紅魔館を出た悠とチルノは、ニトリの工房へ向かって歩いていた。
数ヶ月ぶりに顔を合わせた二人は、互いの修行について話しながら歩いている。
「それで、チルノはどんな修行をしてたんだ?」
「いろいろだよ」
チルノは少し得意げに笑う。
「氷の扱い方とか、剣の使い方とか」
「剣?」
「うん。【アイシクルソード】っていうの」
チルノが手を前に出す。
すると、冷気が集まり、一本の氷の剣が形作られた。
「おお……」
悠は思わず足を止める。
「すごいな」
「でしょ?」
チルノは嬉しそうに剣を振る。
しかし――。
ふと、悠の頬に冷たいものが触れた。
「……ん?」
悠が空を見上げる。
白い雪が、ゆっくりと降ってきていた。
「雪……?」
「そうだよ」
チルノが答える。
「いや、それは見れば分かるけど……」
悠は周囲を見渡した。
地面には、少しずつ雪が積もり始めている。
「今って春だよな?」
「うん」
「なのに雪?」
悠は首を傾げる。
幻想郷に来てから、まだ一年も経っていない。
そのため、幻想郷の季節については知らないことも多い。
「幻想郷の冬って、こんなに長いのか?」
悠がチルノへ尋ねる。
「ううん」
チルノは空を見上げる。
「こんなに長いのは、あたいも初めて」
「やっぱりおかしいのか」
「うん。もう春になってるはずだよ」
チルノは雪を手のひらに乗せる。
「いつもなら、この頃にはもっと暖かくなってる」
「桜も?」
「咲く頃だね」
悠は黙って空を見る。
雪は止まるどころか、少しずつ強くなっていた。
春になるはずの季節。
それなのに、冬の景色が続いている。
「……変だな」
「うん」
二人の間に、少しだけ沈黙が流れる。
だが、悠はすぐに歩き出した。
「とりあえずニトリのところへ戻ろう」
「そうだね」
チルノも後を追う。
「ニトリなら何か知ってるかもしれないし」
「うん」
二人は工房へ向かって歩いていく。
しかし――。
この時、幻想郷のあちこちで同じ異変が起きていた。
いつまで経っても春が来ない。
桜が咲かない。
雪が降り続ける。
そして、その異変にいち早く気づいた者がいた。
一方その頃――。
博麗神社。
「なあ、霊夢」
魔理沙が神社の中で口を開く。
「何?」
霊夢はこたつに入りながら、のんびりとお茶を飲んでいる。
「もう春だぜ?」
「そうね」
「なのに雪が降ってる」
「そうね」
「……おかしいと思わないのか?」
魔理沙が窓の外を指差す。
外では、雪が静かに降り続いている。
「これはどう考えても異変だぜ」
霊夢は窓の外を見る。
「また異変ね」
「またって……」
「でも、まだ何も起きてないじゃない」
「春が来ないっていうのが、もう十分おかしいだろ」
魔理沙は呆れたようにため息をつく。
「このままじゃ、いつまで経っても冬のままだぜ」
「じゃあ、魔理沙が調べてくれば?」
「……」
魔理沙は霊夢を見る。
「お前も来るんだぜ」
「私はいいわ」
「なんでだよ」
「寒いもの」
霊夢はこたつにさらに身体を入れる。
「私はここにいるから」
「おい、霊夢!」
魔理沙は呆れながら帽子を被り直す。
「……ったく」
そして、そのまま神社の外へ出ていく。
「こうなったら私一人で調べてやるぜ」
魔理沙は箒に跨る。
「春が来ない原因がどこにあるのか、突き止めてやる」
箒が浮かび上がる。
魔理沙は雪が降り続ける空へ飛び立った。
春を奪った何者かを探すために。
そして――。
この異変が、幻想郷の外れだけではなく、さらに遠い場所へと繋がっていることを知ることになる。
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魔理沙はひとりで長い冬の調査へ