俺は、転生者である、名前はまだ無…………あるわ。
東臣チヒロだ、とうおみって読む、面倒ならチヒロと呼んでくれ。
俺は前世がある人間、普通に暮らしていたはずの俺がどうして転生をしたのかと言うと…………まぁ何と言うか前世がそもそも普通じゃなかったって話なんですよ。
俺の前世過ごした世界には、神がいた、文字通りの神、名前は無いらしいがその神はかなり愉快な奴で、愉快犯でもあった。
あの時、笑いながら俺が死んだことバカにしてさっさと着替えて異世界に行け、て言われた俺の顔どうなってんだろうなと自分でも気になって仕方ない。
ともかくそんな人格破綻者の神は俺をおもちゃにする気満々だった、俺も2回目の人生に興味があったからこれを受け入れた訳だが……皆! 口約束より契約書だ! 物的証拠残せよ!
素直に文明社会に送り込んでやるだけマシだと思え、そう言われ有無も言わさず異世界へ飛ばされた俺の現在は悲惨なものである。
◆ ◆ ◆
「安いよー安いよー奴隷が安いよー! 今ならなんと驚きの価格! 半額? いやいや! 90%OFF! 今だけだよーっ!」
なんて商売してやがる……! 俺がそんな安い男だとでも言うのか! そうかもしれなくてももっと盛れ! 悪党らしく吹っ掛けろ!
……と、こんな調子。
詳しく言うと変なボロ雑巾同然の服を着せられたストレンジ女と、同じ衣装の俺が檻にぶち込まれて縁日の金魚のごとく売られている。
まるで……じゃなくて文字通りの見世物だ、胸糞悪すぎる、同時にこれが異世界かとワクワクしている、我ながらどう言うメンタルしてるんだろうね。
ふと、逆境で笑いましょうって歌詞が頭を過る、過っただけで続きが来なかった。
なんでこうなったかと言うと、転生してすぐ森の奥にいたんだが、近くに街があることが分かって道なりに歩いてたら前世と同じ姿だったせいで珍しがられてたまたま通りかかった奴隷商に捕まった。
なんて言うか自分の不運さに一周回って笑い声がでたね、今も楽しいくらいだし、奴隷商も流石に商品の人間を雑に扱わない……服装以外は。
そういうのもあって俺は一週間この檻のなかで過ごしている、飯付きだからまぁいいや。
「それでも娯楽がないのはつらいな〜……暇で死にそ……」
「チヒロ……眠い…………」
「マジ? ゼアー……まだ昼だぜ?」
「ダークエルフは夜行性……それに私は成長期…………ふぁ……」
「昨日は200歳は淑女とか言わなかった?」
「ダークエルフの寿命は1000歳以上、まだ子供と大人の間くらい……ふわぁ…………だからいいんです〜」
あ、そうだゼアーについて説明しよう。
ゼアー、またの名を『ゼファイン・アー・オブシディアル』ダークエルフの女性である。
エルフ語で黒の女王と言う意味があるらしい、どうにも訳ありで進んで奴隷になった変な奴である、本名含めあまり情報は引き出せなかったので俺が勝手にゼアーと呼んだら本人もそれが気に入ったのか、自らゼアーと名乗るようになってしまった。
兎角、変な奴である。
エルフ自体変なのではないかと疑ってしまう、この人だけが特別なのだと信じたい。
こんな変な人でも、見た目はいい、夜のような黒い肌にきらめく長い銀髪、ボロ雑巾のような服の上からでもわかるバスト&ウエスト&ヒップ、更に手足も陸上選手のように締まった筋肉が見える、特に背中は本人も言うように弓を引くため特にバキバキだ…………目鼻も整っててぱっちりお目目ってのがスタイルとのギャップがある。顔が可愛い系なのにボディはスマートでスタイリッシュ、これって反するものではないんだと俺は感心している。
何より俺より背が高い! 175位ある! 一流アスリート顔負けの体型で思わず声が漏れたのは内緒だぞ!
「膝枕〜」
「俺がやってほしいくらいだよ、檻の床冷たいし硬いんだから」
「お願い〜」
「ノーです、重いし痛いから」
「ちぇ〜……じゃあ、ちょっと耳貸して」
「……なんです?」
ゼアーが駄々をこねるのは今に始まったこと……ではない。
俺と初めてこの檻のなかで出会ったときからこんな調子で話しかけてくる、俺の距離感とか事情は考慮されないです、なにせ変な人なのでね、そういうものだと諦めた、それに美人だし。
そんな美変人に耳を貸せと言われればハイと言いたくなるもの……男ですから。
彼女は俺の耳にそっとこう言うのだった。
「アイスクリーム……おごって あ・げ・る」
…………? ごめん、一週間ぶりに意味分かんねぇわ。
「意味分かんねぇ」
「…………え?」
なんでそっちがドン引きしてんだ、俺のほうがするべき反応だろうが、何だよ膝枕してくれないからアイス奢ってあげるって耳打ちするって、どんだけ膝枕がいいんだよ、アイスって奴隷の身分で買えないだろ。
「わ……私の最強の……口説き文句が…………通じない?」
「嘘だろこの人…………」
愕然とした、ゼアーも俺も顎がバンジーして帰ってこない。
アレ最強なのかよ……アレで心動くのお子様だけだが……まさかゼアー……実はお子様……いやただの変な人か。
「じゃあゼアー、俺がアイス奢るよって言えば」
「何でも言って」
「食い気味かよ」
アイス一つにそんなに必死になるか普通、いくらアイスが貴重だったとしても食物一つでなんでもって言わないだろ、ダークエルフはアイスに目がないのかゼアーだけがそうなのかどっちだ、後者であってくれ。
まぁ、これを利用しない手はない、アイスを奢るって言って言うこと聞かせよう…………いやいや、アホらしいわ。
「ゼアーと俺じゃ価値観が違いすぎる」
「そう? 似たようなものよ」
「……まぁアレだ、同じ奴隷のよしみでいつかアイスくらい奢るよ、俺とお前の出会い、それとクソ素晴らしい奴隷生活に乾杯って奴だ……皮肉だからな? 分かるよな?」
「まぁね、チヒロが私にアイス奢ってくれるのよね? 何したらいい?」
「話聞いてました?」
「アイスはそんなに軽いものじゃないのよっ!」
「えぇ…………そんなに言うならこうだ、“お前も俺にアイス奢れ”」
「それって…………ふ、ふふ……いいわよ、私も『アナタ』に、いくらでもいくつでもあげるわ」
「俺知覚過敏だから沢山は要らないけど?」
「いやね『アナタ』、アイスはいくら食べても飽きない魔法の食べ物よ」
そ、そうですか……。
俺はゆっくりと格子を握り、顔を出来るだけ見えるように隙間から外を見た、そして息を吸い元気よく、愛想よく。
「安いよー! 安いよー! 今ならなんと驚きの価格だよーっ! だから早く俺を買ってくれぇぇぇえっ! 外見と内面が一致する人間と過ごさせてくれーっ! このアイス狂人から引き離してくれ〜〜〜っ!」
「あっ! なに自分だけ抜け駆けしてんの! 私を買いなさい人間の貴族ども! あ、お金持ちなら平民でもいいわ! 早く買えーっ! もちろんこの男とセットでね!」
「なっ! お前はお前でどっか行けーっ!」
「何言ってんの? “もう”私たち一蓮托生、でしょ? もうアイスの仲よね?」
「何がじゃぁぁぁぁぁ!!!!」
んな言葉知らねーっ!
「うわぁっ何なんだコイツら!? さっさと誰か買ってくれぇぇぇっ!」
まさに祈るように奴隷商の言葉が奴隷市に響き渡った、その声は救済を求める声だったそうな。
そんな祈りが通じたのか、とある貴族によって数日後俺は買われる、ゼアー? あぁ……いい奴だったよ……。
別れ際の彼女はとんでもない形相だった、短い付き合いだが世話になったな……あと奴隷商のおっさん、お前商才無いよ、ペッ!