お付き合いしていただければ嬉しいです。
「止める⋯か。その程度の覚悟で、私に勝てるとでも思わないことだ!」
「ほざくな」
「っ!」
次の瞬間、バクがルスランを通り過ぎ、窓の方に立っていた。
「ぐぅ⋯!?」
ルスランの首元から血があふれる。
「お前こそ、その程度でよくもまぁ減らず口を叩けたな」
バクの目元が冷たく光る。
「私はこれでも剣に行きた人間だ。向かい合えば相手の力量は分かる⋯今の私では少々分が悪いこともな!」
ルスランは強欲の瞳とその制御装置を取り出す。
「悪いが全力で行かせてもらうぞ、強欲の瞳はこの制御装置と2つ合わせて初めてその真価が発揮される⋯!このようにな!」
強欲の瞳と制御装置が融合し、溢れ出した魔力がルスランの体を貫くようにして、ルスランと一体化する。
「うぉぉ⋯!今こそ私は生まれ変わる!素晴らしい⋯素晴らしいぞ⋯!力が戻る、病が癒える!分かるだろう!この溢れ出る魔力、人間を遥かに凌駕する力を!まずは貴様で試させてもらおう!」
「⋯」
バクはギャバン・インフィニティのカプセムをドライバーにセットし、トリガーを押す。
「死ねぇ!」
ルスランが強く踏み込んでバクに斬りかかり、辺りが煙に包まれる。
ルスランは手元に違和感を覚える。手応えがまったくないのだ。まるで、鉄のアーマーに剣をぶつけたように。
「⋯変身」
煙が晴れ初め、ゼッツの赤い複眼が露となる。
だがその腕と足はアーマーのようになっており、全身は黒いアンダースーツの上に、赤と銀色へと変わって、ルスランの剣を防いでいた。
―――変身――それはゼッツシステム発動のコマンドだ。
では、変身プロセスをもう一度見てみよう。
カプセムの回転を受け、発生したクリフォードトーラスが多次元的エネルギーを抽出。
超発光により、光子を変身者に収束させることで、わずか0.1ミリ秒で装備を展開、ゼッツの姿へ肉体が変質し、変身を完了するのだ。
「よくぞ防いだ!ならこれはどうだ!」
ルスランは動じることなく、攻撃を次々に繰り出していく。
だがゼッツはそれをギャバリオンブレードで防ぐ。
「認めよう!貴様は強い!」
ルスランの剣とギャバリオンブレードが鍔迫り合う。
「⋯ど⋯⋯いい」
「なにぃ?」
「お前の言う強さなんかどうでもいい。これ以上⋯俺を怒らせるな」
ギャバリオンセイバーがゼッツの手元に現れ、ゼッツはそれを軽く投げ、そのまま魔力の糸で引っ張って上空から落とす。
「ッ!」
ルスランは自身の脳天を貫こうとしていたギャバリオンセイバーをかわすが、側頭部を上空から落ちてきたギャバリオンセイバーがかすめ、血が流れる。
ギャバリオンセイバーは、地面に突き刺さった。
「なんだと⋯!?魔力で物体を動かすこと自体至難の業だと言うのに⋯!」
ゼッツはギャバリオンセイバーとブレイカムゼッツァーを構える。
「次、行くぞ」
◇◇
「ん?」
シドは追いかけてきているウルフナイトメアに気づく。
「ニュー」
「ここに」
ニューがシドの後ろに現れる。
「この子お願い」
「分かりました」
ニューはシェリーを抱きかかえる。
「先言ってて。僕もすぐ行くから」
「はっ」
ニューはその場から姿を消す。
「君が僕の相手をしてくれるの?」
「ガルル⋯!」
ウルフナイトメアは唸り声を上げる。
「いいよ、ちょっと気分が悪かったし⋯君で発散するとしよう」
シドの姿がシャドウに変わる。
「グルルァ!」
ウルフナイトメアはシャドウに襲いかかる。
だが、シャドウは徒手空拳でウルフナイトメアを圧倒する。
「その程度か?」
「グゥ⋯ガルァ!」
ウルフナイトメアが飛びかかる。
しかし
「やっぱ所詮この程度か⋯」
いつの間にかウルフナイトメアの胴に深々とした切り傷が残り、血が吹き出す。
「ギャァァ!」
ウルフナイトメアは傷をかくように暴れる。
「来い」
「ウゥ⋯ウガァ!」
ウルフナイトメアが再度シャドウに襲いかかろうとするも、その動きは止まっていた。
「ガゥ!?」
「狼ごときが、陰に牙を剥けると思ったか?」
その足元は、スライムに拘束され、まるで底なしの沼に沈みかけている獣のようとなる。
「迷える子犬⋯と言ったところだな」
いつの間にかシャドウがウルフナイトメアの後ろに回り込んでいた。
「⋯まぁ動物要素のタイプとしては悪くないか」
「ガゥ⋯!?ガッ!」
ウルフナイトメアは頭を掴まれ、シャドウに軽々と持ち上げられる。
「良かったねぇ、君。我の血肉となる権利を与えよう」
シャドウはそのままウルフナイトメアの首筋に噛みつく。
「ギャァァァ!」
断末魔を上げながら、ウルフナイトメアはシャドウに喰らわれる。
「⋯プッ、やっぱひっどい味。あぁ〜胃袋鍛えてるとはいえ、今日も消化大変そうだな〜」
シャドウはつばを吐いて口元を拭って言う。
◆
「お待たせ」
シャドウはガンマたちの元に降り立つ。
「シャドウ様!」
「首尾はどうだ?」
「はい、現在――」
シドがシャドウモードに切り替えて聞き、ガンマが答えようとしたその時、
「ぐぁぁぁぁ!」
大きな物音が聞こえ、ルスランが副学園長室を突き破って吹き飛ばされてくる。
「ん?あれって⋯」
シャドウはゼッツの姿を確認し、よく見ると、その姿はいつもと違った。
『蒸着!』
『宇宙刑事 ギャバン・インフィニティ。次元を超えて、出張中だ!』
『お天道様を⋯曇らせんなぁぁぁ!』
「あの時の主人公くんみたいなカラーリングになってるじゃん」
とある宇宙刑事を思い起こさせ、シャドウは言う。
◇
「もう終わりか?」
ゼッツは荒い息をつくルスランを煽る。
「ふぅ⋯ふぅ⋯まさかこれほどとは⋯!いいだろう、これを貴様ごときに使う予定はなかったのだが⋯やむ無し!」
ルスランはカプセムに魔力を込める。
するとカプセムに強欲の瞳のように赤い目のような意匠がつく。
「これこそ⋯私の集大成!」
その姿はウルフナイトメアに変わり、そこに赤い1つ目のようなものが頭部につき、胸に十字架の制御装置が現れ、右腕は剣と一体化した姿となった。
「ハッハッハ!私はもはや全盛期すら凌駕する力を手に入れたぞ⋯!この力があれば貴様などぉ!」
グリードウルフナイトメアとなったルスランは、ゼッツに襲いかかる。
ゼッツは攻撃を躱しながら、あたりを見回す。
「フハハ!この力に手も足も出ないか!」
その時、ゼッツはグリードウルフナイトメアを副学園長室へと投げ飛ばす。
「ぐぉぉ!」
グリードウルフナイトメアが瓦礫を押しのけて立ち上がると、煙の中から、青い光が見えた。
「貴様ぁ⋯!」
ルスランの前に、青くなったゼッツが現れる。
「⋯少々手荒く行こうか」
ゼッツが天に手を掲げると、副学園長室の天井が吹き飛び、空に大きな雨雲と台風が現れる。
「何を⋯!?」
「知ってるか?雷雲ってのは、大気と水さえ操作できれば案外簡単に作れる」
「何の話だぁ!」
ゼッツは襲いかかってきたグリードウルフナイトメアの両腕を掴む。
「そしてそこに金属製の尖ったものがあればどうなると思う?」
「何を⋯っ!」
ルスランが床を見ると、そこには持ち手部分が床に刺さり、セイバー部分が点をまっすぐに向いているギャバリオンセイバーがあった。
「避雷針代わりさ」
ゼッツがギャバリオンセイバーに足を触れさせた次の瞬間、
という音が鳴り響き、雷がギャバリオンセイバーを通してゼッツとグリードウルフナイトメアを直撃する。
「ぐぁぁぁぁぁぁ!」
グリードウルフナイトメアは悲鳴を上げ、黒煙を出して膝から崩れ落ちる。
「っ!あぁぁ⋯!やっぱり効くなぁ⋯!いいもん浴びたぜ⋯!」
ゼッツは黒煙を発しながらも天を見つめる。
「やっと思い出せた⋯あの時の恐怖を⋯熱を!光を!」
「貴様⋯何を言っている?」
ゼッツがグリードウルフナイトメアの方を向くと、その胸のドライバーには黒いカプセムがセットされていた。
そしてそのカプセムは黄色く変わり、待機音が流れる。
「なぁ、雷に打たれて死ぬ時の感覚って分かるか?わからねぇだろうな、なにせ俺も今の今まで忘れてたよ⋯いいもんだよなぁ、電気ショックって」
グリードウルフナイトメアは語り始めたゼッツを見て目を細める。
(こいつ⋯何をペラペラと。おかしくなったのか?)
「やっとあの時の恐怖を、悪夢を!鮮明に思い出した!」
そのとき、バクの脳内にとある記憶が浮かぶ。
雷に打たれて死ぬ瞬間の恐怖、体が焼ける匂い、脳天を貫く衝撃が⋯望んで見た悪夢が全て、鮮明に思い出された。
そしてあの日、
「⋯嵐か」
ゼロは一人で佇んでいた。
そのとき、一際大きな雷が落ち、電気が消える。
「停電⋯?」
だがすぐに明かりがつき、機械の音が鳴り響く。
「!」
ゼロはゼッツルームに駆けつける。
「これは⋯!」
そこでは、一人の赤ん坊がカプセルの中で産声を上げていた。
「⋯ついに、生まれた⋯!」
ゼロは目に涙を浮かべていた。
そのままカプセルを空け、赤ん坊を抱き上げると頬ずりをした。
「許してくれ、バク⋯お前には普通の生活を送らせてやれないかもしれない。君には⋯エージェントとなってもらう」
彼は、稲妻と同時にこの世界に生まれ落ちた。
ゼッツはドライバーのトリガーを叩くように押し込む。
ゼッツが指を弾くと、そこから稲妻が散る。
「変身!」
ゼッツはドライバーのカプセムを回転させる。
変身と同時に駆け出したゼッツの姿は黄色の雷戦士・ゼッツ イナズマプラズマに変わり、そのままグリードウルフナイトメアの体を専用武器のイナズマブラスターで斬り裂く。
「ぐぁぁ!」
グリードウルフナイトメアは自身が斬られたことに一瞬遅れて気づき、血がしぶく。
(なんだこの鋭さは⋯!速すぎる⋯!)
ゼッツはイナズマブラスターを構える。
「これだけは感謝するぜぇ⋯やっとこの姿になれたんだからなぁ!」
そう言ってゼッツはグリードウルフナイトメアに殴りかかる。
「ハァ!」
「ぐぁぁぁ!」
ゼッツは一秒の間、右手で120発のパンチをグリードウルフナイトメアに叩き込み、その後、イナズマブラスターをグリードウルフナイトメアの胸に突きつける。
「なっ⋯!?」
◇
「この音⋯雷?」
ガンマがそう呟く。
「目覚めたか、ゼッツ」
シャドウが笑みをこぼして言う。
そのとき、
「ぐぁぁ!」
グリードウルフナイトメアが体に稲妻の矢が刺さった状態で飛んでくる。
そして、何者かが高速でグリードウルフナイトメアに突撃すると、その風圧で副学園長室の炎が一瞬で消える。
「ハァ!」
次の瞬間、ゼッツがグリードウルフナイトメアの背後に立ったかと思うと、ナイトメアの両腕が斬り落とされる。
◇
「ぐぁぁぁぁぁ!」
「!」
グリードウルフナイトメアの声で、シェリーは目を覚ます。
「あれは⋯!」
シェリーはグリードウルフナイトメアと、それと対峙するゼッツを目撃する。
「どうなってるの⋯!」
「あれが貴様の義父の成れの果てだ」
シェリーが振り向くと、そこには漆黒の衣を纏い、フードを被った男・シャドウがいた。
「あれが、お義父様⋯!?」
するとシェリーの視線に気付いたゼッツはシェリーの方を見る。
「⋯」
「どこを見ている!死ねぇ!」
そのとき、グリードウルフナイトメアが腕を再生し、剣と一体化した右腕で斬りかかる。
ゼッツはそれをイナズマブラスターで防ぎ、そのまま押し返し、イナズマブラスターを振り下ろす。
だが
「っ!お義父⋯様⋯!」
シェリーの声を聞き、ゼッツが手を止める。
「⋯フッ!バカめぇ!」
グリードウルフナイトメアはゼッツを斬り上げる。
「ぐっ⋯!」
ゼッツは後ずさる。
「⋯」
「フッ、もう手を出せないか⋯いいだろう!殺してやる!」
グリードウルフナイトメアはゼッツに攻撃を繰り出していき、ゼッツはそれをひたすら受け止める。
「なんで⋯何もしないの⋯!?」
シェリーはそれを見て困惑する。すると、シャドウは口を開く。
「奴は待っているのだ」
「待っている?何を⋯」
ゼッツはシェリーの方を向いて言う。
「お前が決心をつけるまで、俺は待ち続ける。自分で終わらせなきゃ、何も解決しない」
「そんな⋯っ!なんでそんなこと⋯!」
シェリーが見ている間も、ゼッツはひたすら攻撃を受け続けていた。
「⋯お義父、様⋯」
グリードウルフナイトメアはゼッツの胸ぐらをつかんで言う。
「バカめ、シェリーが私を裏切るようなことをできるはずがない!」
◇
シェリーはゼッツとグリードウルフナイトメアを見ながら、その脳裏にルスランの姿が浮かぶ。
『シェリー、君はいずれ世界に羽ばたく研究者になる』
『私を仇だとも知らずにね。かわいいかわいい、愚かな娘だ』
「その程度かぁ!」
「ぐっ⋯!」
目の前で、グリードウルフナイトメアが倒れたゼッツを立たせて、殴り飛ばす。
「っ⋯!もうやめてください、お義父様!」
その言葉を聞いて、グリードウルフナイトメアはシェリーの方を見る。
「なんでこんなことをしなくちゃいけないんですか!なんで、なんでお母様を⋯っ!」
シェリーは涙をこぼしながら訴えかける。
だが
「フッ、フハハハ!シェリー、やっぱり君は⋯愚かな娘だねぇ」
「え⋯?」
「いつまで経っても、私の予想の域を出ることがなかった。だから死ぬんだよ、この男も。君の母親のようにねぇ!」
「そんな⋯!」
シェリーは膝から崩れ落ちる。
「もう十分さ。さよなら、シェリー」
グリードウルフナイトメアがシェリーに向かって斬撃を放つ。
「っ!」
シェリーが息を飲み、シャドウやガーデンメンバーが動こうとしたその時、
「くっ⋯!」
「え⋯?」
シェリーの前に、ゼッツが庇うように立っていた。
「⋯ハァ!」
ゼッツは斬撃を弾き返す。
「なんで、あなたはそこまで⋯!」
シェリーは涙ながらに言う。
「⋯これだけは言っておく、失ったものばかりを数えるな。今、お前に残っているものを数えてみろ」
「私に、残っているもの⋯?」
「あぁ」
そしてゼッツはグリードウルフナイトメアに向かっていく。
ゼッツはグリードウルフナイトメアの爪をイナズマブラスターで防ぐ。
「貴様らがどれほど強かろうがもう終わりだぁ!この事件はすべてシャドウガーデンの仕業となるように手を回しておいた!」
「だとさ」
ゼッツはシャドウに言う。
「フッ、愚問だな」
シャドウは鼻で笑って言う。
「我らはもとより、正義の道を往く者でもなければ、悪の道を往く者でもない。我らはただ、我らの道を往く」
「なんだとぉ⋯!」
「もし貴様のような小物にできるなら、世界中の罪を持ってくるがいい。我とゼッツはすべてを受け入れよう。だが、何も変わらないさ。我らは我らのなすべきことを成す。それだけだ」
「世界のすべてを敵に回しても構わないだと⋯傲慢だぞシャドウ!」
するとゼッツが口を開く。
「あいつはそういうやつだ。自分が地獄に落ちると内心では理解しながら、罪を背負ったまま生きていくつもりなんだよ。するべきことをするために、しぶとく何百年もな」
「なんだとぉ⋯!」
「舐めるなよ。世界の全てから忌み嫌われようと、俺は助けを求める人の⋯生きていく人の夢を守る。その道の先で、俺がどこまで堕ちようと⋯な。それが、俺が『あの人』から学んだ生き方だ」
「死に体のくせに⋯調子に乗るなぁ!」
グリードウルフナイトメアはゼッツを押し飛ばす。
だがゼッツは静かに口を開く。
「⋯あんたも昔は、ただひたすらに剣の道を目指した人間だったはずだ」
「あぁそうだ!だが私は全てを失った!だから何が何でも取り返すのだよ!」
ゼッツはその言葉を聞き、うつむいて言う。
「あんたはそういう生き方を選んだんだな」
「私に、残っているもの⋯」
シェリーはゼッツの言っていた言葉の意味を考える。
そのとき、浮かんだ顔は
「お母様⋯シドくん、バクくん⋯」
優しかった母、そして久しぶりにできた大事な友達、シドとバクだった。
「⋯そうだ。私には⋯まだ残ってる!」
「どうやら気付いたみたいだな」
シャドウの言葉に、シェリーは頷き、走って前に出ると、ゼッツに向かって叫ぶ。
「お願いします!お義父様を⋯ルスランを止めてください!!」
「⋯
そのとき、ゼッツはグリードウルフナイトメアを蹴り飛ばし、新たなカプセムを取り出し、ドライバーにセットしてトリガーを押す。
「
ゼッツの口にクラッシャーがつき、腕には炎のような外装がつく。
「今夜の悪夢もこれで終わりだ」
ゼッツはトリガーを3回押し、構える。
「はぁぁ⋯!」
そしてカプセムを回し、走り出すと、その姿は稲妻となって消える。
「なっ⋯!」
(どこへ――っ!?)
次の瞬間、グリードウルフナイトメアの体を何本もの稲妻が順番に貫いた。
「ぐっ⋯!?」
動けないグリードウルフナイトメアの前に、ゼッツが姿を表す。
「体の中心に向かって貫いていって、最後は心臓だったな」
「ッ!まさかぁ!」
ゼッツは稲妻となって、真上から現れると、グリードウルフナイトメアの胸をキックで貫いた。
貫かれたグリードウルフナイトメアの前に、「777」の文字が浮かぶ。
そして
「グァァァァ!」
「ZZZ」となり、グリードウルフナイトメアは爆散する。
「⋯ミッション、コンプリート」
◆
虫の息となったルスランを、シェリーは見つめる。
「まさか⋯本当にシェリーを言いくるめるとはな⋯」
「違うな」
ルスランの言葉を、ゼッツは否定する。
「彼女自身が、過去に決着を付けたんだ」
その言葉を聞き、ルスランは苦笑する。
「フッ⋯」
「ルスラン」
シェリーは一歩前に出る。
「⋯恨み言なぞ聞かんぞ」
「違います」
シェリーはルスランの言葉を切って言う。
「⋯例え騙されていたのでとしても、私を今日まで育ててくださって、ありがとうございました」
そう言って彼女は頭を下げる。
それを見てルスランは目を見開き、やがて笑う。
「フッ、ハハハハ⋯!やはり君は愚かな娘だ⋯」
「⋯」
「⋯だけど、最期の最後に⋯君の成長を見届けたこと、地獄への手土産にさせてもらうとする⋯よ⋯」
そう言ってルスランは事切れる。
「⋯バカ⋯!なんでそんなこと言って死ぬの⋯!ズルいです⋯!」
シェリーは涙をこぼす。
「⋯」
ゼッツはシェリーの背中に手を置く。
「シェリー」
「え⋯?」
ゼッツはフードを脱いだ。
「バク、くん⋯!?」
「⋯君の母親について、少し調べさせてもらった」
「え⋯?」
「君の母親、ルクレイア・バーネットはあの夜、君にプレゼントを残していたそうだ」
「プレゼント⋯?」
バクはどこからか、小包を取り出し、シェリーに手渡す。
「歴史の闇に葬られたはずだったものだ。⋯君が持っているに相応しい」
シェリーが小包を開けると、そこには一本のリップクリームが入っていた。
そこには、一つの書き置きも同封されていた。
〝シェリーへ
こんなもの、まだ早いと思うけれど、いつか仲良しの男の子とお出かけするときがきたら、オシャレに使ってね。私はそういうのに疎いから、場違いだったらごめんなさいね〟
「うっ⋯お母様⋯!うぁぁぁん!」
バクは立ち上がって、歩き出す。
「いいの?正体、見せちゃって」
「殺したのは俺だ。そいつがどんなクズだったとしても、事実は変わらない」
「⋯そっか」
「行こう」
そしてシャドウガーデンは姿を消した。
◆◆
数日後、
「王国の敵、シャドウ。反逆者ゼッツ。よくできていると思わない?」
ミツゴシ商会の裏で、アルファはガンマにそう語りかける。
「監禁、放火、強盗、無差別殺人⋯なんて悪い人たちなのかしら」
冗談めかして言い、アルファは微笑む。
「主様方はおっしゃいました。世界の罪を全て受け入れよう。だが何も変わらないと。助けを求める人の夢を守るよ」
「それでも⋯」
『我らは我らのなすべきことをなす』
その場にいたミツゴシ商会の従業員たちが同時に言う。
「⋯いい言葉ね」
「はい」
「私は正義の立場にあると思っていた。だけど彼らはそうじゃなかった。人を助けるのも、所詮自分のエゴということね。彼らのその覚悟に、私たちも報いなければならない⋯手の空いている七陰を集めなさい」
◇◇
シドとシェリー、バクは倒壊した校舎の前を歩いていた。
すると不意にシェリーが口を開く。
「⋯シドくん、バクくん、ありがとうございました」
「え?」
シェリーは立ち止まって二人の方を向く。
「お二人のおかげで、ルスランの最期を見とれました。気持ちの整理は⋯正直なところまだついていませんが⋯」
シェリーは自分を嘲笑するように言う。
「それでいいんじゃない?」
「え?」
シドの言葉に、シェリーは顔を上げる。
「たとえ、ルスランがどう思っていようが、君にとってあの男と⋯義父と過ごした時間は本物なら、それを忘れる必要はない」
「シド⋯くん⋯!」
シェリーはボロボロと涙をこぼしながら言う。
「ルスランは確かにどうしようもないクズだった。けれど⋯君の前にいた『シェリー・バーネットの義父』を恨む必要はない。俺達はそう思う」
「バク⋯くん⋯!うぅっ⋯!」
◆
ひとしきり泣き終わったシェリーは二人の方を向いて言う。
「実は私⋯ラワガスへの留学が決まったんです」
「あの最先端の学術都市に?」
シドの言葉にシェリーは頷く。
「でも⋯私にもお二人を手伝わせてください」
「というと?」
バクがたずねると、シェリーは笑いかける。
「シドくんですよね?シャドウは」
「⋯」
シドが無言で冷や汗をダラダラと垂らす。
「だから、私もシャドウガーデンに協力したいんです。王国の敵、反逆者なんて言われてるけど⋯お二人にはきっと、やらなきゃいけないことがあるんですよね?私もそれを手伝いたい。それが私の、今の目標です」
「⋯きっと、辛くなる」
バクが言うが、シェリーは笑う。
「覚悟の上です」
「⋯そっか」
そしてシェリーはラワガスへと発っていった。
協力についてだが、一部装備の設計、イータとの研究協力で合意した。
シャドウガーデンは世界各地に広がっているから、恐らくラワガスとの連絡網も確保できるだろう。
すると
「⋯まさかシェリーまでこのごっこ遊びに参加してくれるとはね」
とシドが言う。
「あぁ⋯もうめんどくさいから言っとくけど、ディアボロス教団もシャドウガーデンも実在してるぞ」
「ふ~ん⋯⋯⋯⋯⋯え」
「さーて、帰るとするか」
「ちょっと待って、どういうこと?」
「もう夏休みになったし、これから暇になりそうだなー」
「話を聞かせてくれないと困るよ?」
◆◆
数日後、
「いやぁ、まさか適当に言ったことが全て当たってるとは」
とシドが寮の部屋で呑気に言う。
「まぁお前のいいところはその豪運でもあるから、あまり考えすぎないでくれ。これからも、その偶然のおかげで助けられる人はいるだろうからな。頭の片隅に入れとくだけでいい」
「まぁそうだね。考えすぎると疲れそうだ。それに⋯これからも僕は変わらないさ」
という感じで、当面は今まで通りシドは陰の実力者ムーブを楽しみ、バクもそれに合わせる、という形の現状維持となった。
まぁそういう感じで、学園占拠事件は幕を下ろした。
そのとき、一匹の鳩がベランダに舞い降り手紙をシドとバクの手に落としていった。
「『過去を精算する時が来た、そこは古の記憶と、魔人の怨念が眠る墓場⋯聖地・リンドブルム』⋯」
「最後に暇なら来てって書いてあるけどね」
(聖地ねぇ⋯いつか観光に行ってみよう程度に考えていたけど、こりゃなにか起こるな。まぁ⋯それも良しとしよう)
バクは飛び去っていく鳩を見送る。
だが、このときのバクは知らなかった。
◇◇
「最近、ここを抜け出しているだろう」
ハゲ頭の男はそういう感じ。
「にゃんの話〜?」
バクの前に現れたあの少女が、ガラスケースの中に閉じ込められていた。
「とぼけるな!」
ハゲ頭の男が手に持ったボタンを押すと、少女の首につけられたチョーカーのようなものから電流が流れる。
「っ!あぁぁぁぁ!」
電流が止まり、少女は荒い域をつく。
「はぁ⋯はぁ⋯!」
「お仕置きされたくなかったら、逆らわないことだな。⋯これから忙しくなるぞ、被検体ナンバー17」
去っていったハゲ頭の男を見ながら、少女は息をつく。
「はぁ⋯本当に、これでいいの⋯?せんせい⋯」
「あぁ⋯バクに会いたいなぁ⋯」
聖地リンドブルムで、思いがけない出会いと死別が、彼を待っていることを⋯
/次は聖域編、バクをとりまく情報の開示と、ついに、あの悪夢が⋯
???:「生まれたものは壊さなきゃなぁ!」
もし他作品とコラボするならどれ?修正版(やるのはしばらく先)
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