今回は見せ場を作りまっせ!
博麗神社を出てから、しばらく。
悠とチルノは、人里へ続く道を歩いていた。
「ねえ、悠」
「何?」
「人里って、どんなところ?」
「俺に聞くなよ」
「だって、人里に行くんでしょ?」
「行くけど、俺だって初めてなんだよ」
「そっか」
チルノは納得したように頷く。
「でも、人がいっぱい住んでるよ」
「それは聞いた」
「あと、美味しいものもある!」
「それは重要だな」
「でしょ?」
チルノが得意げに笑う。
そんな話をしながら歩いていると、森の先に何かが見えてきた。
「あれ、何だ?」
道の脇に、見慣れない乗り物が停まっている。
大きな荷台に屋根が取り付けられ、その周囲には木箱や瓶、見たことのない道具が並べられていた。
その前に、一人の少女が立っている。
緑色の髪。
頭に帽子を被り、背中には甲羅。
「……河童?」
悠が呟く。
「そうだよ」
少女がこちらを振り向いた。
「河城にとり。よろしくね」
「神谷悠」
「あたいはチルノ!」
「チルノは知ってるよ」
「やっぱりあたいは有名なんだ!」
「そういう意味じゃないんだけどなぁ……」
にとりは苦笑しながら、移動販売車の方へ戻る。
「今日は人里で商売する予定なんだ。便利な道具とか、ちょっとした食べ物とかね」
「これ、全部売り物なのか?」
「そうだよ」
悠は並べられた商品を眺める。
小さな歯車。
金属製の部品。
用途の分からない機械。
外の世界では見たことのないものばかりだった。
「面白いな……」
「外の世界にも、こういうのある?」
「似たようなものはあるけど、こんなのは見たことないな」
「へえ」
にとりが興味深そうに悠を見る。
「じゃあ、外来人なんだ」
「ああ」
「だったら後で色々聞かせてよ。外の世界の道具、気になるんだよね」
「俺で分かることなら」
「約束ね」
その時だった。
森の奥から、木々を踏み荒らすような音が聞こえてきた。
「……何?」
チルノが振り返る。
にとりの表情も変わった。
「嫌な音だなぁ」
次の瞬間、木々の間から数体の妖怪が姿を現した。
妖怪たちは、にとりの移動販売車へ向かっている。
「商品が目的か?」
「たぶんね」
にとりがため息を吐く。
「こういうの、困るんだよなぁ……」
「戦えないの?」
「戦えるよ」
にとりは即答した。
「でも、あの中で弾幕を撃ちまくったら、商品まで壊れちゃうでしょ」
「なるほど」
にとりが手を構える。
周囲に光が集まり、いくつもの弾幕が生まれた。
妖怪へ向かって飛んでいく。
しかし、にとりはすぐに弾道を変えた。
「ほら、あそこにも商品があるから!」
「大変だな……」
悠が呟く。
「チルノ」
「分かってる!」
チルノが前へ飛び出す。
「悠はどうする?」
「俺はあいつらを引きつける」
「分かった!」
悠も走り出した。
「こっちだ!」
妖怪が悠を追ってくる。
悠はそのまま移動販売車から離れていく。
爪を避ける。
身体を捻る。
さらに走る。
妖怪との距離を一定に保ちながら、森の中を駆け回る。
「こっちだって!」
その間に、チルノが上空から氷の弾幕を放つ。
妖怪の動きが止まった。
「今!」
にとりの弾幕が飛ぶ。
一体が吹き飛ばされた。
しかし、まだ残っている。
悠の前へ別の妖怪が回り込んだ。
「……っ!」
悠は足を止める。
妖怪が爪を振り上げた。
避ける。
だが、反撃する手段がない。
「くそ……!」
その瞬間。
「悠!」
にとりが叫んだ。
何かが飛んでくる。
悠は反射的に受け取った。
「……ナイフ?」
それはナイフのような形をしていた。
ただし、刃がない。
「それ、試作品!」
「試作品?」
「いいから、柄のスイッチを入れて!」
悠は言われた通りにスイッチを押す。
――ブゥン。
手の中で、小さな振動が生まれた。
「何だこれ?」
「そのまま使って!」
「どうやって!?」
「普通に振ればいい!」
「普通のナイフには刃があるだろ!」
「細かいことは後!」
悠は迫ってきた妖怪へ向かって走った。
妖怪が爪を振り下ろす。
悠は身体を沈め、その懐へ入り込む。
そして、振動するナイフを振り抜いた。
――ドンッ!
「――!?」
妖怪の身体が大きく吹き飛んだ。
「効いた……!」
「そのまま!」
チルノの氷が妖怪の足元を凍らせる。
動きが止まったところへ、悠が再び踏み込む。
ナイフを振る。
衝撃が走った。
妖怪が地面へ倒れる。
「あと一体!」
にとりの弾幕が飛ぶ。
チルノの氷弾が続く。
最後の妖怪も大きく吹き飛び、そのまま森の奥へ逃げていった。
「……終わったか?」
悠がナイフを見る。
刃はない。
それなのに、確かに妖怪へ攻撃が通った。
「にとり」
「何?」
「これ、何なんだ?」
「それ?」
にとりが悠の手元を見る。
「ちょっと特殊な鉱物を使った試作品なんだ」
「鉱物?」
「うん。普通の金属じゃないよ」
にとりはナイフの先端を指差した。
「この部分に使ってる鉱物は、特殊な性質を持ってるんだ」
「特殊な性質?」
「一定以上の振動を与えると、弾幕と似た性質の力を発生させるの」
「弾幕と?」
「正確には弾幕そのものじゃないけどね」
にとりは説明を続ける。
「妖怪みたいな存在に対して、弾幕と同じように干渉できる。だから刃がなくても、攻撃として通るんだよ」
「なるほど……」
悠はナイフを見つめる。
弾幕を撃てない自分でも、これなら戦える。
そう思った。
「じゃあ、これは返すよ」
悠がナイフを差し出す。
「え?」
「借り物だろ?」
「ああ、それね」
にとりは少し考える。
「……じゃあ、それ使ってていいよ」
「いいのか?」
「うん。試作品だから、実際に使ってもらった方が改良する時の参考になるし」
「ありがとう」
悠はナイフを受け取った。
それから三人は、改めて人里へ向かって歩き始めた。
人里へ到着すると、にとりは移動販売を始めた。
「悠、そこの箱お願い!」
「これか?」
「そう、それ!」
「チルノはそっち!」
「分かった!」
「勝手に開けないでよ!」
「開けてない!」
「今開けようとしたでしょ!」
「ちょっと見ただけ!」
そんなやり取りをしながら、三人で店を手伝う。
客が来れば商品を渡し、なくなったものを補充する。
気が付けば、空はすっかり夕焼けに染まっていた。
「今日はこれくらいかな」
にとりが商品を片付け始める。
「二人とも、手伝ってくれてありがとね」
「こっちこそ、助かった」
悠が答える。
「それで、悠はこの後どうするの?」
「俺?」
「うん。人里に知り合いでもいるの?」
「いない」
「泊まるところは?」
「……ない」
にとりが少し考え込む。
「じゃあさ」
「ん?」
「行くところがないなら、うち来る?」
「いいのか?」
「今日助けてもらったお礼もしたいし。それに、そのナイフについても色々試してみたいから」
にとりが笑う。
「どう?」
悠は少し考えた。
断る理由はない。
「……お願いする」
「決まり!」
チルノが嬉しそうに飛び跳ねる。
「あたいも行く!」
「もちろん」
こうして悠とチルノは、にとりの家へ向かうことになった。
悠の腰には、一本のナイフがある。
刃のない、奇妙なナイフ。
それが、幻想郷で悠が初めて手にした武器だった。
読んで頂きありがとうございます!
ニトリちゃんのおかげで何とか生きていけそうですねw
結構書き貯めしてるからバンバン投稿していこうかと思います!
次回もお楽しみに