アビドス対策委員会。
3年の小鳥遊ホシノを委員長として、ホシノが組織した非公式の委員会は激動の日々を送っていた。
書記の奥空アヤネの出した嘆願を聞きつけた、連邦捜査部
先生の力を借りたアビドス生たちは、カタカタヘルメット団の襲撃を退ける。
その力に恐れをなしたカタカタヘルメット団は、会計担当である黒見セリカを誘拐するが、なんとか奪還に成功する。
しかしその後もアビドスには困難が襲い掛かった。ゲヘナの陸八魔アル率いる便利屋68。紫関ラーメンの爆破とゲヘナ風紀委員会の襲来。
……そして、衝撃の真実。
「アビドスの自治区がカイザーにほとんど買い取られてる!?」
アビドスの抱える約9億の負債の返済先、カイザーローン。
その幹部を務めるカイザーPMC理事との出会いによって、早期の返済と高額な利子を請求されるアビドス。
ピンチを打開するため、借金の半額返済を条件にホシノはアビドスを去り、カイザーに身柄を拘束されてしまう。
勝ち目の見えない危機的状況に意気消沈するアビドス生たち。
そしてカイザーPMC理事は、アビドスを占拠するために手勢を差し向ける。
しかし、そこに立ちはだかるものが現れる。
「ここを切り抜けたところで、この先にも逆境と苦難しかない……だから何なのよッ!!」
便利屋68、陸八魔アルの叫び。
それが消えかけていたアビドス生たちの心の火を燃え上がらせた。
奮起したアビドス生たちは先生と共にアビドス砂漠の本校舎へ……ホシノを奪還するために向かった。
便利屋68、ゲヘナ風紀委員会、そしてトリニティの戦車隊を引き連れた阿慈谷ヒフミの助けを借り、破竹の勢いで突き進むアビドス。
そして、今────
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「ぐわああ!?」
最後のPMC兵士が倒れ伏した。
「こ、こんな、こんなバカなことがあってたまるかァァァ!!」
カイザーPMC理事の絶望の叫びが本校舎前の広い空間に響き渡る。
アビドスは勝利した。カイザーの攻勢を退け、ようやくホシノに繋がる道を手にしたのだった。
「ホシノ先輩は、返してもらう」
シロコは茫然とするカイザーPMC理事の先へと歩みを進めた。
「……こ、こうなったら!!」
否、進めようとした。
カイザーPMC理事は先を急ごうとするアビドスの前に立ちはだかると、手にした無線機へ向かって叫ぶ。
「オイッ!
『あ、アレですか!? しかしプレジデントから使うなと……』
「いいからアレを出せェッ!!」
『は、はい……』
「何よ! 今さらあんた一人が立ち塞がったところで怖くもなんともないんだから!」
「黙れ、黙れ、黙れェェーー!!」
セリカの言葉に唾が飛ぶ勢いで叫んだカイザーPMC理事。
その時だった。
ガン!ガン!と規則的な音がその場にいた全員の鼓膜を揺らす。
「な、何の音?」
「気をつけて! 何をしてくるか───」
先生の忠告に反応する間もなく、突如として空から降ってきた鉄塊。
それはその巨体に合わない俊敏さで腕を振り回し、アビドス生たちを吹き飛ばした。
「みんな!?」
「げっほ、なんなのよいったい……」
「ロボット、でしょうか?」
立ち上がるアビドスを見ることもなく、カイザーPMC理事はその鉄塊に開かれた座席へと座る。
「最終兵器、カイザーボット……貴様ら程度に使うには惜しいが、そんなことはどうでもいい! 潰してやる! 潰してやるぞ! このクズどもがァァァーー!!」
カイザー製の戦闘ロボット───カイザーボットが、シロコたちに牙を剥いた。
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「……そうですか。2年間も」
病室のベッドの上で目を覚ました俺は、ユメ先輩のから眠っていた間に起こったことを聞いた。
カイザーにホシノが囚われ、その救出に後輩たちが向かったことも。
「こうしている場合じゃありませんね」
「待って! アキラくんは2年も眠ってたんだよ! すぐに動ける体じゃ──」
ベッドから降りようとした俺をユメ先輩が制止する。
確かに2年も寝たきり状態だった人間ならば、筋力が低下し、立ち上がることすらままならないだろう。
先輩が心配するのはもっともだ。
……でも、その心配は無用である。
俺はベッドの傍に置いてあったサンダルを履き、立ち上がる。
「あ、アキラくん……?」
「なんとなくわかるんです、動けるって」
「……大丈夫、なの? 本当に?」
「はい。大丈夫です」
不安げなユメ先輩の問いかけに迷うことなく答える。
「俺は行きます。後輩が頑張ってるのにすやすや眠りこけてるわけにはいきません……そうでしょ? ユメ先輩」
ユメ先輩がここに残っていた理由は、きっと俺を守るためだ。
でも、もうその必要はない。俺は無力な病人ではないのだから。
「一緒に行きましょう。先輩」
「……うん! わかったよ」
着替えを終えて病室を出た俺たちは、ユメ先輩の車に乗ってアビドス砂漠を目指す。
「車、買ったんすね。カッコいいです」
「えへへ……私も、頑張ったんだよ」
D.U自治区からアビドス砂漠には時間がかかる。
果たして、戦いに間に合うかどうか……
「……飛ぶか」
「え?」
「先輩、ちょっと車止めてもらってもいいですか?」
「いいけど……」
コンビニの駐車場に止まった車から出た俺は、その神経を全身に集中させた。
練習したことなどない。だが、できるという確信があった。
───足が地面から離れる。
「……ほえ?」
「先輩、すいませんが先に行きます!」
俺はアビドス砂漠の方角へ向けて真っ直ぐに飛んだ・
「ええーー!?」
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本校舎に続く道にて。
カイザーPMCたちの築いた防衛網に風紀委員会の猛攻が襲い掛かる。
統率のとれた進軍を率いるのは、風紀委員長「空崎ヒナ」。
『ヒナ委員長。右方の制圧が完了しました』
「わかったわ、アコ」
インカムから行政官である「甘雨アコ」の報告を聞く。
戦況は優勢だ。切り込み隊長である「銀鏡イオリ」の部隊が次々と襲い来るカイザーの兵士たちを蹴散らしている。
気だるげな表情をしながら、ヒナはこの戦場での勝利を確信していた。
その矢先のことだった。
ドカン!という轟音と共に佐方の戦場が砂埃に包まれた。
「アコ」
『我々の攻撃ではありません。しかしカイザーが兵器を使用したという情報も……はい? なにを言ってるんですか?』
「アコ? どうかしたの?」
『……情報が入りました。信じ難い情報ですが、どうやら確かなようです』
「何があったの?」
『突如として乱入した男がカイザーの陣地の中央に……拳で穴を開けたと」
「───は?」
ヒナはその翼で飛び上がり、情報の真偽を確かめるために左方へと向かった。
巻き起こる砂埃の手前、離れた地点にイオリと「火宮チナツ」の姿があった。ヒナはそこへと降り立つ。
「委員長!」
「アコの通信を聞いてきた。状況はどうなっているの?」
「それが……あいつが突然、私たちとカイザーの間に入ってきて……」
砂埃が晴れる。
「これは……」
そこには倒れ伏したカイザーPMCの兵士たち。
その中心に未だに戦い続ける一人の少年の姿があった。
大挙して襲い掛かるカイザーPMCの兵士たちに笑みを浮かべるその顔を、ヒナは知っていた。
少年は右手に握った拳銃と左の拳で軍勢をものともせずに打ち砕いていく。
動きに無駄のない、流れるような戦いに兵士たちは抵抗することすら許されずに倒されていく。
「──鳩川、アキラ?」
「知っているんですか、委員長?」
「ええ……」
チナツの言葉に応えるヒナは、目の前に広がる光景に驚きを隠せなかった。
「鳩川アキラは2年前のアビドスにいた生徒。アビドス生徒会の書記として、小鳥遊ホシノたちと共に活動していた男よ」
「キヴォトスに男子生徒がいたなんて……」
「知った時は私も驚いたわ。けれど、なぜここに鳩川アキラが……彼は2年前から昏睡状態だったと聞いたのだけど」
ヒナたちが話す間に戦闘は終結した。
鳩川アキラはヒナたちの方を一瞥する。
「悪いな、先を急いでいるんだ」
ヒナは口の動きから読めた言葉を呟く。
意図が伝わったことがわかったのか、アキラは手を小さく振ると本校舎のある方角へと
『……今、飛びましたよね?』
「いや、いやいやまさか……」
「飛んでいたわね。翼もないのに」
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すぐに戦場となるアビドス砂漠に飛んだ俺は、カイザー勢力とゲヘナ風紀委員会の戦いの渦中へと飛び込み、カイザー勢力を壊滅させることに成功した。
「ホシノ……」
そして飛んで間もなく、デカいのが暴れている場所に辿り着いた。
戦っているのはアビドスの制服を着た3人。そこから離れた位置で指揮を執る大人が一人。
「白い髪が砂狼、ベージュが十六夜、黒いのが黒見……それと先生か」
苦戦している。
後輩たちの火器では見るからに分厚いあのロボットの装甲には手を焼くだろう。
「うわ!?」
黒見が辛うじてロボットの繰り出す拳を避けたもののその態勢を崩し、地面へと転倒してしまう。
『ぶっ潰してやる! まずはお前からだァーー!!』
カイザーPMC理事の声がロボットのスピーカー越しに聞こえた。
「セリカ!」
「セリカちゃん!」
「……あ」
瞬間、俺は全身にゆっくりと流れていた神秘を加速させる。体が熱くなると同時に力が沸き上がり、空を飛ぶスピードが跳ね上がる。
振り上げられた拳と黒見の合間になんとか割り込んだ俺は、その鉄拳をがっしりと受け止めた。
「───!」
「……ほえ?」
「フンッ!」
体中を駆け巡る神秘を増幅させることで強化された身体能力を振るい、ロボットの拳を押し返す。
ロボットはふらつくが、転がるまでには至らなかった。
『な、なんだ!? 何が起こったのだ!?』
「……あ、あなたは!」
突然現れた俺に驚く十六夜。
「誰だって顔してるから、自己紹介させてもらうけどさ」
制服についた砂を叩き落す。
「アビドス高等学校3年。及びアビドス生徒会書記の鳩川アキラだよ」
『鳩川アキラ!? なぜだ、お前は昏睡状態のはず!』
「戻ってきたんだよ。そのむかつく面をこの拳で凹ませるためになァ!!」
ロボットの近くまで瞬時に移動すると同時に、全身の力の全てを右拳に集約させ、渾身の力を込めて叩きつけた。
『ウオオオオオ!?』
一撃を受けたロボットのボディが歪み、吹っ飛んでいく。
ロボットは周囲にあった廃墟の一つに突っ込んだ。
「大丈夫か、黒見?」
「は、はい……は、鳩川先輩なんですか?」
困惑している黒見がそう問いかけてくる。
「ああ……俺の顔は知ってるのか」
「お見舞いで何度か……でも、どうして」
「起きた理由は俺にもわからん。まあ、タイミングができすぎてるってのは俺も思うよ」
「でも、これを知ったらホシノ先輩喜びますよ! 毎日鳩川先輩の所に通ってたんですから……」
「そうだといいんだけどな……」
寝過ぎだってどやされないか心配だ。
「ん、すごい怪力だった。ホシノ先輩以上かも……」
「これでアビドス全員が揃いましたね☆」
よし、何とか敵認定は免れたようだ。
俺も初対面とはいえ、後輩に攻撃されるのは避けたかったからよかった。
『貴様らァ!!』
おっと、ゆっくり自己紹介タイムというわけにはいかないようだ。
立ち上がったロボットがこちらに向かって全力疾走している。もう間もなくこちらに到着するだろう。
"アキラ、私は───"
「はじめまして。先生ですよね。話は紫関の大将に聞いてます。好きに使ってください」
"ありがとう! あのロボットのコクピットを攻撃したいんだ。みんなと一緒に戦って!"
いい作戦だ。操作系のあるコクピットを駄目にしてしまえば、あのロボットもただの鉄塊に成り下がる。
「了解。さあさあ……かかってきな」
『ほざくな! このクソガキ風情がァァーー‼』
迫り来る鉄拳を避けた俺は拳銃を抜き、カメラと思われる頭部の目のような部分目掛けて発砲する。
放たれた弾丸が青い輝きを放ちながら、頭部へと直撃した。
『カメラが!?』
「今のなに? どんな弾丸を使ったの?」
「ちかっ……話は後で!」
「ん。聞かせてもらう」
「撃ちます!」
十六夜のミニガンがコクピットに当たる胸部へと火を噴いた。
流石の火力で装甲が徐々に歪み始める。
"シロコ! 今だよ!"
「了解」
砂狼が放ったドローンのミサイル攻撃が追い打ちをかける。コクピット周辺から火花が散った。
「くらえーー!!」
黒見、砂狼、十六夜、そして俺の銃撃がコクピットへと集中する。
『操作系統が───このカス共がァ……!』
黒い煙と火花を上げたロボットは身じろいだかと思うと、背中から地面へと倒れる。
起き上がる様子のないロボットのコクピットのハッチがはじけ飛び、中からボロボロのカイザーPMC理事が現れた。
「ま、負けるわけがない! 貴様ら、卑怯だぞ! 一人に寄ってたかって──」
「「「「お前に言われたくない!!」」」」
何を言ってるんだこのポンコツ腹黒アンドロイドが。
数の暴力で押しつぶそうとした自分を棚に上げて何をほざきやがるかと思えば。
こいつの頭の回路は錆びついているのか?
「ぐぐ……う、動け! 動けと言っているんだこのポンコツがァ!! 私はカイザーPMC理事だぞ!!」
既に動かないロボットを蹴りつけるカイザーPMC理事。
諦めの悪さには敬意を表してやるが、可哀そうとは思わなかった。
精々、そこで敗北の味を噛みしめていろ。
「はっ! ざまあみなさい!」
「あの情けない大人は放っておきましょう。今はホシノ先輩を……」
「助けに向かう。邪魔者はもういない」
走り出す俺たちに一機のドローンが近づいてくる。
『カイザーPMCの残存戦力も風紀委員会とトリニティに撃破されました! ホシノ先輩を救出できれば私たちの勝利です!』
ドローンに取り付けられたスピーカー越しに聞こえる声の主が最後の後輩、奥空アヤネなのだろう。戦場は終結しつつあるようだ。
「ま、待て! 行かせん! その先にはいかせ───」
こちらに銃口を向けたカイザーPMC理事の言葉は続かなかった。
突っ込んできた車に吹っ飛ばされ、地面を転がるカイザーPMC理事。
「ユメ先輩!」
「アキラくん! みんな! 大丈夫……コイツ」
車から降りたユメ先輩は鋭い目つきで倒れたままのカイザーPMC理事を一瞥すると、拳銃で撃った。
「ぐえ!」
「ふぅ……みんは大丈夫?」
「ああ……はい」
本当に変わったなユメ先輩。ちょっと怖い。
あとはホシノを取り返せば……そう考えたところで、俺はホシノにどう声をかければいいのかと思ってしまった。
2年の不在は謝り倒すしかないだろう。大事な時に居合わせることができなかったことには申し訳も立たない。
"アキラ。"
「はい」
"ホシノは君を待ってるよ。早く会いに行ってあげて"
「……はい」
先生の言葉が胸に突き刺さり、弱気になっていた俺を正気に引き戻す。
俺は止まりかけた足を動かし、本校舎へと向かった。