ぼくは、スライム?〜偽物勇者と再生の子〜 作:ワンダ・プレイア
「そういうことだ、やはり無理なものは無理なんだ。それでもお前らは無謀に突き進むのか?」
横並びに僕、ルベラ、そしてなぜかリゴルを正座させたサニタスが悲しそうな、怒っているような顔で残酷な現実を口にした。
予想より剣を使えなかった、ちゃんと本には一度目を通したのに……鞘から抜けなかった、それすらできなかった。
ショック、これじゃあ勇者としてお母さんを探しにいけない。
「わ、わたくしが魔法でサポートを——」
「魔石の消費具合は?見せてみなさい」
サニタスが畳み掛けるような言葉に身体をビクつかせながら、ルベラはゆっくりと手袋を外した。
カリエスの記憶から、ルベラの手が人間と違うのは知っていた。だとしても実物をこの目にして、小さく驚きの声を上げて口を手で押さえた。
頬を赤らめているルベラの肘から指先まで真っ赤な鱗でぎっしり敷きつめられていて、女の子らしい身体に似つかわしくない鋭い爪がある。
その細い指の付け根に指輪が数個ついている。それをサニタスに見せるように差し出すと、優しく触れたサニタスが眼鏡を直してじっくり観察していた。
「……ルベラ——」
「わ、わかってます!先日の戦いで消費が大きかったのも。そろそろ変え時かなぁ〜をずっと放置してギリギリまで使ってたのも!でも、魔法は撃てます!ほら」
冷静な言葉を口にしようとしたサニタスを遮って、矢継ぎ早に言葉を言ったルベラが手に力を込めれば……掌から少し離れた空中に火の玉が出現した。
「うぉ!?魔法って魔物に当ててようやく発動するんじゃねーのかよ!」
なんで一番リゴルが驚いているのかはさておき、ルベラが顔を真っ赤にしながら力を込めれば込めるだけ。火の玉はゆっくりと大きくなっていった。
「ま、魔法だ……」
オスピスがマッチを擦ったのとは全然違う、正真正銘の本物の魔法だ、本当に人間にも使えるだなんて。
魔族とやり方がなにかしら違うのかも知れないし、オスピスの話だとまだ歴史は浅いと聞いていた。それでも魔族のとあまり変わらないように見える……でもどうやってるんだろう?
「くぅ……キッツ……ぷはぁ!」
いよいよ辛そうになったルベラが息を吸った途端に火の玉がシュッと空中でしぼんで消えてしまった。それを見たサニタスはまた深い溜息をついていた。
「ほら見たことか。魔力も、指輪も、そもそも魔石自体が駄目になりつつあるんだぞ。魔法以外で戦う術がないお前が、どうカリエス殿を守るんだ?言ってみろ」
「わたくしが、なんとかして……ギリギリまで戦えれば——」
「良くない!いいか、今は勇者としての始まりにすら立っていないのだ。それをなんだ、お前は先の戦いで考えなしに敵に放火して……挙句の果てには集落の全焼だ。私達でさえ危なかったのだぞ!」
言い訳をしようにも、サニタスの激しい言葉に強く目を瞑って下を向いていた。そんなルベラを「おっかねぇ〜」と呟いたリゴルが次の標的になった、鋭く睨んだサニタスに怖気づいて下を向いた。顔に汗が吹き出し始めているのがよく見える。
「リゴル、お前はいい加減学びというものをしろ!散々魔法について教えてやったろ、現象を立体化するものと相手の体内で現象を起こす二種類が大まかに存在すると。それなのにお前はなんだ!斧を持てば頼もしいのに、学びがないと言うことは成長がないと同じなのだぞ!」
「す、すいやせん……仰る通りでごぜぇやす」
ルベラ以上に強い言葉で責め立てられたリゴルは、小さく背中を丸めて顔をげっそりさせてひたすら謝りながら頭を下げていた。きっと次は僕の番かな……怖いな。
いつもこんな感じで指揮を取ってるんだろうな、だからサニタスが声を上げるとヴェクタ以外が小さくなるんだ。覚えておかなきゃ。
強く目をギュッとして唇に力を入れて言葉を待った……でも返ってきたのはサニタスの小さな溜息だけだった。
「貴方が、そちら側に座ることになるなんて……」
ちょっとだけ目を開ければ、心の底から悲しそうな顔でサニタスが僕を見下ろしていた。
サニタスとカリエスの関係性は分からない、でもサニタスはカリエスにだけずっと丁寧な言葉で話しかけて、名前の後に必ず『殿』ってつける。なんでなんだろう?
仲間だけどおんなじ場所に立っていない感じ、カリエスのこと嫌いなのかな?そうだったら……どうしよう。
「はぁ……貴方さえ無事であれば、そう願ったのにこんな……すまない。ちょっと失礼」
僕達に背中を向けて、眼鏡を取って目を押さえていた。よく分からないことをしているなって思って見ていたけど、横からルベラとリゴルの気持ちが沈んだ気配を感じ取った。
目だけで確認すれば、ふたり共下を向いて顔を暗くしていた。うまく分からないけど、ここのみんなはカリエスを信頼して支えられていた。それだけはよくわかった気がする。
なんで信頼されてたの?勇者だから?それとも、カリエスだから?
「うぇーい、ヴェクタリターン……んだよ辛気臭ぇな。どうしたよ」
鍋を綺麗にして帰ってきたヴェクタは、未だ僕達に背中を向けたままのサニタスの顔を見にくるっと回り込んでいた。顔を上げたサニタスに目を見開いて、軽く肩を叩いてなにか呟いていた。よく聞こえなかった、なんて言ったのかな?
「……とりあえず、カマアマへ行こう。ここでなにを言い合って、説教を繰り返したって、全て無駄にしてしまってはいけない……」
またこちらに向き直ったサニタスの目元はほんのり赤くなっていた、火の始末をして荷物をまとめてまた歩き出した。
みんなの意見を聞く、そうサニタスは言っていたけど。あの後、サニタスが言っていた帰るという意見に誰も反対することも無く。重い足取りをなんとか持ち上げて僕らは歩き出す。
そんな中考えてしまうのは、たったひとつだった。
「僕なら……カリエスならどうしたんだろう?」