放課後、生徒会室。
「アキラくん! 待ってたよ~!」
生徒会室の扉を開けた先で、いい笑顔をした梔子先輩が待ち構えていた。
「いい度胸ですね梔子先輩」
「え、なに?」
「なにじゃねえよこの野郎」
人のことを勝手に生徒会に入れたヤツが何を言ってやがるのか。
「え、えへへ……」
「えへへじゃない」
「ご、ごめんね! でもほら、アキラくんだけ生徒会に入ってなかったし、せっかくだから名前だけでもって……」
「本人に許可ぐらいとってください。常識でしょ……」
「ひぃん……」
しょげる梔子先輩を放って、空いている席に腰を下ろす。
小鳥遊は俺たちのやりとりなど聞いていないように手元の資料を整えていた。
「では、そろそろ定例会議を始めましょう」
「会議とは聞いていたが、結局何を話すんだ?」
「議題はいろいろありますが、大体は学校の抱える借金を返す方法の模索ですね」
「今日は私からアイデアがあるの!」
「大体はこうやって、ユメ先輩が何かを言い出すんです……突拍子のないことを」
「突拍子はあるよ!」
「梔子先輩? やっぱり先輩ってバカですよね?」
突拍子は意外なことって意味ですけど。
「わっ! バカじゃないよ! そういうことは、私のアイデアを聞いてから言ってほしいね!」
梔子先輩は椅子から立ち上がると、自信満々といった感じで胸を張った。
「二人とも、大オアシスのことは知ってるよね?」
「ああ、何年も前に干上がったていう……」
「以前のアビドスのシンボル、リゾート地だった場所ですね。今は砂漠の底ですが、それが何か?」
俺たちの発言にふふんと怪しく笑う梔子先輩。
「オアシスの底には希少鉱物が眠ってるんだよ!」
「「希少鉱物?」」
「そう! 花火に使われてた鉱物でね。刺激を与えると、プラズマになった火花が発生して空を彩る……ていう技術が使われてるんだって」
「それがなんでオアシスの底にあるんすか」
「元々はお祭りのトリを飾る予定のものだったんだけど、なぜかうまく動かなかったらしいの。それをオアシスに放棄したんだって」
「いや放棄って……ゴミ箱じゃあるまいし」
捨てるにしても場所ってものがあるだろうに。当時のアビドス生徒会の常識を疑うぞ……
「しかも自分たちのシンボルでもあるオアシスにですからね。始末のつけ方が雑にもほどがあります」
俺はホシノの発言に頷いた。
「その鉱物がね。100gで100万円以上もするんだよ! すごいよね、そんなものを捨てちゃうなんて! 当時は本当にお金持ちだったんだろうな~」
100gで100万円か……さらっと言ってるけどとんでもない価値だな。
祭りのトリということは間違いなく打ち上げ花火のはずだから、一番小さい球でも一発0.1㎏。0.1㎏は100gだから、一発分でも見つかれば100万円は手に入ることになる。
3人で毎月の利子分を払うのにもギリギリな状況で、最低でも100万円を手に入れるチャンスは是非とも掴みたい。
だが……
「それ、本当にまだあるんですか? 借金返済でとっくの昔に売り払ってんじゃ……」
「探してみないとわかんないじゃん! 雑に捨てられたものなら雑に放置されてる可能性だってあると思うよ!」
……残念ながら否定できない。
花火を湖に投棄する雑さを考えれば、まだ残っている可能性もあるかも……
「……自分が何を言っているかわかってるんですか、ユメ先輩」
先ほどから黙っていた小鳥遊がここで口を開いた。
「え? その……」
「こうしている場合じゃありませんよ! 今すぐ探しに行きましょう!」
「テンション高っ! え、この話にそこまで盛り上がるの? そんなキャラだったのか小鳥遊……」
てっきりいつもの不愛想な雰囲気で「現実的じゃない」とかばっさり切り捨てると思っていたのに。
「キャラ? そんなことはどうでもいいんです! 鳩川も参加してください! アビドス、起死回生の作戦ですよ!」
「おお! ホシノちゃんのやる気がマックスに……今こそ、アビドス再興の時だよ!」
おおー!と腕を掲げる二人の空気に俺はついていけない。
え、何? 生徒会ってこんな空気でやってんの? あるかもわからない宝探しにまで全力投球とか……もっとこう、堅実に株とかじゃないの?
「わっかんね……」
「すぐにオアシスに宝探しに向かうよ! 後に続いて! ホシノちゃん! アキラくん!」
「はい!」
「……え? 今日!?」
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……なにもねえ。
オアシス跡に到着して既に2時間以上が経つというのになにも出てこない。
金属探知機に反応のあったエリアを掘り進めているが、穴がぼこぼこと増え続けるだけで目当ての花火の球は影も形もなかった。
やばいな、スコップを握る手がいい加減にきつくなってきたぞ。汗も滝のように流れるし……制服じゃなくて水着だったことに救われるとは。
「ホシノちゃん、アキラくん……あのね……」
「それ以上言わないでください! 手が止まりそうになります!」
「ああ……言われたら折れる! 何がとは言わないけど……」
「二人とも……やっぱり、もう駄目かなあ……」
「も、もうちょっと進めれば……」
「……止め時を見失ったギャンブラーみてえだぞ、小鳥遊」
「うるさいですよ鳩川ァ!……うう」
「これは詰んじゃったよ……」
梔子先輩のその一言が既に瀕死だったアビドス生徒会にトドメを刺した。
梔子先輩と俺が掘る手を止めると、懸命にツルハシを振るっていた小鳥遊の手が止まる。
「私たち、どこで間違えちゃったんだろ……」
「先輩がこの計画を持ってきたときじゃないですかね……」
「いや、小鳥遊もノリノリでやってたじゃないか……」
ウキウキで工具を揃えてたのはお前だろ。
「い、いけると思ったんですよ……」
水着着用の3人組が砂漠のど真ん中で掘削工具片手に意気消沈とは……カオスだな。
落ち着いたところで、ふと疑問に思ったことを先輩に問い正してみる。
「ていうか、何で砂漠で水着なんですか?」
先輩と小鳥遊は学校指定の水着だけど、俺は海パン一丁だぞ。
「掘ってる最中に地下水がドパーって湧き出てくるかなって……湧き出てきたら砂漠化も解決だし!」
「嘘だろ梔子先輩……暑さにやられて頭が更に残念に……」
「そんな確率があると思いますか!? 宝くじに当選する確率と同じくらいでしょ!?」
「宝くじと同じだよ! やってみなきゃ当たらな───」
「「そんなわけがあるか!!」」
「ひぃん……」
さらに落ち込む先輩の姿を見ながら、俺は肩に担いでいたスコップを地面に突き刺した。
──その時だった。
「ん?」
ガン!と何か硬いものを叩いたような音がした。
二人は引き上げの準備を始めているが、気になったのでもう少しだけ掘り進めてみようか……
「鳩川……アキラ。何をしているんですか」
「いや、ちょっと気になって───」
スコップで慎重に埋まっている物の周辺を掘り進めていく。次第に球体のシルエットが露わになった。
「……あった」
「「え!?」」
スイカのへたのような導火線と薄茶色のボディ。
実物を見るのは初めてだが、間違いない。打ち上げ花火の球だ。しかも────
「すごいですよアキラ! これは尺玉です! 中身は8.5㎏だから……は、8500万!?」
「い、いやいや! そんなことあるか!? こんなものがあるならとっくに借金返済にあてられてるんじゃ……」
「バンザーイ! これで来月の利子は完済できるよ! やったよアキラくん!」
飛びついてくる先輩を躱す。
「ひぃん……」
埋蔵金を掘り当てた人間はこんな気分なのか? 夢見心地というかなんというか、現実感がない。
こんなちっぽけな球が一個8500万もするのか……
驚いていると小鳥遊が再びツルハシを握ったのが目に入った。
「小鳥遊、お前まさか……」
「まだあるかもしれません! 三尺玉が見つかったらとんでもないことですよ! 三尺玉は280㎏! 見つけたら28億!」
「よーし、やるぞー!!」
二人は意気揚々と穴を掘り始めた……
「……いや、そんなものを捨てるわけないだろ。流石に」
そんな額を花火にかけるのは富豪かなにか……いや、富豪でも無理だわ。
二人の勢いに押されて俺も掘り始める。
結局見つかったのは尺玉一つだけだったが、総額9億8074万の借金を抱える俺たちにとっては十分な戦果だった。
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「今日はお疲れ様! 記録は私がやっちゃうから、二人は先に帰っていいよ~」
と、いうことだったので、先輩の言葉に甘えて俺たちは帰路についた。
最後まで小鳥遊は心配そうだったが、記録するぐらいなら先輩でもできるだろう。
パソコンに事細かに収支を打ち込むわけではない。言ってしまえば日記帳のようなものだ。
だというのに……
「……」
小鳥遊は落ち着かないらしい。
帰り道がたまたま同じだったのが運の尽きだ。その様子は嫌でも目に入る。
「……心配しすぎんなよ。先輩だってあれくらいならできるだろ」
「……別に、先輩のことを気にしてるわけじゃありません」
「?」
「その……はと……アキラは、嫌じゃありませんでしたか?」
「嫌って……なんのことだよ?」
「今日のことです。私たちの我儘に付き合ってもらう形になってしまったのは事実ですし……」
別に嫌ではなかった。
梔子先輩にしても、ああいうタイプの先輩は初めてだが、嫌いではない。むしろ好感を持てるタイプの先輩だ。
小鳥遊についても同じく。生真面目な所はあるが、ノリはいいことは今日の会議でよくわかったし。とっつきにくいタイプでなくて、俺としては一安心といったところだった。
今日のオアシス探索だって、結果が振るわなかったとしても付き合ったことを後悔することはなかったと思う。
まあ、素直に言えば……
「楽しかったよ。たかな……ホシノが気にすることなんか、なにもない」
「!」
間違っていなかっただろうか。
オアシスでの探索の時に俺をさりげなく名前で読んでいたから、てっきりそう呼んだ方がいいのかもと思ったが。
「……ええ。それならよかったです」
「梔子……ユメ先輩はいつもあんな調子なのか?」
「まあ、そうですね。いつも滅茶苦茶な計画を立てて失敗するのですが……今日は初の成功日です」
「なるほどねぇ……ホシノって結構ノリがいいんだな。意外だったよ」
「そうなんですか?」
「いつも不愛……真顔のことが多かったから、勝手にドライなタイプなんだと思ってた」
「そ、そこまで冷たく見えますか……」
「ロクにかかわりもしてないときの話だから、あんま気にすんな。意外と表情豊かで安心したよ」
「……なんか、複雑です」
小鳥遊──いや、ホシノは黙り込んでしまった。
怒らせてしまったかと思って、様子を窺ってみるとそうでもないらしい。
小さく微笑んですらいたのだから、間違いはないと思う。
「アキラ、今度の定例会議は2日後です」
「2日後ね……わかったよ」
「来てくれるんですか? 金曜日はバイトのはずですけど……」
「ああ……うちのラーメン屋の大将、心配性でな。俺がシフトを一度も休まないことを学校でうまくいってないと勘違いしてんだよ」
柴犬の大将。
紫関ラーメンを営むその人から頻繁に「最近はどうだ?」とか、「ちょっとは休め。学生なんだから友達付き合いとかもあるだろ?」とか言われ続けていたところだったからな。
まあ、1日休みをとるぐらいはいいだろう。
「生徒会室で待ってますから。では、また明日」
「ああ、また明日」
……ああ、いかにも同級生の会話って感じだ。
今までは義務的だった冷たい挨拶に熱が通ったと思ったのは……きっと、俺だけじゃない。
この変化はきっと、俺たちにとっていいものになると理由のない不思議な確信があった。