楽しんでいただけているなら嬉しいです。
生徒たちは大講堂に集められ、痩騎士は静かにその光景を見ていた。
不意に、彼が口を開く。
「⋯レックスはどうした」
「行方不明です」
そばに控えていた黒ずくめがそう答える。
「シャドウガーデンか⋯どうやら誘い出せたようだな。ならば⋯」
痩騎士は黒いカプセルを取り出し、黒いガントレットにセットする。
「あれは⋯!?」
遠目でそれを見たローズは目を見開く。
そしてそれを回転させる。
黒いガントレットから黒い靄が現れ、それが窓をすり抜けて外へと出ていく。
「何をしたのですか!」
「騒ぐな!」
ローズが立ち上がって問い詰め、黒ずくめが声を荒げる。
痩騎士は冷淡な声で淡々と続ける。
「お前が知る必要はない」
痩騎士は手の中にある強欲の瞳を見つめる。
「ようやくだ⋯ようやく私はラウンズに返り咲く」
レックスの死体の指がピクリと動いた。
◆
同刻、学園の屋上
「⋯」
赤い目の歪な姿の怪物が、靄を見送っていた。
「あぁ〜、ここにいたんだ〜」
すると背後から黒いコートの少女が現れる。
「⋯用は済んだか」
「うん!バクに会えて良かったぁ!」
「⋯帰るぞ」
「は〜い!ゼッツせんせ〜い!」
怪物は歩き出し、胸についたドライバーのカプセムを回す。
◇
ニューは研究室で二人の男を見下ろしていた。
「獅子髭のグレン⋯運がいいわね、命があるなんて」
そしてもう一人の方を見る。
「マルコ・グレンジャー⋯紅の騎士団に入っていたのね」
かつて、自分の許嫁だった男。
端正な顔立ちと青髪、魔剣士としての実力も高く、正義感も強かったため、将来は騎士団長になるだろうと皆、噂していた。
何度も手紙を交わし、舞踏会では共に踊った相手。
だが所詮は親の決めた相手でしかなかった。
彼に対して、ニューは最後まで愛情を抱くことはなかった。
だが別に嫌いだったわけではない。
将来結婚することにも不満はなかった。
誰もが称賛する彼と結婚すれば、輝かしい未来が続いていくと、そう思っていた。
決められた道、 決められた相手、 決められた将来⋯
かつてのニューは自分の意思というものが薄かった。周囲に従い、周囲の言葉を鵜呑みにして生きてきた。
今思えばそれは窮屈な生き方だった。
舞踏会で顔立ちの整った彼をアクセサリーのように連れ回していたことを思い出し、ニューは苦笑する。
忘れようとしている記憶に限って、いつまでも忘れられない記憶になるのだ。
「あれ?何してんのニュー」
ニューが振り返るとそこには盟主・ゼッツがいた。
「ゼッツ様⋯」
ゼッツことバクは研究室をゴソゴソとあさり始める。
「⋯この人、許嫁だったんです」
「⋯へぇ」
バクは一瞬手を止め、もう一度再開する。
「で、どうするんだ?一応、そいつら助けといたけど」
「⋯生かす理由も殺す理由もありません」
「そっか」
そっけなかった。だがそこに、思いやりが含まれているのがニューには分かった。
「⋯ご報告いたします。現在、構成員たちが学園の周囲に潜伏し、待機中です。ご指示があればいつでも動けます。ただ、我々でも魔力が制限された状況下での戦闘にはリスクが大きいです。普段通り動けるのは、七陰の皆様ぐらいなのですが⋯現在王都にいるのはガンマ様だけで⋯それで…その、ガンマ様はあまりこういったことが得意ではないというか……」
ニューが気まずそうに言う。
「あぁ、相性最悪だな」
フィジカルとパワーだけはあるのだが、とバクは思う。
「現在、ガンマ様が全体の指揮を執っています。ガンマ様は魔力が制限されたこの状況はそう長くは続かないと予測しており、無理をせずそれまで待てばいいと。黒ずくめの男たちは大講堂にたてこもったまま動きがなく、現状奴らからの要求もないそうです。騎士団は学園周辺を囲ってはいますが、この中で戦力になりそうなのはアイリス・ミドガルと他騎士団長だけですが⋯平時の対立もあって、連携は厳しいでしょうね」
「ハナから頼りにはしていなかったが⋯それなりに腐ってんな」
「お二人の指示があるまでは待機でいいでしょうか」
「あぁ、合図の狼煙は盛大に上げてやる。あ⋯それと」
「?」
「探し物をしに来たんだ。ミスリルのピンセットと、地竜の骨の粉末と⋯」
バクは手の中いっぱいに材料を持つ。
「ありがとう、どれがどれか分からなかったんだ」
「いえ⋯それより何に使うのですか?」
「どうやら、これがこの事態の収束に役に立つみたいなんだ?」
「というと⋯?」
「魔力阻害の要因は、〝強欲の瞳〟というアーティファクトらしいんだ。それの制御ができるアーティファクトを、シェリー・バーネットが所持している」
「あの天才少女ですか⋯なるほど、さすがゼッツ様。表舞台に通じる人物ともう既に信頼関係を築いているとは⋯」
「まぁね」
「それでは、我々もそれを合図として動きます」
「あぁ、それで頼む。心配ないと思うが、気をつけろよ、皆」
「ありがたきお言葉」
そのとき
「⋯ニュー!」
「ウガァ!」
「!?」
二人がその場から離れると、その場に何者かが突撃する。
「何者だ!」
ニューがスライムソードを作り出して構える。
煙が晴れると、そこにいたのは鋭利なトゲが体につき、顔が時計のようになっている怪物・デスゲームナイトメアだった。
「ナイトメア⋯教団の奴らか」
バクは胸にゼッツドライバーを巻く。
「下がってろニュー」
バクはニューを下がらせ、インパクトカプセムをセットする。
「
ゼッツの体に赤いラインが走る。
「ハッ!」
ゼッツは駆けてきたデスゲームナイトメアを殴り飛ばす。
「ゼッツ様⋯これは⋯!」
「よく見ておけ。これが⋯俺達が選んだ道だ」
ゼッツは吹き飛ばされ、ヨロヨロと立ち上がったデスゲームナイトメアの首元を掴み、軽く放って回し蹴りで再び蹴り飛ばす。
「ウゴァ!」
「この程度か?プラズマを使うまでもないな」
「グゥ⋯アミダぁぁ!」
するとデスゲームナイトメアの周りに魔力の網が張り巡らされる。
「この技⋯そうか、死んで尚教団の道具であり続けるのか⋯」
「うあぁ!」
ゼッツが網の中に足を踏み入れると同時に、デスゲームナイトメアが針を飛ばしながら襲い来る
が
「ウゥ⋯!?」
ゼッツは、突き出された腕に自分の腕を絡め、そのままデスゲームナイトメアを地面に倒す。
「魂すらないやつに俺が負けると思うな」
そのまま拳で腹を貫く。
「ウッ⋯がぁ⋯」
デスゲームナイトメアが事切れ、レックスの死体に戻る。
ゼッツは腕についた血を払い、元の姿に戻る。
「お見事です」
「あぁ。それより⋯教団がナイトメアを使役するようになったのは厄介だな」
「恐れながら、〝ナイトメア〟とはなんなのですか?」
「あぁ、そういえば言ってなかったな。ナイトメアは人の悪夢に巣食う怪物だ。夢主の悪夢を叶え、一匹一匹が世界を滅ぼす可能性を秘めた危険な存在だ」
「なんと⋯教団はそのようなものを⋯!」
「安心しろ、ゴアでもなければ強さは俺達の脅威じゃない。まぁ例外もいるが」
「さすがゼッツ様です」
「⋯恐らく、もう学校内にナイトメアはいないだろう。使役するのにもそれなりのコストがかかるはずだ」
「了解しました」
その後バクは去り、ニューはマルコを見下ろす。
「⋯命拾いしたわね」
◇
着々と準備が進んでいく中、俺は思案し、シドは時々トイレと称して黒ずくめ狩りに行く。
やがて
「できましたっ!」
シェリーは作業を終えた。あたりはすっかり日が落ち、俺達は打ち合わあせたとおりに口を開く。
「お疲れさん、それで例の隠し通路は?」
「はい、お義父様が言うには⋯」
シェリーは棚の本を押す。
すると、カチリという音がすると棚が動き、右にずれる。奥には薄暗い階段が広がっていた。
「「おぉ⋯!」」
「これでお義父様を助けに行けます!」
こういう仕掛け大好きだぁ
ふとシェリーは息をつく。
「お義父様は私に本当の家族のように愛を注いでくれました。今度は私が⋯」
「お父さん、無事だと良いね」
「俺達にできるのはここまでだ」
「シドくん⋯バクくん⋯本当にありがとうございました!」
「僕たちはほんの少し力を貸しただけさ。後は君の手で、学園を救ってくれ」
「頑張ります⋯!」
シェリーが地下階段を下っていくのを、二人は見送った。
「⋯シド」
「なに?」
バクが深刻そうな顔で口を開く。
「話がある。とある夜に強盗に殺されたとされている科学者。シェリーの⋯母親についてだ」
◇◇◇
ローズ・オリアナはあたりを見回す。
状況は芳しくない。黒ずくめの男たちが変わらず見張っており、しかもステージの上の甲冑の男の実力は計り知れない。
魔力も使えず、剣はおろか銃ですら防げないような現状では、彼女たちにどうすることもできない。
何にせよ、今はまだ動く時ではない。
だが、時間がないのは事実だ。
時が経つにつれて、肉体から魔力が抜けていくのが感じ取れる。おそらく魔力が使えない現象と関係しているのだろうが、理由は分からない。ローズにはまだ余裕はあるが、魔力量の少ない生徒は体調を崩しはじめている。あと数時間もすれば魔力欠乏症になる生徒も出るだろう。そして反撃の機会は永遠に失われるのだ。
そのとき
ドン、という音が大講堂に響いた。
「クハハッ!一匹命中!」
見れば、上から二人の黒ずくめの男が狙撃銃を持ってゲスな笑いを浮かべていた。
腹を撃たれた生徒が倒れる。
「しっかりしなさい!誰か⋯止血を⋯!」
「さぁてお次はどいつかなぁ?」
黒ずくめの男は再び狙撃銃を構え、発砲する。
そのとき
「!?」
「なんだぁ!?」
緑の壁のようなものが現れ、銃撃を防ぐ。
次の瞬間、狙撃銃を構えていた男の胸から血が滴り落ちる。
「なっ⋯!」
そのまま男は倒れる。
「な、なんだ⋯!」
「よぅ、そしてさようなら」
と、もう一人の男の背後から聞こえ、次の瞬間こめかみから血が流れる。
倒れた男の背後から姿を表した黒いコートを着た男は、下に降り立って、先ほど殺した男の心臓を投げる。
そのまま男は撃たれた生徒のもとに行き、緑のカプセルのようなものを回す。
するとそこから波動が発せられ、傷が塞がる。
痩騎士はそれを見て問いかける。
「貴様は⋯」
「俺か?俺は⋯」
男は黒い装置を取り出すと胸に巻き付ける。
「無敵のエージェントだ」
「⋯撃て」
黒ずくめの男の一人が男の胸をめがけて発砲するが、装置に弾かれ、男は微動だにしない。
そのまま赤いカプセルをセットしてトリガーを押す。
「
男の姿は闇に包まれやがて赤いラインが体に入っていく。
「俺はゼッツ。
そう言うと走り出し、黒ずくめの男たちと交戦を始める。
「彼は⋯!」
次の瞬間、辺りが白く光る。
「!」
ローズは魔力が解放されたことを感じ取り、すぐに近くの黒ずくめを蹴り殺し、剣を奪う。
「魔力は解放された!反撃の時だ!」
それを切り口として、生徒たちは反撃を一気に動き出す。
「剣を奪え!」
「会長に続けぇ!」
黒ずくめたちはうろたえる。
だが
「何をしている。⋯殺せ」
「ヒッ⋯い、行けぇ!」
痩騎士の圧に押され、戦い始める。
いつの間にかローズは囲まれていた。
「くっ⋯ここまでか⋯!」
魔力もほとんど残っておらず、素で剣を振るっているのと変わらない。
たとえ自分が倒れても、後のものが続くだろう。
芸術の国の王女だったローズは、剣の道を志すきっかけとなった夜の剣技を思い出す。
そして、生涯最後であろう剣を振るう。
「っ!⋯今のは⋯!」
魔力のこもっていない、ただの一太刀。だが今まで奮ってきた中で、1番あの美しい剣技に近い気がした。魔力を使わない剣技の魔剣士などいるわけがないというのに。
今際の際に掴んだのが悔しく、ローズはせめて祈った。
あと1日⋯
あと1日⋯
明日が欲しいと
その瞬間、一つの陰が舞い降りた。
陰は一瞬にして周りの黒ずくめを細切れにして、ローズに向かって微笑む。
「見事だ。美しい剣を振るう者よ」
はっと気づくと、辺りには黒ずくめの女たちがいた。
陰は剣を掲げる。
「我らはシャドウガーデン」
『陰に潜み、陰を狩る者』
その瞬間、女たちは黒ずくめの男たちと戦い始め、いとも簡単に倒していく。
ローズは彼らに賭けてみようと思い、剣を収める。
「怪我人を運び出せ!」
「遅いぞ」
「フン⋯陰は気まぐれだ」
ゼッツにシャドウはそう返し、襲いかかってきた黒ずくめの胴を斬り伏せる。
痩騎士はその場から離れる。
ゼッツはそれを見据えていた。
やがて大講堂から火が出る。
恐らくガスを使ったのだろう。中世のくせに、そういう知識はあるのかとゼッツは思った。
「ニュー、ここは任せる」
「はっ」
「シャドウ、行くぞ」
そう言うと二人は黒ずくめを殺しながら外に出ていく。
「無事か?」
ニューと呼ばれた構成員が、ローズに声をかけた。
「はい…」
「⋯いい剣だったぞ」
彼女はそう言って、漆黒の刀を持って戦いに加わる。
ニューの剣もまた、普通ではなかった。黒ずくめの男たちが一方的に切り伏せられ、肉塊へと変わっていく。
ローズの中で、魔剣士の常識が崩れていった。
いつしか黒ずくめは全滅していた。
我に返ったローズは大声で指示を出す。
「皆、外へ!」
生徒全員が大講堂を出たのを確認したローズは燃え盛る大講堂を見る、
「シャドウガーデン⋯彼らは一体⋯」
◇◇
シェリーは副学園長室へ走っていた。
「お義父様⋯講堂にはいなかった⋯一体どこに⋯!」
幼い頃に父を亡くしたシェリーは、母親の記憶しかない。
研究者で、いつも優しかった母の記憶も、今では薄れてきている。
隠れているシェリーの眼の前で、強盗に惨殺されたからだ。
そんな彼女を引き取ってくれたルスランだけが、唯一の家族だった。
そんなとき
「ちょっといいかな?」
シェリーの眼の前にとある男が現れた。
◇◇
痩騎士は副学園長室で書物を焼いていた。
そのとき
「そんな格好で何してるんですか?」
「!」
そこには窓に座って本を読んでいるシドがいた。
「ルスラン・バーネット副学園長」
「⋯シド・カゲノー君」
痩騎士は仮面を外す。
「なぜ分かった⋯」
声色はいつものままだった。
「見れば分かります」
「なるほど⋯歩き方か、あるいは姿勢か⋯いい目をしている」
そう言いながらルスランは甲冑を脱ぎ始める。
「参考までに聞いていいですか?」
「何かな?」
「なぜこんなことを?あなたはこういうことに興味があるように見えなかった」
「〝なぜ〟か⋯かつて私は剣の道で頂点に立った」
「たしかブシン祭で優勝したんですよね」
それを聞いたルスランは鼻で笑う。
「ブシン祭など⋯本当の頂点はもっと先にあった。だが⋯頂点に立ってすぐに病にかかってね。苦労して手に入れた名声は、栄光は⋯一瞬にして消え去った」
シドはページを捲る。
「長くなりそうですか?」
「少しね。それからは病を治す方法を探し求め⋯あるアーティファクトに可能性を見出した。それが、シェリーの母親が研究していた〝強欲の瞳〟だ。私は彼女を援助し、彼女は研究に没頭した。いい関係だったよ。だがあろうことかあの女は、危険だからといって強欲の瞳を国に管理してもらおうなどと言い出した。だからね⋯」
ルスランの顔が歪む。
「体の先から中心まで突いていき、最後は心臓を突き刺し、ねじ切ったぁ⋯!フッフッフ⋯シェリーは何も疑わず、母親の研究を受け継いでくれた。私が母親の仇だとも知らずにね。かわいいかわいい、愚かな娘だ」
ルスランは夕食でも聞くかのようにシドに語りかける。
「どうだい、参考になったかな?」
「おおよそは。でも⋯一つ聞いていいですか?」
「何かな?」
「シェリーの母親を殺し、シェリーを利用したというのは本当ですか?」
「もちろんだとも。怒ったかな?」
「どうでしょうね。僕は大切なものとそうでないものは区別してるので。皆、生きるにつれていろいろなものを得ていった。でも僕はその逆を行ったんです。生きるにつれて、いらないものを削ぎ落としていって、本当に捨てられないものだけが残った⋯だからそれ以外は割とどうでもいいんです」
「愚かな母娘がどうなろうと関係ないと?」
「そうは言いません。僕はこう言ってるんです。こんな僕でさえ不快にさせるなんて⋯あなたは最悪だと。ねぇ、シェリー」
そう言うと、扉の影から桃色髪の少女が現れる。ルスランは目を見開く。
「シェリー⋯!」
「そんな⋯嘘ですよね⋯?お義父様がお母様を⋯!そんなの⋯そんなことって⋯!」
「⋯あぁ、そうさ」
「やめてください⋯」
「私だ」
「やめて⋯!」
「私が君の母親を殺した」
「やめて!!」
シェリーは耳を抑える。
そのままシェリーは気を失う。
「⋯シド、後は頼む」
「あぁ。⋯ちゃんとケリはつけなよ」
「分かってる」
シドはシェリーを抱きかかえて去っていく。
「君は⋯たしかゼッツだったかな?」
黒いコートの男を見ても、ルスランは言う。
「⋯まぁいい。秘密を知った以上、どうせ彼らも死ぬんだ」
ルスランは黒いガントレットを取り出し、黒いカプセムをセットする。
ルスランはガントレットを回転させる。
するとウルフナイトメアが現れ、シドたちを追う。
「⋯助けに行かなくていいのかな?」
「あぁ、問題ない」
そう言って彼は黒いコートを脱ぎ捨てる。
「君は⋯!バク・コードリー君⋯!?⋯そうか、そういうことか⋯まさか君がシャドウガーデンのトップの一人だったとは⋯」
「⋯なぁ、あんた。どういう気持ちでシェリーを育ててたんだ?」
「⋯なんだと?」
「どのツラ下げて、子供の心を弄んでたんだって言ってんだよ!」
バクは声を荒げる。
「⋯何を言ってるんだ君は」
「はぁ?」
「情など、抱くはずがないだろう」
そのとき、バクの中で何かがぷっつりと切れた。
バクは怒りに任せて一瞬で間合いを詰め、ルスランの頬を剣がかすめる。
「フン!」
だがルスランはそれをかわし、バクの腹を膝で打つ。
「ウォォ!」
だがバクはすかさず、ルスランを殴り飛ばす。
衝撃で吹き飛び、バクは膝をつきながらズザザっと後退し、息をつく。
「⋯ハッ、ハハハッ⋯!はぁ⋯世の中の闇はすべて見てきたと思ってたが⋯まだまだ深いな」
バクは自身の顔を叩く。
「ふぅ⋯よし!」
ルスランは口元の血を拭いながら言う。
「どうかしたのかな?」
「⋯シェリーの怒りは俺が預かった。覚悟しろ⋯俺はあんたを止める」
次回で占拠編は終わる予定です。
はてさて、一周だけ出てきた〝彼〟は一体⋯?
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