夢のエージェントとなって   作:RE・RIDE

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山場まであと少し


Case 6 認める(admit)

 

「広っ」

1部の教室に入った俺の第一声はそれだった。

 

それはもう、この教室だけで小学校の体育館ほどの大きさはあるのではないかと思うほどの大きさだった。

 

加えて更衣室や軽食場などその他諸々の施設も完備しており、さすが上流階級の貴族ばかりが在籍する王都ブシン流1部と言ったところか。

 

あたりを見れば、やれ公爵家の次男だの、やれ騎士団長の娘だの、シド流に言えばネームドキャラがあちこちにいる。

 

 

「今日から新しい仲間が入った」

「バク・コードリーです、よろしくお願いしまーす」

 

インストールして青い電磁戦士になってそうな声の顧問、金髪イケメンのゼノン・グリフィ先生はこの国の剣術指南をしているらしい。さすが1部。

 

するとゼノン先生は俺に話し始める。

 

「知っての通り、ここで学ぶ王都ブシン流は伝統ある本家ブシン流から派生した新しい流派だ。言うなれば、君と同じ新顔だね。初めはやはり風あたりが強かったんだが⋯君を推薦したアレクシアの姉、天才魔剣士と呼ばれるほどの才能を持つアイリス王女のおかげで、今は本家に迫るほどの勢いだ。つまり、力さえあれば周囲の好奇な視線なんて跳ね返せる⋯君はどうかな?」

 

そう言って俺の方を向く。

「たしか先生も王都ブシン流を盛り上げた剣士の一人だとか?」

 

「アイリス王女に比べたら、私の助力など微々たるものだがね。ただ、王都ブシン流は私が育ててきたと思っている。だから、君にも好きになってもらえると嬉しいよ」

 

 

 

練習が始まり、俺はアレクシアと組むこととなった。

 

「俺はちょっと準備運動するけど、君はどうする」

 

「⋯付き合わせてもらうわ」

俺達は一緒に体をほぐした。いわく、「面白いわね」らしい。

 

 

 

その後はひたすら剣を打ち合った。

アレクシアが振り、俺が受け、俺が振り、相手が受け⋯の繰り返しだ。

 

「はっ」

俺は剣を受ける。

 

彼女の剣は基本に忠実で、無駄が排除され、研ぎ澄まされている。

ただし、地味だ。

 

 

王国最強ともてはやされる姉の剣に大きく劣る⋯というのが世間の評価らしい。

でも⋯

(嫌いじゃない)

 

その地味さは努力の賜物だ。一歩一歩、堅実に基礎を積み重ねたものにしか振るえない剣⋯才能だより、力任せの剣なんかより、俺はよっぽど好きだ。

 

俺だってそうだ。ワルサーP38を使った射撃を主体としているものの、近接戦闘もこなすためにシドから剣や格闘の手ほどきを受けている。

 

 

 

 

授業終了の鐘が響く。

 

「よし、今日の授業はここまで」

 

「ありがとうございました」

「ありがとうございましたー」

俺達は頭を下げ、俺は軽く伸びをする。

「いい剣ね」

「そいつはどうも」

「⋯でも嫌いな剣。まるで自分を見てるようだわ」

 

そう言ってアレクシアは去っていく。

(やっぱり姉へのコンプレックスは多少あるのか⋯気にしなくてもいいのになぁ。ん?)

 

アレクシアがゼノン先生と話している。

 

嫌な予感がする。ここはエージェント秘技16番・盗み聞きの出番だ。

 

「それが君の答えというわけかな。アレクシア」

 

「えぇそうよ。彼と付き合うことにしたから、〝ゼノン先生〟」

 

「やれやれ、まるで子供だな。いつまでもそう逃げられるものじゃないというのに」

 

「大人の話ですか?なら子どもの私にはわかりませんねぇ」

 

 

おぉ、これは中々パンチの強い煽りだ。

 

なんてことは置いといて、アレクシアが俺なんかと付き合うことにしたわけが大体分か

ってきた。

 

「まだ公こそなってはいないが、私たちの婚約は⋯」

 

「あくまで候補でしょう」

 

「君の合意があれば話は簡単なのだがね」

 

「自分の相手は自分で決めるわ。横から口を出される筋合いなんてさらさらないわね」

 

なんだか面倒事の匂いがしてきた。

 

 

 

◆◆◆

 

放課後、校舎の裏側

 

「なるほどねぇ、つまりゼノン先生と結婚するのが嫌で、ちょうどいいところに来た扱いが簡単そうな俺を当て馬にしたわけだ」

 

「えぇそうよ」

悪びれもせずにアレクシアは言う。

 

「なにか不満でもあるのかしら?罰ゲームで告白してきたバク・コードリーくん?」

 

「⋯ヒョロとジャガか」

「あの二人とお話したら、聞いてもいないことをペラペラと話してくれたわ」

 

痛いところをつかれた。そりゃあ告白なんてされ飽きてるだろうけど、俺だって罪悪感はあるし、利己的な面で言えば普通の好青年のイメージが崩れるのは少し惜しくはある。しょうがないからここは従っておくとしよう。

 

 

「⋯いつまで?」

するとアレクシアは予想外とでもいいたそうな顔をする。

 

「どうした?」

「いえ⋯色々言ったけど、素直に従うとは思わなくて」

 

「俺だって告白が成功したからには責任取ってちゃんと付き合う気だったし、君のことは嫌いじゃない。それに罪悪感も多少なりともあるから。それで、いつまで続ける?」

 

「⋯そうね。あの男が諦めるまでかしら」

 

「そう簡単に折れるかねぇ」

 

「時間さえ稼げれば、後は私がどうにかするわ」

「OK」

 

すると

 

「これ、とっときなさい」

と言ってアレクシアが何かを指で弾いて俺に投げる。

 

俺がそれをキャッチすると

「⋯なにこれ」

 

これ一枚でウン十万は下らない王国金貨だった。

「代金よ。一応、協力して貰う立場だから」

 

俺は立ち上がって金貨を投げ返す。

「⋯なんのつもり?」

 

「遠慮しとくさ。金を払わせるつもりなんて毛頭ない。そんなことより、俺なんかよりもよっぽどいい男と付き合うときのためにでも取っとくといい。それに、金のために付きあう安い男になりたくないからね」

 

シドなら犬になってでも貰ってたな。

 

「っ⋯」

「大丈夫、ちゃんと君に協力するさ。他言もしない。それが俺のミッションならね」

俺は背を向けて歩き出す。

 

「そうだ、一緒に帰る?」

 

「い、いえ、今日はいいわ」

「そっか、じゃあまた明日」

そう言って俺は笑いながら手を振り、再び背を向けて歩き出す。

 

⋯貴重な収入、さすがに今回は我慢しとこう。

 

 

◆◆

「⋯なんなのよ、あいつ」

バクの背を見送りながら、アレクシアは返された金貨を懐にしまって足を踏み出す。

 

「⋯変な男ね」

そう言うアレクシアの顔は、自然と微笑んでいた。

 

 

 

◆◆◆

あれから一週間、俺達は順調に、どこにでもいる普通の恋人として周囲に馴染んでいっている⋯と思われる。

 

歯切れが悪いように思われるかもしれないが、そりゃ断言はできないだろう。

 

あぁ、それと、たまにちょっかいもかけられたりしているが、大体は笑って流してる。いざというときは肉弾戦でボコってるが

 

 

 

そして今日も俺とアレクシアは一緒に下校⋯というのは表向きで、大体はゼノンへの愚痴を聞かされている。

「ったく、ムカつくわねあの男!少し剣がうまいくらいでいい気になって」

 

とこのように、普段は自重しているものの、俺の前では口が悪くなる。

 

俺の経験からしてこっちが本性⋯というか素なのだろう。

 

 

 

 

俺達はアイスを買って二人で食べる。

「⋯うん、確かにどこにでもいる放課後デート中のカップルだね」

 

「えぇ。世間に私たちの交際を知らしめるのが目的だもの」

 

 

 

 

「っていうか、ゼノン先生の何がそんなに嫌なんだ?」

 

「全部よ全部、あいつの存在すべてが嫌いなの」

 

「でもイケメンだし、地位も名誉も金もある。社会的に見たら優良物件だろ。実際女子生徒の人気も高い」

 

「だからよ。上辺だけならどうとでもできるわ」

 

「なるほど⋯説得力しかないな」

 

「なんか言ったぁ?」

「ムゴ⋯」

口にアレクシアのアイスを突っ込まれ、俺は口ごもる。

 

「とにかく、私は上辺だけじゃ判断しないわ」

「ならどこで判断するんだ?」

 

俺はアイスを口からスッポ抜き、口周りを拭きながら言う。

 

「欠点よ」

「なかなか現実的で嫌な考え方だな」

 

ドヤ顔で言うアレクシアにそうツッコむ。

 

「ちなみに、あなたのことは嫌いじゃないわ。欠点もそこそこ、美点もそこそこ、程よく性格や欲が垣間見える。すごく人間臭くて、一番人らしいもの」

 

「⋯褒めてるんだよな?」

アレクシアが笑みを浮かべる。

 

 

「ちなみに君が大嫌いなゼノン先生の欠点は?」

「⋯ないわ」

俺が差し出したアイスを受け取って食べ始める。

 

「やっぱ優良物件じゃないか」

「いいえ、欠点のない人間なんていないわ。いたとしたら、そいつは大嘘つきか、頭のおかしい人間かの2つに1つよ。あいつは前者よ」

 

確かに。

こればっかりは同意のしようしかない。

 

 

 

◆◆◆

そしてさらに一週間後。

今日も剣術の実技を済ませ、二人で列車に乗って帰宅している。

 

なんだか今日は剣が荒れていた。いつもの愚痴もないし、やけに大人しい。

 

ここは一応彼氏として聞いたほうがいいのか?

 

すると

「不思議ね、あなたの剣」

不意に、アレクシアが沈黙を破る。

 

「基礎はできているのに、ただそれだけ。それだけなのに、何故か目を引きつけられる」

「⋯一応感謝しとくよ」

 

「でもやっぱり嫌いな剣」

またその話か。

 

「今日はどうしたんだ。剣がいつもに比べて荒れてた」

「っ⋯!」

アレクシアがキッとこちらを睨む。

 

「⋯気を悪くしたならすまない、所詮白服の戯言だ。ただ⋯何かあったらなら、話くらい聞いてやるさ。曲がりなりにも彼氏なんだから」

 

それからアレクシアは静かに語りだす。

 

「⋯私は、ずっとアイリス姉さまに追いつきたかった。でも私とあの人じゃ、持っているものが最初から何もかも違った。だから私なりのやり方で強くなろうとした。その結果、私の剣が世間からなんて呼ばれてるか知ってるでしょ?」

 

「⋯『凡人の剣』、だったか?」

 

「そうよ、ちなみに言っとくとあなたも同じ凡人の剣。残念だったわね」

 

俺にだって自覚はなかったわけじゃない。ただ⋯俺はそんなに嫌じゃないな。

 

「そうでもない。俺は君の剣が嫌いじゃない」

 

「⋯同じようなことを前に言われたことがあるわ。ブシン祭で私が無様に負けたとき、アイリス姉さまが言っていたわ」

アレクシアは唇を噛む。

 

「あの人に私の気持ちなんて分からないのよ。どれだけ私が惨めだったか⋯!あの日から自分の剣が嫌いよ」

 

そう言ってアレクシアは自嘲気味に笑う。

 

「⋯これは俺のひとり言だ。聞き流してくれて構わない」

俺はそう前置きをして口を開く。

 

「俺には持論があってね。人は自由に夢を見る権利がある。それが将来の目標なのか、夜に見る、起きたら忘れる儚いものなのか、それは自分次第だ。だから、君が自分の剣をなんと言おうと、俺は君の剣が好きだ。叶うなら自分の好きなものを、貶されたくはない」

 

「⋯それになんの価値があるの」

 

「さぁね。ただこの数週間、相手してきた俺からすると、君の剣は堅実な努力の塊だ。相当な時間をかけて、思いを込めてきたその剣を、『凡人の剣』と一蹴できるほど、俺は非情にはなれない」

 

「〜〜っ!」

アレクシアが息を呑み、こちらを見つめる。

 

「たとえ世界の全てから否定されても、俺は拒まない。口でいうだけならどうにでもなる。だから⋯俺の憧れに誓う。俺は⋯君のまっすぐな剣が好きだ」

 

そう言ってアレクシアに微笑むと、なんだか彼女の瞳から光が溢れた気がしたが、すぐに窓の外を向き、俺と目を合わせようとしない。

 

「今日はここまででいいわ」

「⋯そっか」

アレクシアはそのまま出口へ向かう。

 

だがドアの前で立ち止まる。

 

「⋯ありがとう」

 

そう言って列車を降りていった。

 

「⋯どういたしまして」

聞こえてはいないだろうが、一応返しておく。

 

 

翌日

「こうやって4人で食べるのも随分と久しぶりですねぇ」

 

「この野郎は毎日アレクシア王女と食ってたからな」

とジャガとヒョロが言う。

 

午前の授業も終わり、俺達は久しぶりに4人で昼食を食べていた。

 

「結局、王女様とはどうなったの?」

 

「それだよそれ!実際、どこまでいったんだよ」

 

とシドの言葉にヒョロが声を抑えて言う。

 

「なにがだよ」

「だから、アレクシア王女とだよ!2週間付き合ったんだからちょっとぐらい展開あるったんだろ!」

 

そう言うヒョロにため息をつきながら俺は口を開く。

「展開もなにもないよ、こんな下級貴族と王女様になにかアクションが起こるわけないだろ」

 

俺はそう言って再び食器を持ち直す。

 

そういや今朝からアレクシアの姿を見ていない気がする。

 

まぁ昨日のこともあるし、顔を出しづらいのかも。

なんて考えながら、昼食を口に運ぶ。

 

 

すると

「すまないが、少しいいかな」

ゼノン先生が現れる。

 

「どどどどどどどうじょ!」

「ででででででです!」

ヒョロとジャガは早速置物へ。

 

「なにか僕に用でも?」

「ああ。話には聞いているかもしれないが、アレクシア王女が昨晩から寮に戻っていない」

 

「は?」

(あいつが?)

 

さすがに昨日のあれで色々吹っ切れて一人旅へ⋯なんてことはないだろうが、突然姿を消すなんて、あいつにしては不自然だ。

 

こりゃ誘拐かななんて考えていると、ゼノン先生が何かを取り出す。

 

「今朝から捜索した結果、こんなものが見つかった」

ゼノン先生が持っていたのは片足だけのローファー。たしかアレクシアが履いていたのものだ。

 

「このローファーが見つかった付近には争った形跡もあった。よって騎士団は誘拐事件と断定し、現在捜査中だ」

 

ん?待て待て、下校中に誘拐されたってことは⋯最有力の容疑者は⋯

 

「そして容疑者を絞り込んでいくうちに、アレクシア王女と最後に接触した人物が浮かび上がっていった」

 

そう言ってゼノン先生は俺を見据える。

 

「騎士団が君に事情聴取をしたいそうだ」

 

食堂の入口には殺気をガンガンに漂わせている騎士団がいた。

 

「協力⋯してくれるだろう?」

 

なんだかきな臭くなってきやがった。

 

 

 




真アギト展行きたかった今日このごろ。


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