どう強くなっていくのかなぁ
紅魔館の一室。
悠は咲夜と向かい合っていた。
手には一本のナイフ。
昨日から始まったナイフの修行は、今日も続いている。
咲夜から教わったのは、単純にナイフを振り回す方法ではなかった。
握り方。
構え方。
刃を向ける角度。
踏み込む距離。
そして、相手との間合い。
悠は何度も繰り返し練習していた。
「……こうですか?」
悠がナイフを構える。
「ええ。ただ、少し力が入りすぎています」
咲夜が悠の手元を見る。
「ナイフは銃ほど遠くの相手を狙う必要がありません。むしろ、力を入れすぎれば動きが遅くなります」
「なるほど……」
「相手の動きを見て、必要な分だけ動く。それを意識してください」
悠は一度息を吐いた。
肩の力を抜く。
そして、ゆっくりと踏み込む。
ナイフを突き出す。
咲夜が軽く身体をずらした。
刃は空を切る。
「……」
悠はそのまま身体を回し、二撃目を狙う。
咲夜はそれも避けた。
さらに三撃目。
四撃目。
しかし、どれも届かない。
「くっ……」
悠は一度距離を取った。
「どうして当たらないんですか?」
「相手を狙いすぎているからです」
「狙いすぎる?」
「ええ」
咲夜は自分のナイフを取り出した。
「相手を刺そうとすると、どうしても視線や身体の動きに出ます」
咲夜が一歩踏み込む。
次の瞬間、悠の手首にナイフの刃が添えられていた。
「……!」
「今の動き、見えましたか?」
「全然……」
「それが近距離戦です」
咲夜はナイフを下ろした。
「銃とは違い、相手との距離が近いほど一瞬の判断が重要になります」
悠は自分のナイフを見る。
「銃なら、ある程度距離を取って戦える。でもナイフはそうじゃない」
「その通りです」
「相手に近づかれたら、撃つ前にやられる可能性もある」
「だからナイフを使うのです」
咲夜は静かに答えた。
「悠さんの場合、銃を主軸にする戦い方は悪くありません」
「……」
「ですが、銃だけに頼るのは危険です」
悠は紅霧異変での戦いを思い出した。
レミリアに懐へ入り込まれた時。
銃を構える暇すらなかった。
もし霊夢や魔理沙が助けてくれなければ、あの場で終わっていたかもしれない。
「だから、銃とナイフを組み合わせる」
「はい」
咲夜が頷く。
「銃で相手を牽制し、距離を取らせる。それでも相手が接近してきた場合はナイフへ切り替える」
「逆に、ナイフで距離を取らせて銃に戻すこともできる」
「その通りです」
悠の表情が少し明るくなった。
「なんとなく、自分の戦い方が見えてきました」
「では、実際にやってみましょう」
「はい」
咲夜が少し離れた場所へ移動する。
「実戦を想定します」
「分かりました」
悠は銃を構えた。
咲夜もナイフを構える。
「開始してください」
悠が先に動いた。
パンッ!
弾幕が咲夜へ向かって飛ぶ。
咲夜は身体を傾けて避ける。
続けて二発。
三発。
咲夜は弾幕の隙間を縫うように進んでくる。
「速い……!」
悠が後ろへ下がる。
さらに一発。
咲夜が横へ移動する。
距離が縮まっていく。
悠は撃ちながら後退する。
だが、咲夜は止まらない。
「この距離……!」
悠は銃を下げ、ナイフへ切り替えた。
ガチャッ。
銃を腰へ戻す。
同時にナイフを構える。
咲夜が踏み込む。
悠も踏み込んだ。
刃と刃がぶつかる。
キンッ!
「……!」
悠は押し返される。
だが、すぐに体勢を立て直す。
横から切り込む。
咲夜が避ける。
悠はそのまま身体を回し、逆側からナイフを振る。
咲夜は一歩下がった。
「今の切り替えは良くなりました」
「本当ですか?」
「ええ」
悠は少し笑った。
「なら、もう一度!」
「どうぞ」
悠は再び銃を構える。
パンッ!
弾幕が飛ぶ。
咲夜が避ける。
パンッ!
さらに一発。
咲夜が横へ移動する。
悠は撃ちながら位置を変える。
そして咲夜が距離を詰めた瞬間、銃を捨てるように下げてナイフを抜いた。
今度は先ほどよりも早い。
咲夜の腕を狙う。
咲夜が避ける。
悠は続けて足元へ踏み込む。
咲夜が後ろへ下がる。
「……!」
悠は追う。
ナイフを振る。
咲夜はそれを受け流す。
そして――。
悠の手からナイフが弾き飛ばされた。
カランッ。
「しまった……!」
悠が咄嗟に後ろへ下がる。
だが、咲夜は止まらない。
悠の懐へ入り込む。
「まだです」
「……っ!」
悠は反射的に拳を握った。
銃もない。
ナイフもない。
それでも距離を取ろうと、一歩踏み込む。
「だったら――!」
悠が咲夜へ向かって拳を繰り出した。
しかし。
咲夜はその腕を軽く受け流した。
「……え?」
次の瞬間。
悠の身体がぐらりと傾く。
「うわっ!」
咲夜が悠の腕を取ったまま、身体を回す。
悠はそのまま床へ倒れ込んだ。
ドンッ!
「痛っ……!」
悠は床に仰向けになった。
咲夜は悠のすぐ横に立っている。
「模擬戦、終了です」
悠はしばらく動かなかった。
「……完敗です」
「ナイフの扱いは、かなり良くなりました」
咲夜が手を差し出す。
悠はその手を掴んで立ち上がった。
「でも、最後は何もできませんでした」
「ええ」
咲夜があっさり答える。
「そこが問題です」
「……」
「ナイフを落とした瞬間、悠さんは次の手を考える前に殴りかかりました」
「はい……」
「ですが、拳を振るうこと自体が悪いわけではありません」
咲夜は少し考える。
「問題は、身体の使い方を知らないことです」
「身体の使い方……」
「ええ」
咲夜は床に落ちたナイフを拾う。
「銃があり、ナイフもある。それでも相手に懐へ入られれば、最後は自分の身体で対応するしかありません」
悠は黙って聞いていた。
「だったら、体術も覚えた方がいいですね」
「そういうことです」
咲夜が頷く。
「私から見ても、悠さんは体術がからっきしです」
「……そこまで言います?」
「事実ですので」
悠は苦笑した。
「反論できない……」
「ですが、悲観する必要はありません」
咲夜はナイフを悠へ返した。
「銃とナイフをここまで短期間で扱えるようになったのですから、身体の動かし方を覚えれば、もっと戦いやすくなるでしょう」
「じゃあ、誰に教えてもらえば……」
悠が尋ねる。
咲夜は少しだけ考えた。
「美鈴に教えてもらうといいでしょう」
「美鈴さんに?」
「ええ」
咲夜は紅魔館の門番を思い浮かべる。
「紅魔館で体術だけなら随一です」
「……美鈴さんって、門番ですよね?」
「そうです」
「門番なのに?」
「門番だからこそ、でしょうか」
咲夜が小さく笑う。
「紅魔館を守る以上、接近戦にも対応できなければなりませんから」
「なるほど……」
悠は頷いた。
「分かりました。美鈴さんにお願いしてみます」
「きっと快く引き受けてくれると思いますよ」
「じゃあ、次は体術か……」
悠は自分の拳を見る。
銃。
ナイフ。
そして、体術。
まだまだ覚えることは多い。
しかし、紅霧異変の時のように、ただ武器を持っているだけでは何もできない。
自分の身体そのものも、戦えるようにしなければならない。
「もっと強くならないとな」
悠が呟く。
咲夜はその言葉を聞き、静かに頷いた。
「ええ」
「明日から、美鈴さんにお願いしてみます」
「頑張ってください」
悠はナイフを腰へ戻し、銃を確認する。
銃だけでは届かない距離がある。
ナイフだけでは対応できない状況がある。
そして、その二つを失えば自分には何も残らない。
だからこそ。
次の修行では、自分自身の身体を鍛える。
悠は紅魔館の外へ続く廊下を見つめた。
その先には、まだ知らない戦い方が待っている。
そして――。
それは、悠自身の戦闘スタイルを完成させるための最後の一歩になろうとしていた。
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次は美鈴との修行!
居眠り門番ですが、ちゃんと修行修行できるかな?