幻想郷に転生した俺は、弾幕を撃てない   作:みみみのおじさん

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自分の弱さを痛感した悠とチルノ
銃が使えても超接近戦の戦いは全然ダメ……
ならどうする?


第14話 届かない距離

 紅魔館の門を前に、悠とチルノは立っていた。

「……ここに来るの、紅霧異変以来だね」

 チルノが紅魔館を見上げる。

「ああ」

 悠も館を見上げた。

 今日ここへ来た理由は一つ。

 紅霧異変での戦いを終えてから、悠は自分の戦い方について考えていた。

 銃は強い。

 遠くから弾幕を撃ち込むことができる。

 しかし、レミリアとの戦いでは近距離まで詰められた瞬間、銃を構えることすら難しかった。

 弾幕を撃つ前に懐へ入られてしまえば、銃だけでは対応できない。

 だからこそ、悠は新しい戦い方を身につけることにした。

 それが――ナイフだった。

「行くぞ」

「うん!」

 二人は紅魔館の中へ入っていった。

 以前訪れた時とは違い、今回は正式にレミリアへ許可をもらうために来ている。

 廊下を進み、悠はレミリアのいる部屋の前で足を止めた。

 扉をノックする。

「どうぞ」

 中から声が返ってきた。

「失礼します」

 悠が扉を開ける。

 部屋の中では、レミリアがいつものように優雅に紅茶を飲んでいた。

「いらっしゃい、悠。それにチルノも」

「お邪魔します!」

 チルノが元気よく挨拶する。

「今日は何の用かしら?」

 レミリアがカップを置く。

 悠は一歩前へ出た。

「お願いがあって来ました」

「お願い?」

「はい」

 悠は自分の腰にある銃へ一度目を向けた。

「紅霧異変の時、俺は銃だけでは近距離に対応できないことを痛感しました」

 レミリアは黙って聞いている。

「そこで、ナイフの扱いを覚えたいと思っています」

「ナイフを?」

「はい」

「それで、私のところへ来たということね」

「ナイフを教えられる人を考えた時、咲夜さんが一番だと思いました」

 レミリアは少し考えるように目を伏せた。

「なるほどね」

「それで、ここへ来る前に霊夢と魔理沙にも頼んでみたんですが……」

「二人に?」

「はい」

 悠は苦笑する。

「霊夢には面倒だから嫌って言われました」

「……あの子らしいわね」

 レミリアが小さく笑う。

「魔理沙にも頼んだんですが、自分は魔法を教える方が向いてるからって断られました」

「ふふ」

 レミリアは肩を揺らす。

「本当に、あの子たちらしいわね」

「なので、他に誰かいないか考えて……」

 悠は咲夜の名前を出す。

「咲夜さんに教えてもらえないかと思って、ここへ来ました」

「そういうこと」

 レミリアは悠を見つめる。

「紅霧異変では、あなたたちに色々と迷惑をかけたものね」

「……」

「それに、わざわざ修行をするためにここまで来たのでしょう?」

「はい」

「なら、いいわ」

 レミリアが微笑む。

「紅魔館への滞在を許可しましょう」

「ありがとうございます」

 悠が頭を下げる。

「修行が終わるまで、ここを使いなさい」

「ありがとうございます」

 その時、チルノが手を上げた。

「あたいも修行したい!」

 レミリアがチルノを見る。

「あなたも?」

「うん!」

 チルノは胸を張る。

「あたいも、もっと強くなりたい!」

 レミリアは少しだけ目を細めた。

「そう」

「だから、悠と一緒に咲夜に教えてもらって――」

「待ちなさい」

「え?」

 レミリアがチルノを見る。

「あなたは私が教えるわ」

「…………え?」

 チルノの表情が固まった。

「あなたには、私が直接教える」

「え、いや……」

 チルノが一歩後ずさる。

「チルノ?」

 悠が不思議そうに見る。

「どうした?」

「な、なんでもない!」

 チルノは慌てて首を振る。

「でも、あたいも咲夜に――」

「駄目よ」

「なんで!?」

「あなたにはあなたに合った修行が必要だからよ」

 レミリアは立ち上がる。

「それに、あなたには紅霧異変で見せてもらった力を、もっと正確に扱えるようになってもらわないとね」

「……」

 チルノの顔が引きつる。

「……はい」

 その返事を聞いて、レミリアは満足そうに笑った。

「では、悠は咲夜に任せましょう」

「はい」

 レミリアが扉の方を見る。

「咲夜」

「お呼びでしょうか、お嬢様」

 いつの間にか、部屋の入口に咲夜が立っていた。

「悠の修行をお願いするわ」

「かしこまりました」

 咲夜が悠へ視線を向ける。

「よろしくお願いいたします」

「こちらこそ、よろしくお願いします」

 悠が頭を下げる。

「では、さっそく始めましょうか」

「今からですか?」

「時間は無駄にできませんから」

 咲夜はそう言って部屋を出ていく。

 悠もその後を追う。

「チルノ」

 悠が振り返る。

「お前も頑張れよ」

「う、うん……」

「なんだよ、その顔」

「……なんでもない」

 チルノはレミリアをちらりと見る。

 レミリアは笑顔だった。

「さあ、チルノ」

「……はい」

「私たちも始めましょう」

「はい……」

 悠はその様子を見て、少しだけ不安になった。

「……大丈夫か?」

「大丈夫!」

 チルノが無理やり笑う。

「最強だから!」

「その意気よ」

 レミリアが楽しそうに笑った。

 悠は咲夜とともに廊下を進んでいく。

「どこで修行するんですか?」

「地下に訓練用の部屋があります」

「地下……」

「紅魔館には、このような用途のための場所もございます」

 しばらく歩くと、大きな扉が見えてきた。

 咲夜が扉を開ける。

 そこには広い空間が広がっていた。

 壁際には木製の人形や訓練用の道具が並んでいる。

「ここなら多少激しく動いても問題ありません」

「なるほど」

 悠が中へ入る。

 咲夜は部屋の中央まで歩くと、一度立ち止まった。

「まず確認させていただきます」

「はい」

「悠さんは、ナイフを扱った経験は?」

「ほとんどありません」

「分かりました」

 咲夜が腰から一本のナイフを取り出す。

 刃が光を反射する。

「では、まず持ってみてください」

 悠はナイフを受け取った。

「こう……ですか?」

「力が入りすぎています」

「え?」

「ナイフは強く握ればいいというものではありません」

 咲夜が悠の手元を見る。

「力を入れすぎれば動きが遅くなります」

 悠は握り方を少し緩める。

「こうですか?」

「先ほどよりは良いでしょう」

「なるほど……」

「次は構えです」

 咲夜が構える。

 無駄な動きがない。

 身体の力が抜けているように見える。

 それでも、一瞬で距離を詰められそうな圧力があった。

「これが基本の構えです」

 悠も真似をする。

「こう……」

「足が止まっています」

「足?」

「ナイフは腕だけで扱うものではありません」

 咲夜が悠の足元を見る。

「相手との距離を変えるのは、腕ではなく身体全体です」

「……」

「一歩下がる」

 咲夜が動く。

「一歩入る」

 再び動く。

「それだけでも、相手との距離は大きく変わります」

 悠は咲夜の動きを目で追う。

「銃とは全然違いますね」

「当然です」

 咲夜が微笑む。

「銃は距離を作って戦うための武器です」

「……」

「ナイフは、その距離を自ら詰めて使う武器」

 悠は銃を使ってきた自分だからこそ、その違いがよく分かった。

「では、始めましょう」

 咲夜が一本の木製ナイフを構える。

「まずは私から一本取ってください」

「一本?」

「はい」

「……本気で?」

「もちろんです」

 悠も構える。

 咲夜との距離は三メートルほど。

 銃なら十分に攻撃できる距離だ。

 しかし、今はナイフしか持っていない。

「いきます」

 悠が踏み込む。

 咲夜は動かない。

 悠が一歩。

 さらに一歩。

 ナイフを振る。

 その瞬間――。

 咲夜の姿が消えた。

「……え?」

 次の瞬間、悠の手からナイフが弾き飛ばされた。

 カラン、と音を立てて床へ落ちる。

「……」

 悠が呆然とする。

「今のは……」

「踏み込みが大きすぎます」

「そこですか?」

「それだけではありません」

 咲夜は悠の前に立つ。

「攻撃することだけを考えていました」

「……」

「相手がどう動くかを見ていません」

 悠は床に落ちたナイフを見る。

「もう一度お願いします」

「はい」

 悠がナイフを拾う。

 今度は慎重に距離を詰める。

 咲夜の動きを見る。

 足。

 肩。

 視線。

 少しでも動いたら対応できるようにする。

 そして――。

「そこ!」

 悠が踏み込む。

 咲夜が横へ動く。

 悠も身体を回す。

 ナイフを振る。

 だが、届かない。

「まだです」

 咲夜のナイフが悠の手首へ触れる。

「……っ」

 悠は動きを止める。

「相手を追いかけすぎです」

「なるほど……」

「ナイフは速さだけではありません」

 咲夜がナイフを下ろす。

「相手の動きを予測し、次にどこへ来るかを考えることが重要です」

 悠は頷いた。

「分かりました」

「では、もう一度」

 その後も何度も繰り返した。

 踏み込む。

 避けられる。

 追う。

 弾かれる。

 また構える。

 今度は足を止めない。

 それでも咲夜には届かない。

 やがて悠は肩で息をしていた。

「……全然当たらない」

「当然です」

 咲夜は息一つ乱していない。

「今まで銃を中心に戦ってきたのですから」

「……」

「ですが、悪くありません」

 悠が顔を上げる。

「本当ですか?」

「ええ」

 咲夜がナイフを構え直す。

「少しずつですが、相手を見るようになっています」

「……ありがとうございます」

「ただし」

 咲夜の目が鋭くなる。

「これからが本番です」

「え?」

 咲夜が一瞬で距離を詰めた。

 悠が反応する。

 ナイフを構える。

 だが――。

 次の瞬間には、喉元に木製ナイフが突きつけられていた。

「……」

 悠は動けなかった。

「銃を撃つ暇すら与えない距離もあります」

 咲夜が静かに告げる。

「その距離へ入られた時、何をするのか」

 悠は咲夜のナイフを見る。

「それを身につけるための修行です」

「……分かりました」

 悠はナイフを握り直した。

「お願いします。もっとやらせてください」

「ええ」

 咲夜が頷く。

「では、続けましょう」

 その頃、別の訓練場では――。

「さあ、チルノ」

 レミリアが微笑んでいた。

「あなたの力を見せてもらうわ」

「……」

 チルノは額に汗を浮かべる。

「あたい、ちょっと帰りたくなってきた……」

「駄目よ」

「ですよねー……」

 紅魔館の一室で、二人の修行が始まった。

 悠はナイフを。

 チルノは氷の力を。

 それぞれが、自分に足りなかったものを身につけるために。

 そして悠はまだ知らない。

 この修行で身につけるナイフの技術が、やがて幻想郷で出会う一人の剣士との戦いで、大きな意味を持つことを。

 




読んで頂きありがとうございます!
感想とか書いてくれたらモチベーションになります(感想乞食)
紅魔館に修行接近戦のプロがいるので成長しそうですね!
チルノの修行も見てくれるという事で!
ps書き貯めしてた分が無くなったので、更新ペースが遅くなります。
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