修行の成果を活かして戦い抜けるのか?!
魂魄妖夢との戦いが始まってから、まだそれほど時間は経っていない。
それでも悠は、すでに何度も死線を潜っていた。
妖夢の刀が、またしても目の前を通り過ぎる。
悠は身体を捻り、紙一重で刃をかわした。
「くっ……!」
そのまま後ろへ跳び、ショットガンを構える。
「チルノ、今だ!」
「分かってる!」
チルノが横から氷の弾幕を放つ。
無数の氷弾が妖夢へ向かって飛んでいく。
妖夢は刀を振り、迫りくる弾幕を次々と切り裂いた。
「そんなものでは、私の動きを止められません!」
「だったら、これならどうだ!」
悠は引き金を引いた。
轟音と共に、無数の弾丸が妖夢へ向かって飛んでいく。
しかし妖夢は身体を僅かに傾けただけで、そのほとんどを避けた。
避けきれない弾だけを刀で斬り落とす。
「……嘘だろ」
「驚いている暇はありませんよ!」
妖夢が一気に距離を詰めた。
「うわっ!」
悠は慌てて後ろへ飛ぶ。
目の前を刀が通り過ぎる。
「悠!」
「大丈夫!」
悠は着地すると同時にショットガンを構え直した。
妖夢は止まらない。
再び刀を振り下ろす。
悠は横へ飛んだ。
その瞬間、チルノの弾幕が妖夢の背後から迫る。
「今度はあたしの番!」
妖夢は振り返りざまに刀を振る。
氷弾が次々と切り裂かれていく。
「……やっぱり、簡単には当たらないか」
悠は小さく呟いた。
妖夢は強い。
近距離では自分よりも僅かに上。
遠距離から撃っても、弾幕を抜けてくる。
ならば、どうする。
悠が考えている間にも、妖夢は再び刀を構えた。
そして――。
カチン。
刀が鞘へ納まった。
「……?」
悠は目を細める。
「悠、どうしたの?」
「……刀を納めた」
妖夢は何も答えない。
ただ、静かに構えている。
悠はショットガンを握り直した。
「今なら……」
攻撃できる。
そう判断した。
刀を鞘へ納めている以上、攻撃するには抜かなければならない。
悠は一気に踏み込んだ。
「今だ!」
「悠、待って!」
チルノの声が響く。
だが悠は止まらない。
ショットガンの銃口を妖夢へ向ける。
「これで――!」
その瞬間。
妖夢の目が鋭く光った。
「閃鞘・月影」
「――っ!」
妖夢の姿が消えた。
悠は反射的に身体を伏せる。
直後、頭上を風が走った。
いや。
風ではない。
刀だ。
悠の髪が数本、宙を舞う。
そのまま身体を転がし、妖夢から距離を取る。
「ぐっ……!」
頬に熱が走った。
悠は地面に手をつき、体勢を立て直す。
「悠!」
チルノが駆け寄ろうとする。
「来るな!」
悠が叫ぶ。
「えっ?」
「まだ終わってない!」
悠は頬を拭った。
指先についた赤い血を見る。
「……危なかった」
「血、出てるじゃん!」
「浅い。問題ない」
「問題あるでしょ!」
「本当に大丈夫だ。それより……」
悠は妖夢を見る。
妖夢はすでに刀を鞘へ戻していた。
「今の技……何なんだ?」
「私の剣技の一つです」
妖夢は淡々と答える。
「刀を抜く、その一瞬に全てを込める技……そう思っていただければ」
「一瞬に、全て……」
悠は先ほどの攻撃を思い出す。
刀を抜いた瞬間、妖夢の姿が見えなくなった。
そして気づいた時には、頬を斬られていた。
「近づいたら斬られるってことか」
「正確には、私の間合いに入った時点で危険だということです」
「だったら……近づかなきゃいい」
悠はショットガンを構えた。
「そう簡単にいくと思いますか?」
妖夢が踏み込んだ。
「来る!」
悠も動く。
刀とショットガンがぶつかった。
「くっ……!」
悠は銃身で刀を受け流す。
そのままナイフを抜いた。
「これならどうだ!」
妖夢の刀とナイフがぶつかる。
金属音が響いた。
「その武器……刀より短いですね」
「だから使いやすいんだよ!」
悠はナイフで刀を受け流し、空いた隙間へショットガンを向ける。
「もらった!」
妖夢が身体を捻る。
轟音が響いた。
弾丸が妖夢の服を掠める。
「……危ないですね」
「避けたか!」
「まだ終わりではありません!」
妖夢が踏み込んだ。
刀が横薙ぎに振られる。
悠はナイフで受け止める。
「重っ……!」
腕が痺れる。
妖夢が力を込める。
「押し切ります!」
「させるか!」
悠は身体を捻り、刀を横へ流した。
そのまま妖夢の懐へ入ろうとする。
しかし妖夢も一歩下がった。
「近づけない……!」
悠は歯を食いしばる。
その直後だった。
妖夢の刀が再びナイフへ叩きつけられる。
ガキンッ!
「なっ……」
ナイフに亀裂が走った。
妖夢がさらに一歩踏み込む。
「終わりです!」
刀が振り抜かれる。
ガキィン!
ナイフが真っ二つに折れた。
「くそっ!」
悠は咄嗟に後ろへ飛んだ。
折れた刃が地面へ転がる。
「悠!」
「チルノ!」
悠は叫んだ。
「前を頼めるか!」
「任せて!」
チルノが悠の前へ飛び出した。
悠は後ろへ下がり、ショットガンを構える。
「今度はあたしが相手!」
チルノが妖夢を睨む。
「さっきまでのあたしとは違うんだから!」
「……そのようですね」
妖夢も刀を構え直す。
「では、見せてもらいましょう」
チルノは両手を広げた。
周囲の冷気が一気に濃くなる。
「いくよ!」
地面に霜が広がっていく。
空気そのものが凍りつくようだった。
「ソードブリザード!」
チルノの周囲に、無数の氷の剣が現れる。
それらが空中へ浮かび上がった。
「無数の剣……?」
妖夢が目を細める。
「全部、あたしの武器だよ!」
一斉に氷の剣が降り注いだ。
無数の【アイシクルソード】が妖夢へ向かって殺到する。
「これは……!」
妖夢は走った。
一本目を避ける。
二本目を刀で弾く。
三本目が地面へ突き刺さる。
四本目。
五本目。
六本目。
次々と氷の剣が降り注ぐ。
「逃がさない!」
チルノがさらに氷の剣を放つ。
「まだまだ!」
「数が多い……!」
妖夢は刀を振り、迫る剣を切り落としていく。
だが、一本を避けた先に別の一本が落ちてくる。
妖夢は大きく横へ跳んだ。
「……なるほど」
妖夢が周囲を見る。
地面には大量の氷の剣が突き刺さっている。
「この剣そのものを、次の武器にするのですね」
「そう!」
チルノが笑う。
「剣が壊れても、まだいっぱいあるからね!」
チルノは地面から一本を引き抜いた。
「まだ終わらないよ!」
妖夢が刀を振る。
チルノは氷の剣で受け止めた。
ガキンッ!
氷の剣に亀裂が走る。
「っ!」
チルノはすぐに剣を手放した。
その足元には、別の【アイシクルソード】がある。
チルノはそれを拾い上げた。
「これでどうだ!」
再び斬り込む。
妖夢は刀で受け流す。
「以前とは違いますね」
「当たり前でしょ!」
チルノはさらに攻撃を続ける。
「もう、剣が壊れたくらいで止まったりしない!」
妖夢の動きが少しずつ鈍くなっていく。
周囲の冷気が身体にまとわりついている。
「……寒い」
「へへっ。あたしは平気だよ!」
チルノは笑う。
「むしろ、こっちの方が調子いいくらい!」
「なるほど……」
妖夢は一度距離を取った。
白い息が漏れる。
足元には氷が広がっている。
身体が重い。
対してチルノは、冷気の中でも動きを落としていない。
それどころか、時間が経つほど動きが良くなっている。
「このままじゃ、あたしの勝ちだよ!」
チルノが追いかける。
「まだです!」
妖夢が刀を振る。
チルノは氷の剣で受ける。
弾かれた。
だが、すぐに別の剣を手に取る。
「ほら!」
斬り込む。
妖夢は避ける。
「まだ!」
さらに一撃。
妖夢が後ろへ下がる。
その瞬間。
チルノの動きが僅かに止まった。
「はぁ……はぁ……」
息が荒い。
悠はそれを見逃さなかった。
「チルノ……」
「大丈夫!」
「無理するな!」
「無理なんかしてない!」
チルノは振り返らずに答える。
「あたいはまだやれる!」
「でも――」
「悠!」
チルノが強い声で遮った。
「あたしだって、ちゃんと強くなったんだから!」
悠は言葉を止めた。
確かにチルノは変わった。
剣が壊れても止まらない。
周囲の氷を利用して戦う。
以前とは比べ物にならないほど、近距離で戦えるようになっている。
「……分かった」
悠はショットガンを構える。
「でも、無茶だけはするなよ」
「分かってるって!」
チルノが再び妖夢へ向かっていく。
妖夢はその動きを見つめていた。
そして、気づく。
チルノの呼吸が荒い。
攻撃の速度も、ほんの僅かだが落ちている。
この冷気の中でも、疲労そのものを消すことはできない。
妖夢は静かに息を吐いた。
――そろそろ限界。
そう判断した。
ソードブリザードが終われば、周囲の冷気も弱まる。
その瞬間なら。
妖夢は刀の柄へ手を伸ばした。
「……」
悠がそれを見る。
「また、あの技か」
妖夢が刀を鞘へ納める。
カチン。
先ほどと同じ音が響いた。
チルノはまだ気づいていない。
「どうしたの? 刀をしまって――」
妖夢が静かに構える。
「次で終わらせます」
「え?」
悠の目が鋭くなる。
「チルノ、下がれ!」
「えっ?」
「今すぐ!」
チルノは振り返る。
妖夢はすでに【閃鞘・月影】の構えに入っている。
悠は妖夢を見つめた。
先ほどの攻撃。
あの瞬間、妖夢の動きは確かに見えなかった。
だが――。
悠は思い出す。
妖夢は刀を抜く前に、必ず刀を鞘へ戻している。
そして、構える。
その一瞬だけ、動きが変わる。
「……そういうことか」
悠が呟いた。
「悠?」
チルノが振り返る。
「妖夢の技には、準備が必要なんだ」
「準備?」
「ああ。刀を納めて、構えて、それから抜く」
悠はショットガンを握り直す。
「抜いた瞬間は速すぎて対応できない。でも――」
悠の視線が妖夢の足元へ向く。
「抜く前なら、まだ止められる」
妖夢が悠を見る。
「……気づきましたか」
「やっぱりな」
悠は一歩前へ出た。
「だったら、次は俺が相手だ」
チルノが驚く。
「悠、疲れてるでしょ!」
「チルノだって同じだろ」
「でも……」
「ここからは俺がやる」
悠はショットガンを構えた。
折れたナイフはもうない。
残っている武器は、このショットガンだけ。
それでも十分だった。
妖夢が再び刀の柄を握る。
「来ますよ」
悠は静かに息を吸う。
「来い」
妖夢の身体が僅かに沈んだ。
悠は一歩を踏み出す。
その瞬間――。
悠は確信した。
【閃鞘・月影】。
この技には、弱点がある。
そして、その弱点を突ける距離にいるのは――。
今の自分だ。
悠は引き金に指をかけた。
戦いは、まだ終わっていない。
だが、勝つための一手は見えた。
読んでいただきありがとうございます!
妖夢の攻撃に対しての突破口はあるのか……