ぼくは、スライム?〜偽物勇者と再生の子〜 作:ワンダ・プレイア
収穫としてはキャッスルグリズリーの毛皮、魔石、胆嚢、脂肪、爪や牙と今食えるのと道中用の肉を獲得できた。
本音を言えば頭蓋骨が欲しかったが、取り除くのに時間を使うのと大荷物になり兼ねなかったから諦めた。
残りは惜しいが他の魔物が食ってくれるだろう……道中数は見なかったけど潜んでいるだろうし。
ん?魔物が寄ってきてやっぱ危険か?
「うーん……こういうのはサニィに相談すっか」
運びやすいようにひとつに纏めておいて、一旦騒がしくなった腹の虫を鎮めるためにリゴルの元に向かった。
ちょっと開けた場所に焚き火を作って、鍋を沸かしていたリゴルに声を掛けてからリゴルの正面に座る。
その側に眠っているルベラとカリィ……あと、サニィがいるのを確認して安心して息が出た。
それのせいかサニィが目を覚まし、頭を押さえながら上半身を起こした。
「おはよーサニィちゃん!いい夢見れたか?」
「呑気にこんな所で見られるか!……頭が痛い、二日酔いより酷い気分だ」
朝一発目に口から出るのがそんなおっさんみたいでいいのかよ、サニィ何歳だっけ?
人間……えっとぉ?カリエスやリゴルみたいな、エルフやドワーフじゃない普通種の寿命は大体80年、エルフが西で600年、東で500年、んでドワーフが150年。
精霊族が……場所によるけどルベラの親父さんのサラマンダーが200年位だから。
サニィはおっさん自称してるし、大体折り返しの40歳位かもしれないな。オレの10分の1、若いなぁ。
魔力の暴走の結果なのかまだ顔色が悪く見えるな。
発狂の一種なのか、ルベラは虚言が増えるがサニィは肉体的疲労が強く出るようだ。オレは魔法を使えないから発狂はなったことはないけど、大変そうだ……他人事が過ぎるけどな。
「ざまぁねーぜ、死に急いだ結果だ」
鞄から粉薬を取り出して水無しで飲み込み、苦痛の表情を浮かべているサニィを横目に、鍋の中身を味見して首を傾げているリゴルに近づいた。
リゴルに代わって鍋の味を見てやった、やっぱルカタの鉄パンは好きじゃねぇ……塩気とは無縁の味でリゴルは納得しなかったのかもしれない。
「失敗、しちゃいました?」
オレの渋い顔を見て恐る恐る尋ねたリゴルに、満足はしてないが親指を立てて合格サインを出しておいた。
せっかくだからとさっき切り取った熊の肉に枝を刺して、火の近くで炙っていく。脂身が多い魔物肉のいい匂いがする。
塩、出そうか?でも残り少ないしな……いやここは出すか、どうせカマアマで買えるだろうし。
「この肉に塩振って食おうぜー、絶対美味いから」
「こら、勿体ないぞ!大体お前はただの肉に塩という高価なものを——」
「リゴル!オレの鞄のどっかのポケットに入ってるから適当に漁って持ってきて!」
「了解です!にくっ、にくっ」
長い戯言を聞いている暇はない、肉に火が通る前に共犯者リゴルに指示を飛ばしてさっさと取りに行かせた。肉の旨さを理解してるリゴルはすくっと立ち上がって軽やかな足取りで取りに行ってくれた。
「ヴェクタ」
「血抜きは終わってるぜ?今が食い時さ……あ、鉄パンスープに入れるとか勿体ない真似はしないぞ。肉は焼くべき、これぞ鉄板。狩猟飯」
サニィが言いたいのは別のこと、それは分かってる……どうせ無駄に消費すんなってことだろ?知らねーよ、強敵との戦いに祝杯上げたって良いだろう?
本当は酒も開けたいけど、サニィに本気で怒られちまったら雰囲気壊しちまうから。また今度な、リゴル、カリィ。
「はぁ……もういい。私は私の任を果たすことにしよう」
説得を諦めてサニィは空に目を向け、谷全体に響く程に綺麗な音の口笛を吹いた。
しばらくすると、サニィの伸ばした腕に一匹……違うな、一羽の魔物が止まった。
「毎回思うんだが。なんでソロヴォル聖教会は一部の魔物を使役してんだよ……それ、教えに反してないのか?」
「してない。鳥の魔物というのは善良な人間の生まれ変わりと言われ尊まれている……『タベス』は特に頭がいい、人間の言葉だって理解している」
「前世の記憶が残ってるだけじゃね?」
「それならタベスはきっと賢者だったのだろうな。立派な『ストリクス』だ、お前は私の誇りだぞ」
とかなんとか言っているサニィの腕に止まったのは、本人が言うように『ストリクス』という真っ白なフクロウ型の……ようは偵察係として調教された魔物。
教会ではこういった人に管理された魔物を『使い魔』と呼んで普通の魔物と一線を引いているらしい。
魔物ぶっ殺したい連中がだぜ?皮肉も良い所だよな。
「タベスって熊肉食えんの?細かくしてやろうか」
「悪いな……タベスほら、ヴェクタからの分け前だ」
燻製にでもしようかと運んできた肉の一部を小さく切ってサニィに渡し、サニィがタベスの嘴に近づけると啄んでくれた……鳥の癖に良いもん貰えたな。オレのせいで舌が肥えなきゃいいが。
「美味いか?……そうか、沢山食べなさい……ふふっ……可愛いなぁ」
絶対オレ達に向けられない、純粋に可愛がるだけの声が。あのサニィから出ていやがる……おっそろし、本当にあの眉間皺寄せちゃんと同一人物かよってんだ。
「塩ありましたー!……あ、サニタスさんの使い魔だ。またチビスケが腰抜かしますよ?」
塩の袋を持ってきたリゴルがサニィの腕を見て呆れながらそう言った、この前は見ただけでひっくり返ってたルベラを思い出してしまい、急いで脳内から追い払った。
「そうだな……タベスいいかい?私が書いた報告書がある、これをカマアマの聖教会本部。聖堂のいつもの場所に届けてくれ、あのツバメ喰らいのシスターにだぞ?……お前は喰われるなよ」
最後に不穏な言葉を囁き、脚にカリィに渡していた手紙を小さく畳んで括りつけていた。サニィの髪に嘴を入れて遊んで、ある程度で満足したタベスは、大きな翼を広げカマアマの方角に飛び去ってしまった。
「う……うぅ……」
タベスが居なくなったら入れ違いにルベラが目を覚ましたようで、ゆっくりと起き上がり焼けた肉を見て早速涎を垂らしていた。
「おはようルベラ、気分はどうだ?」
「お、おはようございます。ヴェクさん……あの……ここは?」
辺りを軽く観察し、隣で悪夢にうなされているカリエスを見つけ狼狽えつつ起き上がっていた。
体中の傷を確認し、一生懸命昨日の出来事を思い出そうとしているようだ……頭に手まで当ててやがる。
「また魔力の暴走で虚言じみたこと言っていたぞ。カリエスが魔物だーって騒いでたし……俺を異世界?から侵略してきた未知の存在って言い始めたのより面白かったけどな」
「わ、わたくしがカリエス様を!?……ご、ごめんなさいカリエス様。大切なお方なのに、わたくしはなんてことを」
リゴルの言葉に一瞬で涙目になったルベラが、横たわっているカリエスに謝罪していた。
からかいが上手くいってケタケタと笑っているリゴルが微笑ましい……ルベラにはああやって肩の力を抜いて話せるのか、よく茶化すんだよな。ルベラの方が年上なのに……見た目も精神年齢も下に見えるからやっちまうのか?
「おーい、カリィ起こして置いてくれー」
「うぃーっす!……ルベラー、カリエスひっくり返すぞー」
「カリエス様は寝起きが宜しくないですからね……ごめんなさい、コロッと転がしちゃいます」
よいしょとか息を合わせながら、カリィをひっくり返していた。それに本能でビビったカリィが飛び起きて、首が千切れるんじゃないかって位動かして慌てて周りを確認していた。
警戒心が強いのに寝れば結構ぐっすりちゃんなんだよな、叩き上げないと起きない……正直困るんだよな、大変だから。
「わ!なに!?敵襲!?なになに?」
「おっはーカリエス、朝飯、肉、贅沢な一日の開幕だぜ?」
「おはようございます、昨日はお疲れ様です。わたくしは……魔法撃ってからはなにも覚えてないですが……」
「る、ルベラ……なにも覚えてないの?僕に言ったこととか、昨日の話も……全部」
「え?……あ、ご、ごめんなさい。いつもなんです、発狂すると変なこと言っちゃうの……しかもいっつも覚えていないからたち悪いですよね?」
カリィとなにやら楽しそうに話しているのが聞こえる。記憶喪失とやらになってから、カリィはだいぶ明るくなったな。
ちょっと子供っぽくなって、ビビリになって、戦闘だとダメッダメなんだけど……正直今のほうがやりやすい。
オレはサニィの紹介でこのパーティに入ったけど、まあ居心地が良かったとはお世辞にも言えなかった。メンツそれぞれはいい奴なんだけど、特にカリエス……あいつは腹が見えない男だった。
四六時中監視されているような目をオレに向けていた、どこか疑われているような感じもした。話しかける時は穏やかそうに振る舞っていたが、なにを企んでいるのか分からない不気味さがずっとあった。
魔物であれば命をなんとも思わない……そういう所も嫌いだった。
瑠璃の宝玉の討伐失敗の流れで、とっとと抜けようと本気で思ってたが——。
「ヴェクタおはよう!今日のご飯もすごく美味しそうだね……昨日戦った、魔物のお肉なの?」
ぐっすり寝て元気になったカリィが早速飯の所に来やがった、その曇りのない純粋さに頬が緩む。味見だとスープを飲ませてやると、本当に美味そうに全部啜って「ありがとう」と言いやがる……そうそうこれ、こういうので良いんだよ。
なんか、前より頼りないけど……リゴルやルベラと違った純粋な子供、まるで自分の息子が増えたみたいだって思って嬉しくなっちまう。
オレは別にそういった趣味はないが、世話を焼けるのならと体が動いちまう。カリィとしてはどっちが本性かはどうだっていい、多少残ってた壁が無くなって居心地が良くなった。それだけでこのパーティに居たいと思えちまう、我ながら単純な性格。
「さ、早速食おうぜ。カリィ、お前がトドメを刺した肉だ。残すなよ?」
「え?うん……ちゃんと全部食べるよ。ヴェクタのご飯は美味しいから」
ニッコニコで答えやがった。もう中身が別人になったって言われたほうがオレは楽なのに。
「じゃ、サニィちゃんのいっつものに付き合ってやろうぜ」
「いつものとはなんだ!これは正式な——」
「相変わらずっすね、じゃ今日は俺が……えーちゃんとした!飯が食えるのを。我らが神様ソロヴォル様にありがとうして……いただきまーす」
「いっただっきまーす!」
「いただきます」
小さな、そして細やかな会話が聞こえ、誰も傷つかずに匙を握れる。これが戦いのほんの僅かな時間であっても、オレはこれのためだけに弓を引ける。
ちょっとだけ焼きすぎた肉に塩をまぶし、大きく頬張りながらそんなことを考えて飲み込んだ。