妖夢は刀を鞘に納めたまま、悠を見据えていた。
チルノは少し離れた場所で息を整えている。
周囲には、ソードブリザードによって生み出された氷の剣が無数に突き刺さっていた。
「悠、本当に大丈夫?」
「ああ。チルノは少し休んでろ」
「でも……」
「ここは俺がやる」
悠はショットガンを構え直した。
折れたナイフはもうない。
残された武器は、この一丁だけだった。
妖夢はそんな悠を見て、静かに口を開く。
「ナイフを失った状態で、私と接近戦をするつもりですか?」
「接近戦をするつもりはない」
「では、どうするのです?」
「お前が近づいてくる前に終わらせる」
妖夢の表情が僅かに変わった。
「……なるほど」
妖夢が刀の柄を握る。
悠はその動きを見逃さない。
刀を抜く前に、必ず準備がある。
ならば、その瞬間を狙う。
「行きます」
妖夢が踏み込んだ。
悠は引き金を引く。
轟音。
拡散した弾丸が妖夢へ向かう。
妖夢は身体を横へ滑らせるようにして回避した。
そのまま距離を詰めてくる。
「速い……!」
悠は後ろへ下がった。
妖夢の刀が振り下ろされる。
悠は身体を捻って避ける。
刃が肩を掠めた。
「くっ……!」
「先ほどよりも動きが読みやすいですね」
「そうかよ!」
悠は再びショットガンを撃つ。
妖夢は刀で弾を弾きながら、さらに距離を詰める。
そして――。
カチン。
刀が鞘に戻った。
悠の目が細くなる。
「来る……!」
妖夢が腰を落とした。
「閃鞘・月影」
妖夢が刀を抜く。
悠は踏み込んだ。
普通なら、避ける。
しかし悠は逆だった。
妖夢の懐へ飛び込む。
「なっ……!」
妖夢の目が見開かれた。
刀が抜かれる。
その瞬間。
悠はショットガンの銃口を、妖夢の身体へ押し付けた。
「これで――!」
轟音が響いた。
ゼロ距離から放たれた拡散弾。
妖夢の身体が大きく吹き飛ぶ。
「きゃあっ!」
妖夢は地面を転がり、数メートル先で止まった。
悠はショットガンを下ろした。
息が荒い。
だが、妖夢は立ち上がった。
「……まさか」
妖夢は自分の身体を確認する。
「技を放つ瞬間に、懐へ入るとは」
「避けるより、近づいた方がいいと思ったんだよ」
「ですが、あの技を知らなければ……」
「たぶん死んでた」
悠は苦笑する。
「だから、二度目は失敗できなかった」
妖夢は刀を構え直した。
しかし、その動きには先ほどまでの鋭さがない。
チルノが立ち上がる。
「やった! 悠!」
「まだだ」
悠は妖夢から目を離さない。
妖夢はしばらく悠を見つめたあと、刀を鞘へ戻した。
「……参りました」
「え?」
「これ以上続ければ、こちらも無傷では済みません」
妖夢は刀から手を離した。
「あなたたちの目的は、私を倒すことではないのでしょう?」
「ああ。俺たちは、この異変の原因を探してる」
「でしたら、先へ進んでください」
妖夢が道を空ける。
悠は少し驚いた顔をした。
「いいのか?」
「この先には、幽々子様がおられます」
妖夢は静かに答えた。
「私がここで時間を稼いだところで、何も変わりません」
「……分かった」
悠は頷いた。
そしてチルノの方を見る。
「行けるか?」
「もちろん!」
チルノは胸を張った。
「まだまだ全然元気だよ!」
「さっきまで息切れしてただろ」
「そ、それは……ちょっとだけ!」
悠は思わず笑った。
「じゃあ、行くぞ」
「うん!」
二人は妖夢の横を通り抜け、さらに奥へ進んでいった。
しばらく進むと、周囲の景色が変わり始めた。
空気が重い。
そして、どこか異様な気配が漂っている。
「……何だ、これ」
悠が足を止める。
チルノも周囲を見回した。
「なんか変……」
二人が進んでいくと、前方から激しい音が聞こえてきた。
轟音。
爆発。
そして、弾幕がぶつかる音。
「この音……」
悠は走り出した。
「魔理沙か?」
「たぶん!」
二人は音のする方向へ向かった。
そして――。
開けた場所へ出た瞬間、悠は足を止めた。
「……なんだ、これ」
目の前で、凄まじい弾幕が飛び交っていた。
その中心にいるのは、魔理沙。
そして、その向かい側には――。
「幽々子……」
チルノが呟いた。
西行寺幽々子が、空中に浮かんでいる。
その周囲には大量の桜色の光が舞っていた。
魔理沙は箒に跨りながら、必死に弾幕を避けている。
「魔理沙!」
悠が叫ぶ。
「お、やっと来たか!」
魔理沙がこちらを振り向いた。
「悠! チルノ! ちょうどいいところに来たぜ!」
「何が起きてるんだ?」
「話は後だ! 今はこいつを止める!」
魔理沙が再び幽々子へ向き直る。
悠は幽々子を見る。
その表情は穏やかだった。
戦っているというのに、まるで楽しんでいるようにも見える。
「どうして……春を集めてるんだ?」
悠が呟く。
その言葉に、幽々子が悠を見る。
「あなたが悠ね」
「俺を知ってるのか?」
「ええ。妖夢から聞いているわ」
幽々子は微笑む。
「ずいぶん面白い武器を持っているのね」
「そんなこと言ってる場合かよ」
魔理沙が叫ぶ。
「この異変を終わらせるぞ!」
「……そうね」
幽々子は微笑んだ。
「でも、その前に少しだけ遊びましょう?」
再び大量の弾幕が放たれる。
「来るぞ!」
悠が叫ぶ。
チルノが氷の壁を作り出す。
魔理沙は箒を加速させる。
そして――。
その戦いの裏で、悠たちの知らない場所では、異変の本当の目的が明らかになり始めていた。
魔理沙が幽々子と対峙する少し前。
魔理沙は一人で冥界を進んでいた。
「やっぱりここか……」
周囲に集まる春の気配。
雪に覆われた幻想郷とは、あまりにも不自然な光景だった。
魔理沙はその先にいる幽々子を見つけた。
「幽々子、何をしてるんだ?」
「春を集めているのよ」
「それは見れば分かるぜ」
魔理沙は箒から降りた。
「なんでそんなことをしてる?」
「理由が知りたい?」
「当然だろ」
幽々子は少しだけ遠くを見る。
「この先にあるものを、咲かせたいの」
「咲かせたい?」
「ええ」
幽々子は微笑んだ。
「そのためには、幻想郷中の春が必要なのよ」
「だから雪が降り続けてるのか」
「そういうこと」
魔理沙は帽子を押さえた。
「だったら、集めた春を返してもらうぜ」
「それはできないわ」
「なら――」
魔理沙がミニ八卦炉を構える。
「力ずくで返してもらうしかないな」
幽々子が扇子を開く。
「そう。あなたはそういう子だったわね」
次の瞬間。
二人の間に、巨大な弾幕が生まれた。
「やっぱり話し合いじゃ終わらないか!」
魔理沙が飛び上がる。
幽々子の弾幕が空間を埋め尽くす。
魔理沙はその隙間を縫うように飛び回った。
「こいつ……強いぜ!」
魔理沙は笑う。
「でも、負ける気はしないぜ!」
魔理沙が反撃する。
巨大な魔力弾が幽々子へ向かって飛んでいく。
幽々子はそれを避ける。
そして再び弾幕を放つ。
二人の戦いは、さらに激しさを増していった。
一方その頃。
悠とチルノは、魔理沙のいる場所へ向かっていた。
「悠! あれ!」
チルノが指差す。
目の前に、無数の何かが現れた。
「……なんだ?」
悠はショットガンを構える。
最初は数体だった。
しかし。
一体。
十体。
百体。
その数は瞬く間に増えていく。
「嘘だろ……」
チルノが呟く。
悠は周囲を見回した。
どこを見ても、幽霊。
その数は、もはや数えることすらできない。
「チルノ」
「うん」
二人は背中合わせになる。
悠はショットガンを構えた。
チルノは氷の剣を作り出す。
「これ……全部相手にするの?」
「みたいだな」
「数、多すぎない?」
「……一万くらいはいるんじゃないか?」
「一万!?」
チルノが思わず叫ぶ。
悠は苦笑した。
「文句言っても減らないぞ」
「分かってる!」
チルノが氷の剣を構える。
「だったら、全部倒す!」
「その意気だ」
幽霊の群れが、一斉に二人へ襲いかかった。
「来るぞ!」
「うおおおっ!」
悠がショットガンを撃つ。
チルノが氷の剣を振り抜く。
冥界を埋め尽くすほどの幽霊との戦いが、始まった。
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