幻想郷に転生した俺は、弾幕を撃てない   作:みみみのおじさん

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今回は悠・チルノ編です!


第11話 紅魔館の奥へ

紅魔館の正面では、今も激しい戦いが続いていた。

門番の紅美鈴を突破した博麗霊夢と霧雨魔理沙は、そのまま館内へ侵入している。

その後を追うように、妖精メイドたちが次々と二人へ襲いかかっていた。

紅い霧に包まれた空。

赤黒い館。

そこへ無数の弾幕が飛び交っている。

だが、その戦いから少し離れた森の中に、二つの人影があった。

「……派手にやってるね」

木の陰から紅魔館を覗きながら、チルノが呟く。

その隣で、悠も館の様子を確認していた。

「霊夢と魔理沙が入ってから、かなり時間が経ってるな」

「じゃあ、あたい達も行こう!」

チルノが勢いよく走り出そうとする。

しかし、悠はすぐにその肩を掴んだ。

「待て」

「なんで?」

「正面から行くつもりか?」

「うん!」

チルノは迷うことなく答えた。

悠は紅魔館の正面へ視線を戻す。

そこには、まだ大量の妖精メイドが集まっていた。

館の周囲を飛び回りながら、侵入者を探している。

「……あれを全部相手にするのは面倒だろ」

「じゃあ、どうするの?」

「裏から回る」

悠が森の奥を指差す。

「正面があれだけ騒がしいなら、裏側の警備は薄くなってるかもしれない」

「なるほど!」

チルノが頷いた。

「じゃあ、裏からこっそり入るんだね!」

「そういうこと」

「なんか忍者みたい!」

「……まあ、そういう感じだ」

二人は森の中を進み始めた。

正面から離れるにつれて、弾幕の音も少しずつ小さくなっていく。

それでも遠くからは、何度も大きな爆発音が響いていた。

魔理沙の攻撃だろう。

そう思った直後、今度は赤い光が空を横切った。

「霊夢かな」

悠が呟く。

「たぶん!」

チルノが振り返る。

「二人とも、ちゃんと勝てるかな?」

「……あの二人なら大丈夫だろ」

悠はそう答えた。

実際、あの二人が簡単に負けるとは思えない。

だが、それでも胸の奥には妙な不安が残っていた。

今回の異変。

紅い霧。

そして、その中心にいる紅魔館。

ここへ来るまでに出会った妖怪たちも、普段とは少し違っていた。

「……行くぞ」

悠は考えるのをやめ、足を速めた。

森を抜けると、紅魔館の裏側が見えてきた。

正面とは違い、こちらにはほとんど妖怪の姿がない。

「ほら、やっぱり!」

チルノが得意そうに胸を張る。

「作戦成功!」

「まだ入ってもいないけどな」

「細かいことはいいの!」

悠は苦笑しながら館の壁を確認した。

ちょうど一つ、窓が開いている。

「ここから入れそうだ」

悠が窓へ近づき、中を覗く。

誰もいない。

「先に俺が入る」

「分かった」

悠が窓を乗り越える。

続いてチルノも中へ入った。

窓をゆっくり閉める。

外の音が一気に遠くなった。

そこは長い廊下だった。

赤い絨毯。

壁には大きな絵画。

天井には豪華な照明。

外の戦闘とは別世界のような静けさだった。

しかし――。

その静けさが、かえって不気味だった。

「気をつけろよ」

悠が小声で言う。

「分かってる」

チルノも声を落とした。

二人はできるだけ足音を立てず、廊下を進んでいく。

角に差し掛かったところで、悠が足を止めた。

前方から声が聞こえる。

「……誰か、こっちに来てない?」

「分からないわ」

「正面から入った人間は二人」

「でも、裏から別の侵入者がいるって話よ」

妖精メイドの声だった。

悠はすぐにチルノの腕を引いた。

「こっち」

二人は近くの柱の陰へ身を隠した。

数人の妖精メイドが廊下を通り過ぎていく。

悠は息を殺した。

チルノも珍しく静かにしている。

やがて足音が遠ざかった。

「……行ったな」

悠が小さく呟く。

「危なかったね」

「だから言っただろ。静かにしろって」

「ちゃんとしてたでしょ?」

「まあな」

二人は再び歩き始めた。

しばらく進んだところで、悠は腰にある装備へ手を伸ばした。

ニトリから借りた試作の迷彩服。

まだ使っていなかった。

「ここで使うか」

「それ?」

「ああ」

悠が服を確認する。

すると、布地の色が少しずつ変化し始めた。

赤。

黒。

灰色。

周囲の壁や床の色を取り込むように、柄が変わっていく。

「すごい……!」

チルノが目を輝かせる。

「本当に変わった!」

「ニトリの試作品らしい」

悠は自分の腕を見る。

完全に透明になるわけではない。

それでも、少し離れて見れば周囲の景色に紛れてしまいそうだった。

「ただし、五分しか持たない」

「五分もあれば十分だよ!」

「そうだといいけどな」

悠は周囲を見渡した。

「ここからは、できるだけ戦わずに進む」

「分かった!」

二人は慎重に進んでいった。

妖精メイドが通れば柱の陰へ隠れる。

別の廊下から足音が聞こえれば、部屋へ入る。

時には階段の裏側でやり過ごす。

まるで、敵の視界を避けながら進むように。

正面では霊夢たちが派手な弾幕を繰り広げている。

その一方で、悠とチルノは静かに館の奥へ進んでいた。

「……なんか楽しい」

チルノが小声で笑う。

「楽しいって言うなよ」

「だって、見つかったら鬼ごっこみたいになるでしょ?」

「その鬼ごっこは、たぶん洒落にならないぞ」

「でも面白そう!」

「……お前は本当に怖いもの知らずだな」

二人はさらに奥へ進む。

そして――。

悠の服の色が、突然揺らいだ。

「……」

悠が足を止める。

「どうしたの?」

「時間だ」

服を見る。

迷彩が薄くなっていく。

五分。

それが限界だった。

「もう終わり?」

「ああ」

やがて服は元の色へ戻った。

「残念」

チルノが少しだけ肩を落とす。

「ここまで来られたんだから十分だ」

悠は銃へ手を伸ばした。

「ここからは普通に行く」

「うん」

二人が再び歩き出す。

その時だった。

チルノが突然立ち止まった。

「……ねえ」

「どうした?」

「こっちから、変な感じがする」

チルノが廊下の奥を見る。

そこには一つの扉があった。

他の扉とは違う。

装飾も少なく、周囲だけ空気が重い。

「……何かいるな」

悠も感じ取った。

二人が扉へ近づく。

すると――。

中から声が聞こえた。

「……だれ?」

幼い少女の声。

悠とチルノは顔を見合わせた。

悠が扉を開く。

「入るぞ」

部屋の中。

そこには一人の少女がいた。

金色の髪。

赤い服。

そして背中には、七色の結晶のような翼。

少女は二人をじっと見つめている。

「……人間?」

「ああ」

悠が答える。

「外来人だ」

少女の視線がチルノへ移る。

「妖精もいる」

「妖精じゃない!」

チルノが即座に反論する。

「あたいはチルノ!」

「……そう」

少女は少しだけ笑った。

「外から来たの?」

「ああ」

「外って、今どうなってる?」

「紅い霧に覆われてる」

「……まだ?」

「まだ」

フランドールは俯いた。

「じゃあ、まだ出られないんだ」

悠はその言葉に引っ掛かった。

「外に出たいのか?」

フランドールが顔を上げる。

「うん」

その返事は、とても素直だった。

「ずっとここにいるから」

悠は部屋を見回した。

窓はない。

外へ繋がる場所もない。

「ここから出られないのか?」

「出ちゃ駄目って言われてる」

「誰に?」

「お姉様」

フランドールが答える。

「私のお姉様」

「紅魔館の主か?」

「うん」

フランドールは膝を抱える。

「外へ行きたいって言っても、駄目って言われるの」

「どうして?」

「分からない」

フランドールは首を振った。

「何を聞いても、教えてくれない」

「……」

「だから、ずっとここ」

チルノが俯く。

「寂しくないの?」

チルノが尋ねる。

フランドールは少し考えてから答えた。

「寂しいよ」

その一言は、とても小さかった。

「外に行ってみたい」

フランドールは窓のない壁を見る。

「空を飛んでみたい」

「飛べるだろ?」

悠が背中の翼を見る。

「飛べるよ」

「じゃあ――」

「ここから出られないの」

悠は言葉を失った。

フランドールは膝を抱え直した。

「お姉様が許してくれないから」

チルノがフランドールを見る。

その表情には、どこか自分と重なるものがあった。

「……一緒に行こうよ」

チルノが言った。

「え?」

「外に出たいんでしょ?」

フランドールが戸惑ったようにチルノを見る。

「なら、一緒に行けばいいじゃん」

悠はチルノを見る。

「お前、簡単に言うなよ」

「だって……」

チルノはフランドールを見る。

「一人で閉じ込められてるの、嫌でしょ?」

フランドールは何も言わない。

ただ、少しだけ目を伏せた。

「……うん」

その返事は、先ほどよりも小さかった。

悠はフランドールを見つめる。

「だったら、直接話してみればいい」

フランドールが顔を上げる。

「話す?」

「ああ」

「……聞いてくれるかな」

「聞かせるしかないだろ」

悠は立ち上がった。

「俺も一緒に行く」

「悠……」

チルノが少し驚いた顔をする。

「お前も来るだろ?」

悠がチルノを見る。

チルノはすぐに笑った。

「もちろん!」

フランドールも二人を見る。

そして、ゆっくり笑った。

「……ありがとう」

その瞬間。

紅魔館全体が大きく揺れた。

轟音。

続いて、天井から細かな埃が落ちてくる。

「何!?」

チルノが上を見る。

悠も天井を見上げる。

「上で誰か戦ってる」

遠くから、再び爆発音が響いた。

「霊夢たちかな」

悠が呟く。

フランドールは天井を見ていた。

「お姉様も上にいる」

「分かるのか?」

「うん」

フランドールが立ち上がる。

「だったら、私たちも行こう」

「階段は?」

悠が周囲を見る。

フランドールは少し考える。

「……ないよ」

「ない?」

「この部屋から上へ行くなら――」

フランドールが天井を指差した。

「壊せばいい」

「いや、待て」

悠が止める。

「それは普通に階段を探した方が――」

「大丈夫!」

フランドールが手を掲げる。

「フラン!」

チルノが叫ぶ。

次の瞬間。

轟音。

天井が吹き飛んだ。

「うわっ!」

悠の身体が宙へ浮く。

「ちょ、何するんだ!」

「上に行くんだよ!」

フランドールが悠の腕を掴んだ。

「自分で飛べないんだから、引っ張ってあげる!」

「そういう問題じゃ――!」

言い終わる前に、悠の身体はさらに上へ引っ張られた。

チルノも慌てて飛び上がる。

「待ってよー!」

三人は吹き抜けになった空間を一気に上昇していく。

紅魔館の内部を貫くように、さらに上へ。

そして――。

巨大な扉が見えてきた。

「ここ」

フランドールが呟く。

「お姉様がいる」

扉の向こう。

凄まじい魔力が渦巻いている。

悠は銃を抜いた。

「行くぞ」

フランドールが頷く。

三人で扉を開けた。

広い部屋。

その中央に、一人の少女が立っていた。

紅いドレス。

蝙蝠のような翼。

赤い瞳。

紅魔館の主――レミリア・スカーレット。

レミリアは三人を見た。

そして、フランドールへ視線を向ける。

「……フラン」

その声は低かった。

「どうしてここにいるの?」

フランドールは一歩前へ出る。

「お姉様に話があるの」

「今は話をしている場合ではないわ」

「私は話したい」

「フラン」

レミリアの声が少し強くなる。

「戻りなさい」

「嫌」

フランドールが首を横に振った。

「もう戻らない」

レミリアは黙った。

フランドールの目を見つめる。

「私、外に行きたい」

「駄目よ」

「どうして?」

「危険だから」

「いつもそればっかり!」

フランドールの声が響いた。

「私は何も知らされてない。外に出たいって言っても駄目。ここから出ようとしても怒られる!」

「フラン、それは――」

「私はお姉様に何を言っても駄目なの!」

フランドールの目に涙が浮かぶ。

「だから……」

拳を握る。

「今日は、お姉様を懲らしめる!」

レミリアの表情が変わった。

「……そう」

レミリアがゆっくりと構える。

「なら、止めるしかないわね」

悠も銃を構えた。

「俺も参加する」

レミリアが悠を見る。

「あなたは外来人ね」

「ああ」

「どうしてここまで来たの?」

悠は一瞬だけ黙った。

「……自分で来た」

「自分で?」

「ああ。ここで何が起きてるのか確かめたかった」

悠は銃を構える。

「だから、最後まで見届ける」

レミリアは僅かに笑った。

「そう」

レミリアの周囲に赤い弾幕が浮かび上がる。

チルノが悠の隣へ並ぶ。

「悠」

「ん?」

「あたいも一緒に戦う」

悠がチルノを見る。

「……いいのか?」

「もちろん!」

チルノは胸を張った。

「悠だけに戦わせたりしない」

そして、少しだけ真剣な顔になる。

「一緒に戦って、一緒に勝つんだよ」

悠は一瞬だけ黙った。

それから小さく笑う。

「……分かった」

「約束だからね!」

レミリアが手を掲げた。

「来なさい」

直後。

紅い弾幕が一斉に放たれた。

「散れ!」

悠の声と同時に、三人が別方向へ飛ぶ。

赤い弾が床を砕く。

悠は壁際まで移動し、銃を構えた。

引き金を引く。

パンッ!

弾幕の中を、銃弾が一直線に飛ぶ。

レミリアが身体を傾ける。

銃弾が頬を掠めた。

「……なるほど」

レミリアが頬に手を当てる。

「それがあなたの力なのね」

「弾幕を撃てない代わりの武器だ」

「面白い」

レミリアが笑う。

「でも――」

一瞬で姿が消えた。

「遅いわ」

悠の目の前にレミリアが現れる。

「――っ!」

悠が後ろへ飛ぶ。

その直後、赤い弾幕が目の前を通過した。

「危なっ……!」

悠が着地する。

そこへチルノが飛び込んできた。

「悠!」

「大丈夫!」

チルノが両手を広げる。

周囲の温度が一気に下がった。

「まずはこれ!」

無数の氷の弾が空中に現れる。

「アイシクルフォール!」

氷の弾幕が雨のように降り注ぐ。

レミリアが横へ飛び、次々と氷弾をかわしていく。

しかし、チルノは攻撃を止めない。

「まだまだ!」

周囲にさらに巨大な氷の結晶が生まれる。

「パーフェクトフリーズ!!」

一瞬。

空間そのものが凍りついた。

床も、壁も、空中を漂っていた弾幕までもが白く染まる。

レミリアの動きが僅かに鈍る。

「今!」

チルノが叫ぶ。

悠がその隙を逃さず銃を構えた。

パンッ!

弾丸がレミリアの肩を掠める。

「……!」

レミリアが一歩下がった。

フランドールが追撃する。

「お姉様!」

七色の弾幕が広がる。

レミリアは次々とかわしていく。

だが、少しずつ動きが鈍くなっていた。

悠は気づいていた。

「……いける」

このままなら。

そう思った。

しかし――。

レミリアがふと、目を伏せた。

「……フラン」

その声には、先ほどまでの戦闘の勢いがなかった。

「何?」

フランドールが警戒しながら答える。

レミリアは、静かにフランドールを見る。

「あなたは、本当に私を懲らしめたいの?」

「……うん」

「なぜ?」

「決まってる」

フランドールは拳を握る。

「私を閉じ込めてるから」

「……」

「ずっとここに置いて、外にも出してくれない」

フランドールの声が震える。

「私、お姉様に嫌われてると思ってた」

レミリアの瞳が揺れた。

「……フラン」

「だって、何も教えてくれないから」

フランドールは涙を拭う。

「どうして駄目なのかも、どうしてここにいなきゃいけないのかも」

レミリアは何も言わなかった。

その沈黙が、かえってフランドールを苦しめる。

「私はずっと考えてた」

フランドールが俯く。

「私が邪魔だからなのかなって」

レミリアはしばらく黙っていた。

やがて――。

「……違うわ」

ようやく、レミリアが口を開いた。

「なら、どうして……」

「怖かったのよ」

レミリアの言葉に、フランドールが目を見開く。

「私が?」

「ええ」

レミリアは静かに話し始める。

「あなたが外へ出ることが」

フランドールは黙って聞いている。

「あなたは自分の力を、まだ完全には理解していない」

「……」

「外には、あなたを傷つけるものがたくさんある」

「でも……」

「あなたの力が強いことも分かっている」

レミリアは拳を握る。

「だからこそ、何かあった時に止められないかもしれない」

「……」

「私は、あなたを閉じ込めたかったわけじゃない」

レミリアの声が少し震えた。

「守りたかった」

フランドールの瞳が揺れる。

「……守る?」

「ええ」

レミリアは視線を逸らす。

「でも、私は上手く説明できなかった」

「……」

「あなたに嫌われても仕方がないと思っていた」

フランドールが涙を流す。

「じゃあ……」

震える声で尋ねる。

「私のこと、本当に邪魔だと思ってる?」

「違うわ」

レミリアは即座に答えた。

「あなたは私の大切な妹よ」

フランドールの目から、また涙が零れた。

「……だったら、ちゃんと言ってよ」

「……ごめんなさい」

レミリアが初めて頭を下げた。

「私も……ごめん」

フランドールが一歩近づく。

「お姉様」

「何?」

「外、見てみたい」

「……ええ」

レミリアは微笑んだ。

「いつか、一緒に見に行きましょう」

「本当?」

「約束するわ」

フランドールが笑った。

そして――。

レミリアの隣へ並んだ。

「じゃあ、今度は一緒に戦おう」

「ええ」

姉妹が並ぶ。

その光景を見ていた悠は、静かに銃を下ろした。

「……そういうことか」

チルノも二人を見つめる。

「よかったね」

その瞬間だった。

レミリアが右手を掲げる。

紅い魔力が一点へ集まっていく。

「――グングニル」

その手に現れたのは、巨大な紅い槍。

しかし、その槍を包み込むように七色の炎が絡みついた。

フランドールの力だった。

「お姉様、これならもっと強いよ」

「ええ」

レミリアが槍を構える。

「行くわよ、フラン」

「うん!」

二人が同時に動いた。

紅い槍が放たれる。

七色の炎を纏った一撃が、凄まじい速度で悠へ迫った。

「……っ!」

悠が反応する。

だが、避けきれない。

「悠!」

チルノが飛び込んだ。

両手を広げ、巨大な氷の壁を展開する。

一枚。

二枚。

三枚。

さらにもう一枚。

「止まれぇぇぇっ!」

チルノが叫ぶ。

しかし――。

グングニルは止まらなかった。

七色の炎が氷を溶かし、紅い槍が次々と壁を突き破っていく。

バキィィン!!

最後の氷壁が砕け散った。

「――っ!」

チルノの身体が吹き飛んだ。

「チルノ!!」

悠が叫ぶ。

チルノは床を何度も転がり、そのまま壁際へ叩きつけられた。

「……チルノ!」

悠が駆け寄る。

しかし、チルノは動かない。

「おい……」

悠が膝をつく。

「チルノ?」

返事がない。

「チルノ!」

悠が肩を揺する。

「おい、起きろ!」

何度呼びかけても反応がない。

「チルノ……!」

悠の声が震える。

これまでの戦いとは違う。

妖怪に襲われたこともあった。

弾幕を受けたこともあった。

それでも、誰かが目の前で動けなくなるようなことはなかった。

悠は自分の手を見る。

震えている。

「なんで……」

息がうまくできない。

「なんで俺なんか庇ったんだよ……」

「……悠」

かすかな声が聞こえた。

「……!」

悠が顔を上げる。

チルノが僅かに目を開けていた。

「チルノ!」

「……大丈夫」

そう言おうとしたのかもしれない。

しかし、声は弱々しい。

「大丈夫じゃないだろ!」

悠はチルノの身体を支える。

「こんなの……」

言葉が続かない。

チルノは苦しそうに息をしながら、それでも悠を見る。

「だって……」

「……」

「一緒に戦うって……約束したから……」

悠は何も言えなかった。

「悠だけに……戦わせたくなかった」

「でも……!」

「……仲間だから」

チルノが小さく笑った。

「だから……一緒に……勝つの」

「……ああ」

悠は唇を噛む。

「分かってる」

その時だった。

「――悠!」

聞き覚えのある声が響いた。

悠が振り向く。

部屋の入口。

そこに、二人の姿があった。

博麗霊夢。

そして霧雨魔理沙。

二人とも、これまでの戦闘をくぐり抜けてきたのだろう。

服には傷があり、息も少し乱れている。

しかし、その目にはまだ戦う意思が残っていた。

「……霊夢……魔理沙……」

悠が呟く。

魔理沙は周囲を見渡した。

「これは……」

負傷したチルノ。

銃を握る悠。

そして――。

レミリアと、その隣に立つ見知らぬ少女。

魔理沙が眉をひそめる。

「なんだ、この状況は?」

霊夢も慎重に部屋の中へ入る。

そして、レミリアと少女を見た。

「……あなたが、この異変の元凶ね」

レミリアは静かに霊夢を見る。

「ええ」

一歩前へ出る。

「初めまして、博麗神社の巫女さん」

レミリアは優雅に一礼した。

「私はレミリア・スカーレット」

そして、隣に立つ少女へ手を向ける。

「こちらは私の妹」

少女が一歩前へ出る。

「フランドール・スカーレットです」

フランドールも小さく頭を下げた。

「……妹?」

霊夢が僅かに目を見開く。

「そう」

レミリアが答える。

「今まで会う機会がなかったものね」

魔理沙もフランドールを見つめる。

「へえ……妹がいたのか」

フランドールは少しだけ恥ずかしそうにレミリアの隣へ戻った。

しかし、霊夢はすぐに表情を引き締めた。

「自己紹介は後にしましょう」

霊夢は悠を見る。

「何があったの?」

悠は口を開こうとした。

だが――。

「……」

言葉が出ない。

チルノが負傷した。

レミリアとフランドールが共闘している。

そして、目の前には異変の元凶がいる。

情報が多すぎる。

何から説明すればいいのか分からない。

「悠?」

霊夢がもう一度呼ぶ。

「……チルノが……」

悠の声が震える。

「チルノが俺を庇って……」

その先が続かない。

「俺が……もっとちゃんとしてれば……」

悠は自分を責めるように俯いた。

「俺のせいで……」

「悠」

霊夢の声が響いた。

静かだが、強い声だった。

「落ち着きなさい」

「でも……」

「今、あなたが取り乱したら何もできない」

霊夢は悠を真っ直ぐ見つめる。

「助けたいんでしょう?」

「……ああ」

「だったら冷静になりなさい」

悠は拳を握った。

深く息を吸う。

吐く。

もう一度、息を吸う。

震えていた手を強く握り直す。

「……分かった」

悠は立ち上がった。

そして、チルノを見る。

チルノはもう戦えない。

立ち上がることすらできない。

それでも――。

「悠……」

チルノが弱々しく声を出す。

「ちゃんと……戦って」

「……ああ」

「一緒に……勝つんだから」

悠はチルノを見つめた。

「分かってる」

悠は立ち上がる。

銃を握る。

その横に霊夢が並ぶ。

反対側には魔理沙。

三人だけだった。

チルノは戦えない。

それでも――。

悠の胸には、先ほどチルノから受け取った言葉が残っていた。

一緒に戦う。

一緒に勝つ。

その約束を守るために。

悠はレミリアへ銃口を向けた。

霊夢もお札を構える。

魔理沙がミニ八卦炉を構える。

対するレミリアの隣には、妹のフランドール。

二人の吸血鬼が並んで立つ。

紅い霧に包まれた紅魔館。

その最奥で――。

異変の結末を決める戦いが、今始まろうとしていた。




読んで頂きありがとうございます!
だいぶ進展がありましたね……
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