魔理沙の箒が、白い雲を突き抜ける。
その横をチルノが飛んでいる。
悠は魔理沙の後ろに掴まりながら、遠くの景色を見つめていた。
「……あれが冥界か?」
雲の向こうに、巨大な門が見えてくる。
その先には、幻想郷とは明らかに違う景色が広がっていた。
「そうだぜ」
魔理沙が答える。
「ここから先が冥界だ」
箒がゆっくりと高度を下げる。
やがて三人は、白い雪の積もった地面へ降り立った。
「……静かだな」
悠が辺りを見渡す。
幻想郷と同じように雪が降っている。
しかし、どこか空気が違う。
そのまま三人は冥界の奥へ進んでいく。
しばらくすると、雪景色の向こうに淡い光が見えてきた。
「……あれ、桜?」
悠が目を細める。
近づいてみると、そこには大量の桜が咲いていた。
雪の中に咲く桜。
その周囲には、幻想郷ではほとんど見ることのできなかった春の気配が漂っている。
「春……」
チルノが呟く。
魔理沙も周囲を見渡す。
「間違いないな」
「幻想郷からなくなった春が、ここに集められてる……?」
「そういうことだぜ」
魔理沙が箒を握り直す。
「やっぱり、ここが異変の中心だ」
その時だった。
――キンッ。
雪を踏む音とは違う、金属音が響いた。
「……誰かいる」
悠がショットガンへ手を伸ばす。
雪の向こうから、一人の少女が姿を現した。
白と黒の服。
二本の刀。
腰に差された長い刀と、もう一本の刀。
少女は三人を見つめると、静かに口を開いた。
「そこから先へは、行かせません」
「誰だ?」
悠が尋ねる。
「魂魄妖夢」
魔理沙が答える。
「白玉楼の庭師だ」
妖夢は刀の柄へ手を添える。
「ここから先は、白玉楼です。用がないのなら、帰ってください」
「用ならあるぜ」
魔理沙が一歩前へ出る。
「幻想郷の春を返してもらう」
「……春を?」
妖夢の表情が僅かに変わる。
「そういうことなら、なおさら通すわけにはいきません」
刀が鞘から抜かれる。
悠はショットガンを構える。
「魔理沙」
「なんだ?」
「ここは俺たちに任せてくれ」
悠は妖夢から目を離さない。
「このまま三人で相手をするより、魔理沙が先に行った方がいい」
「……分かった」
魔理沙は少し考えた後、箒に跨る。
「無茶するなよ」
「ああ」
魔理沙が飛び立つ。
妖夢が追おうとした瞬間――。
悠が前へ出る。
「行かせない!」
ショットガンを構え、引き金を引く。
バシュッ!
複数の弾幕が広がりながら妖夢へ迫る。
しかし――。
妖夢は一歩横へ動いただけだった。
弾幕が頬の横を通り過ぎる。
「……!」
悠が目を見開く。
妖夢はすでに目の前にいた。
「速い!」
刀が振り下ろされる。
悠は身体を横へ投げ出す。
ザシュッ!
雪が切り裂かれる。
「危なっ……!」
悠は転がりながら立ち上がる。
妖夢は刀を構え直していた。
呼吸すら乱れていない。
「次!」
悠がショットガンを撃つ。
今度は真正面ではなく、妖夢の左右へ弾幕を広げる。
逃げ道を塞ぐ狙いだった。
しかし妖夢は――。
「そこです」
地面を蹴る。
弾幕の隙間を一瞬で抜けた。
「嘘だろ……!」
悠が後ろへ下がる。
妖夢はさらに踏み込む。
一閃。
二閃。
三閃。
刀が連続して振られる。
悠は身体を捻り、しゃがみ、後ろへ飛ぶ。
何とか避けているが、反撃する隙がない。
「悠!」
チルノが叫ぶ。
氷の弾幕が妖夢へ向かって飛んでいく。
妖夢が悠から離れ、刀を振る。
カンッ、カンッ、カンッ!
飛んできた氷の弾幕を、次々と切り落としていく。
「氷まで……!」
チルノが驚く。
「なら、これならどう!」
チルノが両手を前へ突き出す。
周囲に冷気が集まり、無数の氷の弾が生まれる。
一斉に妖夢へ放たれる。
妖夢はその場から動かない。
刀を構える。
次の瞬間――。
氷の弾幕が次々と真っ二つになった。
「そんな……」
チルノが言葉を失う。
妖夢はそのままチルノへ向かって走り出す。
「チルノ!」
悠が叫ぶ。
悠が横からショットガンを撃つ。
妖夢は足を止めることなく身体を低くする。
弾幕が頭上を通り過ぎる。
そのまま悠の懐へ入り込む。
「しまっ――」
刀が迫る。
悠は咄嗟にショットガンを横へ倒し、刀を受ける。
ガキィン!
強烈な衝撃。
悠の身体が後ろへ吹き飛ばされる。
「ぐっ!」
雪の上を転がる。
「悠!」
チルノが駆け寄ろうとする。
「来るな!」
悠が立ち上がる。
ショットガンを握る手が震えている。
「俺がやる」
妖夢が再び構える。
悠は銃を構えながら、距離を測る。
遠距離なら撃てる。
だが、妖夢は一瞬で距離を詰めてくる。
銃を撃つ。
避けられる。
距離を詰められる。
また斬られる。
その繰り返しだった。
その時――。
悠の頭に、咲夜の言葉が蘇った。
『銃を撃つ暇すら与えない距離もあります』
「……そういうことか」
悠は妖夢を見る。
目の前の剣士は、まさにその言葉通りの相手だった。
銃を構える時間すら与えてくれない。
「悠、どうする?」
チルノが隣へ戻ってくる。
「……正面から撃ち合うだけじゃ勝てない」
悠はショットガンを握り直す。
「だったら、俺が前に出る」
「え?」
「チルノは後ろから援護してくれ」
悠が妖夢へ向かって走り出す。
妖夢も迎え撃つ。
刀とショットガン。
近距離では圧倒的に不利な組み合わせ。
それでも悠は下がらなかった。
銃を撃つ。
妖夢が避ける。
その瞬間、悠はさらに踏み込む。
妖夢の刀が振られる。
悠は身体を捻って避ける。
「そこ!」
チルノの氷弾が飛ぶ。
妖夢が刀で弾く。
その一瞬の隙に、悠が再びショットガンを構える。
バシュッ!
至近距離から放たれた弾幕。
妖夢が横へ飛ぶ。
「……少しはやりますね」
妖夢の表情が変わった。
悠も息を整える。
「まだ終わってない」
チルノも笑う。
「ここからだよ!」
雪が降り続ける冥界で、二人と一人の戦いはさらに激しさを増していく。
そして――。
悠はまだ知らなかった。
この戦いで、自分がこれまで身につけてきたもの全てを試されることを。
妖夢との戦い果たしてどうなる事やら、まだまだ手の内は隠してる予感