幻想郷に転生した俺は、弾幕を撃てない   作:みみみのおじさん

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紅魔館異変で自分の弱さを知り、修行を積み重ねた結果……


第17話 修行の果て

 紅魔館の広いホール。

 その中央で、悠と咲夜が向かい合っていた。

 悠の手には弾幕発射装置。

 腰にはナイフ。

 数か月前とは違い、立っているだけでも身体から余計な力が抜けていた。

 足は肩幅。

 重心は低く。

 いつでも前にも後ろにも動ける姿勢。

 それは、美鈴との修行を何度も繰り返して身につけたものだった。

 対する咲夜も、いつものメイド服姿。

 その手には二本のナイフが握られている。

 今日は能力を使わない。

 純粋な技術だけで戦う模擬戦。

 数か月にわたって続けてきた修行の成果を確かめるための、最後の試合だった。

「準備はできましたか?」

「ああ」

 悠が弾幕発射装置を握り直す。

 咲夜が構える。

 次の瞬間――。

 悠が先に動いた。

 パンッ!

 一発目の弾幕。

 咲夜は身体を僅かに横へずらす。

 弾幕が肩の横を通り抜ける。

 悠は止まらない。

 そのまま二発目。

 パンッ!

 咲夜は今度はしゃがんで避ける。

 悠は咲夜の動きを見る。

 そして三発目を撃たず、横へ走った。

 以前なら、ただ正面から撃ち続けていた。

 今は違う。

 撃つ。

 動く。

 相手の動きを見る。

 その繰り返しで、少しずつ自分に有利な位置を作っていく。

 咲夜が悠の右側へ回り込む。

 悠も身体の向きを変える。

 銃口を向けたまま、足だけを動かす。

 咲夜が一歩踏み込む。

 悠が一歩下がる。

 さらに一歩。

 悠は下がらない。

 弾幕を一発。

 パンッ!

 咲夜の足元を狙う。

 咲夜が跳ぶ。

 その瞬間を狙って悠が身体を横へ移動した。

 着地した咲夜の正面ではなく、少し斜めの位置へ。

 咲夜が振り向く。

 悠の銃口が向いている。

 パンッ!

 咲夜が身体を捻って避ける。

 だが、悠はさらに一発。

 パンッ!

 今度は進行方向を狙う。

 咲夜は止まるしかない。

 その瞬間、悠が距離を詰めた。

 咲夜が眉を動かす。

「……なるほど」

 悠は弾幕発射装置を構えたまま、さらに一歩踏み込む。

 咲夜がナイフを振る。

 悠は上体を逸らす。

 刃が目の前を通過する。

 そのまま悠は咲夜の腕を押さえようとする。

 しかし、咲夜は反対の手でナイフを突き出した。

 悠は身体を横へ滑らせる。

 刃先が脇を通り抜ける。

 悠はすぐに弾幕発射装置を下げた。

 この距離では撃てない。

 腰へ手を伸ばす。

 ナイフを抜く。

 キンッ!

 二本の刃がぶつかった。

 悠は押し込む。

 咲夜は受け流す。

 悠が踏み込む。

 咲夜が下がる。

 今度は悠が追う。

 右。

 左。

 さらに一歩。

 ナイフを振る。

 咲夜が受ける。

 悠の刃が弾かれる。

 その瞬間、咲夜のナイフが悠の首元へ迫る。

 悠は身体を沈めた。

 頭上を刃が通り過ぎる。

 そのまま咲夜の懐へ入り込む。

 肩をぶつける。

 咲夜の体勢が僅かに崩れる。

 悠はそのまま押し込もうとする。

 しかし――。

 咲夜は身体を回転させ、悠の腕を取った。

「っ……!」

 悠の身体が浮く。

 投げられる。

 だが、悠は空中で身体を捻った。

 ドンッ!

 背中から落ちるのではなく、肩から床へ着地する。

 すぐに転がって距離を取る。

 息を吐く。

 美鈴に何度も叩き込まれた受け身。

 今、その意味を実感した。

 以前なら、ここで動けなくなっていた。

 だが、今はすぐに立ち上がれる。

 咲夜が追ってくる。

 悠も立ち上がる。

 ナイフを構える。

 咲夜の一撃。

 悠が受ける。

 二撃目。

 悠が避ける。

 三撃目。

 悠はナイフで弾く。

 そして――。

 空いた手で咲夜の腕を掴もうとする。

 咲夜が引く。

 悠は追う。

 咲夜が回り込む。

 悠も身体を回す。

 足を止めない。

 相手の正面を外さない。

 美鈴から教えられた間合いの取り方。

 それを意識しながら、悠は戦う。

 だが、咲夜の技術はそれを上回る。

 悠のナイフが弾かれる。

 手から離れた。

 カランッ。

 床にナイフが落ちる。

 咲夜が一気に踏み込む。

 悠は反射的に後ろへ下がる。

 しかし、咲夜はさらに踏み込んだ。

 近い。

 弾幕発射装置を使うには近すぎる。

 悠は咲夜の腕を受け止める。

 身体を捻る。

 そのまま押し返す。

 咲夜が一歩下がった。

 悠はその隙に距離を取る。

 そして床に落ちたナイフへ手を伸ばす。

 拾う。

 再び構える。

 咲夜が微笑んだ。

「以前とは違いますね」

「そっちも相変わらず強いな」

 悠は息を整える。

 汗が額を流れる。

 身体は重い。

 それでも、足は止まらない。

 咲夜が再び踏み込む。

 悠はナイフを構えた。

 正面から受けない。

 少しだけ身体をずらす。

 咲夜の刃を外側へ流す。

 そして――。

 悠は咲夜の横を抜けた。

 そのまま背後へ回ろうとする。

 しかし、咲夜はすぐに振り返る。

 二人の距離が開く。

 悠はナイフをしまった。

 弾幕発射装置を取り出す。

 咲夜の目が細くなる。

 悠が狙いを定める。

 パンッ!

 弾幕が飛ぶ。

 咲夜が避ける。

 パンッ!

 もう一発。

 咲夜が横へ。

 パンッ!

 さらに一発。

 悠は撃ちながら移動する。

 ただ撃つだけではない。

 相手の逃げ道を考える。

 咲夜が左へ避ければ、悠は右へ回る。

 右へ避ければ、悠は前へ出る。

 少しずつ距離が縮まる。

 そして――。

 咲夜が悠の懐へ入った。

 弾幕発射装置が下がる。

 悠はすぐにナイフへ切り替える。

 だが、咲夜のナイフが先に迫る。

 悠は身体を捻る。

 避ける。

 反撃。

 咲夜が受ける。

 悠は一歩踏み込む。

 咲夜が下がる。

 さらに踏み込む。

 悠のナイフが咲夜の肩を狙う。

 咲夜が弾く。

 悠の腕が外へ流れる。

 その瞬間。

 悠はナイフを持つ手を引いた。

 そして、空いた手で咲夜の肩を押す。

 咲夜の身体が僅かに傾く。

 悠はその瞬間を逃さない。

 一歩。

 さらに一歩。

 咲夜の胸元へナイフを突き出す。

 だが――。

 咲夜のナイフが悠の手首へ触れた。

 あと僅か。

 悠の刃が届く前に、止められていた。

 二人が静止する。

 悠は息を切らしている。

 咲夜も動かない。

 数秒の沈黙。

 そして咲夜が口を開く。

「……そこまでにしましょう」

 悠はナイフを下ろす。

 咲夜もナイフを下ろした。

「今のは?」

「一本です」

 咲夜が答える。

「私の胸元へ刃を届かせました」

 悠は驚いた。

「本当に?」

「はい」

 咲夜は悠を見る。

「数か月前なら、ここまで来ることはできなかったでしょう」

 悠は大きく息を吐いた。

 床に落ちた汗が小さく弾ける。

「……やっとか」

 数か月。

 銃を撃ち。

 ナイフを振り。

 何度も転び。

 何度も美鈴に投げ飛ばされ。

 それでも続けてきた。

 その成果が、ようやく一つの形になった。

「ありがとうございます」

 悠が頭を下げる。

 咲夜は小さく頷く。

「こちらこそ。よく頑張りましたね」

 悠は弾幕発射装置を腰へ戻す。

 ナイフも鞘へ収める。

 これで、紅魔館での修行は終わりだった。

 しばらくして、悠は紅魔館の外へ出た。

 その隣にはチルノがいる。

 紅魔館を振り返ると、咲夜が入口で二人を見送っていた。

 悠は一度だけ頭を下げる。

 そして、チルノと並んで歩き始めた。

 しばらく歩いたところで、悠がチルノを見る。

「なあ、チルノ」

「なに?」

「お前は、この数か月どんな修行をしてたんだ?」

「え?」

 チルノが目を丸くする。

「あたい?」

「ああ」

 悠はチルノを見る。

「俺が修行してる間、お前も紅魔館にいたんだろ?」

「うん」

「じゃあ、レミリアに何を教えてもらってたんだ?」

 チルノは少しだけ得意げな顔をする。

「それはね――」

 そう言って、チルノは胸を張った。

「あたいがどれだけ強くなったか、見てみる?」

 悠は少し驚いた。

「……見せてもらおうかな」

「じゃあ、今度ね!」

 チルノは楽しそうに笑う。

 悠も小さく笑った。

 自分が強くなったように。

 チルノもまた、この数か月で何かを掴んだのかもしれない。

 悠はまだ知らなかった。

 チルノがレミリアのもとで、どんな修行をしていたのか。

 そして、その修行によってどれほど変わったのかを。

 ――次は、チルノの番だった。




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次はチルノ修行編です
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