ぼくは、スライム?〜偽物勇者と再生の子〜   作:ワンダ・プレイア

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命を頂くということは①

 目の前にはさっきまでオレ達を襲い……いや、襲ったのはオレ達か。人間様の生活を守るためとはいえ、随分と重労働だよなぁ討伐って。

 

 さっきまで死ぬ気で戦っていたキャッスルグリズリーの死体が腹を上に向けて置いてある、見るも無惨だ。

 

 あんな強敵が今は息をしていない、慣れることのないこの感覚にオレは膝をついて死体に手を合わせた。

 

「苦しませてすまない……必ず、オレ達の生に繋げる。だからどうか怨まずに逝ってくれ」

 

 長い黙祷を終えて目を開けて、腰に携えた短刀を抜いた。小さく謝罪を零してキャッスルグリズリーの首に突き刺して、腹に向けて刃を滑らせていく。

 

 ある程度刃を入れたなら、パンパンに詰まっていた(はらわた)が中から弾けるように溢れてきた、綺麗なピンク色だがやはり獣臭い。つい嗚咽を零しそうになったのを声ごと飲み込んだ……にしては本当に臭ぇな。

 

 躊躇っていては作業が終わらない、汚れるのも気にせず、腹の中をどんどん進んでいく。

 

「胃は空っぽ……それ以外は健康そのもの……でも痩せてんな……あ!子宮がある。やっぱあの洞窟のと同じ個体か?だとしても……子宮を開く気にはなれんな。命の冒涜が過ぎる」

 

 解体を手伝ってくれていたサニィが、今はおねんねしてて良かったぜ。きっと「念のため解剖しておくか」とかいってバッサバッサ無神経にナイフを入れていたと思うとゾッとする。

 

 聖職者が魔物と言えど命に手加減なしだとか、生まれは本当どこかって聞きたくなっちまう。

 

 オレが出会ってきたソロヴォルの神父やシスターでもここまで残虐なのは居なかったのに。不気味ちゃんだな、教えはどうしてんだぁ?正直あんまり無縁だったもんで詳しく知らねぇけど……へへへ。

 

「ヴェクタさん!荷物回収してきましたー、あと近くにカリエスの鞄もあったんでこれも。中は無事っした、サニタスさんの手紙も首飾りも。それに金も食料も」

 

「あんがとリゴル。お前だって疲れているのにいつも悪いな……そうだ、中身が無事なら中に砂糖漬けも入ってんじゃね?カリィが食べきれなかったの残ってたなら摘んでいいぞー」

 

「あざっす!ヴェクタさんも」

 

「いい、手は止めたくないから」

 

 嫌味で言ったつもりはないがちょいぶっきらぼうに突き放してしまった、残念そうに「そっすか」と寂しそうな声を出して、中身を取り出した音が聞こえた。その後すぐに唸る声が続いた、気に入ったようだ。

 

胆嚢(たんのう)は肝臓の下側に……あった。おぉ!握り拳ぐらいある、でっけ!」

 

 お目当てのひとつ目を見つけた、早速刃を入れて割れないように切り出した。胆汁という体液を溜める臓器……これが薬の材料として高値で売れる、大事に持って帰らなきゃな。

 

「次は心の臓……ここに……これまたデカい、心の臓は焼きが美味なんだが今日は食えないんだよな。無駄に傷つけてごめんな……()()()は大事に扱うから」

 

 心の臓を切りつければ、中からルベラの小さな掌のような歪な結晶が出てきた……『魔石』だ。

 

 紫と赤が混ざり合う一歩前のような、角度を変えれば表情が大きく変わる。そんな美しい塊が姿を現したのだ。

 

「いい大きさだ。こりゃ教会のお偉い共も素直に頷くかもな」

 

「で、デッカイっすね。それが純粋な魔石」

 

「魔物の血液に流れる濃い魔力……その結晶体、こうやってみると不思議だな。人間にはない魔物だけの性質のひとつだ」

 

 頬一杯に砂糖漬けを詰めて、ゴクリと飲み込みながらリゴルが近寄ってきた。とりあえず胆嚢と一緒に持ってて貰うのも兼ねて手渡し、解体の続きに取り掛かる。

 

「その魔石落っことすなよ……サニィがブチギレすっから。それが加工されて、ルベラやサニィが持ってたみたいな指輪に変身する。でもまぁ……そんだけデカいなら腕輪、いや杖にまんま加工もありかもな」

 

「腕輪や杖って結局の所、指輪となにが違うんすかね?」

 

「腕輪はデカさ位だが、杖はなげーからそれで背中が掻ける……あと座ったまま遠い場所の酒が取れる。ついでにどっちでも言えることだが、魔力の暴走が指輪より起きにくくて、指輪以上に長持ちするらしい」

 

「ついでがついでしてないじゃないですか」

 

 冗談を投げれば緩みきった声が聞こえ、つい緊張の糸が緩みそうになる……いかんいかん。まだ終わってないんだから、集中しなきゃ。

 

「じゃ、まだ続けてるから日が昇ったら教えてくれ。それまで火の番は頼んだぞ」

 

「とっくに朝っすよ」

 

 リゴルの言葉にふっと視線を外に向ける。谷の隙間から見える空がほんのり薄紫になって、遠くに鳥が飛んでいる。気が付かなかった……。

 

「飯、どうする?」

 

「俺、俺が準備しますから……鍋借りますね」

 

 オレの荷物から慌てて鍋と鉄パンを取り出して、リゴルは火の元に駆けて行った。ハンマーは持って行かなかったな、どうやって割るつもりだ?拳でやるにはちときついぞ?

 

 鉄パンは基本的量り売りなんだが、店員はあまりの硬さからハンマーで砕いて売っていた。

 

 誰かが「鉄を叩いてるより力を使う」とかなんとか言い出して、名前が『鉄パン』になったとかなんとかで、名前に恥じず滅茶苦茶硬いのが特徴だ。水に溶かせばちゃんと軟らかくなるから不思議だよな、腐らないのが良い所だが水がないと味の濃いレンガ齧ってるみたいなのが難点だけど。

 

 オレは殴れば割れる位の力は持っているから平気で拳で割るけど、さぁリゴルはどうするかね?あいつは意外にも手で割れそうだけどな。

 

「さて……飯が待っているのなら、余計に早く終わらせなきゃな」

 

 軽く汗を拭い、血まみれの短刀を握り直して。目の前の肉に更に刃を入れていった。

 

 

 

 

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