ぼくは、スライム?〜偽物勇者と再生の子〜 作:ワンダ・プレイア
適当な平たい場所に薪をみんなで集めて来て、ヴェクタの大きな荷物から見たことがある鍋を取り出して。なんか……カラフルな石?のような物が布に包まってでてきた。
「それは?」
「ん?……ああ、『鉄パン』だ、これを水で溶かせば即席飯ができんだ」
慣れた手つきで鉄パンと言われたのを拳で砕いて鍋の中へ入れていく。途中で溢れ落ちそうだった小さな欠片を僕の口に放り込んでくれて、試しに噛んでみた。
けど……滅茶苦茶硬いしすっごい味が濃い!なにこれ?って思わず顔をしかめたら、楽しそうなヴェクタの笑い声が聞こえた。
「味濃い……美味しくないね」
「魔物の肉、乾燥した薬草や野菜、脂類で餡を作って。それを小麦粉と水でよく練ったもので包んで固めてカッチカチにする。で窯で一気に水分を飛ばしてこーんな石みたいなのが出来る」
割った鉄パンを沸騰した水の中へ放り込んでいき、スプーンでかき混ぜていく。サラサラとしたただの水がゆっくりとドロリとした液体へ変わっていき、中の肉や野菜が水分を吸って膨らんでいた。
「旅先で必ずしも食える魔物がいるとは限らない……下処理にも時間かかるし、めっちゃ隙だらけになるからな。だからこういう水に溶かして食えるもんが開発されたってこと」
試しに掬い上げた鉄パンのスープはデロリと重たい粘度を持っていて、傾ければボトリと鍋のスープに落ちていった。昨日食べたあの味を思い出して、つい唾を飲み込んでしまう。昨日のとはまた違う甘い匂いもしてきた。
「場所によっては入ってる具材も違う……旅の楽しみのひとつだよな。ルカタの街はモルフと魔物肉が多いな、農作物が貧しかったのかもな」
「ルカタ?」
「あぁ、さっきいた街の名前だよ。山の近くにあって、魔物の猟が盛んだった街だ。若者がほっとんどカマアマに行っちまう位廃れかけた街だが、昔はもっと大きかったんだぞ。昔あったイケメン店主のレストランなんか——」
「何十年前、なんでしょうか?飲食店もほとんど残ってなかったですよ」
「医者が魔物の解体をしていたしな……年配の方が多かったが信仰に溢れたよい街だった。ヴェクタの話だからな、百年以上は前なのは確実だな」
横槍を入れたルベラとサニタスにきぃっと睨みつつ器にスープをよそって配ってくれた。
ひゃく……ねん?ひゃくねんってどの位なんだろう、何回寝ればいいんだろうな。
「皆の前に配膳がされたな。では、今日こうして食事にありつけることを——」
「はいいただきまーす。とっとと食おうぜ、腹ペコで死んじまう」
「ごめんなさい!今日朝ごはんなかったんで腹ペコなんです!いただきます!」
「すんませーん!ごめんさーい!いただきまーす!」
「い、いただきま……す?」
サニタスの言葉をぶった切る勢いでみんなが一斉にスプーンを握って、器ごと食べる勢いでがっついていた。みんなに合わせていただきますをしてスプーンを持ったけど、サニタスが信じられないと言いたげに睨んでくる。でも僕だってお腹減ったんだ、だから食べちゃうの許して。
「信仰心の薄い奴らめ……我らが人の神ソロヴォル様に感謝して、いただきます」
また更に不機嫌になったけどサニタスもスプーンを握っていた。
初めて食べた鉄パンより甘くてちょっと獣臭い……でもトロリとした舌ざわりが心地よくて空っぽだったお腹に溜まっていくのが分かる。
これも美味しい……でもなにか足りない気がする。
「不味くはないが、塩気がねぇな」
ボソリと呟いたヴェクタの言葉にそう言えばと思い出す。ヴェクタが復活記念だとかで塩とか言っていたな、毎回は入れられないのかな?貴重だとかの理由で。
「しゃーないっすよ、カマアマ周りって海から遠いけど水が綺麗なんですから」
「こういうの食べると、海の魚が恋しくなっちゃいます。塩釜で食べたいです……海藻と薬草をお塩で作った『かまくら』で包んで焼き上げる。ママが作って家族全員で食べていました、お誕生日料理なんですよ」
「精霊族が多く住まう南の島の集合大陸『ティソ大陸』。そこの一番大きな島ホソリ出身だったな、あそこは魚が美味かった……南国特有の瑞々しくて甘い果実もあったが、黄色くて細長い果実が特に美味かったな」
「そうです、年中通して大小色んなお魚もカラフルなフルーツもいっぱい取れるんです!あー……食べたい」
ご飯を食べているのに、もう別のご飯の話をしている……目の前にもうあるのにな。
これも十分美味しいのに、なんで誰も褒めないのかな?いらないなら僕が全部食べちゃおう。
ヴェクタにおかわりをお願いしたら山盛りよそってくれた。やった!ルベラの料理も美味しいんだろうけど、ヴェクタの味しか知らない僕からすればヴェクタの勝ち。
「で、今更なんだが……結局倒しに行くのか?」
自分の分も大盛りよそってがっつきながらヴェクタが空気を変えた。
サニタスがスプーンの手を止めて、ゆっくりと息を吸って僕達を見た。
「仕方がない、無謀だと言ったのは私だが。これは全員で決めねばいけないな」
空になった器を置いて、四角い鞄を貝のように開いて中から黒い瓶と羽根を取り出した。病院でオスピスが使っていた文字を書くやつと同じだ。
でもオスピスのより羽根が白くて大きくて綺麗だな。大事に使ってるんだな……なんの羽根なんだろう?
「多数決を取ろう、そのほうが公平だ……ただ注意点がふたつある」
折りたたまれた紙になにかの魔族の絵を、即興で描いて僕達の前に差し出した。ルベラが持っていた紙に描かれた生き物にそっくりだ!サニタスって絵が上手なんだな。
「ひとつ、キャッスルグリズリーは今の時期は危険だ。出産から子育ての時期が丁度今なのだ……かなり気が立っているし、この時期は魔力が濃い個体が多いだろう」
「魔力?魔力に時期なんて関係あるんですか?」
サニタスの説明に小さく手を上げながらリゴルが質問をする、リゴルの様子にサニタスが目の間に皺を寄せて一回咳払いをした。するとルベラが服の内側に隠すように持っていた大きな本を取り出して開いていた。
「キャッスルグリズリーというのは、雷の魔力を溜めて分厚くて硬い毛根に鉄の砂を呼び寄せて舐めて固める生態があります。まるで騎士の鎧を纏っているような姿、更に大きいからお城みたいな熊さんだから『キャッスルグリズリー』なんですよ」
開いたページを見せて貰えば、魔力について書かれているっぽい……でもよく分からないな。魔石?ってのもなんだ?
「魔力というのは、季節によって魔物の中の濃度が変わると言われています。魔力が濃い……というのは繁殖期に重なることがほとんどです!だから普段の魔物より強くて、こういう討伐依頼も出やすいってことです」
「それを倒すってことか……サニタスさんが嫌がるのも納得だな」
「決まったら声かけてくれ、オレはどっちでもいいから」
空っぽになった鍋に使った器とスプーンを入れて、洗ってくるとヴェクタが席を立った。手伝いに行こうとしたけどサニタスに止められ座り直した。
「説明ありがとうルベラ。そんなに分かっているのなら気軽に言わんで欲しいがね」
「カリエス様を勇者に導けるのなら、わたくしは頑張っちゃいます!」
「そうか……しかし、問題はそのカリエス殿なのだ。これが私が怪訝している注意点のふたつ目なのだ」
じっとりとした目線を今度は僕に向けてきた、なにを考えているか分からないサニタスの冷たい目線が顔に突き刺さる。もしかしてを想像してしまった、まさかもう正体がバレたんじゃないかって。
お、おかしいな。記憶喪失ってことになってて、なるべく目立たないように、人間っぽく振る舞えてたつもりだったのにな……さっきまでお気楽な雰囲気だったし。
一気に生きた心地がしなくなって身体が冷えた気がした。小さく汗が出始めた僕を差し置いて、ゆっくりと立ち上がったサニタスは、懐から小さな剣のような武器を取り出した。
カリエスが腰につけた剣の半分の半分位の大きさ、大きなサニタスの掌に鞘がついたままの状態で握られている。首飾りのような金色の装飾に蛇の紋様が彫られていたのが見える。
「カリエス殿、失礼を承知で申します。貴方は……正直記憶を失う前のように戦えるとは信じられない、貴方のような強いお方に敵うわけが御座いませんが。私と一手……どうかお付き合いを」
「え……あ……」
小さく剣の柄の部分を握ってみる。確かに手に馴染むような、使い慣れているような感覚が確かに感じられる。だからといって『扱える』かは別問題、ちゃんとこれを使って僕は……ぼくはカリエスのように戦えるのかな?
「不安がるのであれば、尚更実践してみましょう」
結果を急ぐサニタスに急かされるように、とりあえず立ち上がって剣を抜いて……抜いて……。
「あれ、抜けない……あれ?」
剣の先が、なぜか鞘に引っ掛かって上手く抜けない。なんで?
「おい、左に下げてる剣を左手で抜こうとすんだよ、そう抜くなよ!逆だろうが!」
「あー危ないですよ、右手で持って外側にスライドさせるように」
リゴルとルベラが野次を飛ばしながらやり方を教えてくれてるけど、一向に抜けない。左?右?どっちがどっちだっけ?
ひとり慌てる僕をリゴルとルベラが取り囲んで持ち方を講義しているのを、すごく冷たい目でサニタスが見ていた……バレるバレない以前に。ぼくは勇者になれるのか心配になってきた。