幻想郷を覆った紅い霧は、朝になっても晴れることはなかった。
空は赤黒く染まり、太陽の姿はどこにもない。
森の中も薄暗く、木々の隙間から差し込むはずの光は消えていた。
「……本当に昼なのか?」
悠は空を見上げる。
「昼だよ」
隣を歩くチルノが答えた。
「でも、太陽がない」
「それが変なんだよな」
「紅魔館の仕業なんでしょ?」
「ああ。たぶんな」
霧の向こうに、巨大な建物が浮かび上がってくる。
赤い屋根。
無数の窓。
そして、その正面には大きな門が構えられていた。
「……あれが紅魔館か」
「そうだよ」
悠は腰に手を伸ばす。
そこには、ニトリに作ってもらったハンドガンがあった。
装填されているマガジンは一つ。
予備が二つ。
合わせて三十発。
これが、今の悠が持っているすべてだった。
「行くぞ」
「うん!」
二人は紅い霧の中を進んでいった。
ただし――。
二人が館へ辿り着くよりも早く、その正面では別の戦いが始まっていた。
「まったく……」
博麗霊夢は、紅魔館の門を見上げた。
「随分と大掛かりなことをしてくれたものね」
「面白そうじゃないか」
隣で霧雨魔理沙が笑う。
「これだけ派手なら、きっと中にも面白いものがあるぜ」
「遊びに来たんじゃないのよ」
「分かってるって」
二人が門へ近づく。
すると、その前に一人の少女が立ちはだかった。
「そこから先は通せませんよ」
紅美鈴。
紅魔館の門番だった。
「やっぱりいるわね」
霊夢が札を取り出す。
「悪いけど、通してもらうわよ」
「それは困りますね」
美鈴が構える。
「こちらも仕事なので」
魔理沙が笑った。
「なら、力ずくで行くしかないな」
「そうね」
霊夢が一歩前へ出る。
「行くわよ」
「おう!」
次の瞬間。
美鈴の姿が消えた。
「――っ!」
霊夢が咄嗟に横へ飛ぶ。
直後、拳が地面を砕いた。
「速いわね」
「そちらも!」
美鈴が身体を捻る。
続けざまに拳を振るう。
霊夢は札を放ちながら後退する。
しかし、札の隙間を美鈴がすり抜ける。
「そこ!」
拳が迫る。
霊夢は身体を反らしてかわした。
「危ないわね」
「まだまだですよ!」
美鈴が笑う。
その背後から、魔理沙の弾幕が飛んできた。
「隙ありだぜ!」
無数の光弾が美鈴へ迫る。
「おっと!」
美鈴が飛び退く。
光弾が地面へ次々と突き刺さった。
「二人がかりですか?」
「異変解決に卑怯も何もないわ」
「それに、私たちを止めたいならもっと頑張らないとな!」
魔理沙が箒を構える。
美鈴は笑った。
「それなら、こちらも本気で行きます!」
再び、三人が動く。
札。
弾幕。
拳。
三つの攻撃が入り乱れる。
霊夢が空中へ飛び上がる。
「魔理沙!」
「分かってる!」
魔理沙が上空へ飛ぶ。
美鈴が二人を見上げた。
「しまっ――」
その瞬間。
「そこ!」
霊夢の札が美鈴の周囲を取り囲んだ。
逃げ道が塞がれる。
「くっ……!」
「今よ!」
「任せろ!」
魔理沙が箒を構える。
大量の光が集まり始める。
「まとめて吹き飛ばすぜ!」
光が一気に放たれた。
轟音。
紅魔館の門前が白く染まる。
やがて光が消えた時。
美鈴は地面に片膝をついていた。
「……参りました」
霊夢が息を整える。
「悪いわね」
「いえ……門番としては、十分楽しませてもらいました」
魔理沙が門へ向かう。
「じゃあ、通らせてもらうぜ」
「どうぞ……」
二人が門を抜ける。
その先に待っていたのは――。
大量の妖精メイドだった。
「……」
霊夢が黙る。
「……」
魔理沙も黙る。
「多くない?」
「多いな」
妖精メイドたちが一斉に弾幕を構えた。
「侵入者を発見!」
「お嬢様に報告を!」
「行かせるな!」
次の瞬間。
無数の弾幕が飛んできた。
「来るわよ!」
「望むところだ!」
霊夢が札を放つ。
弾幕と弾幕がぶつかり、紅魔館の庭が一瞬で光に包まれる。
魔理沙はその隙を突いて前へ出た。
「邪魔だぜ!」
光弾が炸裂する。
一人、また一人と妖精メイドが倒れていく。
だが、それでも数が減らない。
「まだ出てくるの!?」
「この館、何人雇ってるんだよ!」
霊夢と魔理沙は背中合わせになる。
前後左右。
あらゆる方向から弾幕が迫ってくる。
「魔理沙、右!」
「任せろ!」
魔理沙が弾幕を撃ち落とす。
「霊夢、左!」
「分かってる!」
札が飛び交う。
妖精メイドたちが次々と倒れていく。
それでも二人は止まらない。
廊下を進み。
階段を駆け上がり。
弾幕を避けながら館の奥へ進んでいく。
やがて、最後の妖精メイドが倒れた。
「……終わった?」
魔理沙が周囲を見る。
「みたいね」
霊夢が息を吐く。
「思ったより時間を使ったわ」
「でも、ここからが本番だろ?」
「そうね」
霊夢は館の奥を見る。
「この霧を止めるには、原因を探さないと」
「なら、二手に分かれるか」
「そうしましょう」
霊夢が右の廊下を見る。
「私はこっち」
「じゃあ、私は反対側だな」
「何か分かったら知らせる」
「そっちもな」
二人はそれぞれ別の道へ進んでいった。
この先で何が待っているのか。
まだ、二人は知らない。
その頃。
紅魔館の裏手。
「……あれが入口か」
悠が小さな扉を見る。
「こっちから入るの?」
「正面は無理だろ」
「いっぱい敵がいたもんね」
遠くから戦闘の音が聞こえていた。
「だから、裏から行く」
悠は扉へ近づく。
慎重に取っ手を握る。
ガチャ。
「……開いた」
「入ろう!」
「静かにな」
「分かってるよ」
二人は館の中へ入った。
中は驚くほど静かだった。
「……誰もいない?」
「正面で戦ってるんじゃない?」
「たぶんな」
悠は銃を確認する。
まだ撃っていない。
残弾は三十発。
これだけあれば、何とかなる。
――そう思っていた。
「悠」
「ん?」
「こっち」
チルノが廊下の奥を指差す。
「何かある」
「何かって?」
「分かんない」
「じゃあ、行ってみるか」
「うん」
二人は歩き出した。
霊夢たちとは違う道。
誰にも見つからないように。
紅魔館のさらに奥へ。
そして悠は、まだ知らない。
この館の地下に、自分と同じように閉じ込められている少女がいることを。
その少女との出会いが、この異変の行方を大きく変えることを。
ただ今は。
赤い霧に包まれた館の中を、チルノと二人で進んでいく。
それだけだった。
読んで頂きありがとうございます!
ここからは3分岐します
霊夢編、魔理沙編、悠編です!