幻想郷に転生した俺は、弾幕を撃てない   作:みみみのおじさん

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紅魔館異変が終わって一段落しましたが、まだまだ先は長いですね。


第13話 強くなるために

 紅霧異変から、しばらくの時間が流れた。

 紅い霧に覆われていた空はすっかり元に戻り、幻想郷には再びいつもの日常が戻っていた。

 博麗神社では、縁側に座った霊夢がのんびりとお茶を飲んでいる。

「……平和ねぇ」

 霊夢は湯呑みを傾けながら、青い空を眺めていた。

 その隣では魔理沙が箒を立てかけ、神社の境内を眺めている。

「そうだな。あの紅霧異変から、もう結構経ったしな」

「お茶が美味しいわ」

「聞いてるか?」

「聞いてるわよ」

 霊夢は興味なさそうに答える。

「で、何?」

「いや……」

 魔理沙は呆れたようにため息をついた。

「まあいいぜ」

 そんな二人の会話を、少し離れた場所から見ている人物がいた。

 神代悠。

 そして、その隣にはチルノがいる。

「……暇だね」

 チルノが呟いた。

「そうだな」

 悠も答える。

 紅霧異変が終わってから、二人は何度か博麗神社へ顔を出すようになっていた。

 異変の中で、二人は自分たちの力不足を嫌というほど思い知らされた。

 悠は銃を握る。

 紅魔館での戦い。

 レミリアとフランドール。

 そして、自分を庇って倒れたチルノ。

 あの時のことは、今でも鮮明に覚えている。

「……悠」

「ん?」

「また考えてるでしょ」

「何を?」

「紅魔館のこと」

 悠は少し黙った。

「……まあな」

 チルノも空を見上げる。

「あたいも」

「お前も?」

「うん」

 チルノは自分の手を見つめた。

「もっと強くなりたい」

 その言葉に、悠は頷いた。

「俺もだ」

 二人が異変を軽く考えていたわけではない。

 だが、最初はどこかで自分たちなら何とかなると思っていた。

 実際に戦場へ立ってみれば、そんな考えは簡単に崩れた。

 悠には銃がある。

 チルノには氷の力がある。

 それでも、それだけでは足りなかった。

「次に同じようなことが起きたら」

 悠が銃を見る。

「今度は、何もできないまま終わりたくない」

「うん」

 チルノが頷く。

「だから修行する!」

「……修行か」

「そう!」

 チルノが勢いよく立ち上がる。

「強くなるんだよ!」

 その声が神社中に響いた。

「うるさいわねぇ」

 霊夢が湯呑みを置く。

「修行するなら勝手にすれば?」

「霊夢は修行しないの?」

「私は必要になったらするわ」

「絶対しないやつじゃん」

 魔理沙が笑った。

「私はやるぜ」

 魔理沙が悠を見る。

「お前、銃を使うんだったな」

「ああ」

「だったら、まずはその武器をもっと使いこなせるようにした方がいい」

「俺もそう思ってる」

「それなら、ちょうどいい奴がいるぜ」

 魔理沙が立ち上がった。

「河城のところへ行ってみな」

「ニトリか?」

「ああ」

 悠は頷いた。

「一度、相談してみるか」

「そうしよう!」

 チルノも嬉しそうに頷いた。

 こうして、悠の修行が始まることになった。

 まず最初に鍛えるのは――。

 銃。

 正確には、ニトリと作った弾幕発射装置の扱いだった。

 紅霧異変では、銃を撃つこと自体はできた。

 だが、実戦では敵の動きに対応しながら狙いを定め、弾幕を撃ち分ける必要がある。

 さらに、特殊な弾幕を扱うには、それぞれの性質を理解しなければならない。

「……ここが問題なんだよな」

 悠は手にした銃を見つめる。

 現在使っているのは、ニトリが製作した試作型のハンドガン。

 見た目こそ銃だが、普通の銃とは構造が違う。

 弾丸を火薬で撃ち出すものではない。

 マガジンに込められた弾幕を、銃を通して発射する装置。

 マガジンによって、発射される弾幕の性質が変わる。

「普通に撃つだけなら問題ないんだけどな」

 悠は何度か銃を構える。

「実戦になると、狙うことばかり考えて動きが止まる」

「じゃあ、動きながら撃てばいいんだよ!」

 チルノが言う。

「簡単に言うなよ」

「じゃあ、あたいが動く!」

「お前が?」

「うん!」

 チルノが少し離れた場所まで飛んでいく。

「撃ってみて!」

「……本気でやるぞ」

「いいよ!」

 チルノが飛び上がった。

 悠も銃を構える。

「いくぞ」

 チルノが左右へ動く。

 悠はその動きを追いながら引き金を引いた。

 パンッ!

 弾幕が飛ぶ。

 しかし、チルノは簡単に避けた。

「遅い!」

「くっ……」

 悠が続けて撃つ。

 パンッ!

 パンッ!

 チルノは弾幕の間をすり抜ける。

「まだまだ!」

「分かってる!」

 悠も走りながら銃を撃つ。

 だが、今度は狙いが大きく外れた。

「……」

 悠が足を止める。

「今度は外したね」

「動きながら撃つと狙いがずれる」

「じゃあ、もっと撃てばいいんじゃない?」

「それじゃ弾が足りなくなる」

 悠はマガジンを見る。

 紅霧異変で何度も経験した。

 弾幕発射装置の強みは、弾幕を撃てること。

 しかし、マガジンの弾幕には限りがある。

 一発一発を無駄にすれば、すぐに戦えなくなる。

「必要なのは、ただ撃つことじゃない」

 悠が銃を構え直す。

「動きながら、必要なところだけ撃つ」

「難しいね」

「ああ」

 その時だった。

「難しいなら、慣れるしかないね」

 背後から声がした。

 二人が振り返る。

 そこにいたのは、河城にとりだった。

「ニトリ!」

「やあ、チルノ」

 にとりは悠の持つ銃へ視線を向ける。

「それで練習してるんだね」

「ああ」

「調子は?」

「悪くない。でも、実戦になると上手く扱えない」

「そりゃそうだよ」

 にとりは笑った。

「作ったばかりの武器を、いきなり実戦で使ったんだから」

「……」

「武器に慣れる時間が足りなかったんだよ」

 悠は黙って銃を見る。

「じゃあ、どうすればいい?」

「まずは基本」

 にとりが指を一本立てる。

「構える」

 二本目。

「狙う」

 三本目。

「撃つ」

 そして四本目。

「動く」

「……それだけ?」

「最初はね」

 にとりは悠の銃を指差す。

「今の悠は、撃つことに意識が集中しすぎてる」

「やっぱりか」

「うん」

 にとりは頷いた。

「この武器は普通の銃とは違う。でも、だからって武器そのものに頼りすぎちゃ駄目だよ」

「……分かった」

「それと」

 にとりがマガジンを取り出す。

「これも覚えておいて」

 悠が受け取る。

「マガジン?」

「そう」

 にとりはマガジンを指で叩く。

「弾幕発射装置そのものじゃなくて、マガジンに入っている弾幕が武器の性質を決める」

「つまり、マガジンを変えれば戦い方も変えられる」

「その通り」

 にとりが笑った。

「だから、これからは普通の弾幕だけじゃなくて、特殊な弾幕も作ってみようと思ってる」

「特殊な弾幕?」

「うん」

 にとりは別のマガジンを取り出した。

「紅魔館で戦った時、レミリアが使っていた槍を覚えてる?」

「ああ」

「あれみたいな、貫通力の高い弾幕を撃てるようにする」

 悠がマガジンを見る。

「レミリアの槍みたいなやつを?」

「完全に同じものじゃないけどね」

 にとりが続ける。

「一発の威力を高くして、相手を貫くことに特化させる」

「……強そうだな」

「その代わり、ハンドガンへの負担が大きい」

「何発撃てる?」

「今の試作型なら、一つのマガジンで三発が限界かな」

「三発……」

「それ以上撃つと銃の耐久が危ない」

 悠は頷いた。

「分かった」

「それと、もう一つ」

 にとりが別のマガジンを取り出した。

「フランドールの攻撃を参考にしたもの」

「着弾した場所で爆発するタイプ?」

「そう」

「一発だけ?」

「今のハンドガンならね」

 にとりは苦笑する。

「これも負荷が大きいから、一つのマガジンに一発しか入れられない」

 悠は二つのマガジンを見比べた。

「……通常の弾幕と使い分ける必要があるな」

「そういうこと」

「面白い」

 悠は少しだけ笑った。

「これなら、戦い方を増やせる」

「ただし、特殊弾幕は使いどころを間違えるとすぐに弾がなくなるからね」

「分かってる」

 悠はマガジンを腰へ戻した。

「必要な時に使う」

「それが一番」

 にとりが頷いた。

 それから数日。

 悠は毎日のように銃を握った。

 最初は止まった状態で狙う。

 次に歩きながら撃つ。

 その次は走りながら撃つ。

 さらに、相手の動きを見ながら撃つ。

 チルノが相手役になり、縦横無尽に飛び回る。

「そこ!」

 悠が撃つ。

 チルノが避ける。

「まだまだ!」

 悠が追う。

 パンッ!

 今度はチルノのすぐ横を弾幕が通り抜けた。

「惜しい!」

「あと少し……!」

 悠は息を切らしながら銃を構え直す。

 以前とは違った。

 ただ撃つだけではなく、チルノの動きを予測する。

 どこへ逃げるか。

 どこへ追い込むか。

 どのタイミングで撃つか。

 少しずつだが、悠の動きは変わっていった。

「……当たった!」

 チルノの肩を弾幕が掠めた。

「やった!」

 チルノが驚く。

「今のはちゃんと狙ってたね!」

「ああ」

 悠も笑った。

「少し分かってきた」

 それでも、まだ足りない。

 紅霧異変で戦ったレミリアの動き。

 あの速度には、まだ対応できない。

 悠は銃を下ろす。

「もっとだ」

「え?」

「もっと速く動けるようにならないと」

 チルノも頷く。

「じゃあ、もっと速くする?」

「頼む」

「分かった!」

 チルノが笑う。

 そして再び飛び上がった。

 その日も、日が沈むまで修行は続いた。

 数週間。

 さらに時間が流れる。

 悠は銃を扱うことに少しずつ慣れていった。

 ただ撃つだけではない。

 相手の動きを読み、必要な弾幕を選び、撃つ。

 マガジンの交換も以前より速くなった。

 特殊弾幕を使うタイミングも意識するようになった。

 そして――。

 ある日の夕方。

 悠は一人で銃を構えていた。

 目の前には、にとりが用意した的がいくつも並んでいる。

 悠は深く息を吸う。

 走る。

 身体を横へ滑らせる。

 同時に銃を構える。

 パンッ!

 一つ目。

 さらに身体を回転させる。

 パンッ!

 二つ目。

 そのまま伏せる。

 パンッ!

 三つ目。

 最後の的へ狙いを定める。

 パンッ!

 全ての的に弾幕が命中した。

「……」

 悠は銃を下ろした。

 にとりが後ろから拍手する。

「かなり上達したね」

「本当に?」

「うん」

 にとりは頷く。

「もう、ただ銃を撃ってるだけには見えないよ」

 悠は銃を見る。

「……まだまだだけどな」

「そう思えるなら大丈夫」

「どういう意味?」

「強くなった人ほど、自分に足りないものが見えるから」

 悠は少し考えた。

 そして頷く。

「そうかもな」

 チルノが悠の隣へ飛んでくる。

「悠!」

「ん?」

「あたいもやる!」

「今日はもう終わりだ」

「えー!」

「明日もあるだろ」

「じゃあ明日はもっと難しくする!」

「……分かったよ」

 悠は笑った。

 その夜。

 悠は一人、月を見上げながら銃を手にしていた。

 紅霧異変の時とは違う。

 あの頃は、ただ必死に引き金を引いていた。

 今は違う。

 この武器で何ができるのか。

 自分がどう戦うのか。

 少しずつ見えてきた。

「……次は」

 悠は銃をしまう。

「もっと強くなる」

 その頃。

 幻想郷のどこかでは、まだ誰も気づいていない変化が始まっていた。

 季節は、ゆっくりと春へ向かっていた。

 桜が咲く季節は、もうすぐそこまで来ている。

 だが――。

 悠たちはまだ知らない。

 この修行の先で待っている、新たな異変のことを。

 




霊夢、魔理沙の戦いっぷりを目の前で見て、火がつきましたね!
チルノも今までのチルノとは一味違いますよ!
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