TS転生なんかしたくなかった   作:害悪転生者

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そんな未来がありえたのだろうか?

 腕の中で、緑髪の少年が死んだ。

 獣耳の俺のメイドが死んだ。

 二人とも、穏やかな顔をしていた。

 俺の前世よりもまだ幼かった二人が、俺の為に、俺の身代わりになって、死んだ。

 

「…………あぁ……」

 

 二人の顔が、初めてよく見えた。

 獣耳のメイドは、そばかすが少し目立つ、美人ではない、愛嬌のある顔立ちだった。

 少しドジだったけど、これならきっとみんなに可愛がられていただろう。

 俺が拾って、これまでずっと仕えてくれた……可愛い可愛い妹分。

 

 でも死んだ。

 

「あぁ、あぁあ……」

 

 緑髪の少年は、やはり整った顔立ちをしていた。

 鼻も高くスッキリした目鼻立ちは、涼やかな印象を受けた。

 前世というズルをしている俺と同じ目線に立とうと、努力を惜しまず才能もあった、俺と違う天然の天才だった。

 一緒に過ごす時間は悪く……いや、とても、楽しかった。

 

 でも死んだ。

 

 俺が、殺した。

 

 手に、彼を貫いた時の肉の感触がずっと残っている。

 

 彼と違って、ただ面白半分で鍛えた俺の魔法が、彼を、殺した。

 

「あぁああああああああああ……」

 

 俺の、俺のせいで……。

 俺がいたせいで……。

 俺が……。

 

「あぁあああああああああああああああああ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「い、痛い……いだいよぉ……」

 

 腕の中で冷たくなっていく二人を抱えながら呆然としていると、そんな声が聞こえた。

 顔をあげれば、ピンク髪の女、恐らく転生者だろうミサキとかいう女が肩を押さえて踞っていた。

 彼の剣が肩に刺さったまま、だらだらと血を流している。

 華美なピンク色のドレスが赤く染まっていた。

 

 ……胸の奥で憎悪の炎が燃え上がるのを感じる。

 全部、こいつのせいだと、そう思った。

 こいつが、身勝手な行動をしたから、二人は……俺にとって大切だった二人は……。

 

ギリィッ

 

 噛み締めた奥歯が軋んだ。

 

「ひっ……!」

 

 女は怖がるような素振りで、一歩、後ろに下がった。

 それにあわせるように、周囲の兵士達は女を守るように俺を取り囲んでくる……。

 兵士だけじゃない、このに集められた人達も何処か覚束無い足取りながらも、俺のほうを向いているようだった。

 

「も、もういいわよ! あ、あんたなんかいら、いらないし、そいつらも、もついらないっ! ほら、みんな、あのクソガキをぶっ殺して! 早く、今すぐに!」

 

 この国の兵士達だけではなく、うちの兵士達も、そして誰もがなんらかの武器を構え出す。

 武器とは呼べないような食器や棒きれなんかもあった。

 

 ぐるりと四方を囲まれて……女は怯えた表情のまま、言葉を続けた。

 

「ヤれぇ!」

 

 一斉に此方に向かってくる、魅了された人達……。

 この人達に罪はない。

 けど、俺にこの人達が無事な状態で止める程の余裕はない。

 出来れば解放してあげたいけど、魅了された人達を解放するような方法は、俺にはない……。

 傷つけてまで、殺してしまうかもしれないのに無理矢理止めるくらいなら、死んでも良かった。

 ……少し前の俺なら。

 

「炎魔法【フレイムボム】」

 

 二人に助けられてしまった俺の命はもう……俺のものじゃない 。

 俺は、生きなきゃいけない。

 生き続けなければいけない。

 

「光魔法【ライト】」

 

 苦しい、痛い、倒れてしまいたい。

 死にたくて死にたくて仕方ない。

 今すぐ自分の臓腑に手を突っ込みかきみだしたい。

 

「魔法合成……」

 

 それぞれの手に宿した炎と光、それを体の前で混ぜ合わせる。

 

パンッ!

 

 閉じた手の中で、無理矢理混ぜ合わされた魔法が、新たな形となって作り出される。

 弾けろ、圧縮された光。

 

「【フラッシュ・バン】」

 

シュンッ

 

バァアン!《/big

 

 魅了された人達は俺の眼前にまで迫っていた。

 そんな彼らを、いや、この謁見の間の全てを圧倒的な音と光が埋め尽くした。

 

「きゃぁあああああああああああああああ!?」

 

 女の悲鳴だけが響く。

 光が収まった後、俺はここにいる全ての奴らが音と光で一時的に麻痺している事を確認し……もう一つ駄目押しさせて貰う。

 

「水魔法【ミスト】雷魔法【エレクトリック】」

 

パンッ!

 

 水と雷が、手の中で躍り狂う。

 霧が周囲に勢いよく散布され、謁見の間全体があっという間にしっとりと濡れた。

 

「目、目がぁ……痛い、冷たいぃっ……!」

 

 そして、そこに雷を解き放った。

 

「【ダンプ・スタン】」

 

《big》バリバリバリバリバリバリ!

 

「みぎゃぁああああああああああああああ!」

 

 稲光が部屋全体に広がり、全てを感電させた。

 直前に散布した水のおかげで、それはそれは通りが良かった事だろう。

 予想では体の自由を奪うくらいになると思っていたけど……所々で焦げたような臭いがした。

 もしかしたら、死んでしまった人もいるかもしれない……。

 

 ……まぁ、いいか、そんな事。

 

「あが、あががが……」

 

 それより。

 

 俺は、腕の中で冷たくなっていく二人を、ゆっくりと床に寝かせた。

 その顔にハンカチを乗せて……これからする事を見られないように。

 そして立ち上がって……ゆっくりと歩きだした。

 

カツン

 

カツン

 

カツン

 

 体を震わせる人々を避けて、床に倒れている女の元へと歩を進めた。

 こっちを見つめる女は、顔をひきつらせて体を起こそうとしたり、口を開こうとしていたが、痺れと痛みでまともに動けていなかった。

 

カツン

 

「ひっ……ぃ……」

 

 女が、体を震わせながら、もがく。

 少しでも俺から離れようと、無事な腕で床をかいて。

 でもその速度は体が痺れている事を差し引いても……話にならない程に遅い。

 

カツン

 

 ほら、もう追い付いた。

 

ドスッ

 

「うぎゃあああっ……!」

 

 女に刺さったままの剣を足で小突いてやれば、悲鳴をあげてその動きを止めた。

 荒い呼吸を繰り返して、肩に突き刺さったままの剣に無事な手を彷徨わせる女は……ひどく哀れだった。

 

「……それでも、俺はお前を許さない」

 

 そう呟きながら、その剣の柄を掴んだ。

 俺の行動に気付いたのだろう、女は顔を更に青褪めさせて俺を見上げてきた。

 それでも、俺のやることは変わらない。

 

「いっ……やぁあああああああああああ!」

 

ブシュッ

 

 そのまま、肩に足を乗せて、思い切り引き抜いてやった。

 途端に夥しい血が床に広がる。

 ドクドクと流れていく血に、女は顔をひきつらせていた。

 

カランカラン

 

 血にまみれた剣が、床に転がって音をたてた。

 

「いだ、いだぁっい……! なん、なんっでぇ……!」

 

 まだ視界もちゃんと戻ってないだろう、体が痺れて苦しいだろう、肩の傷が痛くて仕方ないだろう……。

 哀れで、情けなく、みっともない……人間らしい姿。

 油断すれば同情してしまいそうになりそうな程に……哀れな姿。

 

カツン

 

「ひっ、いや、いやっ! やだ、やだこないでぇ!」

 

 音をたてて近付けば、女は叫び、喚いている。

 ……いや、もう喚く事しか出来ない。

 彼女が魅了した兵士達はまだ暫く動けない。

 もうこいつに、抵抗する手立ては……ない。

 なら、後はもう……胸に渦巻く殺意のままに殺してやる。

 躊躇いを覚える前に。

 

「……一応、聞いておく」

 

 けど、最後に一つ、聞いておかなければならない事がある。

 

「お前、魅了された者を解放出来るのか?」

 

 魅了魔法は、治療出来ない魔法だ。

 頭の中を根本的に弄る魅了魔法を受けた者は、決して元に戻る事はない。

 そのせいで時の権力者などの頭をパーにする目的で、使われていた事があった。

 だからこその禁忌、使ってはいけない忌むべき魔法……。

 それを、この女は……知っているのか……?

 

「かい……ほう……?」

 

 その反応は、心底理解出来ない、そう言いたげな反応だった。

 

 ……ああ、わかった。

 その反応で、全てわかった。

 こいつは、魅了魔法を制御出来ていないし、する気もないし、理解すらしていない。

 当然、魅了したらそのまま……ずっと自分の奴隷としてしか見ていない。

 

 ……わかってしまった。

 魅了されてしまった彼等を救う事は出来ない。

 一時的にせよ心神喪失してしまう程の強い魅了魔法で頭をおかしくされた彼等は……もう元には戻れない。

 

 一緒に訓練した日々が頭に過る。

 これからも魔国を守り続けると誓っていた彼等の姿が浮かんでは消えていく。

 そんな彼等を、俺は誰一人救えない。

 

ゴウッ!

 

「ひいっ!」

 

 感情の昂りに呼応して、拳が燃え上がった。

 

ヒュゥウウウン

 

 風の音がして、左手に風が渦巻いた。

 

「いや、いやいやイヤァッ……!」

 

「炎魔法【インフェルノ】風魔法【トルネード】」

 

 荒ぶる二つの魔法を制御し、包み込み、重ね、混ぜ合わせる。

 

「おねがい、たすけて……ころさないで……!」

 

パンッ!

 

「魔法合成……【ヘル・テンペスト】」

 

「やだ、やだぁあああ……!」

 

 往生際悪く、未だに足掻く女を見下ろす。

 一度目を伏せて……重ねた手の中で荒ぶるそれを、解き放った。

 

「死ね」

 

ゴォオオオオ

 

「い、いや……死にたくない……! まだ私全然楽しんでない……!」

 

ゴォオオオオオオオ

 

「折角、折角転生したのに……これから、みんなに愛されて、楽しいこといっぱいして、今度こそ人生を満喫するの……! 死にたくない、死にたくないよぉ……!」

 

ゴォオオオオオオオオオオオオ!

 

「誰かっ、助けっ」

 

ゴォオオオオオオオオオオオオオオオオ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 炎の竜巻が、謁見の間を焼き焦がしていた。

 その中心にはかつて女だった炭の塊が、未だに燃え盛っている。

 肉の焦げた臭いが辺りに広がっていった。

 

 炎の竜巻の前に立つ少女、魔国の姫レイチェルは、それを無感情な瞳で見つめていた。

 自分が生み出した全力の魔法、魔法合成という転生特典を使った極大の魔法。

 その結果は、人を容易く炭化させる程の威力をもつ凄まじい魔法となっていた。

 それを少女は小さく納得したように頷いて。

 

「うっ…………おげぇえええええ……」

 

ビシャビシャビシャ

 

 込み上げてくるものに耐えきれず、その場で嘔吐してしまった。

 赤い血混じりの吐瀉物は、炎の竜巻によってあおられ、あっという間にじゅうじゅうと音をたてて蒸発していく。

 吐瀉物の独特のすっぱい臭いが少女の鼻を刺激し、肉の焼けた臭いと混ざってひどい臭いとなり、再び少女の口からは吐瀉物が吐き出される事となった。

 

 吐き出されるのが胃液と血だけになっても、その奥から湧き出てくるように吐き気は止まらなかった。

 

「はぁ……はぁ……」

 

 荒い息を吐きながらレイチェルは口元を拭う。

 辺りは炎の竜巻が引き起こす熱によって既に相当な暑さであり、少女の額から汗が溢れだしていた。

 それが暑さによるものだけなのかは、少女にしかわからない。

 

 炎はミサキと名乗った女を確かに焼き焦がし続けているが、それだけでは終わらない。

 というより、ミサキに魅了された者達が身動きもろくにとれないままに、炎の竜巻に自ら身を投げ続けているのだ。

 そのせいで、炎の竜巻は勢いを弱める事なく燃え続けていた。

 術者であるレイチェルを巻き込む事こそないが、既に制御は離れていて止める事も出来ない。

 全力で放ったせいで止めるような魔法も使えない。

 何よりも、周囲の魔法粒子も巻き込んで燃え続けているせいで、他の魔法もまともに使えない。

 

「………………」

 

 自らが放った魔法によって、後先考えずに使った魔法によって、幾人もの人間が燃えて、死んでいく。

 その光景にレイチェルは胸をおさえた。

 

「はぁ……はぁ……はぁっ……!」

 

 自分が巻き起こしている惨劇に、息が荒くなる。

 人が燃える臭いが、呻き声が、レイチェルを苛み続けた。

 燃え盛る竜巻が人を燃やし続けるその光景は、まさに地獄だった。

 

 ポタリとレイチェルの顔から汗が滴り落ちる。

 床に落ちた滴はそのまま熱せられ、ジュッと音をたてて蒸発していった。

 そこで、ハッとレイチェルは振り返った。

 この謁見の間の全ての温度が高まり続けている事に気付き、このままではあの二人の亡骸も危ないと。

 

 体は痛みや吐き気を絶え間無く訴え続け、暑さに加えてこの短時間での精神的疲労で、まだ体が出来上がっていないレイチェルの体は限界が近かった。

 それでも、と言うことの聞かない体に鞭をうち、二人の亡骸の前に立った。

 

 そして手を伸ばして口を開いた時……少女の口からは言葉が出てこなかった。

 何度かパクパクと開閉した口は何の言葉も発する事なく、ゆっくりと閉じていった。

 レイチェルは俯き、口を引き結んで、なけなしの魔力で氷属性の身体強化を身に纏った。

 万全の時とは程遠い状態なれど、子供二人を抱えるくらいは出来る。

 二人を抱え込み、ついでに血に濡れた少年の剣も拾い上げ、レイチェルは体を起こした。

 

 振り返った視界には、未だに燃え盛る炎の竜巻。

 そこに飛び込んでいく緑髪の人々……この国の王族だった者達の姿が見えて……即座に顔を逸らした。

 

 もうこれ以上、それを直視する事が出来なかった。

 ただ一つだけわかるのは、もうこの国は終わりだという事。

 

「……間魔法……【テレポート】」

 

 その呟きと共に、深紅の少女の姿は謁見の間から消えていく。

 深紅の少女がいた場所には、血液混じりの吐瀉物と夥しい血、そして小さな水滴だけが残されていた。

 その水滴もすぐに、じゅうと音がして蒸発していった。




ミサキ 転生者

イジメ不登校引きこもりニートからのSNSで誹謗中傷を繰り返しての開示請求を受けて勘当、行き場をなくしトラックに轢かれそうになっているビニールをネコと勘違いして助けようとして轢死。
生き様と死に様を見届けたとある神によって転生した。
その際「愛されたい」と願い、魅了魔法の極大適性と使い方を転生特典として付与された。
その力で人々を見境なく魅了し、悠々自適な生活を送り、そろそろ国を手に入れようと動き始めた。
彼女にとってこの世界の人々は全て、自分を愛してくれる働きアリ以上の存在ではなかった。

守備範囲は非常に広く、男女関係なく揺りかごから墓場までいける。
なお、もう少し習熟すると魔法粒子すら魅了してしまうようになったので、魔法では害する事が出来なくなる所だった。
レイチェルによって焼死。
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