デュエルが終わったあとも、遊星の疑問は消えていなかった。
むしろ増えている。
リンク召喚そのものを知らない世界で、目の前の男だけが召喚条件もカード効果も攻撃順も把握している。偶然や勘で片づけるには、知識が具体的すぎた。
遊星は男へ問い直した。
「あんたはどうして、シエルのカードを知っている?」
「ああ。知ってるよ」
「認めるんですか?」
「そこ隠しても仕方ないだろ」
男は《レイ》《ロゼ》《エンゲージ》《リンケージ》《ゼロ》《レムニスゲート》《絢嵐たる見神》まで知っていると素直に認めた。
「俺がいたところじゃ普通に知られてるから」
「遊星のカードも?」
「知ってる。ジャンク・シンクロンもスターダストも」
そして少しだけ迷い。
「俺がいたところでは、この世界のことを《遊戯王5D's》って呼んでた」
「ファイブディーズ……?」
「まあ、物語の名前みたいなもんだと思ってくれ。俺の側から見れば、な」
遊星の表情が変わる。
男は遊星、ジャック、クロウ、アキ、龍亞、龍可、牛尾まで知っていた。
そこまで話したところで、男の表情から急に軽さが消えた。
何かを思い出した、というより。
今になって、自分が確認していなかった致命的な前提へ気づいた顔だった。
「…………待てよ」
「?」
男が遊星をまっすぐ見る。
「遊星。ちょっと聞いていい?」
「ああ」
「……今って、どの事件まで起きてる?」
「事件?」
言いかけて、男は口を閉じる。
「これ、下手に固有名詞出したら未来のネタバレになるな」
独り言にしては、あまりにも物騒だった。
遊星の目が細くなる。
シエルもまた、男の言葉を冗談として処理しなかった。これまでの異常な知識量を考えれば、少なくとも本人の中では整合している可能性が高い。
「未来?」
未来に起きる出来事も知っているのか、と遊星が問う。
「全部じゃない。一部は知ってる」
「なら教えてくれ」
「駄目」
「何故だ」
「未来を知って行動変えたら、俺の知ってる流れそのものが壊れるかもしれない。俺は未来予知してるわけじゃない。俺が知ってるのは、あくまで俺の知ってる5D'sだ」
シエルも頷く。
「情報を与えることで、既知の未来そのものが観測不能になる」
「そういうこと」
「ですが、必要な危険情報まで黙るのが合理的とは限りません」
「そこなんだよなぁ」
現在位置を確認する。
「サテライトとシティはもう繋がってる?」
「ああ」
「フォーチュンカップは?」
「終わった」
「ダークシグナーは?」
遊星の目が変わる。
「戦いは終わった」
「ゴドウィンも?」
「知っているのか」
「知ってる」
男は息を吐く。
「じゃあ、そこまでは終わってんのか」
さらに。
「WRGPって単語、聞いたことある?」
「WRGP?」
「はいストップ。その反応で分かった。まだそこまで進んでない」
「今の言葉は何だ」
「忘れろ」
「無理だ」
「だよなぁ」
シエルが呆れる。
「自分から言っておいて何をしているんですか」
「事故」
「あなたの注意不足です」
男は現在を「ダークシグナー事件後、次の大きな流れの前」と推測する。
「一番面倒な時期に落ちてきた可能性あるな」
「何が起きる?」
「言わない」
そこへシエル。
「既に私という、本来存在しない要素が入っています。私が一番大きなイレギュラーです」
「存在してる時点でしてる」
「あなたも同じでは?」
「…………そうだな」
遊星は二人を見て。
「しばらく俺のところに来ないか」
「いいのですか?」
「ああ。ここで放っておく方が危ない」
「主にどっちが?」
「両方だ」
遊星の申し出に、シエルは一度だけ周囲を見回した。
帰還方法は分からない。土地勘もない。治安組織には既に目を付けられている。
選択肢としては、十分すぎるほどありがたい。
「お世話になります」
短く頭を下げる。
こうして二人は、遊星の生活圏へ入り込むことになった。
この時点ではまだ、ガレージの設計図を書き換え、食生活を改善し、コーヒーの商品まで作ることになるとは、シエル自身も想像していなかった。