白翼のシエル×5D's   作:シュテル・ルシフェル

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第12話 そういえば、名前は?



 

 その疑問は、驚くほど何でもない瞬間に出てきた。

 

 昼下がり。

 

 整備作業が一段落し、全員が思い思いに休んでいたとき。

 

 龍亞がジュースを飲みながら、ふと首を傾げた。

 

「おじさんって、名前なんていうの?」

 

「…………」

 

 全員が止まる。

 

「今まで誰も聞かなかった?」

 

 クロウ。

 

「そういやそうだ!」

 

 ブルーノ。

 

「僕もずっと『あの人』で認識してた!」

 

 ジャック。

 

「飲んだくれで十分だ」

 

「キング辛辣!」

 

 シエルは以前から気になっていたが、本人が毎回話を逸らすので聞く意味がないと判断していた。

 

「では改めて。名前は?」

 

 男は口を開きかけ、閉じた。

 

 今までなら冗談か別の話題で逃げていただろう。

 

 けれど、名前がないまま呼ばれ続ける不便さも、さすがに積み重なっている。

 

 小さく息を吐く。

 

「シュテル」

 

 シエルがその音を確かめるように繰り返した。

 

「シュテル?」

 

「うん」

 

「それだけ?」

 

「それだけ」

 

「姓は?」

 

「なし」

 

「本名ですか?」

 

「……偽名」

 

「認めるんですか」

 

「本名だって嘘ついても仕方ないだろ。呼べるならいい」

 

 こうして、ようやく名前だけは得た。

 

 そして。

 

「次、嬢ちゃんのD・ホイール作るか」

 

「私の?」

 

 普通のD・ホイールではシエルにとって大きすぎる。身体能力、反応速度、姿勢制御の高さを活かすには、マシンに身体を合わせるより身体にマシンを合わせる方がいい。

 

「D・ホイールから『乗るための部分』を減らして、身体へ直接固定する」

 

 試作を重ねる。

 

 最終案。

 

 細身の装着型D・ボード。

 

 左右に小型推進ユニット。

 

 後部に二基のブースター。

 

 下面に小型車輪。

 

 高速域では可変翼。

 

「完全には飛ばない?」

 

「完全な反重力ではありません。高速走行で揚力を作り、接地荷重を減らします」

 

「ジャンプ後は?」

 

「短時間、低空滑空できます」

 

「やっぱ飛ぶじゃん!」

 

「滑空です」

 

 

 試走当日。

 

 テストコースの路面にはまだ朝の冷たさが残っていた。

 

 シエルは細身のボードへ両足を固定し、腰部ハーネスを確認する。通常のD・ホイールのような大きな車体はない。身体の下にあるのは、推進器と可変翼を詰め込んだ一枚の装備に近い。

 

 起動。

 

 足元から低い振動が返ってくる。

 

 シエルが身体を倒す。

 

 それだけで、ボードがほとんど遅れなく旋回へ入った。

 

 ハンドルを介さない。身体の重心移動そのものが操舵になる。

 

 高速域で可変翼を展開。

 

 高速域へ入ると可変翼が開き、路面から伝わる細かな振動が急に薄くなる。

 

 前方の小さな段差。

 

 シエルは減速しない。

 

 ボードが路面を離れた瞬間、左右翼の角度を調整。後部ブースターが短く噴き、落ちるはずだった軌道がわずかに前へ伸びる。

 

 一秒。

 

 二秒。

 

 三秒。

 

 路面すれすれを、影だけが追いかけていた。

 

「飛んでる」

 

 シュテルが呆然と呟く。

 

「滑空です」

 

「いや、今のは飛んでるだろ」

 

「滑空です」

 

「絶対譲らない!」

 

「絶対譲らない!」

 

 ライディングデュエルでは両手が自由。カード操作にも向いている。

 

 一般人向け制限モードは最高出力40%。

 

 シエルモード100%。

 

「そのモード名誰が決めたの?」

 

「僕」

 

「ブルーノだった」

 

 テスト終了後。

 

「改善点は三つ。高速旋回時の左ブースター制御。着地直前の翼角。そして――もう少し速くできます」

 

 遊星とブルーノの目が同時に輝く。

 

「やろう」

 

「やろう!」

 

「誰か止めろ!」

 

 その疑問は、驚くほど何でもない瞬間に出てきた。

 

 昼下がり。

 

 整備作業が一段落し、全員が思い思いに休んでいたとき。

 

 龍亞がジュースを飲みながら、ふと首を傾げた。

 

「おじさんって、名前なんていうの?」

 

「…………」

 

 全員が止まる。

 

「今まで誰も聞かなかった?」

 

 クロウ。

 

「そういやそうだ!」

 

 ブルーノ。

 

「僕もずっと『あの人』で認識してた!」

 

 ジャック。

 

「飲んだくれで十分だ」

 

「キング辛辣!」

 

 シエルは以前から気になっていたが、本人が毎回話を逸らすので聞く意味がないと判断していた。

 

「では改めて。名前は?」

 

 男は口を開きかけ、閉じた。

 

 今までなら冗談か別の話題で逃げていただろう。

 

 けれど、名前がないまま呼ばれ続ける不便さも、さすがに積み重なっている。

 

 小さく息を吐く。

 

「シュテル」

 

 シエルがその音を確かめるように繰り返した。

 

「シュテル?」

 

「うん」

 

「それだけ?」

 

「それだけ」

 

「姓は?」

 

「なし」

 

「本名ですか?」

 

「……偽名」

 

「認めるんですか」

 

「本名だって嘘ついても仕方ないだろ。呼べるならいい」

 

 こうして、ようやく名前だけは得た。

 

 そして。

 

「次、嬢ちゃんのD・ホイール作るか」

 

「私の?」

 

 普通のD・ホイールではシエルにとって大きすぎる。身体能力、反応速度、姿勢制御の高さを活かすには、マシンに身体を合わせるより身体にマシンを合わせる方がいい。

 

「D・ホイールから『乗るための部分』を減らして、身体へ直接固定する」

 

 試作を重ねる。

 

 最終案。

 

 細身の装着型D・ボード。

 

 左右に小型推進ユニット。

 

 後部に二基のブースター。

 

 下面に小型車輪。

 

 高速域では可変翼。

 

「完全には飛ばない?」

 

「完全な反重力ではありません。高速走行で揚力を作り、接地荷重を減らします」

 

「ジャンプ後は?」

 

「短時間、低空滑空できます」

 

「やっぱ飛ぶじゃん!」

 

「滑空です」

 

 

 試走当日。

 

 テストコースの路面にはまだ朝の冷たさが残っていた。

 

 シエルは細身のボードへ両足を固定し、腰部ハーネスを確認する。通常のD・ホイールのような大きな車体はない。身体の下にあるのは、推進器と可変翼を詰め込んだ一枚の装備に近い。

 

 起動。

 

 足元から低い振動が返ってくる。

 

 シエルが身体を倒す。

 

 それだけで、ボードがほとんど遅れなく旋回へ入った。

 

 ハンドルを介さない。身体の重心移動そのものが操舵になる。

 

 高速域で可変翼を展開。

 

 高速域へ入ると可変翼が開き、路面から伝わる細かな振動が急に薄くなる。

 

 前方の小さな段差。

 

 シエルは減速しない。

 

 ボードが路面を離れた瞬間、左右翼の角度を調整。後部ブースターが短く噴き、落ちるはずだった軌道がわずかに前へ伸びる。

 

 一秒。

 

 二秒。

 

 三秒。

 

 路面すれすれを、影だけが追いかけていた。

 

「飛んでる」

 

 シュテルが呆然と呟く。

 

「滑空です」

 

「いや、今のは飛んでるだろ」

 

「滑空です」

 

「絶対譲らない!」

 

「絶対譲らない!」

 

 ライディングデュエルでは両手が自由。カード操作にも向いている。

 

 一般人向け制限モードは最高出力40%。

 

 シエルモード100%。

 

「そのモード名誰が決めたの?」

 

「僕」

 

「ブルーノだった」

 

 テスト終了後。

 

「改善点は三つ。高速旋回時の左ブースター制御。着地直前の翼角。そして――もう少し速くできます」

 

 遊星とブルーノの目が同時に輝く。

 

「やろう」

 

「やろう!」

 

「誰か止めろ!」

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