第12話 紅霧の果て
紅魔館の最奥。
広大なホールに、二つの影が並んでいた。
一人は紅いドレスを纏った吸血鬼。
紅魔館の主――レミリア・スカーレット。
そして、その隣には七色の羽を持つ少女。
妹のフランドール・スカーレット。
対するのは三人。
博麗霊夢。
霧雨魔理沙。
そして――この幻想郷に流れ着いた、ただ一人の外来人。
神代悠。
悠にとって、幻想郷で迎える初めての大きな異変。
そして、その結末を決める最後の戦いが始まろうとしていた。
悠の後ろには、壁際に倒れているチルノがいる。
先ほどの攻撃で大きな傷を負い、今は立ち上がることすらできない。
それでも、意識だけは失っていなかった。
霊夢が一歩前へ出る。
「……レミリア・スカーレット」
「何かしら?」
「この紅い霧を出したのは、あなたね」
「ええ」
レミリアはあっさりと答えた。
「幻想郷を紅い霧で覆ったのも、太陽を隠したのも、全部私よ」
魔理沙がミニ八卦炉を構える。
「随分と派手なことをしてくれたじゃないか」
「そう?」
「人間は外に出られない。妖怪だって普段とは違う動きをしてる。湖も森も全部あの霧だ」
魔理沙が目を細める。
「異変を起こしたなら、最後まで責任取ってもらわないとな」
「ふふ」
レミリアが笑った。
「あなたたちがここまで来るとは思わなかったわ」
「じゃあ、予想外だったってことね」
霊夢が札を構える。
「なら、今から予想通りにしてあげる」
「随分な自信ね」
「博麗の巫女だから」
霊夢の周囲に陰陽玉が浮かび上がった。
魔理沙もミニ八卦炉へ魔力を込める。
悠は二人の隣に立った。
銃を握る手に力を込める。
腰には予備のマガジンが二つ。
最初に装填していた分を合わせても、残っているのは十五発。
悠は銃へ視線を落とした。
ニトリと作ったばかりの武器。
この幻想郷で、自分が戦うために手に入れた力。
しかし、目の前にいるのは吸血鬼。
しかも、紅魔館を支配するレミリア・スカーレットだ。
普通に考えれば、勝てる相手ではない。
それでも。
「……やるしかないな」
悠が呟いた。
レミリアがそれを聞き取る。
「怖い?」
「怖いさ」
悠は正直に答えた。
「でも、逃げる気はない」
レミリアの口元が僅かに上がった。
「いい顔をするようになったわね」
「そっちは余裕だな」
「当然でしょう?」
レミリアが翼を広げる。
「私はこの館の主よ」
空気が震えた。
「さあ――」
レミリアの周囲に紅い弾幕が生まれる。
「かかってきなさい」
霊夢が床を蹴った。
「行くわよ!」
同時に、戦いが始まった。
魔理沙が先に動いた。
「先手はもらうぜ!」
ミニ八卦炉から無数の星形弾幕が放たれる。
レミリアは身体を翻し、一つ、二つ、三つと弾幕の間を抜けていく。
「そんなもの、当たらないわ」
「言ってろ!」
魔理沙がさらに弾幕を追加する。
逃げ道を塞ぐように星の弾が広がった。
レミリアは上へ飛び上がる。
その瞬間、霊夢が札を放った。
「そこ!」
札が弧を描きながらレミリアへ迫る。
レミリアは翼を翻してかわす。
しかし、その先には悠がいた。
「今だ!」
悠が引き金を引く。
パンッ!
弾幕発射装置から放たれた弾が、一直線にレミリアへ飛んでいく。
レミリアが首を傾ける。
弾は頬を掠め、背後の壁へ突き刺さった。
「……当てた?」
悠が目を見開く。
「今のは偶然じゃないでしょうね」
レミリアが頬に触れる。
そこには僅かな傷があった。
「次は当てる」
悠は銃を構え直した。
パンッ!
パンッ!
二発の弾幕がレミリアの左右から迫る。
レミリアは空中で身体を捻り、その両方をかわした。
「甘いわね」
「まだだ!」
悠はさらに一発。
レミリアはそれも避ける。
だが、避けた先には霊夢の札が待っていた。
「逃がさない!」
レミリアが翼を広げる。
札を寸前でかわす。
そこへ魔理沙の星弾が押し寄せる。
「おっと!」
レミリアが一気に高度を上げる。
「空なら私の方が有利よ」
「なら、空ごと埋めてやるぜ!」
魔理沙が弾幕を上空へ広げた。
無数の光が天井付近まで駆け上がる。
レミリアはその間を縫うように飛び回る。
その速度は、先ほどまでとは明らかに違っていた。
悠は目で追う。
速い。
それでも、完全に見えないわけではない。
レミリアが次にどこへ移動するのか。
その瞬間だけを狙う。
「……そこだ!」
パンッ!
弾が飛ぶ。
レミリアが横へ移動する。
しかし、悠の弾はその動きを読んでいた。
弾がレミリアの腕を掠める。
「……っ」
レミリアが一瞬だけ顔をしかめた。
「少しはやるようね」
「そっちもな!」
レミリアの瞳が鋭くなる。
「なら、こちらも少し本気を出しましょう」
次の瞬間。
レミリアの姿が消えた。
「……!」
悠が振り返る。
しかし、そこには誰もいない。
「悠、後ろ!」
霊夢の声。
悠が振り向いた瞬間、目の前にレミリアが現れた。
「見つけた」
「なっ――!」
レミリアの拳が迫る。
悠は咄嗟に銃を横にして受け止めた。
衝撃で身体が吹き飛ぶ。
「ぐっ……!」
床を転がる。
「悠!」
「大丈夫!」
悠はすぐに立ち上がる。
しかし、レミリアは追撃してくる。
一瞬で距離を詰め、爪を振り下ろす。
悠は身体を逸らす。
爪が肩を掠めた。
「くっ……!」
痛みを無視して後ろへ飛ぶ。
レミリアが追う。
悠は銃を構える。
零距離。
引き金を引く。
パンッ!
弾幕が至近距離から炸裂する。
レミリアの身体が僅かに後ろへ弾かれた。
「……!」
悠はその隙に距離を取る。
「吸血鬼ってのは、本当に頑丈だな……!」
「普通の人間と一緒にしないことね」
レミリアが笑う。
その直後、横から大量の札が飛んできた。
「悠、下がって!」
霊夢だった。
悠が横へ飛ぶ。
札が一斉にレミリアへ向かう。
レミリアは空中で身体を翻し、次々と札をかわしていく。
「逃げ道はないわよ!」
霊夢が陰陽玉を放つ。
赤と白の光が弾幕となって広がった。
レミリアはその間を高速で抜ける。
しかし、そこへ魔理沙が回り込んだ。
「こっちはどうだ!」
星形の弾幕がレミリアの進路を塞ぐ。
レミリアが急停止する。
「……挟まれた?」
悠がその瞬間を逃さない。
銃を構える。
「今度こそ!」
パンッ!
レミリアが身体を捻る。
弾がドレスを掠める。
さらに一発。
パンッ!
今度は翼の端を撃ち抜いた。
「……っ!」
レミリアが高度を落とす。
「当たった!」
悠が叫ぶ。
「まだよ!」
レミリアが空中で身体を回転させる。
そのまま無数の紅い弾幕を放った。
「うわっ!」
悠が横へ飛ぶ。
霊夢も札を展開して弾を相殺する。
魔理沙は上空へ逃げる。
紅い弾幕がホール全体を埋め尽くした。
「これ、避けるだけで精一杯じゃないか!」
魔理沙が叫ぶ。
「文句言わない!」
霊夢が叫び返す。
「自分で何とかしなさい!」
「無茶言うな!」
悠は壁際まで追い込まれる。
前方から紅い弾。
右からも弾。
上からも降ってくる。
「……逃げ道がない」
悠は歯を食いしばる。
その瞬間、霊夢の札が悠の前を横切った。
弾幕が一つ消える。
「今!」
「助かった!」
悠は空いた隙間へ飛び込む。
そして、そのままレミリアへ銃口を向けた。
パンッ!
弾が飛ぶ。
レミリアが避ける。
しかし、悠は続けて撃った。
パンッ!
パンッ!
三発目がレミリアの肩を捉える。
「……っ!」
レミリアが一歩下がる。
魔理沙が笑う。
「効いてるぜ!」
「なら、畳み掛けるわよ!」
霊夢が前へ出る。
三人の攻撃が一斉にレミリアへ集中する。
霊夢の札。
魔理沙の星弾。
悠の弾幕。
レミリアはそれを一つずつかわし、時には弾幕を撃ち落としながら耐える。
だが、少しずつ傷が増えていく。
「……なるほど」
レミリアが呟く。
「三人で役割を分けているのね」
「気づくの遅いぜ!」
魔理沙が笑う。
「霊夢が動きを止めて、俺が追い込む」
悠が続ける。
「俺はその隙を狙う」
「悪くないわ」
レミリアが笑った。
「なら――」
レミリアの周囲に紅い魔力が集まる。
「こちらも合わせましょう」
「……何?」
悠が身構える。
レミリアが後ろを振り返った。
「フラン」
フランドールが頷く。
「うん、お姉様」
七色の光が広がった。
「来るわよ!」
霊夢が叫ぶ。
紅い弾幕と七色の弾幕が重なる。
先ほどまでとは比べものにならないほどの密度だった。
「なんだこれ!?」
魔理沙が叫ぶ。
「弾幕が重なってやがる!」
悠も必死に避ける。
赤。
青。
緑。
黄色。
紫。
無数の弾が縦横無尽に飛び交う。
レミリアとフランドールは互いの弾幕を邪魔することなく、完璧に連携していた。
「お姉様、右!」
「分かっているわ」
「じゃあ、こっち!」
「ええ!」
フランドールが弾幕を放つ。
その隙間からレミリアが飛び出す。
悠が銃を向ける。
「そこだ!」
パンッ!
レミリアがかわす。
その直後、フランドールの弾が悠へ迫る。
「くっ!」
悠が転がって避ける。
「悠!」
霊夢が札を飛ばす。
弾幕が消える。
「助かった!」
「礼は後!」
霊夢が叫ぶ。
「今は目の前に集中しなさい!」
「分かった!」
悠は立ち上がる。
銃を確認する。
残りは少ない。
ここまでの戦闘で、すでに何発も使っている。
それでも、まだ戦える。
「……あと少し」
悠は銃を握り直す。
その時、レミリアが一気に距離を詰めてきた。
「終わりよ」
「……!」
悠が銃を向ける。
レミリアの拳が迫る。
悠は身体を逸らす。
しかし、レミリアの翼が悠を弾き飛ばした。
「ぐあっ!」
悠の身体が床を滑る。
銃が手から離れかける。
「悠!」
霊夢が叫ぶ。
悠は銃を掴み直した。
「まだ……だ!」
立ち上がる。
足が震える。
それでも銃を構える。
「まだ終わってない!」
レミリアが笑う。
「その意志だけは認めてあげるわ」
「だったら――」
悠が引き金を引く。
パンッ!
弾がレミリアへ向かう。
レミリアが避ける。
悠は追撃する。
パンッ!
パンッ!
レミリアが二発を避ける。
「残念ね」
「まだだ!」
悠はさらに銃を向ける。
しかし――。
カチッ。
引き金を引いても何も起きない。
「……」
悠が銃を見る。
弾切れだった。
「悠!」
霊夢が叫ぶ。
「下がって!」
悠はすぐに後退する。
銃からマガジンを抜く。
新しいものを装填する。
残された予備はあと一つ。
悠は息を吐いた。
「……これが最後か」
その時。
「悠!」
後ろから声がした。
悠が振り返る。
壁際に倒れていたチルノだった。
「……チルノ?」
チルノは苦しそうにしながらも、悠を見ていた。
「あたい……まだできる」
「無理するな」
「無理じゃない」
チルノが身体を起こそうとする。
しかし、傷の痛みに顔を歪めた。
「立てないなら、戦えないだろ」
「戦うだけが全部じゃないよ」
「……え?」
チルノが悠の持っているマガジンを見る。
「それ、まだ空っぽでしょ?」
悠が目を見開く。
「……そうだけど」
「だったら、あたいに貸して」
「何をする気だ?」
「弾を作る」
「弾幕を?」
「うん」
チルノが頷く。
「その銃は弾幕を撃つんでしょ?」
「ああ」
「じゃあ、マガジンにあたいの力を入れればいいんだよ」
悠はマガジンを見る。
「……そんなことできるのか?」
「やってみる!」
チルノが手を伸ばす。
悠は空のマガジンを渡した。
チルノはそれを両手で包み込む。
「冷たくなるよ」
「分かった」
チルノの周囲に冷気が集まり始める。
床が少しずつ白く染まっていく。
氷の粒が生まれる。
しかし、それらは銃へ集まるわけではない。
チルノが手にしたマガジンへ、直接流れ込んでいく。
「……っ」
チルノが歯を食いしばる。
「もっと……」
冷気が強くなる。
マガジンの内部が青白く輝き始めた。
悠はその様子を見つめる。
「マガジンに……弾幕を蓄積させてるのか」
「そう!」
チルノが苦しそうに笑う。
「これなら、悠の銃でも撃てるでしょ?」
「ああ」
悠が頷く。
「撃てる」
「じゃあ、もうちょっと!」
チルノがさらに力を込める。
マガジン全体を青白い冷気が包み込んだ。
やがて、内部に氷の弾幕が凝縮されていく。
「できた……!」
チルノがマガジンを差し出す。
「これ、使って」
悠が受け取る。
「……名前は?」
チルノは少し考えた。
そして笑う。
「アイスバレット!」
「アイスバレット?」
「うん!」
チルノが胸を張る。
「あたいの氷を込めた特別な弾幕!」
悠はマガジンを装填する。
ガチャッ。
銃を構える。
いつもの感覚とは違う。
銃身の奥から、冷気が伝わってくる。
「どう?」
「……悪くない」
「でしょ!」
チルノが笑う。
「でも、使いすぎるとあたいも疲れるから、ちゃんと考えて撃ってね」
「分かった」
悠がレミリアたちを見る。
「ありがとう、チルノ」
「お礼は勝ってから!」
「……そうだな」
悠は立ち上がった。
「勝ってから言う」
その時。
レミリアがこちらへ視線を向けた。
「準備は終わったかしら?」
悠が銃を構える。
「ああ」
レミリアが微笑む。
「なら、最後まで付き合ってあげる」
霊夢が悠の横へ並ぶ。
「何か考えがあるの?」
「チルノが力を貸してくれた」
悠が銃を見る。
「このマガジンなら、まだ戦える」
魔理沙が笑う。
「へえ。面白そうじゃないか」
「魔理沙、あんたもかなり消耗してるでしょ」
「まだ動けるぜ」
霊夢がため息をつく。
「なら、最後までやるわよ」
三人が再び構える。
レミリアとフランドールも並んだ。
「フラン」
「うん」
「最後よ」
「うん!」
レミリアの周囲に紅い弾幕が集まる。
フランドールの周囲に七色の光が生まれる。
「来るぞ!」
魔理沙が叫ぶ。
紅い弾幕と七色の弾幕が一斉に放たれた。
霊夢が札を展開する。
「夢符!」
陰陽玉が弾幕を打ち消していく。
魔理沙が横から飛び込む。
「こっちは任せろ!」
星形の弾幕がレミリアへ向かう。
レミリアがかわす。
フランドールがその前へ出る。
「させない!」
七色の弾幕が魔理沙を押し返す。
「おっと!」
魔理沙が回避する。
悠はその隙を狙った。
「……今だ」
引き金を引く。
パンッ!
青白い弾幕が放たれる。
普通の弾幕とは違い、飛んだ軌跡に冷気が残る。
レミリアがかわす。
「これは……氷?」
「そうだ!」
悠が二発目を撃つ。
パンッ!
レミリアは身体を捻る。
しかし、弾は壁へ当たった。
瞬間、着弾地点から氷が広がった。
「……!」
レミリアが足を止める。
「当たらなくても効果があるのね」
「そういうことだ!」
悠がさらに撃つ。
パンッ!
パンッ!
青白い弾幕が床を凍らせる。
レミリアの動ける範囲が少しずつ狭くなっていく。
「フラン、気をつけて!」
「分かってる!」
フランドールが上空へ飛ぶ。
悠が狙いを変える。
パンッ!
弾がフランドールの足元へ飛ぶ。
フランドールが避ける。
しかし、床に着弾した瞬間、氷が一気に広がった。
「わっ!」
足元が凍りつく。
「動けない!」
「フラン!」
レミリアが助けに向かう。
その瞬間。
「今よ!」
霊夢が叫ぶ。
「魔理沙!」
「待ってたぜ!」
魔理沙がミニ八卦炉を構える。
しかし、まだマスタースパークは撃たない。
今は温存する。
「レミリアの動きを止める!」
星形の弾幕が一気に押し寄せる。
レミリアはフランドールを庇いながら弾幕をかわす。
「お姉様!」
「大丈夫よ、フラン!」
レミリアが翼を広げる。
紅い弾幕が爆発する。
悠はその爆発を横から抜ける。
「そこだ!」
パンッ!
レミリアの腕を氷の弾幕が掠める。
その瞬間、腕が凍りつく。
「……っ!」
レミリアが振り払う。
しかし、動きが僅かに鈍った。
「効いてる!」
悠が叫ぶ。
「そのまま押すわよ!」
霊夢が札を一斉に放つ。
レミリアがかわす。
だが、逃げた先に悠の弾幕が待っている。
パンッ!
レミリアが後退する。
その先には魔理沙。
「逃がさないぜ!」
星弾が炸裂する。
レミリアが上へ飛ぶ。
悠が追う。
「今度はこっちだ!」
パンッ!
氷の弾幕が空中で炸裂する。
冷気が広がり、レミリアの翼が一瞬凍りついた。
「……!」
高度が落ちる。
霊夢が見逃さない。
「そこ!」
札が飛ぶ。
レミリアが防御する。
「くっ……!」
レミリアの身体が後ろへ押される。
しかし、フランドールが動いた。
「お姉様をいじめるな!」
七色の弾幕が悠へ向かう。
「悠!」
霊夢が叫ぶ。
悠は横へ飛ぶ。
弾幕が床を抉る。
「危なっ……!」
「フラン、落ち着いて!」
レミリアが叫ぶ。
「でも……!」
「私なら大丈夫」
レミリアは妹へ笑いかける。
「だから、あなたは自分の身を守りなさい」
「……うん」
フランドールが頷く。
その瞬間。
レミリアの周囲に、これまでとは違う濃密な魔力が集まり始めた。
「……来るわよ」
霊夢が構える。
「何かしら?」
レミリアが笑う。
「最後の一撃よ」
魔理沙が目を細める。
「なら、こっちも最後だ」
ミニ八卦炉が強烈な光を放ち始める。
悠が魔理沙を見る。
「それ……」
「今まで取っておいたんだ」
魔理沙が笑う。
「ここで使う」
レミリアが槍を構える。
紅い魔力が一点へ集中する。
「――グングニル」
巨大な紅い槍が現れる。
フランドールも両手を広げる。
七色の光が槍へ集まっていく。
「フラン」
「うん!」
「一緒にいくわよ」
「うん!」
二人の力が重なる。
紅い槍が巨大な光を纏う。
悠は銃を構えた。
残りは少ない。
だからこそ、一発一発を無駄にはできない。
「チルノ」
後ろを見る。
チルノは壁にもたれながら、悠を見ていた。
「何?」
「見ててくれ」
「うん!」
「今度こそ――」
悠は前を見る。
「一緒に勝つ」
チルノが笑った。
「約束だからね!」
霊夢が一歩前へ出る。
「来るわよ!」
レミリアが槍を構える。
「終わらせるわ!」
グングニルが放たれた。
「行くぜ!」
魔理沙が叫ぶ。
ミニ八卦炉から巨大な光が迸る。
「マスタースパーク!!」
凄まじい光の奔流がホールを埋め尽くす。
同時に霊夢が札を放つ。
「夢想封印!」
無数の光弾がレミリアへ向かう。
グングニルがマスタースパークを切り裂くように突き進む。
七色の炎がその周囲を包む。
「止めるわよ!」
霊夢の弾幕が正面からぶつかる。
「無駄よ!」
レミリアが叫ぶ。
グングニルが霊夢の弾幕を突破する。
「霊夢!」
悠が叫ぶ。
「大丈夫!」
霊夢が横へ飛ぶ。
グングニルがその横を通過する。
その先に悠がいた。
「……来い!」
悠は銃を構える。
最後のアイスバレット。
引き金を引く。
パンッ!
青白い弾幕が一直線に飛ぶ。
グングニルと正面からぶつかる。
「なっ……!」
氷が紅い槍を包み込む。
一瞬。
二つの力が拮抗した。
「止まれぇぇぇっ!」
悠が叫ぶ。
氷がさらに広がる。
グングニルの先端が凍りつく。
しかし、それでも槍は止まらない。
「くっ……!」
悠が踏ん張る。
その瞬間、霊夢が横から飛び込んだ。
「悠、離れて!」
「え?」
「最後は私たちに任せなさい!」
霊夢が陰陽玉を前へ出す。
魔理沙も横へ並ぶ。
「これで終わりだぜ!」
マスタースパークが再び放たれる。
今度はグングニルの勢いが弱まっている。
霊夢の夢想封印が重なる。
紅い槍が少しずつ押し戻される。
「フラン!」
「うん!」
フランドールが全力で力を放つ。
七色の光が爆発する。
「まだ……!」
レミリアが叫ぶ。
「まだ終わらない!」
悠は銃を構え直す。
最後のアイスバレットが残っている。
「これで――」
引き金を引く。
パンッ!
青白い弾幕がレミリアへ向かう。
レミリアは避けようとする。
しかし、霊夢と魔理沙の攻撃によって動きが制限されている。
弾幕がレミリアの足元へ着弾する。
氷が一気に広がる。
「……っ!」
レミリアの足が止まった。
「今だ!」
悠が叫ぶ。
霊夢が札を放つ。
「夢想封印――!」
魔理沙が叫ぶ。
「マスタースパーク!!」
巨大な光が一つになる。
レミリアとフランドールを包み込む。
「お姉様!」
「フラン!」
二人が互いに手を伸ばす。
その直後。
轟音が紅魔館全体を揺らした。
床が震える。
壁に大きな亀裂が走る。
天井から埃が落ちてくる。
そして――。
静寂が訪れた。
悠はゆっくりと目を開けた。
ホールには煙が立ち込めている。
霊夢が息を整える。
魔理沙も肩で息をしていた。
悠は銃を見る。
マガジンは空になっていた。
「……終わったのか?」
煙の向こうから、ゆっくりと人影が現れる。
レミリアだった。
ドレスは傷だらけ。
翼も傷ついている。
それでも、まだ立っていた。
その隣にはフランドール。
こちらも傷を負っているが、姉の手を握っている。
レミリアが悠たちを見る。
そして、小さく笑った。
「……負けね」
霊夢が札を下ろす。
「そういうことね」
レミリアは空を見上げた。
その瞬間。
紅魔館の窓から、一筋の光が差し込んできた。
「……?」
悠が窓を見る。
紅い霧が、薄くなっている。
少しずつ。
少しずつ。
幻想郷を覆っていた紅い霧が晴れていく。
黒く染まっていた空に、青が戻ってくる。
「霧が消えてるぜ」
魔理沙が窓の外を見る。
「異変が終わったのね」
霊夢が言う。
悠も空を見上げる。
久しぶりに見る太陽。
その光が紅魔館のホールへ差し込んでくる。
「……綺麗だな」
悠が呟いた。
「そう?」
霊夢が言う。
「幻想郷じゃ普通よ」
「俺にとっては普通じゃない」
悠は小さく笑った。
その時。
「悠!」
後ろから声がした。
悠が振り返る。
チルノが壁にもたれながら笑っている。
「勝ったね!」
「ああ」
悠が答える。
「勝ったな」
「約束、守ったね!」
「ああ」
悠は頷いた。
「一緒に勝った」
チルノが嬉しそうに笑う。
「へへっ」
フランドールも二人を見る。
「一緒に戦うって、こういうことなんだね」
チルノが頷く。
「そうだよ!」
レミリアが妹を見る。
「フラン」
「なに?」
「外へ行きたい?」
「うん」
「なら、今度一緒に行きましょう」
フランドールの顔が明るくなる。
「本当?」
「ええ」
「約束だよ」
「約束するわ」
姉妹が並んで立つ。
その姿を見ながら、悠は銃を下ろした。
マガジンを抜く。
空になったそれを見つめる。
そこには、最後まで戦い抜いた証が残っていた。
悠は銃を見ながら考える。
自分は弾幕を撃てない。
霊夢のような力もない。
魔理沙のような魔法もない。
チルノのように氷を自在に操れるわけでもない。
フランドールのような圧倒的な力もない。
それでも。
自分には、自分の戦い方がある。
銃で弾幕を撃つ。
仲間と力を合わせる。
必要なら、誰かの力を借りる。
そして、自分も誰かの力になる。
「……ニトリに、ちゃんと礼を言わないとな」
悠が呟く。
魔理沙が振り返る。
「ん?」
「この銃を作ってくれたんだ」
魔理沙が悠の銃を見る。
「それ、面白い武器だな」
「ああ」
悠が頷く。
「まだ試作品だけどな」
「だったら、もっと面白くできそうだぜ」
「……え?」
悠が魔理沙を見る。
魔理沙はニヤリと笑った。
「なんでもないぜ」
「いや、絶対何か考えてるだろ」
「気のせいだ」
霊夢がため息をつく。
「どうせまた変なこと考えてるんでしょう」
「失礼だな」
「今までのあんたを見てれば分かるわよ」
「ひどいぜ」
そのやり取りを聞きながら、チルノが笑う。
紅魔館に、少しずついつもの空気が戻っていく。
長く幻想郷を覆っていた紅い霧は、完全に消えようとしていた。
異変は終わった。
――少なくとも、この時は。
悠は最後にもう一度、窓の外を見上げる。
青い空。
眩しい太陽。
幻想郷へ来てから、まだそれほど時間は経っていない。
それでも。
この場所で初めて、自分がここにいる意味を少しだけ理解できた気がした。
弾幕を撃てなくてもいい。
魔法が使えなくてもいい。
自分には、自分にしかできない戦い方がある。
そして――。
「悠!」
チルノが呼ぶ。
「帰ろう!」
悠は振り返った。
「ああ」
小さく笑う。
「帰ろう」
こうして――。
幻想郷を紅い霧で覆った、紅霧異変は終わりを迎えた。
だが。
神代悠の幻想郷での物語は、まだ始まったばかりだった。
読んで頂きありがとうございます!
新技が出ましたね!
アイスバレット
チルノとの絆ですね!