銃が使えても超接近戦の戦いは全然ダメ……
ならどうする?
紅魔館の門を前に、悠とチルノは立っていた。
「……ここに来るの、紅霧異変以来だね」
チルノが紅魔館を見上げる。
「ああ」
悠も館を見上げた。
今日ここへ来た理由は一つ。
紅霧異変での戦いを終えてから、悠は自分の戦い方について考えていた。
銃は強い。
遠くから弾幕を撃ち込むことができる。
しかし、レミリアとの戦いでは近距離まで詰められた瞬間、銃を構えることすら難しかった。
弾幕を撃つ前に懐へ入られてしまえば、銃だけでは対応できない。
だからこそ、悠は新しい戦い方を身につけることにした。
それが――ナイフだった。
「行くぞ」
「うん!」
二人は紅魔館の中へ入っていった。
以前訪れた時とは違い、今回は正式にレミリアへ許可をもらうために来ている。
廊下を進み、悠はレミリアのいる部屋の前で足を止めた。
扉をノックする。
「どうぞ」
中から声が返ってきた。
「失礼します」
悠が扉を開ける。
部屋の中では、レミリアがいつものように優雅に紅茶を飲んでいた。
「いらっしゃい、悠。それにチルノも」
「お邪魔します!」
チルノが元気よく挨拶する。
「今日は何の用かしら?」
レミリアがカップを置く。
悠は一歩前へ出た。
「お願いがあって来ました」
「お願い?」
「はい」
悠は自分の腰にある銃へ一度目を向けた。
「紅霧異変の時、俺は銃だけでは近距離に対応できないことを痛感しました」
レミリアは黙って聞いている。
「そこで、ナイフの扱いを覚えたいと思っています」
「ナイフを?」
「はい」
「それで、私のところへ来たということね」
「ナイフを教えられる人を考えた時、咲夜さんが一番だと思いました」
レミリアは少し考えるように目を伏せた。
「なるほどね」
「それで、ここへ来る前に霊夢と魔理沙にも頼んでみたんですが……」
「二人に?」
「はい」
悠は苦笑する。
「霊夢には面倒だから嫌って言われました」
「……あの子らしいわね」
レミリアが小さく笑う。
「魔理沙にも頼んだんですが、自分は魔法を教える方が向いてるからって断られました」
「ふふ」
レミリアは肩を揺らす。
「本当に、あの子たちらしいわね」
「なので、他に誰かいないか考えて……」
悠は咲夜の名前を出す。
「咲夜さんに教えてもらえないかと思って、ここへ来ました」
「そういうこと」
レミリアは悠を見つめる。
「紅霧異変では、あなたたちに色々と迷惑をかけたものね」
「……」
「それに、わざわざ修行をするためにここまで来たのでしょう?」
「はい」
「なら、いいわ」
レミリアが微笑む。
「紅魔館への滞在を許可しましょう」
「ありがとうございます」
悠が頭を下げる。
「修行が終わるまで、ここを使いなさい」
「ありがとうございます」
その時、チルノが手を上げた。
「あたいも修行したい!」
レミリアがチルノを見る。
「あなたも?」
「うん!」
チルノは胸を張る。
「あたいも、もっと強くなりたい!」
レミリアは少しだけ目を細めた。
「そう」
「だから、悠と一緒に咲夜に教えてもらって――」
「待ちなさい」
「え?」
レミリアがチルノを見る。
「あなたは私が教えるわ」
「…………え?」
チルノの表情が固まった。
「あなたには、私が直接教える」
「え、いや……」
チルノが一歩後ずさる。
「チルノ?」
悠が不思議そうに見る。
「どうした?」
「な、なんでもない!」
チルノは慌てて首を振る。
「でも、あたいも咲夜に――」
「駄目よ」
「なんで!?」
「あなたにはあなたに合った修行が必要だからよ」
レミリアは立ち上がる。
「それに、あなたには紅霧異変で見せてもらった力を、もっと正確に扱えるようになってもらわないとね」
「……」
チルノの顔が引きつる。
「……はい」
その返事を聞いて、レミリアは満足そうに笑った。
「では、悠は咲夜に任せましょう」
「はい」
レミリアが扉の方を見る。
「咲夜」
「お呼びでしょうか、お嬢様」
いつの間にか、部屋の入口に咲夜が立っていた。
「悠の修行をお願いするわ」
「かしこまりました」
咲夜が悠へ視線を向ける。
「よろしくお願いいたします」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
悠が頭を下げる。
「では、さっそく始めましょうか」
「今からですか?」
「時間は無駄にできませんから」
咲夜はそう言って部屋を出ていく。
悠もその後を追う。
「チルノ」
悠が振り返る。
「お前も頑張れよ」
「う、うん……」
「なんだよ、その顔」
「……なんでもない」
チルノはレミリアをちらりと見る。
レミリアは笑顔だった。
「さあ、チルノ」
「……はい」
「私たちも始めましょう」
「はい……」
悠はその様子を見て、少しだけ不安になった。
「……大丈夫か?」
「大丈夫!」
チルノが無理やり笑う。
「最強だから!」
「その意気よ」
レミリアが楽しそうに笑った。
悠は咲夜とともに廊下を進んでいく。
「どこで修行するんですか?」
「地下に訓練用の部屋があります」
「地下……」
「紅魔館には、このような用途のための場所もございます」
しばらく歩くと、大きな扉が見えてきた。
咲夜が扉を開ける。
そこには広い空間が広がっていた。
壁際には木製の人形や訓練用の道具が並んでいる。
「ここなら多少激しく動いても問題ありません」
「なるほど」
悠が中へ入る。
咲夜は部屋の中央まで歩くと、一度立ち止まった。
「まず確認させていただきます」
「はい」
「悠さんは、ナイフを扱った経験は?」
「ほとんどありません」
「分かりました」
咲夜が腰から一本のナイフを取り出す。
刃が光を反射する。
「では、まず持ってみてください」
悠はナイフを受け取った。
「こう……ですか?」
「力が入りすぎています」
「え?」
「ナイフは強く握ればいいというものではありません」
咲夜が悠の手元を見る。
「力を入れすぎれば動きが遅くなります」
悠は握り方を少し緩める。
「こうですか?」
「先ほどよりは良いでしょう」
「なるほど……」
「次は構えです」
咲夜が構える。
無駄な動きがない。
身体の力が抜けているように見える。
それでも、一瞬で距離を詰められそうな圧力があった。
「これが基本の構えです」
悠も真似をする。
「こう……」
「足が止まっています」
「足?」
「ナイフは腕だけで扱うものではありません」
咲夜が悠の足元を見る。
「相手との距離を変えるのは、腕ではなく身体全体です」
「……」
「一歩下がる」
咲夜が動く。
「一歩入る」
再び動く。
「それだけでも、相手との距離は大きく変わります」
悠は咲夜の動きを目で追う。
「銃とは全然違いますね」
「当然です」
咲夜が微笑む。
「銃は距離を作って戦うための武器です」
「……」
「ナイフは、その距離を自ら詰めて使う武器」
悠は銃を使ってきた自分だからこそ、その違いがよく分かった。
「では、始めましょう」
咲夜が一本の木製ナイフを構える。
「まずは私から一本取ってください」
「一本?」
「はい」
「……本気で?」
「もちろんです」
悠も構える。
咲夜との距離は三メートルほど。
銃なら十分に攻撃できる距離だ。
しかし、今はナイフしか持っていない。
「いきます」
悠が踏み込む。
咲夜は動かない。
悠が一歩。
さらに一歩。
ナイフを振る。
その瞬間――。
咲夜の姿が消えた。
「……え?」
次の瞬間、悠の手からナイフが弾き飛ばされた。
カラン、と音を立てて床へ落ちる。
「……」
悠が呆然とする。
「今のは……」
「踏み込みが大きすぎます」
「そこですか?」
「それだけではありません」
咲夜は悠の前に立つ。
「攻撃することだけを考えていました」
「……」
「相手がどう動くかを見ていません」
悠は床に落ちたナイフを見る。
「もう一度お願いします」
「はい」
悠がナイフを拾う。
今度は慎重に距離を詰める。
咲夜の動きを見る。
足。
肩。
視線。
少しでも動いたら対応できるようにする。
そして――。
「そこ!」
悠が踏み込む。
咲夜が横へ動く。
悠も身体を回す。
ナイフを振る。
だが、届かない。
「まだです」
咲夜のナイフが悠の手首へ触れる。
「……っ」
悠は動きを止める。
「相手を追いかけすぎです」
「なるほど……」
「ナイフは速さだけではありません」
咲夜がナイフを下ろす。
「相手の動きを予測し、次にどこへ来るかを考えることが重要です」
悠は頷いた。
「分かりました」
「では、もう一度」
その後も何度も繰り返した。
踏み込む。
避けられる。
追う。
弾かれる。
また構える。
今度は足を止めない。
それでも咲夜には届かない。
やがて悠は肩で息をしていた。
「……全然当たらない」
「当然です」
咲夜は息一つ乱していない。
「今まで銃を中心に戦ってきたのですから」
「……」
「ですが、悪くありません」
悠が顔を上げる。
「本当ですか?」
「ええ」
咲夜がナイフを構え直す。
「少しずつですが、相手を見るようになっています」
「……ありがとうございます」
「ただし」
咲夜の目が鋭くなる。
「これからが本番です」
「え?」
咲夜が一瞬で距離を詰めた。
悠が反応する。
ナイフを構える。
だが――。
次の瞬間には、喉元に木製ナイフが突きつけられていた。
「……」
悠は動けなかった。
「銃を撃つ暇すら与えない距離もあります」
咲夜が静かに告げる。
「その距離へ入られた時、何をするのか」
悠は咲夜のナイフを見る。
「それを身につけるための修行です」
「……分かりました」
悠はナイフを握り直した。
「お願いします。もっとやらせてください」
「ええ」
咲夜が頷く。
「では、続けましょう」
その頃、別の訓練場では――。
「さあ、チルノ」
レミリアが微笑んでいた。
「あなたの力を見せてもらうわ」
「……」
チルノは額に汗を浮かべる。
「あたい、ちょっと帰りたくなってきた……」
「駄目よ」
「ですよねー……」
紅魔館の一室で、二人の修行が始まった。
悠はナイフを。
チルノは氷の力を。
それぞれが、自分に足りなかったものを身につけるために。
そして悠はまだ知らない。
この修行で身につけるナイフの技術が、やがて幻想郷で出会う一人の剣士との戦いで、大きな意味を持つことを。
読んで頂きありがとうございます!
感想とか書いてくれたらモチベーションになります(感想乞食)
紅魔館に修行接近戦のプロがいるので成長しそうですね!
チルノの修行も見てくれるという事で!
ps書き貯めしてた分が無くなったので、更新ペースが遅くなります。