ごめんなさい、許してください。何でもしますから!
人里編その4
「結論から言おう。彼女は正確には人間じゃない、妖怪と人間のハーフだ」
「つまりは半人半妖、目の前にいる慧音先生と同じということである」
「普通、半人半妖と言うものは周りから忌み嫌われる対象である。理由は言わずもがな、妖怪の血を継いでいるからだ。人里は古来から妖怪が執拗に絡むことを避けてきた場所だ。最近は、スペルカードルールという決闘のルールができて以降はそういった傾向は少なくはなっている。現に射命丸がここにいるのもそういった事があるからだ」
「私、そうじゃなくても結構来ていたんですが……」
「基本的に無害だからだろう。あの新聞を除いてな。しかし、私もそうであるが半人半妖、更には生まれつきともなると事情は異なる」
「どうしてですか?半人半妖、妖怪と人間の血が混ざっている、いってしまえば共存のシンボルのようなものとなるのでは?」
「……たしかに、君の言には一理ある。しかし、そのことが偏にメリットを生むとは限らない。理由として挙げられるのは、」
「人間として妖怪の力を持ってしまうことがあるからだ」
「妖怪の力、ですか?」
「……つまりは、妖怪であるが故に制御できる力が、人間であるが故に制御出来なくなる、ということですか?」
「そうだ。話が逸れてしまったから軌道を修正するが、君たちが話している事件、その彼女の半分を構成しているのはコシンプという妖怪だ」
「コシンプ?聞いたことありませんね」
「なんか、小人とか、ゴブリンみたいな西洋チックな名前ですねぇ。日本の妖怪じゃあ無さそう」
「確かに、少し前までは外来の妖怪だな。○○君がいた世界の北端、つまりは北海道地方に伝承されていたとされる妖怪だ。
それが、江戸時代末期、明治の時代に行われた開拓によって、その伝承は殆ど幻と言っていいほどのものとなってしまった」
「そして、そのコシンプの能力が、
相手の心を惑わす程度の能力というものだ」
「人の心を惑わす能力、ですか。確かに危険な能力ですね。下手したら、普段取らないような行動を取ってしまうかも」
今回の事件で、それが起こってしまった、という事だ。
「つまり、その子が人に対して、と」
「……そうだ」
やはり言いたくないことなのだろうか。先生の口調が明らかに重く感じられた。
「私の生徒、キヨ子ちゃんは真面目な子だった。最初はほんの小さな出来事だった。仲の良い友達が、まるで人が変わったように無視するようになったんだ。最初私は周りの子供達を疑った。普段から品行方正な彼女を僻んでやったのだと」
「しかし、彼らたちに事情を聞けば聞くほどその謎は膨れ上がった。一人は、さっきも言った僻みというのが原因だった。しかし、彼女と一緒に居てはいけない、彼女の背後に黒い何かが見えるという声が上がったんだ」
「そこで先生はそのキヨ子ちゃんが原因だと考えるようになった、と言うことですか?」
「……ああ、本来教師として教え子を疑うなんてあってはならないことだとわかっていた。しかし、先のことからそうせざるを得なかった。私は彼女に事情を聞いた、しかし返ってそのことが余計彼女の能力を悪化させる事になった。彼女は知らなかったんだ。自分自身がそうさせる力のある者だと」
「それでそれで?」
「射命丸さん、幾ら何でもそれはないですよ」
「あ、ああ‼︎すいません!つい癖で…」
溢れ出る記者魂と言ったところなのか、まるで刑事ドラマの警部のようである。
「彼女に事情を聞いた数日後だった。彼女の仲のいい友達の一人が、
もう一人の友達を、手にかけたんだ」
「え⁉︎ほ、本当ですか?」
「……言いたくないが、本当のことだ」
やはりかなり辛いのだろう、握っていた手は真っ赤に染まり、今にも血が吹き出しそうになっている。今更ながら、止めるべきだと思ったが、もう後の祭り。その真っ赤な拳から顔に焦点を当てた時にには既に口は次の句を発し始めるところだった。
「その子は、少し前から確執があったらしい。普段は気にしないふりをしていても、心の中に黒いモノを溜め込み続けたんだ。それを、キヨ子ちゃんの力が、それを増幅させたんだ。それもこれも、この事件が終わった後に初めてわかったことだ」
「その後は……」
彼女が口を開こうとした直後、彼女はがっくりと膝を畳に叩きつけるように倒れこんだ。それは無理もないことだ。俺もとてもじゃないが過去の過失を告白するなんて到底無理な話である。
「先生⁉︎」
「もう大丈夫です。慧音先生、この後は私が伝えます。」
「……いや、大丈夫だ。少し、めまいがしただけだ。……その後は、本当に散々だった。それから、同じ様な騒動が相次いだ。幸いどれも未遂で終わった。それで彼女、キヨ子ちゃんは私に相談を持ちかけた。
『私を消して欲しいって』」
「つまり、キヨ子ちゃんは自分の能力に気づいたんですか?」
「……そこまではわからない。しかし、恐らく薄々気づいていたのだろう。自分が、事件の渦中にいることに。だから私は彼女の歴史を"食べた"んだ」
張り詰めていた畳の居間に、土砂降りの雨でもかかったかのように、空気が冷たく湿っているように感じた。記者だけあってそこは敏感なのか、文はこの空気を崩すために口を開いた。
「……静まっちゃいましたね、空気」
「そう、ですね。でも、そもそも外来人の○○さんがさっきの女の子の事を知っているんですか?」
「あぁ、それは彼女にあったからなんです。一昨日と昨日の夜に」
「……やはり、か」
「分かってましたか」
「あぁ、妹紅が声が聞こえると聞いた時から気づいていたさ。騙してすまなかった。私は、きっと過去の過ちから逃げたかったんだ。彼女は何か言っていなかったか?」
「……すぐに消えちゃったので、目的を聞くことはできませんでした。けれど、キヨ子ちゃんは先生のこと、悪く思ってなんかいませんでしたよ。恩人だって」
「そうか……ありがとう、○○くん」
先生の頬に一縷の涙が流れ落ちた。この事を聞き出せたのは本当に幸いなことだったが、やはり真意を聞けなかったことだけは悔やまれる。もう一度会えないものなのか。
「上手くやってるらしいわね。話は聞かせてもらったわ」
「あっ‼︎その声は‼︎」
微妙な空気を読んでやってくるのだけは定評のあるスキマのBB(ryオネエサンは先生と阿求の間に入るようにひょっこりと出てきた。もう流石に突っ込むのは飽きた。
「○○が言っていた彼女の真意、なんとか聞きだしたわ。口下手らしくて聞きだして理解するのに苦労したわ。結果から言わせてもらうと貴方が思っているほど重いものじゃないわ。いや、私からしたら大したものなのかも知れないけれど」
「それはどういう意味で?」
「単純に、食われた筈の歴史が何の前触れもなしに戻ってきたからどうかしたのか、と言うものよ」
食われた歴史が戻るというのは、以前慧音先生が永夜異変の際に人間の里もろとも食べて存在を隠蔽したということから、恐らく"食べる"という行為が"知る"と"知らない"の境界を分断する結界を作るのだろうと自分なりに解釈をしていたのだが。
ひょっとすると、一定期間になると戻ってくるようになっているのだろうか。
「……そういう事か。わかった。今夜、彼女に会おう。八雲紫、可能か?」
「ええ、出来なくはないわ。やってあげましょう。今日は特別機嫌がいいの」
「ちょ、ちょっと待ってください!」
二人のハッピーエンド終盤に口を割って入ってきたのは小鈴だった。
「あの、突然の事で混乱しながらようやく話の全貌を理解はしたんですが、紫さんの大したことって一体なんなのですか?」
「私も気になってました。ご機嫌が良いのですからこの際教えてくれませんかねぇ〜」
「そうねぇ、教えてあげても良いけれど……あぁ、どっちも展開としては美味しいのかもしれないわね。」
紫は文と小鈴の話を誤魔化すかのように、目で空に絵を描くかのように何かを構想している。おそらくこの後に起こる異変とやらに一枚噛んでいるのかもしれない。
「まぁ、後々教えるわ。それでは先生、夜にお会いしましょう」
その後稗田邸を出た俺たち四人は軽く挨拶をしてそれぞれ帰る場所へと帰っていった。
因みにこの日の晩御飯は豪華でした。
二ヶ月のブランクはきついですね。文全体がヤバくなっております。しかしながら書きたいことがあるので感覚は短くなるかなと思います。次は、あの吸血鬼の城に無謀に突撃します。