「チルノは、どんな修行をしてたんだ?」
悠にそう聞かれた時、チルノは少しだけ考えた。
「どんなって……」
チルノは後ろを振り返る。
今まで過ごしてきた紅魔館。
そして、その中で自分を鍛えてくれたレミリアの姿を思い出す。
――あの日。
悠と一緒に紅魔館へ修行をお願いした。
悠は咲夜と美鈴。
そして自分は、レミリアに教えてもらうことになった。
最初は、それだけで十分だと思っていた。
自分には氷の力がある。
弾幕だって使える。
紅霧異変でも戦った。
だから、もっと力を出せるようになればいい。
そんな風に考えていた。
けれど――。
「じゃあ、まず攻撃してみなさい」
レミリアに言われ、チルノは構えた。
目の前にいるのは、紅魔館の主。
紅霧異変で自分たちと戦った相手でもある。
チルノは冷気を集める。
「いくよ!」
足元から氷が伸びる。
氷の弾幕が一気に生まれ、レミリアへ向かって飛んでいく。
レミリアは動かない。
迫ってくる氷の弾幕を、身体を僅かに動かすだけで次々とかわしていく。
チルノはさらに弾を増やした。
左右から挟み込むように氷を放つ。
上からも降らせる。
逃げ道を塞ぐように弾幕を広げる。
それでも――。
レミリアは簡単に抜けてきた。
「……まだ!」
チルノが腕を振る。
冷気がさらに強くなる。
氷の弾幕がレミリアの周囲を埋め尽くす。
だが、レミリアはその隙間を縫うように進んでくる。
そして――。
気がつけば、目の前にいた。
「え……?」
レミリアの指が、チルノの額に軽く触れる。
「はい、終わり」
「……」
チルノは固まった。
「今のが本気?」
「……本気」
「そう」
レミリアはチルノの周囲を歩く。
「弾幕の威力は悪くないわ」
チルノは少しだけ胸を張る。
しかし、次の言葉で表情が変わった。
「でも、攻撃を始めるまでが遅すぎる」
「……遅い?」
「ええ」
レミリアがチルノを見る。
「あなたは攻撃する前に、どう攻撃するかを考えすぎている」
チルノは黙った。
「それに――」
レミリアが目を細める。
「あなたは優しすぎる」
「……あたいが?」
「そうよ」
意外な言葉だった。
「相手を傷つけたくない。できるだけ綺麗に勝ちたい。そんな気持ちが、無意識に動きを鈍らせている」
チルノは自分の手を見る。
紅霧異変の時もそうだった。
自分は必死に戦っていた。
それでも、最後には悠に助けてもらった。
自分の力だけでは、レミリアたちに届かなかった。
「この先も異変に関わっていくつもりなら、その考えは捨てなさい」
レミリアの言葉は静かだった。
「戦うことを楽しめと言っているわけではないわ」
チルノは顔を上げる。
「ただ、戦うと決めた瞬間くらいは迷わないこと」
「……分かった」
チルノは拳を握った。
「もう一回やる」
「いいでしょう」
そこから、チルノの修行が始まった。
まずは自分の力を知ること。
どれだけの氷を作れるのか。
どれだけの速度で動かせるのか。
どれだけ細かく形を変えられるのか。
レミリアは何度もチルノに攻撃させた。
そして、そのたびに弱点を指摘した。
弾幕を広げすぎれば、力が分散する。
一度に大量の氷を動かせば、動きが鈍る。
威力だけを上げても、当たらなければ意味がない。
チルノは何度も失敗した。
放った氷が狙いから外れる。
勢いをつけすぎて制御できなくなる。
逆に慎重になりすぎて、攻撃のタイミングを逃す。
「……難しい」
床に座り込み、チルノが息を吐く。
「当然でしょう」
レミリアは紅茶を飲みながら答える。
「今まで感覚だけで使っていた力を、意識して扱おうとしているんだから」
「感覚だけ……」
「あなたは氷を作ること自体は得意。でも、作った後のことをあまり考えていない」
チルノは少し考える。
確かにそうだった。
氷を作る。
飛ばす。
当たれば勝ち。
今までは、それだけだった。
「じゃあ、どうすればいいの?」
「もっと細かく考えなさい」
レミリアが立ち上がる。
「氷を作るだけじゃない。形、大きさ、硬さ、速度。全部あなた次第よ」
チルノは立ち上がった。
「やってみる」
手を前へ伸ばす。
小さな氷が生まれる。
丸い形。
それを細くする。
さらに伸ばす。
冷気を集める。
氷の形が変わっていく。
しかし――。
パキッ。
途中で崩れた。
「……失敗」
「もう一度」
「うん」
何度も繰り返す。
崩れる。
作り直す。
また崩れる。
それでも続ける。
やがて――。
チルノの手の中に、一本の氷が形を持ち始めた。
細長い刃。
剣のような形。
「……剣?」
チルノ自身が驚く。
レミリアが目を向ける。
「面白いじゃない」
「これ……使えるかな?」
「試してみればいいでしょう」
チルノは両手で氷の剣を握った。
少し重い。
それでも、今まで作った氷とは違う。
冷気を一点に集めているからか、かなりの硬さがある。
チルノはその剣を振った。
空気が切れる。
「……これなら!」
チルノの顔が明るくなる。
「近くでも戦える!」
「名前は?」
レミリアが尋ねる。
「名前?」
「あなたが作った武器でしょう?」
チルノは少し考えた。
そして――。
「【アイシクルソード】!」
それが、チルノの新しい戦い方の始まりだった。
氷で作った剣。
硬さは十分にある。
弾幕だけではなく、接近戦でも戦える。
チルノは何度もレミリアへ挑んだ。
走る。
踏み込む。
剣を振る。
レミリアが避ける。
追いかける。
また振る。
少しずつ、動きが変わっていった。
以前のチルノなら、相手が近づけば距離を取ろうとしていた。
今は違う。
自分から距離を詰める。
弾幕で相手の動きを制限し、アイシクルソードで懐へ入る。
「いいわね」
レミリアが攻撃をかわす。
「その戦い方なら、あなたの弾幕も生かせる」
「でしょ!」
チルノが笑う。
さらに踏み込む。
剣を振り下ろす。
レミリアが腕で受ける。
――パキンッ!
鈍い音が響いた。
「……え?」
チルノの手元を見る。
アイシクルソードに大きな亀裂が入っていた。
そして――。
パキィンッ!
氷の剣が折れた。
「……」
チルノの動きが止まる。
折れた剣を見る。
新しい剣を作ろうと冷気を集める。
その瞬間。
レミリアが目の前に現れた。
チルノの肩へ、レミリアの手が触れる。
「終わり」
「……また」
チルノが悔しそうに呟く。
「そうね」
レミリアは折れた剣を見る。
「剣を作ることはできる。でも、剣を折られた瞬間に動きが止まっている」
「……」
「そこが今のあなたの弱点よ」
チルノは何も言えなかった。
新しい剣を作ることはできる。
けれど、その一瞬を相手に狙われれば終わる。
「じゃあ、どうすればいいの?」
レミリアは答えず、床に落ちたアイシクルソードの破片を見た。
「考えなさい」
「……自分で?」
「ええ」
「分かった」
チルノは折れた剣を拾い上げる。
冷たい氷が手の中で砕ける。
「絶対に、できるようになる」
レミリアはその言葉を聞いて、小さく笑った。
「その意気よ」
チルノは再び冷気を集める。
新しいアイシクルソードを作り出す。
そして――。
またレミリアへ向かって走り出した。
修行は、まだ終わらない。
自分の弱点を乗り越えるために。
そして、もう一度悠と並んで戦うために。
チルノは何度でも、氷の剣を握り直した。
読んで頂きありがとうございます!
感想とかいただけるとモチベーションになります!
チルノも自分なりの戦闘スタイルを徐々に見つけてきましたね!
でもまだまだ課題がありそう……
このをどう乗り越えるか?