「いや~、なにはともあれこれで万事解決! あとはあそこで逃げようとしているカイザー理事をヴァルキューレに引き渡せば終わりだな。んじゃ、帰りましょうか」
なんとか縋りつく二人を宥めた俺は、久しぶりの校舎へと帰るために逃げ出そうとしたカイザーPMC理事を背中から撃つ。
無様に倒れ伏すカイザーPMC理事。
「私も手伝います。縄ならここに」
「あいよ」
「私は車を持ってくるね!」
うめき声を上げた理事を二人で縛り上げていると、周囲の異変に気づいた。
「ん?」
誰も声を発さないからおかしいなと思ったら、みんな間抜けな顔をして固まっている。
時間停止ネタかな?
今時はそういうギャグが流行っているのか……
「いや、おかしいでしょーー!?」
俺がそんなことを思っていると、いきなり黒見後輩が叫び出した。
「どうした?」
「どうしたじゃありません! なんですか今の! かめはめ波!? なんでビームが掌から出てくるんですか!? 超能力なんですか!? 先輩はミレニアム製の超兵器かなんかなんですかァーー!?」
「ははは、元気だな。こんな後輩がくるとはな……」
「どうです? 自慢の後輩ですよ」
「俺の後輩でもあるぞ」
「ふふふ、そうでしたね」
「くぉらあーー!! 先輩同士で微笑ましい会話をする前に説明してくださいよ! 見てください! 私たちどころか、風紀委員会もトリニティも、先生まで───」
"か、かめはめ波だ……"
「せ、先生?」
"キヴォトスってすごい! まさか、かめはめ波を撃てる生徒がいるなんて───"
「せ、先生!?」
興奮を抑えきれないのか、先生は走って俺の目の前までやってきた。
まさかこの反応───
「──さがそうぜ?」
"ドラゴンボール!"
「世界でいっとーユカイな奇跡!」
「”この世は でっかい宝島~!”」
がっしりと差し出され手を握る。
よもやこんな所で同士に出会えるとは……!
"この目でかめはめ波を見ることができるとは思わなかったよ……私も子供の頃に練習したなあ~"
「使ってるのは気じゃなくて神秘なんですけどね。やっぱりかめはめ波はロマンでしょ!」
「はあ……二人とも、興奮しすぎだよ~」
ん? ホシノの雰囲気が変わったぞ?
「お前、どうしたんだ? まるでユメ先輩みたいだぞ?」
「失礼な、あそこまで抜けてないよ……イメチェンってやつかな、今はこっちが普通の私なの。さっきは懐かしくてつい……」
「ふーん。まあ、いいんじゃない? そういうホシノも悪くないと思うぞ」
「そ、そう? うへへ……」
「──アキラ先輩?」
おっと、黒見後輩が怖い顔になってるな。
しょうがねえな、あまり口で説明すんのも得意ってわけじゃないんだけどよ。
「俺はかめはめ波が撃てます」
「いや、それはもうわかってます☆ どうやって撃ってるんですか?」
十六夜後輩が怖い顔の黒見後輩と俺の間に挟まるように問いかけてくる。
「さっき砂狼後輩に話したんだが、体の中にある神秘ってエネルギーを使ってんだ。弾丸に込めて撃つんじゃなくて、そのものを増幅させて撃ちだす……いわゆる必殺技ってやつだな」
「わあ~、かっこいいですね☆」
『かっこいいですませていいんでしょうか……』
「いいわけないでしょ。口で説明されてもまだわけわかんない……」
ドローン越しに奥空後輩と会話をする黒見後輩はなぜか険しい表情のままだ。
今の説明に不足があったのだろうか?
簀巻きになったカイザー理事を抱えて、遠くから走ってくるユメ先輩の車へと飛び立ちながら、俺は疑問に思うのだった。
「「「飛んでる!?」」」
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「なんなんですか、あれは……空を飛んだり、ビームを撃ったり、もうめちゃくちゃですよ」
「すごいよチナツ。アコちゃんが見たことない顔してる……」
「唸る気持ちもわかりますよ。あんなことができる生徒は私も見たことがありません……」
未だ困惑を隠しきれない仲間たち。でも、みんなが慌てるのも無理はない。
修羅場をそれなりに潜り抜けてきた私でも、一瞬固まってしまうほどの衝撃。
あの閃光の一撃はそれほどの力を持ったものだったのだから。
鳩川アキラ……小鳥遊ホシノと比較すると見劣りする戦力だと思っていたけれど、ここまでの力を持っていたなんて。
……いや、驚くのはここまでにしよう。
「落ち着いて、みんな」
「ヒナ委員長……」
「彼は敵というわけではないもの。キヴォトスは私たちの想像以上に広かった、それだけのことよ。今は撤収作業に集中して」
私は撤収作業に戻るみんなに続こうとして、ふと彼のほうへ振り返る。
鳩川アキラはカイザーPMC理事を抱えて、空を飛んでいる最中だった。
「ミレニアム製の超兵器、ね」
念のため、あのタヌキにも報告しなければならない。
過去、アビドスはあの雷帝と関係を持っていた。
もし、彼の力が雷帝に由来する何かだとしたら、その時は───
「……そうならないことを祈るわ」
私は視線を仲間たちへと戻し、ゲヘナへの帰路へとついた。
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トリニティ総合学園。その自治区内にて。
生徒会組織「ティーパーティー」のホストである私、桐藤ナギサは、所有するセーフハウスの一つでアビドスでの顛末に関する報告を受けていた。
「……すみません、ヒフミさん。生徒が、ビームを放ったということですか?」
『は、はい。信じがたい話だと思いますけど、確かにビームを撃ったんです』
電話越しの声は驚くべき事実を覆すことはなかった。
私は困惑する。
ヒフミさんが報告で嘘をつくとは思えないが、とても信じ難い話だ。生徒が装備もなしに手からビームを放つなんて、凄まじい科学力を持つミレニアムサイエンススクールでも聞いたことがない。
「それでカイザーの兵器を破壊した、と?」
『とてつもない力でした。トリニティの戦車隊の攻撃でもビクともしなかったロボットを一撃でやっつけちゃったんです』
件のロボット兵器、カイザーボットがアビドスの面々に接触する前。
本拠地から出撃したカイザーボットと接触した戦車隊はその攻撃を浴びせていたのだが、集中砲火を受けてなおビクともしなかったという。
そんな兵器を一撃で、たった一人の生徒が……
「……わかりました。報告ありがとうございます、ヒフミさん。気をつけて帰ってきてくださいね」
『は、はい! その、今回はありがとうございました! ナギサ様!』
「ふふふ……いいんですよ、ヒフミさん。では、また」
通話を切り、テーブルに置いてあった紅茶を一口含む。
「……少し、冷めてしまいましたね」
鳩川アキラ。
アビドス高等学校
2年前に昏睡状態になってから、一度も目覚めることのなかった少年。
ヒフミさんから届いたが動画データを眺めながら、件の一撃────かめはめ波というらしい────を観察する。
「確かに、生身で撃っていますね」
この強力な一撃を何発も撃てるとしたら、彼は明確なトリニティの脅威になりえる存在だ。
どんな数を集めても、この一撃の前では蹴散らされてしまうに違いない。
彼を止めるにはこちらも切り札をいくつも切らなければならないだろう……
「……願わくば、そうならないことを祈っていますよ」
私は画面に映る少年の顔をなぞりながら、そう呟いた。
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「ハアァーーー!?」
「ちょっと、うるさいよアキラ~」
「いや、ええ……俺、進級できてないのかよ……」
衝撃の真実を聞かされて、俺の心はもうボロボロである。
なんと俺、2年で留年していました。
いや、考えてみれば当然のことではあるんだけども。
ロクに登校どころかテストも受けられてない俺が2年まで進級できたのが、むしろ奇跡に近い。
というか、恥ずかしいんですけど。後輩たちの前で思いっきり3年生って名乗っちゃったんだけど……
「これからよろしく、アキラ」
「砂狼後輩。良い笑顔で俺の肩に手を置くんじゃない」
「同級生に遠慮はしない主義。それとその後輩っていうのも間違ってる」
「あはは……これからよろしくお願いしますね、アキラくん☆」
慣れるのが早いな2年生どもめ……
しかし、まいったな。これじゃあ、約束が守れない。
「わるいなホシノ……その」
「いいよ、待つから」
「へ?」
「だから、待つって言ってるんだよ。アキラと一緒に卒業するためにね」
「お、お前も留年する気か?」
「シロコちゃんたちと同級生になっちゃうのは複雑だけどね~。約束したでしょ、卒業は二人で一緒にって」
「ホシノ……ありがとうな」
「いいんだよ~これくらい。今度はあてもなく待つわけじゃないし……ほら、やっと帰ってきたよ」
ホシノが指差す先には、通い慣れた校舎の姿があった。
校舎の中から、奥空後輩が手を振りながら駆け出してきていた。
「行こ、アキラ」
「……ああ」
俺はやっと、アビドスに帰ってきたのだ。
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校舎の中の一室に俺は案内された。
教室のプレートには、アビドス廃校対策委員会とあった。
「お邪魔しまーす……」
「もう、アキラ先輩! 言う言葉が違うでしょ?」
「黒見後輩」
「ここは先輩の居場所でもあるんですから、ただいまでいいんです」
「奥空後輩……ありがとう。それと、ただいま」
「「「「「おかえり!」」」」」