幻想郷に転生した俺は、弾幕を撃てない   作:みみみのおじさん

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今回は霊夢編でございますー


第9話 紅魔館のメイド長

 紅魔館の中へ入り、霊夢は一人で廊下を進んでいた。

 先ほどまで聞こえていた魔理沙の声も、今ではもう聞こえない。

 館の中は妙に静かだった。

 外ではあれだけ激しい戦いが起きていたというのに、ここまで来るとまるで別の場所に迷い込んだようだった。

「……本当に広いわね」

 霊夢は周囲を見回す。

 壁には見たことのない絵画が並び、古びた燭台には小さな炎が揺れている。

 その時だった。

 カチッ。

「……?」

 どこかで時計の音がした。

 霊夢が足を止める。

 しかし、周囲には時計らしきものはない。

「気のせい?」

 そう呟いた瞬間。

 ――ヒュッ。

 一本のナイフが、霊夢の頬を掠めた。

「っ!」

 霊夢が振り返る。

 誰もいない。

「……何よ、今の」

「こちらです」

 背後から声がした。

「!」

 振り向いた先。

 廊下の奥に、一人の女性が立っていた。

 銀色の髪。

 整ったメイド服。

 そして、その手には数本のナイフ。

「初めまして、博麗の巫女」

 女性は丁寧に頭を下げる。

「十六夜咲夜と申します」

「……あんたがここのメイド長?」

「はい」

「なら話は早いわ」

 霊夢は札を構える。

「この霧を止めなさい」

「それはできません」

「じゃあ、あんたを倒して先に進むわ」

「そうなりますね」

 咲夜は微笑んだ。

「では――参ります」

 姿が消えた。

「……!」

 霊夢は咄嗟に横へ飛ぶ。

 直後、いた場所へナイフが突き刺さった。

「速い……!」

 霊夢が札を放つ。

 咲夜はそれを軽々と避ける。

 右。

 左。

 上。

 まるで霊夢の動きを読んでいるかのようだった。

「ちょっと!」

 霊夢がさらに札を放つ。

 しかし、またしても咲夜の姿が消える。

「どこよ!」

「後ろです」

「っ!」

 霊夢が振り向く。

 ナイフ。

 咄嗟に札で受け止める。

 金属音が廊下に響いた。

「危ないわね!」

「申し訳ありません」

「謝るくらいならやめなさいよ!」

「それはできません」

 咲夜が一歩下がる。

「お嬢様の命令ですから」

 再びナイフが飛ぶ。

 霊夢は走った。

 避ける。

 避ける。

 避ける。

 ナイフが壁に突き刺さっていく。

「こんなの……!」

 霊夢は札を放つ。

 咲夜もナイフを投げ返す。

 弾幕とナイフがぶつかり、廊下が一瞬で光に包まれた。

 霊夢はその隙に距離を取る。

「はぁ……はぁ……」

 息を整える。

 相手が強い。

 それは分かった。

 だが――。

「一つ分からないことがあるわね」

 霊夢は咲夜を見る。

「どうやって、そんなに簡単に私の攻撃を避けてるの?」

「さあ?」

 咲夜は笑う。

「メイドの嗜みでしょうか」

「ふざけてる?」

「少しだけ」

 次の瞬間。

 また咲夜が消えた。

「――っ!」

 霊夢は走った。

 今度は攻撃しない。

 ただ逃げる。

 廊下を曲がる。

 階段を上る。

 さらに走る。

「逃げますか?」

 背後から咲夜の声が聞こえる。

「うるさい!」

 霊夢は振り返らずに札を投げる。

 背後でナイフと札がぶつかった。

 しかし、すぐにまた足音が聞こえる。

 追ってくる。

 霊夢はさらに走った。

 そして――。

 突然、視界が開けた。

「……え?」

 そこは巨大な吹き抜けになっていた。

 中央には何階分もの高さがある広間。

 上を見れば、遥か高い天井。

 左右には大きな階段が伸びている。

 そして正面の壁には、ひときわ大きな古時計が掛けられていた。

 振り子が、ゆっくりと左右へ揺れている。

 カチ。

 カチ。

 カチ。

 霊夢は時計を見る。

「……時計?」

 その瞬間。

 霊夢の頭に、先ほどまでの出来事が浮かんだ。

 札を放った直後、突然消えた咲夜。

 気づけば背後に立っていた咲夜。

 廊下を走っている途中、一瞬だけ止まった蝋燭の炎。

 そして――何度も聞こえていた時計の音。

「……」

 霊夢は目を細める。

「速いんじゃない……」

 咲夜が廊下の奥から姿を現した。

「……」

「消えてるわけでもない」

 霊夢は時計を見る。

「時間そのものを……止めてる?」

 咲夜の表情が、ほんの僅かに変わった。

 その反応だけで十分だった。

「……当たりね」

「よくお気づきになりましたね」

「最初から分かってたわけじゃないわ」

 霊夢は札を構える。

「でも、あんたの速さだけじゃ説明できないことが多すぎるのよ」

 霊夢は一つずつ思い返す。

「私の札が届く直前に消える」

「……」

「周りの炎が止まる」

「……」

「時計の音が途切れる」

 そして最後に。

「時間が進んだと思ったら、あんたが別の場所にいる」

 霊夢は笑った。

「だったら答えは一つでしょ」

 咲夜は静かにナイフを構えた。

「その通りです」

「やっぱりね」

「では――」

 咲夜の姿が消える。

 今度は、霊夢も追わなかった。

「……来る」

 次の瞬間。

 無数のナイフが霊夢を取り囲んだ。

 一本。

 二本。

 三本。

 さらに増えていく。

 そして――。

 カチッ。

 世界が止まった。

 炎も。

 霊夢の髪も。

 空中に浮かんだ札も。

 すべてが静止する。

 咲夜だけが動いていた。

「これで、お分かりいただけたでしょうか」

 咲夜がゆっくりと歩く。

 霊夢は動けない。

 咲夜は霊夢の周囲を歩きながら、ナイフを配置していく。

「時間を止めれば、どれだけ強い相手でも――」

 咲夜が最後の一本を構える。

 しかし、その足が止まった。

「……?」

 咲夜が足元を見る。

 そこには、いくつもの札が貼られていた。

「これは……」

 咲夜が動こうとする。

 だが、足が動かない。

「……罠」

 時間が止まっている。

 それでも、札に込められた術は消えない。

 咲夜の足を、その場へ縫い止めていた。

「そういうこと」

 霊夢の声が聞こえた。

 咲夜が顔を上げる。

 霊夢がこちらを見ていた。

「さっきから逃げてたのは、追い詰められてたからじゃないわ」

 霊夢はゆっくりと咲夜へ歩いていく。

「ここまで誘導してたのよ」

「……!」

 咲夜が足を動かそうとする。

 しかし、動かない。

「時間を止めること自体は、もう分かった」

 霊夢は一歩ずつ近づく。

「だったら、あんたが時間を止める前に罠を仕掛けておけばいい」

「……なるほど」

 咲夜が静かに息を吐く。

「私が時間を止めることを利用したのですね」

「そういうこと」

 霊夢は咲夜の目の前まで歩いた。

「これなら、時間を止めても逃げられないでしょ」

 咲夜は動けない。

 霊夢は手を前へ突き出す。

 札が一枚、二枚と浮かび上がる。

「さて――」

 霊力が一気に集まっていく。

「これで終わりよ」

 咲夜の目の前。

 逃げ場はない。

「博麗――」

 霊力が一点へ集束する。

「弾幕砲!」

 ゼロ距離から放たれた弾幕が、咲夜を吹き飛ばした。

 轟音が巨大な吹き抜けの広間を揺らす。

 咲夜の身体が大きく吹き飛び、壁へ激突した。

 そのまま床へ落ちる。

 静寂が戻った。

 霊夢は息を吐く。

「……終わったわね」

 床に倒れた咲夜を見る。

 まだ意識はあるようだが、すぐに立ち上がれる様子ではない。

 霊夢は札をしまった。

「さて……」

 ふと、霊夢の頭に一人の魔法使いが浮かぶ。

「……魔理沙、大丈夫かしら」

 別れてから、まだそれほど時間は経っていない。

 しかし、この館にはまだ何者かがいる。

 それに、魔理沙が向かった先からは、先ほどから何度も大きな音が響いていた。

「まあ、あいつなら大丈夫でしょうけど」

 そう呟きながらも、霊夢は少しだけ足を止める。

「……一応、急いだ方がいいわね」

 霊夢は階段の先へ視線を向けた。

 この先にいるのは、この異変を起こした張本人。

 紅い霧の向こうにいる吸血鬼。

「待ってなさい」

 霊夢は階段を上っていく。

「もうすぐ、あんたのところまで行くから」

 その姿が階段の向こうへ消えていく。

 後に残された咲夜は、薄く目を開いた。

「……さすがは、博麗の巫女……」

 小さな呟きは、誰にも届くことなく広間へ消えていった。




読んで頂きありがとうございます!
何とか咲夜を撃破に成功!
時計のくだりは少し、とあるアニメをパクリましたw
でも、あの気づきのシーンめっちゃ好きなんですよね!
次は魔理沙編です!
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