幻想郷に転生した俺は、弾幕を撃てない   作:みみみのおじさん

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展開が進んで来ましたね!
主人公にも武器ができましたが……弾幕の遠距離攻撃に今ひとつ物足りないですよね……


第5話 河童の工房

人里を出てから、しばらく歩いた。

 夕暮れの空はすっかり暗くなり、木々の隙間から差し込んでいた光も、今ではほとんど残っていない。

「もうすぐだよ」

 先を歩いていたにとりが振り返る。

「私の家、この先だから」

「結構歩くんだな」

「人里から離れてるからね。河童はこういう場所の方が暮らしやすいんだよ」

「なるほど」

 悠は周囲を見渡した。

 川のせせらぎが聞こえる。

 人里とは違って人の気配はほとんどなく、木々の間を抜ける風の音ばかりが聞こえていた。

「……静かだな」

「そう?」

「人里とは全然違う」

「河童にとってはこっちの方が落ち着くんだよ」

 にとりが笑う。

「まあ、私は機械いじってる方が楽しいけどね」

「それはなんとなく分かる」

「でしょ?」

 少し歩いたところで、にとりが足を止めた。

「着いたよ」

 そこにあったのは、一軒の家だった。

 大きさだけを見れば、普通の家に見える。

 ただし――。

「……何だこれ」

 悠は家の周囲を見回した。

 壁際には大小様々な機械が並んでいる。

 歯車が回っているものもあれば、何かを蒸気のようなものを吐き出しているものもある。

 用途の分からない道具まで、そこら中に置かれていた。

「家というより工場じゃないか?」

「工房だよ」

「ほとんど同じだろ」

「全然違うって」

 にとりが笑いながら扉を開ける。

「ほら、入って」

「お邪魔します」

 悠が中へ入る。

「……すごいな」

 外だけではなかった。

 壁一面に工具が並び、机の上には金属部品や鉱物が置かれている。

 棚には瓶に入った液体や、何に使うのか分からない小さな機械まで並んでいた。

「これ全部、にとりが作ったのか?」

「全部じゃないけどね。河童の仲間からもらったものもあるよ」

「それでもすごいな」

 悠は一つの機械を覗き込む。

 歯車がいくつも組み合わさり、一定の間隔で動いている。

「これ、何に使うんだ?」

「それ?」

 にとりが振り返る。

「水の流れを測る機械」

「へえ」

「そっちは温度を測るやつ。その隣は――」

「これ何?」

 チルノが横から機械を指差した。

「それは触らないで」

「なんで?」

「壊れるから」

「触るだけだよ」

「だからダメ」

 チルノが少しだけ不満そうな顔をする。

 しかし、にとりが別の場所へ移動した瞬間――。

「……ちょっとだけ」

「チルノ」

「!」

 悠が後ろから声をかける。

「触るなって言われただろ」

「まだ触ってない!」

「今から触るつもりだっただろ」

「……」

 チルノが機械から手を離す。

「悠までにとりみたいなこと言う」

「俺が悪いのか?」

「そういうことにしといて」

「なんでだよ」

 にとりが二人を見て笑っていた。

「仲良くなったね」

「そうか?」

「そうだよ」

 にとりは机の上に置かれていたナイフを手に取った。

「じゃあ、これ見せてもらおうかな」

「それ、昨日の?」

「そう」

 悠が腰からナイフを外して渡す。

 にとりは刃のないナイフを手に取り、細かく確認していく。

「やっぱり少し振動が弱いな」

「そうなのか?」

「うん。昨日使った時も思ったけど、出力が安定してない」

 にとりがナイフの側面を開く。

 中には小さな部品と、淡く光る鉱物が組み込まれていた。

「ここを少し変えて……」

 工具を使って部品を調整する。

 しばらくして、にとりがナイフを悠へ返した。

「使ってみて」

「分かった」

 悠は工房の奥へ向かう。

 そこには木製の板が何枚か並べられていた。

「それを狙って」

「これ?」

「うん」

 悠はナイフを構える。

 スイッチを入れる。

 ――ブゥン。

 昨日よりも、はっきりとした振動が手に伝わってきた。

「じゃあ……」

 悠が踏み込む。

 ナイフを振る。

 ――ドンッ!

 木の板が大きく揺れた。

「おお」

「どう?」

「昨日より明らかに強い」

「でしょ?」

 にとりが嬉しそうに笑う。

「もう一回」

 悠は構え直した。

 振る。

 また振る。

 何度も繰り返す。

「……結構疲れないね」

 にとりが呟く。

「そう?」

「普通なら、そんなに何度も続けたら息が上がると思うんだけど」

「俺、体力だけはあるから」

「なるほど」

 にとりは納得したように頷いた。

「じゃあ、もう少し続けてみようか」

「分かった」

 悠は再びナイフを振った。

 何度も。

 何度も。

 身体は動き続ける。

 しかし――。

「……これだけか」

 悠はナイフを下ろした。

 木の板には傷一つ付いていない。

 攻撃としては、妖怪には効いても、普通の物には大した影響がないらしい。

「まあ、そんなものだよ」

 にとりが言う。

「この鉱物が相手の存在に干渉するから、妖怪には効くんだ」

「なるほどな」

「でも、これだけじゃ遠くの相手には何もできない」

 悠が黙る。

 にとりはそんな悠を見て、少し考え込んだ。

「……悠」

「ん?」

「本当に弾幕は出せないの?」

「ああ」

「一度も?」

「一度も」

 悠は手を前へ伸ばす。

「こうやって?」

「うん」

「何かイメージしてみて」

「分かった」

 悠は目を閉じる。

 霊夢の札。

 チルノの氷。

 昨日見た、にとりの弾幕。

 頭の中でそれを思い浮かべる。

 そして――。

「……」

 何も起きない。

「やっぱり駄目だな」

 悠が手を下ろす。

 にとりは腕を組んで考え込む。

「魔力がないのかな……」

「そういうのは分からないけど、霊夢みたいなことはできない」

「魔理沙みたいに道具を使う方法もあるけど……」

 にとりがちらりと悠を見る。

「悠は、そういう道具も持ってないもんね」

「ああ」

 少しの沈黙。

 にとりが難しそうな顔をする。

「どうしようかな……」

「そんなに悩むことか?」

「だって、妖怪と戦うなら遠距離から攻撃できた方がいいでしょ?」

「それはそうだけど」

「ナイフだけじゃ限界があるし……」

 にとりは工房の中を見回す。

 何か使えるものはないかと探しているようだった。

 悠も考える。

 自分には弾幕がない。

 ならば、弾幕を使えない人間でも戦える武器があればいい。

 そこで、ふと思いついた。

「……銃みたいなのがあればな」

「銃?」

 にとりが振り向く。

「ああ」

「それ、外の世界の道具?」

「そう。遠くにいる相手を攻撃するための武器だ」

「どういうもの?」

 悠は少し考える。

「細かい構造まで説明できるわけじゃないけど……」

 悠は手で形を作る。

「こういう形の本体があって、ここから弾を飛ばす」

「弾?」

「俺がいた世界では、普通は金属の弾を使う」

「金属……」

 にとりの目が輝き始める。

「でも、俺が欲しいのは実弾じゃない」

「じゃあ?」

「弾幕を飛ばせればいい」

 にとりが黙る。

 そして、工房の中を見回した。

「……待って」

「ん?」

「それなら……」

 にとりが机の上に置いてあるナイフを見る。

「この鉱物を使って、弾幕みたいな効果を遠くへ飛ばせるようにすれば……」

「作れそうか?」

「分からない」

 にとりは考えながら工具を手に取った。

「でも、原理だけならできなくはないと思う」

「本当か?」

「うん」

 にとりが振り返る。

「問題は材料だね」

「材料?」

「本体を作る金属も必要だし、弾幕を発生させるための鉱物も必要。それに、弾幕をどうやって中に保存するかも考えないといけない」

「……結構あるな」

「だから、今すぐ作るのは無理」

「材料があれば?」

「できなくはない」

 悠は少し考えた。

「じゃあ、材料を集めれば作ってくれるか?」

「え?」

「俺が集める」

「いや、簡単には集まらないよ?」

「それでもいい」

 悠はナイフを握る。

「弾幕が使えないなら、使える方法を作るしかないだろ」

 にとりは少し黙っていた。

 やがて、口元に笑みを浮かべる。

「……面白いね、悠」

「何が?」

「普通なら、弾幕が使えないなら諦めると思う」

「俺は普通じゃないらしいからな」

「それもそうだね」

 にとりが笑った。

「じゃあ、作ろうか」

「本当に?」

「うん」

 にとりは机の上に紙を広げる。

「必要な材料を書き出すから、明日から一緒に探しに行こう」

「分かった」

「ただし――」

 にとりが悠を見る。

「材料集めを手伝ってもらう代わりに、私の仕事も手伝ってね」

「仕事?」

「人里での販売とか、材料の運搬とか」

「それくらいならいいよ」

「決まりだね」

 チルノが横から顔を出す。

「あたいも行く!」

「チルノも?」

「もちろん!」

「……まあ、いいか」

 にとりが苦笑する。

「じゃあ三人で材料集めだね」

 悠は紙に書かれた材料の名前を見る。

 どれも聞いたことのないものばかりだった。

 けれど――。

 これを集めれば、自分だけの武器ができる。

 その事実だけで、不思議と胸が高鳴った。

「明日から忙しくなりそうだな」

「うん」

 にとりが笑う。

「でも、面白くなりそうだよ」

 その夜。

 悠は河童の工房で、初めて自分のための武器を作る計画を立てた。




読んで頂きありがとうございます!
少し番外編をどうぞ


 一方その頃。
 紅魔館の一室。
 窓の外には、いつもと変わらない青空が広がっていた。
「……つまらないわね」
 椅子に腰掛けたレミリアが、退屈そうに頬杖をつく。
「何か面白いことはないの?」
「申し訳ありません、お嬢様」
 傍に立つ咲夜が静かに頭を下げる。
「今日は特に変わったことはございません」
「そう」
 レミリアは窓の外へ視線を戻した。
 降り注ぐ日差し。
 それを眺めながら、何かを思いついたように小さく笑う。
「……そうだわ」
「何か思いつかれましたか?」
「ええ」
 レミリアが立ち上がる。
「少し、外の世界を変えてみようかしら」
「……外の世界、ですか?」
「ふふっ」
 その問いには答えず、レミリアは窓の外を見つめ続ける。
 その瞳には、いつもの退屈そうな色はなかった。
「ねえ、咲夜」
「はい」
「もし太陽が見えなくなったら、幻想郷はどうなると思う?」
「……さあ、どうでしょう」
「試してみる価値はありそうね」
 レミリアは楽しそうに笑った。
「面白くなりそうだわ」
 その日。
 紅魔館では、誰にも知られないところで、少しずつ準備が始まっていた。
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