俺はチヒロ、俺の人生が物語なら主人公で間違いない男だ。
そんな主人公の俺でも思うようにできないことの一つや二つや三つや四つあるのだが、そういう事態が今日は集中しているような……していないような。
すこし振り返ろう、俺が冒険者になる為にマルガと共にヒューマン連合国の首都に来た、冒険者ギルドで登録をしようとした所で厄ネタ引っ提げてゼアーが襲来だ。
厄ネタの内容は貴族から逃亡、家宝の窃盗、そして本人がそれを気にしてないこと、頭がいいとは言えない俺は頭痛がした。
でだ、そのゼアーをマルガの提案で──俺が許可したとは言え──仲間に迎え入れた以上はいつか解決しなければ、俺の冒険者登録が取り消されるかもしれない、まだ登録してないけど、そんな未来の心配を俺は一人で考えていた。
だが当の本人ゼアー、そして肝が据わりきってるマルガは毛ほども気にせず、悩む俺を引きずるようにとある店へと運んだのだった。
「お兄さん、着いたよ、いい加減唸るのやめたほうがいいよ」
「そうだな……俺も少し悩みすぎたかもな」
「一体何を悩んでいるの? まさか私の……「(ああそうだよお前だよお前)」……ヒップサイズ考えたの?」
「……?」
「後で教えてあげる」
「いらんわ!」
何を数えたら落ち着くんだっけ、フィボナッチ数列?
ゼアーさんアンタまさか天然なのか? 奴隷の時から思ってたけど天然だよねアンタ、誰がいつケツのことを考えてたってんだ。
と言うかここどこ? やたら剣やら盾が飾ってあるが……ショーウィンドウに高価そうな剣も置いてるな、アレは武器と言うより装飾品だけど。
「お兄さん、これも準備の一環だよ、まともな装備にしないとね」
「まともな装備?」
「だって燕尾服じゃ冒険者とは言えないよ」
「え? …………あ、そうか、アレから着替えてないのか俺」
待ってこれまでの騒動の中で俺ずっと燕尾服だった? めちゃくちゃ悪目立ちしてるじゃねーか! クソーっ! もっと早く気がついていれば……!
ニヤリとマルガは俺を見て言う、からかう為に。
「悩みすぎて視線に気が付かなった訳だ、やたらと熱視線を送ってる人もいたけど……お兄さん鈍いなぁ、冒険者やってけるか今から心配だね」
しかし意外な助け舟、ゼアーが俺を庇うように言う。
「あらマルガちゃん「君、ね」マルガ君はチヒロに厳しいわね」
「居なくなったら困るからね」
「なぜ?」
「暇を持て余すから」
「変な理由ね、面白いわ」
ゼアーはマルガが気に入ったのか彼の頭を優しく撫でる、マルガもやれやれと言った様子で撫でられていた。
俺の名誉は何処にもなかった。
……気を取り直して、燕尾服からまともな装備へとチェンジしていこうと言う話に戻す。
マルガが言うにはこの店にはある程度何でも売っている、駆け出し冒険者御用達の店なのだとか、俺はその中から感覚で良いから装備を自分で見繕えと言われた。
マルガ曰く「これから普段着にもなるから好みでいい、どうせ魔法で保護しないと大半の装備は鉄屑になる」と言う、お金? あぁマルガ持ち、異世界の通貨の持ち合わせがあるわけないだろ。
「いつか返す」
「そのうちね」
俺はビビッときたものを試着して、そんなに時間を掛けずに決まった、というのも金属と比べ軽くてそこそこ丈夫なのを評価点にして、ハードレザー一式に統一したってのもある。
胸当て、肩当て、肘まで覆う小手、膝当て、薄手のズボン、革ブーツ、インナーの上から軽い鎖帷子、意外と様になる。
腰にはベルトと剣帯、剣帯には市販の両刃剣を差した。
「頭は?」
「どうせアレなんだろ、バンダナでいいや」
「せっかくだ、私と同じ物を買ってやろう」
「お揃いか、ならボクも」
「いいね、ユニフォームだ」
と言うことでフード付きマントを装備、我ながら冒険者らしく仕上がった、馬子にも衣装、というのはなんか違うかな。
マルガも同じマントを購入し身につけた、チームらしくなったな。
「まいどあり〜」
店員の声を背に受けながら俺たちは店の外へと出た、なぜかさっきと違う景色に見える、これは俺の気持ちがこの世界に寄ってきたんだろうか、新鮮さのなかに当たり前を感じる。
レンガ、木材、金属、そういった物を組み合わせて作られた建物、施設や家屋は異国情緒あふれるもののハズ、それが薄くなってきた、俺もいよいよ異世界人の仲間入りかな。
俺がぼーっとしているとマルガは次なる目的を語る。
「さぁ、これである程度の準備が終わったも同然、あと一人くらい仲間がいるといいけどそれは冒険者となった後でも見つけられる、さぁいよいよ冒険者ギルドに行くけど、心の準備は?」
冒険者ギルド……冒険者たちの集う場であり、あらゆる冒険者を管理する行政施設……楽しみだ。
「あぁ、バッチリ、緊張よりもワクワクが強い」
「冒険者ね、私もあまり知らないから楽しみだわ、出来れば暴れ甲斐のある仕事だと良いのだけれど」
「物騒だぞゼアー」
「冒険者は荒事の印象がつよいから仕方ない、事実として大成するには荒事から逃げられないからね」
「……マルガまで……よし! 頑張るぞ! おーっ!」
ちょっと早いが先に気合い入れておこう、知らない土地の知らない仕事をするんだからな。
件の冒険者ギルドは首都の中央にあるという、冒険者ギルドは支部含め100を超す、その本部がここ首都のギルドなのだとか。
マルガを先頭に俺、ゼアーと続いて街を巡りながら首都中央の冒険者ギルド前へとやって来た。
人が多い、それが第一印象、第二は露店が多い、人も物も溢れている、広場のはずだが溢れすぎて狭く感じる。
「ここが俗に冒険の広場と呼ばれる場所さ、冒険者たちが情報交換したり、仕事帰りに一杯やったり、待ち合わせしたり、色々と使い勝手が良いところさ」
マルガの説明が耳に届く頃には俺は剣や盾、杖、鎧、装い様々な人々が出入りする一際大きな屋敷を見つけていた。
俺の隣でゼアーが呟いた。
「冒険者ギルド、その本部、かしら……大体は十把一絡げ……でも猛者もいる」
「ゼアー、そういうの分かるのか?」
「もちろんよ、これでもダークエルフ一の弓の名手だったのよ、まぁ直ぐ返上した称号だけどね」
と、ウィンクして教えてくれた、様になってて緊張から心臓が飛び跳ねた、察せられないように努めて無視して言葉を返す。
「一番だったってだけでも凄いぜ」
「ありがとう、『アナタ』」
「所でなんでその呼び方なんだ」
「私とアナタの間には、ある種の契約があるのよ?」
「まさかアイスの奢る奢らないじゃないだろうな」
「それは本質じゃないわ、本質は婚約よ」
「へぇ〜……え? え???」
「お互いに物を贈り合い、両方が受け入れたなら婚約、更に同じ物を送り合ったなら生涯のパートナー候補なのよ、このダークエルフのしきたり、短命種のヒューマンにも知られているはずだけど」
え……うそ……マジ……? じゃあ俺は知らず知らずのうちにゼアーと婚約してましたって? そんなの分かるわけねーよ!
「えっ……ちょ……ゼアーそれホントか?」
「その話、後でも良いかい? そろそろ日が暮れるよ、装備選びに時間使ったからね」
「ぐぬ……気になるけどあとで!」
「了解了解」
マルガに催促されて仕方なく後回しにして、俺たちは冒険者ギルドの門をくぐった。
外見に違わず中は広く、窓口がいくつも並び、そこへ冒険者たちが列を成す、両端には大階段があり、ギルド職員によって封鎖されてはいるが2階へ続いている、何人かはそちらへ向かっている。
天井には光る石が光源になったシャンデリアが垂れ下がり、床は赤い絨毯が敷き詰められていた。
「高級ホテルみたいな……感じだな」
俺のつぶやきを聞いたのか、少し暇を持て余していた男性ギルド職員がこちらへとやってくる。
赤のスーツが制服なのか? 芸人みたいだとは言わなかった。
男性ギルド職員はピシッと服と姿勢を正し俺たちへ一礼する。
「ようこそ冒険者ギルドへ、どのようなご要件でしょう?」
「俺たちは……冒険者に、なりに来た、登録ってのは何処ですれば良いんだ?」
「おお、未来の冒険者様でしたか、ではあの三番受付へとお進みください」
男性ギルド職員が指さした所を見る、三番と書かれた大きなカードが見えていた。
「ありがとうございます、ではこれで」
「あ、少しお待ちを」
「なんです?」
「……貴方、元奴隷では?」
「……なに?」
「あぁ怖がらずに、奴隷だったからと何か不利になることはありません……ただ」
「ただ?」
ゼアーが俺の袖を引く。
「囲まれた」
一言告げ、背中の弓に手を伸ばした。
ギルド職員は落ち着いた態度で語る。
「貴方に対して、デモニアン帝国大使より特別捕縛命令が出ています、大人しくして下さいますか?」
俺は、目眩がした。
マルガだけが笑っている。