幻想郷に転生した俺は、弾幕を撃てない   作:みみみのおじさん

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やっと遠距離攻撃可能に!
そんな嬉しいことはつかの間、何やら怪しい気配……


第7話 十発の弾幕

 翌朝。

 工房には、昨日までとは違う音が響いていた。

 金属を削る音。

 部品同士が噛み合う音。

 時折、何かが弾けるような音まで聞こえてくる。

「……大丈夫なのか?」

 工房の外から中を覗きながら、悠は呟いた。

「大丈夫だよ」

 隣にいたチルノが答える。

「ニトリなら大丈夫!」

「なんでお前が自信満々なんだよ」

「河童だから!」

「昨日からそればっかりだな」

 そんな会話をしていると、工房の奥からニトリが顔を出した。

「悠、そこにいたんだ」

「何か手伝うことあるか?」

「ううん。今は大丈夫」

 ニトリは額についた汗を拭う。

「昨日集めた材料、かなり良いものだったよ」

「本当か?」

「うん。これなら、昨日の試作品をもっとまともな形にできる」

 その言葉に、悠は工房の中へ入った。

 机の上には、昨日とは比べ物にならないほど多くの部品が並べられている。

「これ全部使うのか?」

「全部じゃないよ」

「それでも多いな」

「銃って結構部品が多いんだね」

 チルノが横から覗き込む。

「チルノ、そこ触らないでね」

「触らないよ!」

「昨日もそう言ってたよね」

「……」

 チルノがそっと手を引っ込めた。

 悠は苦笑する。

「それで、どこまでできてる?」

「本体はほとんど完成」

 ニトリが机の奥から一つの銃を取り出した。

「これ」

 悠の目が止まる。

「……」

 昨日の試作品とは、明らかに違っていた。

 まだ幻想郷の河童が作ったものらしい独特の雰囲気は残っている。

 しかし、形はより洗練されていた。

 細長い銃身。

 手に収まりやすいグリップ。

 そして、本体の下には細長い部品を差し込むための空間がある。

「ハンドガン」

 ニトリが言った。

「今のところは、それでいいかな」

「……これが」

 悠は両手で受け取った。

 ずしりとした重さが手に伝わる。

「重いな」

「昨日のよりは軽いよ」

「それでも十分重い」

「人間が使うなら、このくらいが限界かなって」

 ニトリは銃の側面を指差した。

「ここにマガジンを入れる」

「マガジン?」

「昨日話したやつ」

 ニトリが小さな金属製の部品を取り出した。

「これ一つに弾幕を十発分入れてある」

「十発」

「そう」

 悠がマガジンを受け取る。

 思っていたより軽い。

「これに弾幕が入ってるのか?」

「正確には、弾幕そのものを保存してるわけじゃないよ」

 ニトリはマガジンを裏返す。

「弾幕を構成するための力を、一発ずつ取り出せる状態で蓄えてるの」

「じゃあ、撃つ時に銃がそれを弾幕にする?」

「そういうこと」

「便利だな」

「でも限界がある」

 ニトリの表情が少し真剣になる。

「一つのマガジンに入れられるのは十発まで」

「十発以上は?」

「無理に詰め込もうとすると、弾幕の密度が落ちる」

「威力が落ちるってことか?」

「うん。それだけならまだいいけど……」

 ニトリはマガジンを机へ置く。

「無理に入れれば、内部の弾幕制御が不安定になる」

「不安定?」

「最悪、銃そのものが壊れる」

「……」

「だから十発」

 ニトリは指を十本広げた。

「これが安全に使える限界」

「なるほど」

 悠は頷いた。

「じゃあ、一つのマガジンにつき十発」

「そう」

「撃ち切ったら交換」

「そう」

「それなら分かりやすい」

「でしょ?」

 ニトリがマガジンを銃へ差し込む。

 カチッ。

 小さな音が響いた。

「ただし、これだけじゃ撃てない」

「え?」

「初弾を入れる必要があるから」

 ニトリが銃の上部を掴む。

「ここを引いて」

 ガシャッ。

 金属音が工房に響く。

「これで一発目が発射できる状態になる」

「その後は?」

「昨日とは違うよ」

 ニトリが銃を悠へ渡した。

「引き金を引けば一発撃つ」

「うん」

「その後、銃の中で次の弾幕が自動的に装填される」

「……つまり」

「一発撃つたびに手で装填しなくていい」

 悠は目を見開いた。

「セミオート?」

「その言葉は知らないけど、多分それ」

 ニトリが笑う。

「引き金を引けば一発。次の弾は銃が勝手に準備する」

「これは……」

 悠は銃を見つめる。

 昨日とはまるで違う。

 昨日は一発撃つたびに手動で装填しなければならなかった。

 それが今回は違う。

 一度だけ準備すれば、あとは引き金を引くだけ。

「撃ってみていいか?」

「もちろん」

 ニトリが工房の奥に的を用意する。

 悠はマガジンを確認する。

「十発」

「うん」

「これを撃ち切ったら?」

「マガジンを交換」

「それでまた?」

「最初に一回だけコッキング」

「分かった」

 悠は銃を構えた。

 昨日よりもずっと自然に手に馴染む。

「……」

 狙いを定める。

 引き金に指をかける。

 ――パンッ!

 一発目。

 弾幕が飛び、的の中央付近へ命中する。

「おお……」

 思わず声が漏れる。

「もう一発」

 ――パンッ!

 二発目。

 続けて三発目。

 ――パンッ!

 四発目。

 ――パンッ!

 五発目。

 ――パンッ!

「……すごい」

 チルノが目を輝かせている。

「昨日よりいっぱい撃てる!」

「そうだな」

 悠も少し笑う。

 六発。

 七発。

 八発。

 九発。

 そして――。

 十発目。

 ――パンッ!

 最後の弾幕が的へ飛んでいった。

 静寂が戻る。

「……」

 悠は銃を見下ろした。

「終わった?」

「うん」

 ニトリが頷く。

「マガジンの中身が空になったからね」

「じゃあ、もう一回引き金を引いたら?」

 悠が引き金を引く。

 カチッ。

 何も起こらない。

「撃てない」

「そういうこと」

「本物の銃と同じだな」

「本物を知らないから何とも言えないけど」

 ニトリが苦笑する。

「少なくとも、今のところはそれを参考にしてる」

 悠は空になったマガジンを抜いた。

「もう一本ある?」

「もちろん」

 ニトリが机から新しいマガジンを取り出す。

「予備も作ったよ」

「これで?」

「三本」

「三本……」

「全部十発ずつ」

 悠はマガジンを並べる。

 合計三十発。

「これなら、少しくらい戦えるかな」

「少しくらいじゃなくて、ちゃんと逃げることも考えてね」

「分かってる」

 その時だった。

「なあ」

 魔理沙の声がした。

 いつの間にか工房の入り口に立っていた。

「それ、面白そうだな」

「魔理沙?」

「昨日から気になってたんだ」

 魔理沙が悠の持つ銃を見る。

「それで本当に弾幕が撃てるのか?」

「撃てる」

「じゃあ、見せてくれよ」

「さっき撃ったばかりだぞ」

「もう一回くらいいいだろ?」

 悠は苦笑しながら、マガジンを交換する。

「こうして――」

 カチッ。

 マガジンを差し込む。

 そして、上部を引く。

 ガシャッ。

「これで準備完了」

「へえ」

 魔理沙が興味深そうに眺める。

 悠は的へ向き直る。

 引き金を引く。

 ――パンッ!

 弾幕が飛ぶ。

「なるほどな」

 魔理沙が腕を組む。

「悪くない」

「だろ?」

 悠が少し得意げになる。

「でも」

「でも?」

「私ならもっと派手にする」

「……」

「もっと威力を上げて、もっと大きく――」

「それはまだやらないよ」

 ニトリが割って入る。

「今は安全に撃てることの方が大事」

「そうか」

 魔理沙は少し残念そうにした。

 そして、悠を見る。

「でも、お前」

「ん?」

「ちゃんと戦えるようになってきたじゃないか」

「……そうかな」

「ああ」

 魔理沙は笑った。

「最初は弾幕を撃てない人間だったんだろ?」

「今も撃てないよ」

「でも、撃つ方法は見つけた」

 悠は少し黙った。

「……そうだな」

 自分の力ではない。

 霊夢のように霊力があるわけでもない。

 魔理沙のように努力で魔法を身につけたわけでもない。

 それでも。

 自分には、自分の戦い方がある。

「ありがとう、ニトリ」

「どういたしまして」

 ニトリが笑う。

「これからもっと良くしていけばいいんだよ」

 その時だった。

「……ん?」

 魔理沙が突然、外へ顔を向けた。

「どうした?」

「何か……」

 工房の外へ出る。

 悠たちも続く。

 そして――。

「……何だ、あれ」

 悠が空を見上げた。

 夕方の空が、赤く染まっている。

 だが、それは夕焼けではなかった。

 遠くの空から、赤黒い霧がゆっくりと広がっている。

 山を覆い。

 森を覆い。

 幻想郷そのものを飲み込むように。

「霧……?」

 ニトリが呟く。

 魔理沙は黙って空を見上げていた。

 やがて、その顔から笑みが消える。

「……異変だ」

「異変?」

「ああ」

 魔理沙が箒を手に取る。

「行くのか?」

「当然だろ」

「どこへ?」

 魔理沙は赤黒い霧の向こうを指差した。

 遠くに見える、紅い館。

「決まってる」

 魔理沙が箒に跨る。

「紅魔館だ」

 そのまま空へ飛び立っていく。

 悠はその背中を見送った。

 手元には三本のマガジン。

 一本十発。

 合計三十発。

 そして――。

 幻想郷を覆い始めた、赤い霧。

「……何なんだよ、これ」

 悠は銃を握り直した。

 まさか、この武器を手に入れた直後に。

 こんなことになるとは思っていなかった。

 隣では、チルノが赤い空を見上げている。

「悠」

「ん?」

「行こう」

「……どこへ?」

 チルノは紅魔館の方を指差した。

「あっち」

 悠はしばらく黙っていた。

 そして――。

「……分かった」

 三人は、赤く染まった空を見上げた。

 幻想郷を巻き込む異変は、すでに始まっていた。




紅魔館。
 その最上階にある一室。
 レミリア・スカーレットは、窓の外を眺めていた。
 幻想郷を覆っていく、赤黒い霧。
 太陽の光は完全に遮られ、辺りは昼間とは思えないほど暗くなっている。
 レミリアは静かに笑った。
「……時は来た」
 その声に、背後に控えていた咲夜が振り返る。
「お嬢様」
「もうすぐ、この幻想郷は紅い霧に包まれる」
 レミリアは窓を開ける。
 冷たい風とともに、紅い霧が部屋へ流れ込んできた。
「これで太陽は消えた」
 小さな身体を翻し、レミリアは広がる霧を見渡す。
「さあ――」
 そして、楽しそうに笑った。
「かかってきなさい、博麗の巫女」
 その声は、誰もいない幻想郷へ響くようだった。
「このレミリア・スカーレットが、相手をしてあげるわ」
 紅い月が、霧の向こうで静かに輝いていた。


読んで頂きありがとうございます!
気づいてるとは思いますが番外編は本編へ合流致します!
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