シエルカウンター。
もちろん、正式なルールでもカード効果でもない。
ただ、シュテルが未来について口を滑らせたり、明らかに何か知っているのに誤魔化したりするたび、シエルが静かに積み上げてきた「貸し」である。
シュテル本人は、途中から数えるのをやめていた。
シエルはやめていなかった。
ある日。
「そろそろ使いましょうか」
「何を?」
「貸しです」
「…………忘れてなかった?」
「忘れる理由がありません」
シエルは指を立てる。
「5D'sという名称を不用意に口にした件。未来知識を何度も口走った件。私のデッキを知っている理由を誤魔化した件。『作品』という言葉を不用意に使用した件。その他諸々」
「最後雑!」
「合計、シエルカウンター5です」
「いつ名称決まったの!?」
龍亞が食いつく。
「どうやって増えるの?」
「シュテルが余計なことを言うと増えます」
「分かりやすい!」
「分かりやすくない!」
そこでシエルは、机の上にあった一枚のカードへ手を伸ばした。
《Sp-カウントアップ》。
表情はいつも通り。
なのに、カードを持つ指先だけが妙に迷いなく、シュテルは嫌な予感を覚えた。
「貸しを一つ消費」
「うん?」
「代わりにシエルカウンターを二つ増やします」
一瞬。
ガレージが静まり返った。
「効果改竄するな!」
「現在6です」
「増えた!?」
酒を買いに逃げようとすれば。
「シエルカウンター、プラス1」
「なんで!?」
「改善したと思っていました」
《Sp-サモンクローズ》を取り出し。
「このターン、シュテルはガレージ外へ特殊移動できません」
「ただの外出禁止じゃん!」
「通常移動も駄目です」
「効果より強くなってる!」
貸しの使用内容。
一週間、飲酒量半減。
D・ボードの実走テスト。
ライディングデュエルの対戦相手。
「何で俺が」
「シエルカウンター消費です」
◇
翌日の試走。
シュテルが借り物のD・ホイールへ跨がる一方、シエルは自分のD・ボードへ乗る。
テスト開始直前。
シエルが、わざわざ一枚のカードを見せた。
《Sp-オーバー・ブースト》。
効果を使うわけではない。
ただ名前を悪用しただけだった。
後部ブースターが点火し、シエルの身体が一気に前へ飛び出す。
「これテストだよね!?」
「追走データを取得しています」
「絶対楽しんでるだろ!」
「違います」
「嘘だ!」
「シエルカウンター、プラス1」
ライディングデュエルでもシュテルのモンスターを《ウィドウアンカー》で奪い。
「それ返して?」
「嫌です」
「即答!?」
通信越しの声はいつも通り淡々としている。
けれど、横へ並んだ一瞬。
シュテルには見えた。
シエルの口元が、ほんの少しだけ上がっている。
普段なら見逃す程度の変化だった。
だからこそ、間違いなく楽しんでいる。
最後はリンケージ、ゼロ、レイ、ロゼ、ハヤテまで繋いで勝利。
ベンチで疲れるシュテル。
「今日、楽しかった?」
「……少し」
「認めた!」
「少しです」
「いつも真面目なんだから、たまには悪ノリしても。俺が被害受ける範囲なら」
「ではシエルカウンター、今後も維持します」
「そこは廃止して!」
「嫌です。便利なので」
その日から、シュテルはシエルの前で余計なことを言わないことが非公式ルールになった。