だからそのままにしている」
「そうかい、ちょっと触ってみても良いかい?」
「どうぞ」
アークの問いにクライは答えると『じゃあ、失礼して』と断ってから軽くクライの髪に触れる。
「やっぱり、手入れはしてるんだ。サラサラでつやつやだね」
「シトリーにルシア、クロエにティナ、エヴァが良く手入れをさせてほしいと頼んでくるんだ。中々、品の良いシャンプーにリンス、トリートメントなんかも良く仕入れてくるし」
「はは、まあこれだけ綺麗な髪だとそうだね。それも相まって顔も良いし」
「アークの方が顔が良いだろ?」
「……それを本気で言っているんだからなぁ」
クライの戸惑った言葉にアークは苦笑を浮かべた。実際、今まで女性にも見えるくらい容姿が整っているクライの様子に他のトレジャーハンターたちは視線を注いでいるし、顔を赤らめたり、見惚れたりもしていた。
ともかく、その後アークにパーティに加えられそうな見込みのある者がいるか聞くと、彼が攻略する宝物殿についてこられるかというと高難度過ぎるが故に難しいと答えた。
その後、クライはメンバー募集の時間が終わるまで見届けると少年から没収した大剣を持ちながら帝都の中心に建てられている【始まりの足跡】の本部でありクランハウスへと戻る。
このクランハウスはクライのポケットマネーとクランメンバーの会費で建てられた五階建てかつ、地下施設も備えられた建物である。
「おかえりなさい、クライさん。話は聞いています……揉め事を瞬時に納めるとは流石ですね」
「起こらないのが理想だったんだけどね。僕がいない間、何か問題はあったかいエヴァ?」
クライが本部に戻ると待っていたのだろう副クランマスターでトレジャーハンターでは無く、クラン運営を主な仕事とする女性で華奢な体格にアメシストの瞳に赤緑の眼鏡、整えられたブラウンの髪、端整な容姿を有するエヴァ・レンフィードが出迎える。
【始まりの足跡】ではクラン運営の為だけに外部から人間を雇い入れており、エヴァも含めて十名のハンターでは無い職員が在籍している。
「いえ、クライさんの手を煩わせるような問題は何もございません」
「それは良かった」
そうして、クライはエヴァと共に最上階に向かう中で一旦、
この世界における超常の力であるマナ・マテリアルが世界の記憶から抽出した情報を元に異世界を形成し、宝物殿を形成する。
宝物殿は厳しい環境や構造に地形、罠もそうだが、マナ・マテリアルが濃ければ濃い程に魔物や生きて物体に手を出せるが幻の存在である
しかし、特殊な力を有する宝具というアイテムも出現する。無論、高難度の宝物殿であればあるほどに出てくる宝具は優れた物が出てくる。
例外は無論、ある。
また吸収上限は人によって違うが、高濃度のマナ・マテリアルを吸収する事でトレジャーハンターは更に強くなったりもするのだ。
ともかく、クライは少年のトレジャーハンターから没収した大剣は宝具であったので保管室に収納してからクランマスターの執務室へと向かい、執務を行うのであった。
少し時間が経過するとクライは地下牢へと降りていき……。
「おい、出せよ。俺にこんな事をして……」
「先に問題を起こしたのは君だよ、ギルベルト・ブッシュ君。ティノもだけどパーティ募集の場で揉め事を起こそうとしたばかりか【始まりの足跡】に所属するパーティの皆に【嘆きの亡霊】の皆も何もかもを侮辱したんだからね」
「ど、どうして俺の事を……」
「これでも大手クランのマスターをしているんだからそれ相応の情報網は持っている。だから、かつてのパーティとは実力の差が開いてソロにならざるをえなかった事は知っているよ。ともかく、今一度、反省する事だ。後は明日、罰を与えるからそれが終われば君は自由だし、宝具も返す。それともう少ししたら、食事に飲み物は運ぶから安心して」
ギルベルトに必要な事を告げるとクライは地下牢から去って行ったのだった……。