白翼のシエル×5D's   作:シュテル・ルシフェル

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第7話 メンテナンス対象は人間もです

 

 

 数日が経つころには、最初の設計図はほとんど原形を留めていなかった。

 

 シエルが全体の負荷を見て方向を示し、遊星が実際に作れる形へ落とし込み、男が未来を知っているがゆえの妙に鋭い注文を挟む。

 

 紙の上では一見小さな変更でも、別の部位へ連鎖する。

 

 フレームを変えれば振動が変わる。振動が変われば固定方法が変わり、配線経路が変わり、整備性まで変わる。

 

 積み重なった結果、もはや「試作」という言葉で済ませるには、最初の案から離れすぎていた。

 

「当初案から構造変更率が四割を超えています」

 

「もう別物じゃねえか!」

 

「そうとも言える」

 

 遊星は楽しそうだった。

 

「一つ強くするんじゃなく、全体の負担を減らす。その方が結果的に長く高性能を維持できる」

 

 男が横から言う。

 

「それ、マシンだけじゃなくて人間にも言えるよな」

 

 遊星が止まる。

 

 その日の夜。

 

 壁の時計は、午後十一時五十八分を指していた。

 

 ガレージには工具が金属へ触れる乾いた音と、冷却ファンの低い唸りだけが残っている。普通なら、とっくに切り上げていい時間だ。

 

 遊星だけは、まだ次の部品へ手を伸ばした。

 

「よし。次は――」

 

「終了です」

 

 即座にシエルの声が飛んだ。

 

「まだ二分ある」

 

「二分で何をするつもりですか」

 

「寸法だけ測る」

 

「測ったら設計図を確認、そのあと加工、仮組み。気づいたら午前三時です」

 

「……否定できない」

 

「では終了です」

 

 さらに食事。

 

「昼に食べた」

 

「何を?」

 

「パン」

 

「何個ですか」

 

「……一つ」

 

「朝食は?」

 

「コーヒー」

 

「それは飲み物です」

 

「昨日の夕食」

 

「……忘れた」

 

「食べていませんね?」

 

 男が顔を上げる。

 

「お前さぁ。俺でももうちょい食うぞ」

 

「あなたは酒のつまみを食事に数えないでください」

 

 シエルは遊星へ。

 

「食事を抜いて作業するのは禁止です。身体機能、判断力、集中力が落ちます。作業精度も下がり、事故率が上がります」

 

「……分かった。食べる」

 

 それから、昼食時間、睡眠、野菜まで管理される。

 

「休め、食べろだけなら多分聞かなかった。でも集中力が落ちた状態で整備する方が結局時間を無駄にする。睡眠を削った翌日は判断に時間がかかる。食事を抜いた日は手元も鈍る」

 

「気づきましたか」

 

「ああ。今まで気にしてなかった」

 

「そうかもな」

 

 それから一週間。

 

 変化は思った以上に早かった。

 

 遊星は朝食を食べるようになった。昼になれば作業を切り上げ、夜も日付が変わる前後には工具を置く。睡眠時間は七時間前後。

 

 作業時間だけを数字で見れば減っている。

 

 だが、翌日にやり直す箇所も、手元の小さなミスも、明らかに減っていた。

 

「遊星が健康的になってる……」

 

「失礼だな」

 

「でも作業時間が減ったのに進捗は上がってる」

 

「やり直しが減ったから、結果的に早い。休む方が速くなることもあるんだな」

 

「限界状態での連続稼働が、常に最高効率とは限りません」

 

 男がシエルを見る。

 

「それ、シエル自身にも言えるんじゃない?」

 

「…………今は遊星さんの話です」

 

「逃げた」

 

「逃げていません」

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