【白狼の巣】――レベル3に認定されている洞窟型の宝物殿だ。
帝都ゼブルディアの北西に広がる大森林地帯の半ば獣道のような細い道の先に存在している。
元は大森林地帯に存在する固有の魔物であり、輝く白銀の月に似た毛皮を有する狼、『シルバームーン』の大規模な群れが縄張りとする一帯であった。
しかし、ハンターによって高価値な毛皮を求められて狩られ尽くしてしまい、そうして、そのシルバームーンの幻影が出る宝物殿と化したのである。
マナ・マテリアルによって出現する幻影は基本、倒すとマナ・マテリアルに還元されて消えてしまう。もっとも強く顕現された体の一部やその他もろもろが物体として残る事があるが、シルバームーンの幻影を倒しても毛皮が残ったりはしないのだ。
そんな【白狼の巣】でレベル5のトレジャーハンターであるロドルフのパーティが遭難救出の対象となっていた。その時点で何か異変が起こっていることが予想される。
クライは『罰』としてティノにギルベルトとグレッグにこの依頼を受けさせ、元々、【白狼の巣】を攻略したがっていたルーダもサポートとして一緒に行かせた。
その後、クライも執務を終わらせて風を纏っての飛行魔法で夜空を超速で飛行し、【白狼の巣】に向かったのだ。そして、【白狼の巣】がある近くに降り、魔法を解除すると宝物殿の中に入り、目を瞑りながら、指を鳴らして超音波の反響によって空間把握をする『
「良し」
そうして【白狼の巣】の全てを把握すると腰に帯剣している鞘から剣を抜き、魔法を発動して風を纏い、空気圧の影響を受けないようにすると超速で疾走し、ティノ達がいる場所へと向かっていく。
『ッ!!』
空気圧の反動による邪魔が無いために加速域に限界の無い疾走をしながら向かっているとクライの進路に二足歩行であり、鎧や剣に弓に槍など武装した顔の右半分を人の骨で隠した狼の騎士たちの姿が見えるようになる。
「ふっ!!」
疾走の勢いを利用しながら鋭く流麗な剣閃の舞で切り伏せていき、進んでいく。
「ここだな」
クライはティノ達がいる場所に近づいたので魔法を解除して、疾走を止めて剣を鞘に納めた。
そして、ティノ達がいる場所に足を踏み入れると窮地にあるティノ達の前に四体の大柄で強力な武装をした二足歩行の狼の騎士である『ウルフナイト』がいた。
「しっ!!」
クライは右の人差し指をウルフナイトの方へと向けて魔法を発動し、四つの小さな雷閃を放つとウルフナイトは弾けた雷光に呑まれながら消滅する。
「生きていてくれてなによりだ」
笑う骸骨の仮面を外しながらティノ達に笑いかけて近づく。
「助けていただきありがとうございます。ますたぁ……明らかにここは異常です」
「ああ、レベル3を明らかに超えている。狼の騎士とか聞いてねぇよ」
「レベル5のロドルフが遭難するはずだ」
「本当に来てくれたのね」
ティノ達は傷だらけであり、消耗もしていて本当にぼろぼろだ。クライは右手を向けるとティノ達へ光の粒子を放つ。するとティノ達の傷も疲れも癒された。
回復魔法を使ったのだ。
「じゃあ、ロドルフ達を助けに行くぞ」
そうしてクライは仮面を被ると自分が先頭を歩きながら、『反響定位』で把握したロドルフ達がいる場所へと向かう。
その道中で何体か、ウルフナイトが襲ってきたが……。
「邪魔だ」
クライは掌を向けて指向性を有したかなりの音圧が込められた塊を放ち、そうしてウルフナイトを破砕していく。
「ますたぁはやはり、神……」
「ポンポン強力な魔法を使っているのに魔力がきれた様子もねぇだと……」
「さ、流石はレベル8……もう、理解が出来ない強さだ」
「トレジャーハンターはあそこまでいけるのね」
クライの魔法の技量にティノは崇拝の表情を浮かべ、ギルベルトにグレッグ、ルーダ達は絶句に畏怖、驚愕の表情を浮かべた。
そうして進んでいると道の先で横たわる五人のトレジャーハンターを発見した。
無論、ロドルフ達である。
「ど、どうやって居場所を……」
「ますたぁは全てを見通している」
ギルベルトは容易く、クライがロドルフ達がいる場所に到着してみせた事に唖然としたが、ティノは当然だという表情で告げた。
「ロドルフ・ダウーだよね? 助けに来たよ」
クライは仮面を外して大柄で鈍色に輝く全身鎧を纏っていて緑に塗られた大きな盾と円錐状の巨大なランスをいつでも掴めるようにしている男に近づき、呼びかける。
「っ、『千変万化!?』……助かった。ああ、俺がロドルフだ。仲間たちを助けてくれ」
そうしてロドルフが頷いたのを見るとクライは光の粒子をロドルフ達に放つ。強力な回復魔法によって、傷は勿論、折れた骨ですら治っていく。
「ほら、食糧と水だ」
クライは腰に携帯している雑嚢型の宝具で『
そうして、クライが事情を聞くとロドルフ達は明らかにボスと思われる顔全体を完全に人骨で覆った狼の騎士に襲われてしまった。生きているのはその騎士が瀕死を負わせつつ、わざと自分達を生かすように弄んだからだという。
「あれほどの強さ、きっと【千】「待った」」
クライは話を聞きながら、ロドルフの言葉を右の人差し指を口の近くで立てながら、遮った。
ロドルフが口に出そうとしたのは【千剣】の二つ名を持ち、剣においてはアークにすら勝り、クライですら油断していれば抜かれてしまうだろう程の超絶した領域にいる【嘆きの亡霊】の剣士でクライをトレジャーハンターに誘った男の幼馴染であるルーク・サイコルだ。
またルークは少しでも優れた剣の腕を持つ者がいれば喜々として勝負を挑む剣術馬鹿でもある。宝物殿に剣士の幻影のボスがいれば、一人で勝つまで挑むほどにだ……。
「悪いけど、僕の前でその名を簡単に出さないでくれるかい。頼むから」
最強の剣士であるとクライは認めていて、何より自分の大切な幼馴染である。
そんな彼の強さに簡単に匹敵するとクライはせめて自分が確認するまで言わないでほしかったのでロドルフの言葉を遮った。
「あ、ああ……すまない」
クライから静かながらも途轍もない圧を感じ、ロドルフは謝った。
ともかく、そうして皆で進んでいると……。
「あれだね」
ウルフナイトより小柄で顔全体を人骨で覆い、狼の耳こそ生えているが頭の形に髪の毛は人間に似た狼騎士がいて、その手に漆黒の剣を持っていた。
そんな狼騎士に笑う骸骨の仮面を被ったクライは歩いて近づき、ある程度間合いを取って立ち止まる。
「来い」
クライは鞘に納められた剣のグリップに手を置いて自然体なままに狼騎士へと呼びかけた。
「……!!」
狼騎士は正に死地を切り抜けるような様子でクライへと迫っていき、剣を振るう。
「ルークには全然、届かないよ」
クライはただ、そう言い、そうして鞘から剣閃を奔らせると狼騎士の剣閃を逸らしつつ、狼騎士の肉体を斬断して消滅させた。
「あはぁっ、やっぱりクライちゃんの勇姿って最高っ!!」
一瞬で剣を鞘に納めたクライに明るい調子かつ艶のある声でピンクブロンドの髪を後ろで結び、軽装であり、金属靴の宝具を身に着けたスレンダーな肢体を有するクライと同じ『笑う骸骨』の仮面を被った女性が言った。
「ひぃっ、ご、ごめんなさいごめんなさいごめんなさい……許して、許してくださいおねえさま」
ティノは絶望した表情を浮かべるとその場で怯えて震えながら謝り出す。何故なら姿を現した女性は……。
「やぁ、リィズ」
「はぁい、クライちゃん」
クライの言葉に応じてクライへと近づく女性――それはクライの幼馴染の一人でシトリーの姉でティノの師匠でもある【嘆きの亡霊】のトレジャーハンターであるリィズ・スマートなのであった……。