ふわふわぶーちゃん大冒険記!   作:輝波斗

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ぶーちゃん、おつかいがんばる!

「あ」

「どうしたんだ?」

 サトコが困ったような声を出して、ゲントが首をかしげます。

「リンゴ買ってくるの忘れちゃった……ジュンに帰ってきたらおやつはアップルパイって約束してるのよ」

「俺が買いに行ってくるよ」

「ほんと?ごめんね、お願い」

 ゲントがお出かけの準備を始めたのを光の中からぶーちゃんが見ていました。

(ゲント、お休み。サトコと一緒の時間大事)

 ぶーちゃんが大きな光に、はいっと元気にお手々をあげます。

 大きな光が頷いて、ぶーちゃんをゲントの手の中に送ってくれました。

「ブレーザー?どうしたんだ?俺は少し買い物に行ってくるけど、どうする?」

 ふわふわぶーちゃん、珍しくムスッとしたお顔でゲントのオサイフを取り上げます。

 ぶーちゃんは物知りなので、これがないとゲントがお外にでられないことを知っています。

「あ、おい、ブレーザー?それ返してくれ、な?」

 ぶーちゃん、ぷいっとそっぽを向きます。

「ブレーザー?」

 ぶーちゃんはきょろきょろ。いつもお買い物で使う袋を探します。えこばっく、というそうです。

 持ち手の大きな輪っかに体を通してふわふわ浮いているぶーちゃんはゲントのオサイフにぎゅーってしがみつきます。

「ブレーザーも一緒に行ってくれるか?」

 ところが、ぶーちゃんはイヤイヤと頭を振ります。てっきり一緒に行ってくれるのかと思っていたゲントは思わぬ反応にちょっとショックです。

「お留守番するか?」

 それにもイヤイヤ。ぶーちゃんが何を考えているのかよく分からなくて、ゲントは困ってしまします。

「どうしたんだ、ブレーザー」

 ぶーちゃんの体には大きなエコバックを外してあげようと手を伸ばせば、ぶーちゃんはふわふわと逃げてしまいます。

 ぶーちゃんは察しの悪いゲントは放っておいて、サトコのところにふわふわふわ。

「あら、ぶーちゃん。お買い物の準備ばっちりね。行ってくれるの?」

 サトコの言葉に、ぶーちゃんは元気いっぱいに、うんっと頷いてふわふわ浮いたまま胸を張ります。そして、任せて!と胸を叩きました。そのはずみでエコバックがひらりと床に落ちてしまい、ぶーちゃんは慌ててエコバックを拾ってもう一度肩にかけます。

「まさかブレーザー、一人で行くつもりか?」

 うんっともう一度頷きます。ぶーちゃんはいつもゲントがお買い物をしているのを見ているのできっとできるのです。欲しいものを持っていって、オサイフからぺらぺらの紙を取り出して渡します。硬くて丸いものが返ってきたらオサイフに戻します。とっても簡単、これならぶーちゃんにもできそうです。

「いや、さすがに一人で買い物は難しいんじゃないか?」

 ゲントは心配性です。ぶーちゃんだってお買い物くらいできるのに。なので、できないというゲントには正義の鉄槌ふわもふぱんちをお見舞いします。もちろん痛くはありません。とっても怖い(つもりの)お顔でぽふんっとするだけです。

「えぇ……」

 なんで怒るの……という顔をしているゲントにもう一度、胸を叩いて見せるぶーちゃん。

 どうしようか……と少し悩んだけれど、ゲントは分かった、と頷いてくれました。

 ぶーちゃんはお仕事を任せてもらえて大喜び、がんばるぞ!とフンフンしています。

「まったく……気をつけていってくるんだぞ」

 さすがにカードだの何だの入っているオサイフをぶーちゃんに渡すわけにもいかないので、小さな巾着にお金を入れてオサイフと交換。その巾着もぶーちゃんと合わせると少し多いかもしれません。

「いいか、ブレーザー。リンゴを買ってくるんだ。赤くて、丸くて、甘いやつだぞ」

 ゲントの言葉にふんふん頷いてぶーちゃんは、わかった!と頷きます。

(赤くて、丸くて、あまーい)

 想像してニコニコ。

「ブレーザー、食べるのは我慢でちゃんと持って帰るんだぞ」

 うんうんと頷くぶーちゃんを心配そうにしながら、ゲントが送り出してくれます。

「気を付けてな」

 お手々をぶんぶん振って、ぶーちゃんはいざお買い物へ。

 いつもゲントがお買い物するお店はすかーどのおうちとゲントのおうちの間にあります。だから、道に迷うなんてことはありません。

 すいすい道を抜けてお店に到着。

 キラキラピカピカの野菜や果物、美味しそうなものがたくさん並んでいます。

(おいも、はっぱ、はっぱ、ねっこ、はっぱ……緑の長いの、白くて丸いの……)

 ふわふわきょろきょろ。

 おいもはぶーちゃんも知っています。美味しいおいもを食べたことがあるからです。

(あかーくて……まるーくて……あまーいの……)

 うーん……とぶーちゃんは考えます。

 ぶーちゃんは前に見たことがあります。赤くて、丸くて、皆が甘いと喜んでいたものを。こっそり食べたかったけど、まだブレーザーからぶーちゃんが生まれる前でしたから、食べたいなぁ、と思っていたものです。

 きっとあれがリンゴです。

 どこかな、どこかな。一生懸命探します。

 赤いものを見つけました。でも、長い緑色の葉っぱが生えているし、丸いというよりハートみたい。

 これじゃないなぁ、と通り過ぎます。

 次の赤いものは、なんだか甘い匂い。でも、赤の中にちょっとだけ黄緑色や黄色が見えます。甘い匂いと丸い形は合っているけど、どうだろう。でも前に見たものとは違います。それに、ちょっと固いのです。

 ぶーちゃんは甘い匂いに心惹かれましたが、それでも買うのは前に見た、赤くて丸いもの。これじゃないかぁ、と通り過ぎます。

 次に見つけた赤いもの。これも甘い匂いがしますが、探しているものより小さいし、なんだかツブツブしたものか付いています。何より丸くなくて、三角形や四角形に近い気がします。これも違うのかなぁ。

 もっともっと探します。

 とうとう見つけました。赤くて、丸くて、甘いもの。

 でもその隣には、あれれ?

 とっても似てるけど小さいものもあります。

 ぶーちゃんは首を傾げてしまいます。大きくて赤くて丸いものは前に見たものです。でも、ゲントやサトコが小さいものを欲しがっていたらどうしよう。

 うーん、うーんと考えます。

 でも、大きいものを買ったほうがたくさん食べられそう。

 よし!とぶーちゃん、赤くて丸くて甘い、大きいものを持っていくことにしました。

 うんしょ、うんしょと頑張って、赤くて丸いものを持ち上げてふよふよ。

 その途中で、どうしてもあの甘い匂いが気になって、赤くて黄色くて丸くて固くて甘い匂いのするものも一緒に持ち上げます。

 油断したら落っことしてしまいそうですが、大きな袋を2つ、ゲントがオサイフを取り出す機械のところまで持っていきます。

 うんしょ、うんしょ。

 台に2つの赤くて丸くて甘いのを置いて、巾着を開きます。ふわふわお手々を巾着に突っ込んで、ペらぺらの紙を一枚。

 台の向こうのニンゲンが、「ぶーちゃん、お遣い偉いねぇ」と褒めてくれて、ぶーちゃんとっても得意げです。

 紙を渡すと、丸くて固いものを渡されました。それを巾着に入れ、無事にお買い物できた赤くて丸いものをエコバックに入れて、ぶーちゃんはふわふわ飛びます。

 ふわふわ飛んでいるはずなのに、どんどん地面が近づいてきます。

 危ない危ない。また空に向かって上に上がり、そしてまたどんどん地面が近づいてきます。

 地面にそーっと赤くて丸くて甘いものを下ろして、ちょっと休憩。

 ふぅ……。

 ゲントもサトコも、こんなに重いものを持っていたなんて!やっぱりぶーちゃんがいないと頑張り過ぎちゃうね、まったく。

 ちょっとプンプンしながら、ぶーちゃんはもう一度、うんしょ!と袋を持ち上げます。

 ゲントとサトコが待っています。早く帰らなくちゃ。

 それに、アップルパイ、というお名前はオヤツだって言ってました。おやつは甘いもの。ぶーちゃんはとっても物知りです。

 ワクワクしながら、うんしょうんしょと甘いものになる赤くて丸いものを運びます。

 固いものはきっとゲントたちは要らないだろうから、ご褒美にぶーちゃんが食べてみるのです。

 甘いといいなぁ、美味しいといいなぁ。

 アップルパイもご褒美も楽しみです。

 自然とニコニコしながら、うんしょ、うんしょとおうちに帰り着きました。

「ブレーザー、おかえり。よかった、ちゃんと帰ってこれたな」

 とっても心外。ぶーちゃんはお買い物ができる偉い子なのですから、おうちに、ゲントのところに帰って来るのは当たり前なのです。

 正義の鉄槌を下すためにも赤くて丸いものたちをサトコのところに持っていかなければいけません。

「重いだろう。買い物に行ってきてくれてありがとう、ブレーザー」

 重い袋をひょいっとゲントが持っていってしまいました。

 ありがとうって言ってもらえたので、正義の鉄槌は勘弁してあげることにしたぶーちゃんはとっても優しいのです。

「………ん?ブレーザー、これ、トマトじゃないか。リンゴも買ってあるけど」

 あ、いけない、ご褒美をもらわなくちゃ。

 ゲントたちが欲しがっているはずの赤くて丸くて甘いのとは違う、固いのに飛びつきます。

「ぶーちゃん、リンゴ好きなの?」

 サトコが聞いてくれます。

(…………リンゴ?)

 おかしいなぁ、リンゴは赤くて丸くて甘いのの名前です。つまり、あっちにある、前に見たことがあるもののはずなのです。

 赤くて丸くて固いのにぎゅっとしたまま、きょとんと首を傾げるぶーちゃん。

「……………ブレーザー、前に見たことがあるからこれをリンゴだと思ったのか?」

 違うの?とゲントを見上げるぶーちゃん。

 ゲントもサトコもくすくす笑っています。

「前にテルアキがくれたこれは、トマトだ、ブレーザー」

 トマト?リンゴじゃないの? 

「こっちがリンゴ」

 ガーン……という音が聞こえた気がしました。

 失敗しちゃった……。

 しょんぼりするぶーちゃんをゲントは手に乗せてくれます。

「リンゴもトマトも美味しいから大丈夫だ、ブレーザー」

「美味しいアップルパイ作るから待っててね。トマトは晩御飯に切ろうね」

 2人に励まされて、ぶーちゃんはそっと顔を上げます。

 間違えちゃったけど大丈夫?

 ニコニコしている2人に、ぶーちゃんもやっとニコニコ。

 サトコがアップルパイを作ってくれる周りをくるくるふわふわしながら待っていたぶーちゃんからは、あまーいリンゴの匂いがするのでした。

 もちろん晩御飯にはトマトも食べます。

 トマトも甘くて酸っぱくて美味しいのです。

 今日は美味しいがいっぱい。

 リンゴの匂いのぶーちゃんは、夢の中でもリンゴに囲まれるのでした。

 頑張ったぶーちゃん、とっても偉かったね。

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