注釈ですが、この小説内の幻想郷の設定は、
現日本円を使用することができる(硬貨の方が若干価値がある)
というものです。
気長に待っててくだちい。
「……まさか、な」
教室は一段と暗かった。それもそのはずもう夕方である。
ある一点を除いて。
「あれは……人影?」
「そう、だな。どうする?泥棒にしちゃあ随分と弱々しいけど」
「まぁ、取り敢えず話してみますか」
「あの、どうしたんですか?そんなとこで怯えて」
「泥棒なら今、鍋やってるんでねぇ、塩気がチョット足りないんだよ」
それにしてもこの妹紅、ノリノリである。まるでどこぞの執行官のようだ。
「あの……私の姿が見えるんですか?」
「あれ?」
振り返った人影は、紛れもなく少女の形をしていた。少なくとも、泥棒というわけではないだろう。それにこの言動からするにほぼ確実にアレである。
「まさか、幽霊?」
「……はい」
目の前の少女は俺の言葉を聞き、少し悲しそうになった。それもそうだ。幽霊として現世に残っているということは、未練がある、自身を幽霊と認めたくないということである。幻想郷だからよくはわからないが。
「どうしてその幽霊がここに居るんだ?慧音に何か恨みがあるのか?」
「妹紅さん、あまり責め立てないほうがいいですよ。手が、つけられなくなったら」
「はぁ……いいかい?私は一応妖怪退治をやっていた身だ。こうでも当たらなきゃやっていけない。それに、身内の家に居るのだったら尚更だ。こういっちゃなんだが……素人は引っ込んでてくれ」
美少女からのきつい一喝。つい前の言葉からの落差に流石に心に響いてしまった。自分の豆腐メンタルに心底うんざりである。
妹紅はさっき向いていた彼女の方に向き直した。
「どうなんだい?」
「いえ。慧音先生には感謝してるんです。だけど」
「なら、とっとと成仏しな。アンタはここにいていいはずが無い。冥界に食いしん坊のお嬢様がいるから、そこに行きな」
「……そうですよね、迷惑ですよね?すみません」
少女は、憂いの表情を浮かべながら徐々に姿が見えなくなり、教室はただの暗い部屋となっていた。
「ふぅ。まぁ、このくらいキツく言っておけばもう此処には来ないだろうな。ごめんな、○○。さっきは言い過ぎた」
「いえ……大丈夫です」
その後慧音先生の元へ戻り、ことの事情を話した。しかし、妹紅の慧音先生に対する図らいで、それが慧音先生の教え子出会ったということは伏せられた。
食事を済ませた後、寝床の準備をして俺と慧音先生は別々の部屋で寝た。また、妹紅は自分の家に戻っていった。
やはり、ハーレム展開というのは夢見が良すぎたらしい。くやしい。
さて、床に着いたところで今ある状況を整理する。今日一日中で色々のこと後ありすぎた。ぶっちゃけ言えば一生分の出来事にも等しいくらいである。
まず、幻想郷に拉致される。
次に運良く人里の顔的存在、上白沢慧音に遭遇、奇跡的に現在のようになった。それもカップリング候補暫定No. 1のもこたんとセットである。
そして極め付けは、幽霊の遭遇である。個人的に言えば幽霊なぞ、いたら雇って御手伝いさんにでもさせてやるというくらい信じ難いものである。
2pカラーの巫女の常識にとらわれてはいけないということは、割と初めからパスしていたらしい。
それはさておき、明日は先生曰く休みの日らしいので思っていたよりも簡単に他の少女達と会うことができるかもしれない。
さて、ことの整理が出来たことだし明日のためにも今日は早めに……
寝ません。そう、さて置いたことがまだ残っている。
((慧音先生には感謝してるんです。だけど……))
あの言葉が如何しても気にかかる。
俺は当然のことながら幽霊や妖怪退治なとしたことがないから妹紅がやったことについてはわからない。あの強引なやり口も何百年間妖怪退治をやってきた上の手法なのだろう。
だったとしても、あの子のあの顔、言葉が忘れられない。
もし、もう一度あの子に会えたのなら会って話を聞きたいものである。
「呼んだかしら?」
「ファッ!?」
仰向けに寝ていた俺の頭上から出てきたのは今回の異変(俺のみ)の主謀者、八雲紫である。
「呪怨ですか貴方は」
「あら?もう一人の子でも連れてこようかしら?」
「結構です。というか、要件は早く済ませてください」
「やぁねぇ。せっかく今回の件について謝罪をしようと思ったのに」
「それならいつ俺が元の世界に戻れるように手筈してください」
「それはダm、いや、正確に言えばもう不可能ね。あの時にもう出来ないようにしてしまったから」
なんということだ。つまり元の世界に戻れば、さっきの話の幽霊のような扱いを受けるということは確率的に高いということである。
「orz」
「本当にやりすぎたと思っているわ。代わりと言ってはなんだけど、何でも一つ、願いは叶えてあげるわ」
「ん?今何でもするって言いました?」
「あぁ、さっき言ってたのをやれっていうのはナシね。あと、そのネタ幻想郷の住人だと数えるほどしか知ってる人いないから使い方に注意してね」
むしろ指おりでいること自体に驚きである。
「なら……」
俺は紫にさっきまで起こっていたことを話した。もちろん、妹紅に隠すように言われたことも全て。
「成る程。事情は分かったわ。それで、貴方はあの子に会いたいのかしら?」
「はい。アレで成仏はしてないと思いますが」
「そうね。一応は消えたくらいかしら?幽々子にも話をつけておくけど、本当にそれでいいの?」
「今の所は。あ、あとお金を少々」
「承知したわ。報告は明日の夜、教室で。それじゃあ、楽しい幻想郷生活を」
紫はそう言うとスキマから姿を消した。足元には幻想郷のお金であろうか、恐らく2貫文ほど置いてあった。
「……スマホ使えないのは、ちょっと精神にくるな」
電源の入らないスマホを片手に、俺は胎児のように眠りについた。
「んふふ。なかなかやるわね、あの子。連れてきて正解だったわ‼︎」
「紫様、どうなさいましたか?」
「いい暇つぶしを連れてきたの。藍もいずれ会えるわ。何でも"死ぬ覚悟で幻想郷を回ってみる"らしいから」
「そう、ですか(嫌な予感が……)」
朝はびっくりするほどよく眠れた。普段パソコンを付けっぱなしにして寝ていた時と違って、まるで林間学校の朝のような爽快感だ。制服のまま寝ていることを除けばだが。仕立て屋で甚平くらい買っておいたほうがいいかもしれない。
慧音先生お手製の朝ご飯を食べ、少し時間が経ってから出掛けることにした。今日の目的は三つ。一つは日用品の購入、二つ目は少女との遭遇、三つ目はあの少女に会うこと。
二つ目は、願わくば市場で少女達に出会えれば良いのだが……
「ただいま帰りました」
「お帰りなさい。どうだ?人里もなかなか悪くないだろう?」
結果は惨敗。市場には着物姿の男女しかおらず、いつもいるであろう稗田阿求は面会できず、頼みの綱である古書店は閉店中だった。
仕方なく、ここで生活していくだけの日用品とパジャマを一式買って帰ることにした。
「はい、良かったです。ただ、ちょっと道に迷いかけました。やっぱり長屋は判別しづらくて」
「ふふ。そうだな、まぁ慣れれば大丈夫になるから心配しなくてもいいよ」
この後は特にこれといったことは何も起きなかった。
そして時刻は戌の刻、面倒くさいからこれからは10時と言おう。そろそろ彼女が来てもおかしくはない。
「ごきげんよう。あの先生はもう寝ていたわ。」
「こんばんは。待ってました」
「ええ、幽々子から話はつけたわ。良いニュースと悪いニュース、どっちから聞きたい?」
「良い方から聞くというのが、筋というものだと正義の味方が言っていたので」
「そう。なら、良いニュースから。一応会うことは出来るわ。後で幽々子から鶏肉10kg強請られたけど。
」
「良かった。場所は?」
「もちろん、ここで会えるわ。ここの地縛霊みたいなものだから。良いニュースはここまで」
「短いですね」
「ここまでやるのに苦労したのよ、それで悪いニュースだけど」
紫は少し顔を強張らせた。
「これ以上、この子に関わるのはやめておいたほうがいいわ。この問題は貴方の手に余るものよ、と警告しておくわ」
「どういう意味ですか?」
「お願いはこれでおしまい。それじゃあ、お元気に」
「ちょっと、待って‼︎」
紫は俺の言に振り返ることなく消えていった。大事な事は最後まで伝えない、彼女らしいといえばそうであるが当事者にとっては迷惑千万である。
あっけにとられているうちに、目の前にあの日見たあの白いシルエットが浮かび上がった。
「こんばんは」
こういう風に出てこられてなかなかいい言葉が見つからない。何としても、彼女のことを聞き出さなければ。
「こ、こんばんは……あ、あの妹紅さんは今日はいないんですか?」
「ああ、今日は一人だけだ。妹紅さんを知っていたの?」
「ええ、時々遊びに来てくれていたので」
「そうだったんだ」
少女は昨日の時と同じ、少し落ち込んだ表情だった。
「それで、今日は昨日のあの時の事について聞こうと思ったんだ。最初の質問だけど、昨日慧音先生には感謝しているって言っていたけど、どうして此処にいるんだい?」
しばらくの沈黙の後、少女はゆっくりと言葉を紡ぎ出した。
「私は、生まれてきてはいけなかったんです」
「……ひょっとして、いじめられっ子だった?」
少女は首を横に振った。
「忌み子」
「私がいると、この幻想郷が、私達みんなの迷惑になるんです」
その時、俺の心はざわざわしていた。いや、正確に言えば、紫の警告を受けてからずっとそうだった。しかし、今はそれよりももっと穏やかなものではなかった。
例えるなら、目の前に銃を突きつけられたらこうなるだろうという感覚だ。紫の警告は本当の物なのだとアタマで理解できた。
「それは、どういう意味?」
「おい、どうかしたのか?」
背筋に悪寒が走った。
「何をしているんだ?」
「え、ええっと夜の筋トレです」
我ながら最低レベルの嘘である
「……そうか。邪魔してすまない」
その時、慧音先生からは憂いにも侮蔑にも似た表情を見せた。
振り返ると、さっきまでいたあの子はいなくなっていた。