レベル3の宝物殿である【白狼の巣】での諸々を終わらせてクランハウスに帰還した日の翌朝、クライは自室の寝台から起き上がる。
「んむぅ……くらいちゃん?」
昨夜愛し合ったリィズがトレジャーハンターとして鋭く研ぎ澄まされている感覚によって、クライが起き上がったのを感じて気怠げに起き上がった。
「おっと、リィズは寝てて良いよ。ただでさえ、【万魔の城】からこの帝都、【白狼の巣】にまで来たんだから。今日はゆっくり休んでほしいんだ」
「んぅ、くらいちゃんもまだいてぇ」
「分かったよ」
リィズは横になりながらもクライに抱き着く様にしてお願いし、クライは苦笑しながらリィズの頭を撫で続ける事で再び睡眠に入らせた。
その後、軽く身支度を整え、新しく買った紐で長髪の後ろを結びつつ、日課の朝の鍛錬をしに鍛錬室へと行き、鍛錬を終えると鍛錬室の横にあるシャワー室で汗を流し、着替える。
その後、日課なのでクライの行動を把握しているエヴァが現れ、客室にいるティノ達をラウンジへと呼び、朝食を共にする事とした。
「さて、ゆっくり眠れたかな?」
「はい、ますたぁ。おかげさまで……」
「とっても過ごしやすい部屋だったよ」
「さ、流石は大手クランの部屋でしたね……とっても良かったです」
「本当、色々世話してくれてありがとうございました」
「救助と言い、宿泊させてもらった事と言い、借りがいっぱい出来ちまったな」
クライの言葉にティノにギルベルト、グレッグにルーダ、ロドルフ達が称賛やらお礼を言った。
「この後は皆で探協に行こう。遭難救助の依頼をこなした報告もだけど、【白狼の巣】での事を言わなきゃならないしね」
クライの言葉に皆が頷き、そうして朝食を終えて探協へと向かって必要な事を報告する。
「それでレベル8のハンターから見て、【白狼の巣】はどう思った?」
探協の支部長であるガークと副支部長のカイナはティノ達やロドルフ達から話を聞きながら、クライから改めて意見を聞こうと応接室に呼び、ガークは問いかけた。
「色々と違和感はあると思ったよ。狼の騎士の幻影たちがいたが妙に統制取れていたし、武器も物理攻撃的なものばかりだった……まあ、先入観を持つのは良くないから、こんな事しか言えないけど」
「異変とやらは自然に起こったものか、作為的なものか……どっちかとしたらどうだ?」
「どっちかと言えば、作為的かな……でも、調査するならありとあらゆる可能性を探った方が良い。慎重にね……北の街道は封鎖した方が良いとは思う」
ガークからの問いにクライは思ったままに答えた。
「どのみち、レベル3から大きく跳ね上がっているのは確かだしな。調査が済み次第、声をかける事になると思う」
「僕の方でも改めて探ってみますし、呼び出しに応じれるように調整しておきますね」
「本当、色々協力してくれるから助かるわ。ありがとう、クライ君」
カイナは協力的であるクライに頭を下げて感謝を示す。
「長い付き合いですしね……そうそう、リィズが【万魔の城】からこっちに戻ってきていますよ。ルーク達はボス部屋に出る剣士の幻影と戦っていて、ルークに付き合う形でリィズ以外は残っているようです」
「お前達は相変わらずだな……それにしてもよりにもよって、リィズが先に帰って来たのかよ」
「出来る限り、抑えてはおきます」
「頼む」
この帝都で好戦的なリィズ、そしてルークは揉め事を起こしており、その事から評判になっていた。クライも一般市民に被害が及ぶなら止めるが、トレジャーハンター相手ならガス抜きとして敢えて止めなかったりするのだ。
それはそれとして、騎士団に喧嘩を売ろうとすれば止めたりはするので騎士団の警邏隊などと知り合いにもなっていたりもするが……。
ともかく、ある程度雑談を交わしてクライは探協からクランハウスに戻る。
「あ、クライさん。ただいまです」
「おかえり、クロエ」
すると宝物殿から帰って来たガークの姪で黒髪のツインテールで可愛らしい容姿にスタイルの良い剣士であるクロエがいて、クライに近づきながら声をかけてきたので笑みを浮かべてクライは応じる。
そうして、執務室に戻ると……。
「エヴァ、悪いけど少しの間、帝都で動きが無いかどうか探ってくれるかい? 小さな事もしっかりとね」
クライはエヴァに帝都での情報収集を命じた。
「っ、この帝都で何か起こるのですか?」
「間接的にはあるかもしれない……慎重に頼むよ」
「分かりました」
クライからの指示にエヴァは頷いた。
「さて、そろそろリィズの相手をしてくるよ。仕事も一段落ついたしね」
執務を終えたクライはそうして、椅子から立ち上がると執務室を出て、自室でトレーニング用の服に着替えながら、リィズが待っている訓練室へと向かう。久しぶりの手合わせもそうだが、マナ・マテリアルの蓄積によって気が高ぶっているリィズのガス抜きも兼ねていた。
「ふわぁ……駄目だよ、クライちゃん。そんな恰好したら……色気有り過ぎちゃう」
「大袈裟だよ」
動きやすさのため露出性の高いトレーニング着姿であるクライは色気が凄く、すれ違うクランメンバーたちは皆、クライに見惚れていた。もっともクライはそれを気にしないのだ。
「大袈裟じゃないって」
相変わらず、自分の容姿に頓着しないクライにリィズは溜息を吐く。
そうして訓練室でクライとリィズは構え合い、次の瞬間には超速で縦横無尽に動きながらクライは手足による鋭く流麗な打撃の戦舞を舞い踊り、リィズも苛烈な打撃の戦舞を舞い踊り、激しい攻防を応酬したのであった……。
二
リィズとの鍛錬を終えるなどして諸々済ませたクライは自室に用意している隠し部屋にして電気くらいしか無い部屋であり、周囲の音が聞こえないよう遮音性の高い瞑想室に入ると……。
「『アカシャの塔』め、シトリーがいない間に動いちゃうなんてね……それにしても【白狼の巣】を活動拠点にしていたのか」
実はクライには【白狼の巣】の異変の原因に見当がついていた。
それは『アカシャの塔』――魔法及び魔術による真理の探究を主目的としており、そのために倫理を無視し、外道な事など手段を選ばない巨大な魔術結社にして犯罪組織でもある。
そんな『アカシャの塔』にてどうしても技術を学びたいからとクライの幼馴染でリィズの妹であるシトリーが潜入しているのだ。
シトリーは錬金術師として手段を選ばない性質を有しているがクライはそんな彼女の性質も受け入れている。絶対に一般人に被害が及ばないという一線は設けたが、その一線を越えない限り、クライはシトリーが違法をしようと許しているし、必要とあらばフォローにも入っている。
しかし、『アカシャの塔』に潜入したシトリーからどの支部にいるかなど情報は聞いていなかった。第三者から問いかけられた時にしらばっくれる事が出来るからである。
とはいえ、流石に『白狼の巣』での異変から察しがついてしまったが……。
「さて、どう動くべきか……」
クライは言いながら、彼が有する宝具の一つで頭に顔を完全に覆う巨大なゴーグルで未来を視る事の出来る【
【未来の視界】はその名前通り、未来を視る事が出来る宝具だ。
ただし、自分に他者を含めてありとあらゆる未来が見えるのでその制御やら選択が難しく、当然、未来を視れば視る程に脳に負担もかかる。
しかし、使いこなせればあらゆる選択からの未来を視る事が出来るので行動したり、思考する上での参考になるのだ。
「うぐぁ……はぁ、はぁ、はぁ……相変わらず、きついな」
幾つかの未来を視たクライは宝具を外し、大量の汗をかき、息を吐く。
「でも、動き方は決めた」
そうして、視た未来を参考にどう動いていくかを決めたのであった……。