俺は東臣チヒロ、ひょんなことから転生者としてこの『アルメル界』と言う場所にやってきた、色々あった、色々とな。
今までの俺は巻き込まれ、流されるままやってきた、だが今日は違うと言える。
巻き込まれる俺じゃなく、巻き込まれに行く俺なのだ、どっちも巻き込まれてるって言われそうだが、心構えが違うのだ。
俺を見るマルガは眉をひそめ首をかたげた、ものを言いたげに口を動かして、閉じた。代わりに生暖かい目線が来た。
それを無視して俺はマルガにこの場所について質問を投げた、帰ってきたのはざっくりした言葉と生意気な自身に溢れた笑み。
「ここは大陸の東に位置するヒューマン連合国、その首都、歴史的な事を語ると長くなるけど、お兄さん的にここはどう? どう? にひひっ」
「分かってるだろその反応は! 俺は奴隷商のおっさんを見つけて殴りたいわ、よくも奴隷にしやがって」
俺は奴隷商のおっさんに恨み返しをしなければいけないのだ、いや本当にはしないけどな、アレで異世界の事情が分かったしゼアーとも出会えたし、恨みはあれど羽より軽い、寛大な俺はそれでチャラにするのだ。
「ホントにやるなら手伝うよ?」
「いいよ今更どうこうしない、それよりも冒険者になるなら色々と準備が必要だって話だったな」
そう、冒険者になって決めてから色々とマルガから話を聞いた、この『アルメル界』の概要をザックリと、詳しく聞いたらつまんないってマルガが言うから、誰でも聞けばわかる程度の一般常識を頭に叩き込んだ。
3日くらい掛けて一般常識を覚えた後、マルガの力で始まりの地であるこのヒューマン連合国の首都に来たのだ。
「回想どうも」
「俺の心読めるのか」
「もちろん、エンシェントだから」
エンシェントすごい。
話題を冒険者に切り替えるとマルガは手を合わせ開ける、すると手と手の間に小さく煙が発生してシンプルなデザインの本が召喚された。
「え? 魔法じゃん、すご」
「今更? 今度教えてあげるよ、何なら魔法全部」
「マジで!?」
「まぁ、お兄さんの魔力量だと下級も下級だし、最低位魔法使えれば御の字かな、ボクからすれば皆似たようなもんだけど」
お前糠喜びさせんなぁ! 俺が魔法使えるようになるって言われてどれだけ嬉しかったか分かるか! ちぇ〜萎えたわ〜やめよかな〜。
「厳し…………途端にやる気なくなったわ……冒険者になるのやめようかな」
「神の宿る山にいって魔法使えるようにお願いすれば?」
「そうだ! その手があった! 俺は冒険者になるぞ!」
「……ちょろ〜い」
なんか言った? いや関係ないね。
神の宿る山でお願いして魔法を使えるようにすればいいんだ、あんな魔法こんな魔法いっぱいあるけどやっぱりどんな魔法も使いたい……!
「お兄さんや、話が逸れたんで戻すけどこれ見てみ、この項目」
さっき召喚した本を開き長々と書いてある文言の一部を指さしたまま、俺の前へ本を突き出すマルガ、お勉強出来る小学生みたいで可愛いね、言ったら殺されそう、思考がズレた、自制自制。
その指さした項目は頑とした文調でこう書かれている。
“冒険者は国が運営する冒険者ギルドにて認可を受けた者である”
「次はここ」
マルガの指が文字の上を滑り次なる項目を指す。
“冒険者はれっきとした国家組織の一員、全ての行動は法に準ずるものであること”
「最後ここ」
“全ての冒険者は定期的な適性試験を受ける義務がある、落第者は冒険者の認可を剥奪するものである”
俺が見たと頷いた、流れる様に本を閉じ手を振って本を煙に包みどこかへ消し去ったマルガは俺を見る、真っ直ぐと俺を捉える真剣な眼差しだった。
「お兄さん、理解した?」
俺は一呼吸置いて言葉を紡ぐ。
「正直めっちゃ怖い」
「だよね〜、お兄さんに合わせて言い換えると冒険者って公務員だからね〜、そりゃ硬いよルールは、だからいきなりなるより準備しようってわけ」
「思う存分準備させてくれ、なんか定期的な適性試験にも落ちそうだよ俺」
「あ、初回登録は必ず適性試験あるって書いてあるよ、戦闘試験ありだって」
「無理ゲーじゃ無理ゲー」
「その為のボクですよ、ボクを連れてきたの英断ですよお兄さん」
「マルガ様……!」
「頼りなさい小さき者」
「あっやめていきなり上位者ムーブされたら怖い」
わーわー、ガヤガヤ、といったような感じで俺とマルガは会話をしていた、それも首都の大通りをだ。
結構目立ったみたいでね、気が付けば街ゆく人々が俺たちを横目にすこし遠回りで歩いていくんだ、割としっかり見ていく人もいるけど。
そして目立ったということは、見つけやすいということでもあるわけで。
「おーい! 」
甲子園の熱狂かくやという大声が通りに響く!
──ドドドドドドドドドッッッ!
地面を揺らしながら走る! 大通りを歩く人々は普段感じることのない異常な揺れに恐れおののいた! 俺も慄いた!
──バシュン!
移動していた何かは大きく空へ飛び上がり俺たちの丁度頭上へ来ると重力に任せ落下する、飛び上がった者の影が俺の顔に落ちる。
ああ、死ぬかも。
「ほいっと」
迫る影に死を直感していた俺はマルガに袖を引かれ前へコケるように足を踏み出して、前傾になる。
──ドォン!
背後に地響きのような轟音と足がふらつく衝撃が走った。
ぎゃぁっ! 死んだ!
と思ったがまだ生きてる、意識はハッキリしてる、しかし死の恐怖でもう足腰に力が入らない、マルガに肩を借りてやっと立っているようなものだった。
「危なかったね〜お兄さん」
「……死ぬところだった」
「腰抜けてるよ」
「許してくれ、怖かったんだよっ──うお!?」
肩に手が置かれ体がグラリと揺れる、俺は力が入らないのでなされるがまま倒れそうになり……。
ポフッ。
なにか柔らかいものに支えられ、優しく抱きしめられた、力を入れれば抜け出せるくらいの甘い加減だったが、今の俺は体が言う事を利かない。
あとものすごく頭を撫でられている、俺は柴犬か?
「ようやく見つけた〜! よぉ〜しよしよしよしっ!」
「ぬおぉぉ?! なんだ猛烈にハゲる勢いで頭を撫でられてる!?」
「ほう、ダークエルフ……お兄さんの知り合い?」
「え? ダークエルフっていや……ゼアー!?」
名前を叫ぶと謎の人物はようやく手を解いて俺は解放された、落ち着いてその人物を見れば服装こそ出会った時とは違うが……紛れもなくゼアーだった。
特徴的な長い銀髪は雑に紐で纏め後ろに垂らし、服装は白い長袖シャツの上から革のベスト、その上にマントを纏う、ズボンはタイトな白ズボン、頑丈そうな黒い革ブーツを履いていた。
「お待たせチヒロ、寂しくなって来た頃だと思って会いに来たわ……なんて嘘、ホントは私が『アナタ』に会いたくって探してのよ、全く何処へ行ってたのよ」
私怒ってますよくらいに頬を膨らませてみせたゼアーは、かなり可愛らしい、ただその背中のゴツい得物が俺を和ませてはくれなかった、俺は思わずそれを聞いてしまった、聞いてしまったのだ。
「ゼアー、それ……」
「え? あぁ、これね、私を買った貴族の家宝、良い弓だったから貰ってきたわ、確か……15人張り? の魔法弓よ、エルフの弓に近いから扱いやすいわよ」
聞かなかったことにした。
貴族の家宝を貰ってきた? いや知らない、聞いてないな。
俺が自分の好奇心を押さえられなかったことに反省し目を閉じ目頭を押さえているとマルガが俺の腰を突いた、そこ身長差で丁度押しやすい位置なのだろうか。
「そのダークエルフは仲間にしよう、冒険者は四名までのチームが許されているからな」
「あ、そうなの……でもなんで4人まで?」
「うむ、過去に冒険者間の派閥があってね、その派閥抗争が激化しギルドの意向を無視することが目立って、そういう制限が設けられたのさ」
「うわ……でも言われてみればって感じか」
ゼアーが俺を見る。
「そちらの方は?」
「あっ」
そういえば自己紹介も何もしてないな、マルガはゼアーを一方的に知ってるから、俺も自己紹介を無視しちゃった。
「改めてこちらは「マルガ、ただのマルガ」え? でも」
「世の中黙っといた方がいい事もある、ね? お兄さん」
「え! お兄さんってことは……妹!?」
「ゼアー? 俺の顔とマルガの顔に血縁関係ありそう? 俺ものすごい平民顔だよ?」
「そうかしら……ヒューマンはみんな一緒に見えるけど」
「そういうもんですよ、長命種って」
「兄妹じゃないからね? と言うかマルガは男だからね?」
「こんな可愛い子が男の子!?」
それは俺も思う。
そんなこんなでマルガとゼアーは初対面ながら仲良くなり、俺は会話の隅に追いやられるほどだった。
皆さん気が付いてます? 冒険者ギルドに一歩も近づいてないんですよ、まだ。
俺の気持ちなんてもの知らず、人混みのある大通りで長命種たちは会話に花を咲かせていたのだった。