白翼のシエル×5D's   作:シュテル・ルシフェル

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第2話 そのシンクロ、成立させません

 

 

 デュエルが終わると、道路に浮かんでいたホログラムが一つずつ消えていった。さっきまで怪物が立っていた場所には、いつものアスファルトと街灯だけが残っている。

 

 シエルは手元のカードを一枚ずつ揃え、まだ慣れないデッキケースへ収めようとした。

 

 初めて扱ったカード。初めて聞いた召喚法。それでも勝てた。

 

 なら、次はもっと正確に扱える。

 

 そう思った、そのときだった。

 

「……あ」

 

 背後で、飲んだくれの男が呟いた。

 

「そういや嬢ちゃん。さっきの戦い、実は前のターンで勝てたんだよなぁ」

 

「…………何ですか?」

 

「前のターンで終わってた」

 

「なぜ終わった後に言うんですか」

 

「初心者に全部教えたら身につかんだろ?」

 

「アドバイザーを名乗りましたよね?」

 

 男は墓地のカードを指す。

 

「《エンゲージ》。次に《アフターバーナー》。《カガリ》から《ハヤテ》。そのあと《リンケージ》」

 

「……《ハヤテ》を墓地へ送る」

 

「出すのは?」

 

「《閃刀姫=ゼロ》」

 

「正解。ただしゼロのサーチ効果は使うな」

 

 シエルは《ゼロ》のカードテキストへ視線を落とした。

 

 攻撃力二〇〇〇。

 

 そして、もう一つの効果。

 

 盤面を頭の中で巻き戻す。ハヤテの直接攻撃。リンケージによる換装。ゼロの攻撃。その後に自身をリリースすれば、レイとロゼが並ぶ。

 

「ゼロで攻撃。その後、自身をリリース。《レイ》と《ロゼ》を一体ずつ特殊召喚」

 

「はい、終わり」

 

 シエルの指先が宙で止まる。

 

「ハヤテ一五〇〇。ゼロ二〇〇〇。レイ一五〇〇。ロゼ一五〇〇……合計六五〇〇」

 

 計算が終わった瞬間、胸の奥に小さな引っ掛かりが生まれた。

 

 勝ったことへの満足ではない。

 

 見えていた勝ち筋を、自分が見落としたことへの悔しさだった。

 

「四千ライフなら過剰火力」

 

「……悔しいです」

 

「初デュエルだぞ?」

 

「もっと早く理解できたはずです。次は見落としません」

 

「負けず嫌いだねえ」

 

 そのとき、遠くから低いエンジン音が近づいてきた。

 

 赤いD・ホイールが滑るように減速し、二人の前で停まる。熱を帯びたエンジンからかすかな金属臭が漂い、ライダーは片足を地面につけると、ヘルメットを外した。

 

 黒い髪。頬のマーカー。そして、状況を急いで決めつけることなく、まず観察しようとする落ち着いた目。

 

 青年が名乗る。

 

「不動遊星」

 

「シエル・アークライトです」

 

 遊星はリンク召喚に興味を示し、成り行きでデュエルとなった。

 

 シエルの先攻。

 

《エンゲージ》から《ホーネットビット》、カガリ、再びエンゲージ。さらに《リンケージ》から《閃刀姫=ゼロ》。

 

 伏せは《ウィドウアンカー》《レムニスゲート》。

 

「今度は攻め方じゃない。守り方を覚えろ」

 

「相手が完成させた化け物を殴り倒すのではなく、完成する前に止める」

 

「正解」

 

 遊星のターン。

 

「《ジャンク・シンクロン》を召喚! 効果で墓地の低レベルモンスターを――」

 

「嬢ちゃん。今」

 

 男の声に合わせて、シエルの視線が盤面を走った。

 

 ジャンク・シンクロンそのものは脅威ではない。問題は、ここから墓地のモンスターを引き上げ、シンクロ素材を揃えること。

 

 なら、止めるべきは完成したシンクロモンスターではなく、この一手だ。

 

 伏せカードを開く。

 

「《Sp》ではありませんが――《閃刀機-ウィドウアンカー》」

 

 鋭い機械音とともに青白いアンカーが射出され、ジャンク・シンクロンへ絡みついた。

 

「対象は《ジャンク・シンクロン》。その効果をターン終了時まで無効にします」

 

 墓地から立ち上がりかけていた光が、糸を切られたように消える。

 

 墓地魔法が三枚以上なのでコントロール奪取も可能だった。

 

「取るな」

 

「なぜですか?」

 

「閃刀魔法はメインモンスターゾーンが空いてる方が動きやすい。奪えるから奪う、じゃない。必要なものだけ使え」

 

「分かりました」

 

 遊星は《ボルト・ヘッジホッグ》を墓地から特殊召喚。

 

「レベル2のジャンク・シンクロン、レベル2のボルト・ヘッジホッグ――」

 

「まだ。シンクロさせるな」

 

「素材が揃った瞬間に崩す」

 

「そう」

 

 二体が揃った瞬間、遊星の呼吸がわずかに変わった。次の宣言が何かは、もう分かる。

 

 シエルはシンクロ召喚の口上が始まるより先に伏せカードへ触れた。

 

「《閃刀亜式-レムニスゲート》」

 

 墓地の閃刀姫と閃刀魔法が光となり、デッキへ戻っていく。その代わり、場を駆け抜けたリング状の光が《ジャンク・シンクロン》を包み、その姿を遊星の手札へ押し戻した。

 

 フィールドに残ったのは、チューナーではないボルト・ヘッジホッグだけ。

 

「チューナーがいない。シンクロ召喚は成立しません」

 

 遊星の動きが止まる。

 

「出されてから対処するのではなく、出させない」

 

「それがコントロールデッキだ」

 

 しかもゼロはまだ残っている。

 

「自分・相手ターンに自身をリリース。レイとロゼを特殊召喚し、一枚破壊」

 

「二回止められたうえに、まだ妨害が残ってるのか」

 

「そのようです」

 

「他人事みたいに言うなよ」

 

「今日初めて使っていますので」

 

 遊星はターンを終える。

 

 シエルの口元がほんの少し緩む。

 

「楽しくなってきただろ?」

 

「別に」

 

「その顔は?」

 

「どういう顔ですか」

 

「勝ち筋見つけたときの顔」

 

「……知りません」

 

 男は笑った。

 

「ちなみに、ここからも殺せる」

 

「先に言ってください」

 

「自分で考えろ」

 

「アドバイザーですよね?」

 

「教育方針だ」

 

 遊星は二人を見ながら静かに思う。

 

 ――この少女より、後ろの酔っ払いの方が何者なんだ?

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