短い休憩を挟んだあと、遊星はもう一度デュエルディスクを構えた。
さっきの一戦は、シエルにとってルールを覚えるための実地訓練に近かった。今度は違う。遊星もまた、目の前の未知のデッキがどこまで動くのかを確かめようとしている。
「今度は俺が先攻でいいか?」
「はい」
シエルも自然にデッキを差し込む。最初のときにあった戸惑いは、もうほとんど消えていた。
「じゃあライフ八〇〇〇でやろうぜ」
男が割り込んだ。
「なぜ?」
「四〇〇〇じゃ火力を見せる前に相手が死ぬ」
「物騒な説明ですね」
遊星は《スターダスト・ドラゴン》を立て、二枚伏せる。
シエルの後攻。
「じゃ――真の閃刀姫の火力ってやつと、妨害の多さ。ついでにドローソースってやつを見せてあげるよ」
「誰にですか」
「二人に」
六枚の手札を扇状に広げる。
《絢嵐たる見神》。
《禁じられた一滴》。
《閃刀起動-エンゲージ》。
《閃刀起動-リンケージ》。
《コズミック・サイクロン》。
そして、このターンのドロー。
シエルは一枚ずつ効果を読み直し、相手の盤面と照合した。スターダスト・ドラゴン。伏せカード二枚。正面から力比べをする必要はない。先に相手が使える選択肢を削ればいい。
「まず相手の妨害を剥がす。手札を増やす。墓地に魔法を貯める。それ全部やったあと、そのまま殺しに行ける」
「最後だけ説明がおかしくありませんか」
「気のせい」
《コズミック・サイクロン》。
LP1000を払い、遊星の伏せ《くず鉄のかかし》を除外。
「破壊ではなく除外。スターダストでは止められない」
次に《絢嵐たる見神》。
「二枚ドロー。その後、手札から速攻魔法《リンケージ》を墓地へ」
墓地へ落ちたカードを確認する。
《コズミック・サイクロン》。
《絢嵐たる見神》。
《リンケージ》。
三枚。
閃刀姫にとって、その数字はただの枚数ではない。ここからカードの性能そのものが一段上がる。
「すでに魔法三枚」
シュテル――まだその名を名乗っていない男が、楽しそうに促した。
「そして三枚になったら?」
「《エンゲージ》」
シエルの返答に迷いはなかった。
《ホーネットビット》をサーチし、さらに一枚ドロー。
「使ってるのに手札が減りにくい」
遊星が呟く。
「それがエンジンだ」
《禁じられた一滴》。
スターダストの効果を無効にし、攻撃力を半減。
さらに《アフターバーナー》でスターダストを破壊し、墓地魔法三枚以上の追加処理で残った伏せカードも破壊。
「はい、更地」
「容赦がありませんね」
「やったのお前だろ」
《ホーネットビット》からカガリ。
墓地魔法の数だけ打点が上がり、《リンケージ》を回収。
バトル。
カガリで2100。
《リンケージ》から《閃刀姫=ゼロ》へ換装し2000。
ゼロはサーチを使わず、攻撃後に自身をリリース。
《レイ》《ロゼ》を展開。
レイ1500、ロゼ1500。
レイをリリースして《ハヤテ》1500。
「総打点8600です」
「几帳面だねえ」
『LP 0』
遊星はしばらく動かなかった。
「……まだ手札があります」
「だろ?」
「《見神》で増やして、《エンゲージ》でも増やしたため……」
「使いながら次を引く。墓地へ送った魔法も再利用する」
デュエルディスクの残光が消えていく。
シエルは手札と墓地を見比べた。相手の盤面を空にし、八〇〇〇を削り切り、それでもなお手札には次の行動が残っている。
改めて考えると、妙だった。
「……おかしくありませんか?」
「何が?」
「コントロールデッキですよね?」
「うん」
「妨害が多い。除去も多い。手札も増える。墓地の魔法が増えるほど強くなる。八〇〇〇を一ターンで削れる」
「これがコントロールデッキの殺意だよ」
「殺意」
「相手が何もできなくなった瞬間に終わらせる。長期戦が得意だからって、長期戦しなきゃいけない理由はない」
「戦闘でも同じですね」
「そう」
「合理的です」
遊星は男へ視線を向ける。
「どうしてあんたは、こんなカードを全部知ってる?」
シエルも追撃する。
「《ウィドウアンカー》《レムニスゲート》《ゼロ》《見神》《リンケージ》……あなた、本当に何者ですか?」
「…………」
男は少し黙り。
「いいデュエルだったな」
「話を逸らさないでください」
「腹減ったな」
「逸らさないでください」
シエルが袖を掴む。
「逃げないでください」
「捕まったな」
遊星が笑った。