霊夢と別れた魔理沙は、紅魔館の廊下を一人で進んでいた。
館の中は広い。
同じような廊下がいくつも続き、階段を上がるたびに新しい通路が現れる。
「……広すぎるぜ」
魔理沙は辺りを見回す。
異変の原因を探しているはずなのに、すでに自分がどこにいるのか分からなくなりそうだった。
「まあ、いいか」
魔理沙は箒を肩に担ぐ。
「そのうち見つかるだろ」
目的はあくまで異変の解決。
だが、それとは別に――。
「これだけ大きな館なら、面白い魔法の一つくらいありそうだな」
魔理沙は楽しそうに笑った。
そのまま廊下を進んでいく。
しばらくすると、前方に大きな扉が見えてきた。
他の部屋とは明らかに違う。
扉の隙間から、紙とインクの匂いが漂ってくる。
「……本の匂い?」
魔理沙は目を輝かせる。
「まさか――」
扉を開けた。
「お邪魔するぜ!」
その瞬間。
目の前に広がった光景に、魔理沙は思わず足を止めた。
「……おお」
壁一面の本棚。
天井まで届くほど高く積まれた本。
床にも大量の本が置かれている。
その中央には大きな机があり、そこにも何冊もの本が開かれていた。
「こりゃすごいな……」
「勝手に入らないでもらえるかしら」
「!」
部屋の奥から声がした。
魔理沙が振り向く。
そこには一人の少女がいた。
紫色の髪。
紫を基調とした服。
手には一冊の本。
魔理沙を見つめる表情は、いかにも迷惑そうだった。
「誰だ?」
「こちらが聞きたいわ」
少女は本を閉じる。
「人の図書館へ勝手に入ってきて、何をしているの?」
「図書館なのか?」
「私の図書館よ」
「じゃあ、やっぱり図書館じゃないか」
「……」
少女が少しだけ眉を寄せる。
「あなた、随分とうるさい人ね」
「そうか?」
「そうよ」
少女は立ち上がった。
「私はパチュリー・ノーレッジ」
「魔理沙だ」
「知っているわ」
「お、私も有名になったもんだな」
「侵入者としてだけど」
「それでも有名は有名だぜ」
パチュリーは小さくため息を吐いた。
「あなたも、この霧の原因を探しに来たのでしょう?」
「その通り」
「なら、ここから先へは行かせないわ」
「それは困るな」
魔理沙が帽子を被り直す。
「だったら、力ずくで通るぜ」
箒を構える。
パチュリーも本を開いた。
「人間の魔法使いが、私に勝てると思っているの?」
「やってみなきゃ分からないだろ?」
魔理沙が笑う。
「それに――」
魔力が集まり始める。
「弾幕はパワーだぜ!」
「……随分と単純ね」
パチュリーの周囲に魔力が集まる。
次の瞬間。
大量の光弾が放たれた。
「おっと!」
魔理沙が飛び上がる。
弾幕が本棚の間を縫うように飛び交う。
「へえ!」
魔理沙は楽しそうに笑った。
「なかなかやるじゃないか!」
「余裕を言っていられるのも今のうちよ」
パチュリーが手をかざす。
赤い魔力が集まった。
次の瞬間、炎の弾幕が一気に広がる。
「火か!」
魔理沙が横へ飛ぶ。
炎が本棚の間を通り抜ける。
魔理沙が反撃する。
「なら、こっちだ!」
星型の弾幕が飛んでいく。
パチュリーは手を動かした。
今度は青白い光。
大量の氷が魔理沙の進路を塞ぐ。
「おっと!」
魔理沙は箒を急旋回させる。
「属性まで変えてくるのか!」
「一つの魔法しか使えないと思った?」
パチュリーの周囲に、異なる色の魔力が集まっていく。
「火、水、木、金、土」
「なるほどな」
魔理沙の目が輝く。
「面白いじゃないか!」
魔理沙が一気に速度を上げる。
弾幕の隙間を縫いながら、パチュリーへ接近する。
「近づかせないわ」
パチュリーが魔法を放つ。
しかし魔理沙は、それを紙一重で避けた。
「遅い!」
魔理沙がさらに距離を詰める。
その瞬間。
足元から氷の柱が突き出した。
「うわっ!」
魔理沙が咄嗟に箒を傾ける。
氷が身体を掠めた。
「危ねぇ……!」
「勢いだけで動くからよ」
「それはどうかな!」
魔理沙はそのまま上昇する。
パチュリーが見上げた。
「何を――」
「こっちの番だぜ!」
魔理沙の周囲に、大量の光が集まる。
パチュリーの表情が変わった。
「……その魔力は」
「いくぜ!」
巨大な光が一気に膨れ上がる。
「恋符――」
パチュリーが魔法障壁を展開する。
「待ちなさい!」
「マスタースパーク!」
轟音。
巨大な光線が図書館を横切った。
パチュリーは咄嗟に何重もの障壁を展開する。
一枚。
二枚。
三枚。
光線が障壁を次々と砕いていく。
「ぐっ……!」
最後の障壁が砕けた。
パチュリーの身体が大きく吹き飛ばされる。
床に倒れた本が宙へ舞う。
やがて、光が消えた。
「……どうだ!」
魔理沙が着地する。
パチュリーは床に手をつき、ゆっくりと立ち上がった。
「……やっぱり、厄介ね」
「そりゃどうも」
魔理沙は笑う。
「まだやるか?」
「いいえ」
パチュリーは本を拾い上げる。
「これ以上やれば、本が傷むわ」
「そっちの心配かよ」
「当然でしょう」
パチュリーは本棚を見回す。
「あなたに付き合って、図書館まで壊されたらたまらないもの」
「じゃあ、通っていいんだな?」
「ええ」
魔理沙が扉へ向かう。
だが、そこで足を止めた。
「なあ」
「何?」
「この霧を出してるのは、やっぱりレミリアなのか?」
パチュリーは少し黙った。
「……そうね」
「やっぱりか」
「ただし」
パチュリーが魔理沙を見る。
「あなたたちが考えているほど、単純な話ではないわ」
「どういう意味だ?」
「それは本人に聞けばいいでしょう」
「……なるほどな」
魔理沙は帽子のつばを上げる。
「じゃあ、直接聞いてみるぜ」
扉を開ける。
「邪魔したな!」
「二度と本を勝手に触らないで」
「善処するぜ!」
扉が閉まる。
静かになった図書館で、パチュリーは小さく息を吐いた。
「……博麗の巫女に、あの魔法使い」
パチュリーは机へ戻り、開いていた本へ目を落とす。
「今年の幻想郷は、随分と騒がしいわね」
その頃。
魔理沙は再び廊下を進んでいた。
「さて……」
帽子を被り直す。
「いよいよ、親玉とご対面だな」
紅い霧の向こう。
この異変を起こした吸血鬼が待っている。
そして魔理沙は、まだ知らない。
同じ館の中で、霊夢とは別の道を進んでいる者たちがいることを。
その中に、見慣れない少年と一人の妖精がいることを。
紅魔館の異変は、少しずつ一つの場所へ集まり始めていた。
読んで頂きありがとうございます!
いやー出ましたねマスタースパーク
結構好きなんですよ!
勢いといい掛け声といい。ザ・必殺技って感じで!
共感してくれる方は多いいと思います!