ぼくは、スライム?〜偽物勇者と再生の子〜 作:ワンダ・プレイア
今この私の姿を、もしソロヴォル様が御覧になれば。なんと仰って下さるのだろうか。
名誉なことだと褒めていただけるのか、はたまた無謀だとお叱りを受けることか……どちらにせよお言葉を直接頂けるのなら、神父として生きている私にとっては、これ以上ない程に名誉なことだろうな。
「サニタスさん……あの……」
暗く、視界の数歩先が霧で覆われていつ敵が潜んでいてもおかしくはない谷の中を進んでいれば後ろから声が聞こえた。
足を止めて振り返れば、顔が青ざめて引け腰になっているリゴルが、不安さを隠そうともせず斧を両手で握り締めている。
なんとも……これから正式な討伐依頼が出ている魔物を倒しに行くという、世のためになることをしに行くというのに。
「もし、俺達だけでキャッスルグリズリーを倒せたら……まだ、みんなで旅が続けられるんですかね?」
「リゴ……お前、そんなこと、今はどうでも——」
「よくない!どうなんですか!?」
なにを言い出すのかと身構えていたら、そんなことか……そう考えてしまったのはヴェクタも同じだったのか、いつもの減らず口を閉じて下を向いた。
リゴルはカリエス殿と同郷だったからさておき、ヴェクタはあまりこのパーティを好んでいたようには思えなかったがな。てっきり昨夜の「カリィじゃないのなら」という建前で、カッコつけて逃げられるとか思っていると考えていた……人間の心を読み解くのは難しいな。なにか心変わりでもしたのだろう、興味はないが。
感情的に声を上げたリゴルと、目を合わせた。
これからの戦い、誰が死んでもおかしくないのに、未来の可能性の話をするのか……若者はこれだから嫌だな、死ににくくなる。
「できたとして、カリエス殿が勇者として相応しいと思えるのか?お前も見ただろう……あの方は剣を抜くことすらできなかった」
「だからって——」
「仮に教会に認められたとなったら、どうなるか……これまでの歴戦の勇者達の末路を知っているだろ?死ぬまで魔物と戦う運命となるんだ。あの戦えなくなった人間に、そこまでやらせたいのか?」
「それは……その……」
やっと口籠った、納得はしてないだろうがこれでいい。
私はカリエス殿が……あの小僧が勇者になるのなんて反対だった。
ソロヴォル聖教会への信仰どころかまともな認知すらしておらず、魔物を倒せればそれでいいと剣を握る理由にしている。
やっていることも、考えていることもその辺の盗賊と同じ野蛮人だ。騎士学校の出だと聞けば、底辺の成績だったという事実つきだ……腹が立つ。
ぬるま湯につかり切って、鼻水を垂らして生きてきたであろう、産まれもどこか分からないような世間知らずめが……どうして、死へ急ぐのか。
「忘れたのなら教えてやろう。勇者とは、ソロヴォル聖教会に心身を捧げ、死ぬまで戦いの日々に身を置くことを誓わされる……魔王が討伐されるまで、ずっとだ」
「そう……なんすけど……」
「あいつは剣を握りさえしなければ、穏やかで優しい青年なのだろう?あんな若者が勇者になぞならんでいいのだ!魔王なぞ、カリエスのような若者が倒すべきじゃない!」
似合わない位感情が高ぶる、拳を震わせ止まらない怒りを言葉として吐き出してしまう。ふたりの表情は、霧で見えないと身勝手な言い訳を添えて最後の言葉を吐き出した。
「私のような死にぞこないの老兵を、聖教会は死地に向かわせればいいのだ!若者はただ、魔王など考えずに穏やかに過ごし死ねばいい!わかったか!」
谷の中に自分の声が響いてようやく落ち着いた。霧なんか晴れてないのに、ふたりの様子が痛い程視界に浮かんできた。
目を丸くしているリゴルと、首の後ろを摩りながらこちらを見ようとしないヴェクタ。嫌なものを見せてしまった、私もまだまだだな。
わざとらしい咳払いをして、表情を元に戻しつつ彼らに背中を向けた。
「すまない……目的はこの先にいるだろう、行こうか」
「今の聞かなかったです、はい行こうになるかよ!気まずいわ、カリィに激重介抱欲抱いてましたなんて告白の後に真面目に戦えるかー!」
「いかんのか?そうか」
「畜生……終わったら飯奢れよー!分厚いステーキとかデッカイ魚とか。行くぞリゴル、ぶっ殺してやろうぜ!」
「どちらにせよ、俺達で倒さなきゃ……ですからね」
なにはともかく三人の間に活気が戻った気がする、リゴルの声も上を向いたようだ……多少なれど前を向かせられたようで良かった。
ランプで前方を照らせば、血痕の跡が増えている……傷口が開いたのか?まあどうであれあの魔物はここで死ぬんだ、すぐ楽にしてやらねば。
「気を引き締めろ、辺りを警戒しろよ」
「うっせばーか、お前がだろ」
「へへっ、いつも通りっすね」
谷に足音がみっつバラバラと響く、結果はどうであれこれで最後なんだ……最後か。
カリエス殿がこの場に居たのなら、そんなことを考えずに済んだのかもな。
後ろ髪を引かれるような感覚を振り払い、私達は進んでいく。必ず、倒すことを誓いながら。