ぼくは、スライム?〜偽物勇者と再生の子〜 作:ワンダ・プレイア
ぼくは夢を見ていた……といっても、オスピスが教えてくれた追憶に近いことなんだろうけど。そこでカリエスと話をした。
カリエスは言っていた「魔物を殺して」って……あれは本当に追憶だったのかな?
カリエスの街が燃えていて、そこに絶対に居ない筈のぼくと話をしていた。
会話ができたってことは、カリエスって結局生きているのかな?ぼくはなにもしてない……それともぼくが、カリエスを
よく分からないな、オスピスにもっと聞いておけば良かった……もう遅いけど。
今思い返せば、厄介だったぼくを勇者だなんだって煽ててとっとと追い払いたかったのかな?
頭を撫でてくれた時の顔はそういう意味があったのかも知れないな……もう、会わないかもだけど。
とにかくどうあっても、オスピスはぼくの恩人なんだ。変に恨むことはやめよう。
それに今は——。
「うぃ〜……運よく馬車に遭遇して良かったぜ、謝礼はちゃーんと払うからな。運転頼んだぜ?」
「美人なエルフのねーちゃんに言われちゃなぁ、任せてくれ。カマアマまでは同じ道だしな」
「いやだなぁ〜オレはねーちゃんなんて呼ばれる年齢じゃないって」
草原の爽やかな風が後ろの荷台を突き抜ける。手綱を握る馬車の主人さんの隣にいる、ヴェクタがさっきから滅茶苦茶褒めてキャッキャして喜ばせている。知らない言葉がどんどん出てきて、ふたりは大きく口を開けて楽しそうに笑っているのが聞こえる。
「主人よ、道すがらとはいえ乗せて貰うなどしてくれて感謝する……きっとソロヴォル様も貴殿の功績を——」
「気にせんで神父様、おりゃこのぺっぴんさんにおねだりされた、下心丸出しジジイだからよぉ」
「ぺ、ぺっぴんって……口がお上手だな、一体何人の女を骨抜きにした?」
「さぁ?数える暇は貰えなかったぜ」
これで何度目かの大笑いが聞こえ、言葉を遮断されたサニタスは小さく舌打ちをしていた。
谷を抜けて、どこまでも続く草原に白い砂の道が続いていた……サニタスが言うにはあっちらしいとのことでみんなで歩いていた。
空と大地がずっとどこまでも続いている、変わり映えしない道をみんなで一生懸命歩いていた。重たいキャッスルグリズリーの身体の一部をみんなで持ち運びながら……すごく大変だった。
戦いの後でクタクタのリゴルがまた死にそうな顔をしていて、みんなで支えながら進んでいたら、後ろから馬車が来て「乗ってくかい?」と言われて今に至る。
商人らしい立派な髭の生えたおじいさんは馬……とは言っていたけど、どう見ても二足歩行の大きなトカゲ。
それに車体という荷物を乗せられる車輪のついたテントみたいなのに、僕らは乗せて貰えている。日陰で涼しい、ちょっと揺れるけどそれはそれで楽しいって思えちゃう。
「あの馬が気になります?」
掛けられた声に顔を向ければ、小さく縮こまるように座っているルベラがぼくに……ちがう僕に話しかけてくれた。
結局あの谷の時に話した会話は覚えてなかった、あの発狂でルベラがどうしたのかは分からずじまい。まあ、ぼくの正体をみんなが知っちゃう心配は一旦大丈夫になったのは良かったけどね。
「うん……気分を悪くしたらごめんね。トカゲだよね、馬じゃなくて」
「まあ、お馬さんなんて上半身が人型の四足歩行の魔物『ケンタウロス』の先祖と呼ばれてますが……あれも立派なお馬さんなんですよ。『アースドラゴン』というこれまた珍しい種の子孫なんです!」
「正確には人間の家畜として調教、配合した結果。雑食種で扱いやすいドラゴンの一種になったということだ……ドラゴンが強いだなんて過去の話。もうああいった家畜種しか残ってない、そうだろ?ルベラ」
ルベラの教えてくれたことに詳しく説明を追加してちょっと鼻を鳴らしたサニタス。「もー」とか言って頬を膨らませていたルベラを横目に考える……かちく?協力しあえる存在ってこと?
「魔物なの?」
「正確には精霊族の親戚みたいなものです、わたくしのようなサラマンダー種よりは魔物に近い……みたいな?」
「つまり、根っこが近い種族なんだね」
僕の答えに満足そうに頷いてくれたルベラと目が合って、思わず小さく笑い合った。
そのせいかサニタスの隣で、大きく口を開けて寝ていたリゴルのいびきが一瞬止まった気がした。
「おいおっちゃん!
「いいぜぇ、俺を唸らせられたらそれやるよ……俺は弾けないし」
「なんであんだよ?かなりの上物そうじゃん」
「まあ、金がないからこれでって物々交換で貰ったんだ。カマアマに着いたら売っぱらおうかと思ったけど、珍しい楽器だから買い手が見つかるかって悩んでたんだ……弾いてくれや」
前の方でゴソゴソとなにかを準備する音が聞こえて見てみると、四角い箱に枝が生えているようなものと。ヴェクタの弓より小さな弓を手に持っていた。
「ヴェクター、何するのー?」
「あんなカリィ、これは馬頭琴っていう楽器だよ。オレの故郷の代物でな……ヒヒッ腕がなるぜ」
浮ついているヴェクタの声に耳を澄ませていれば、サニタスがボソッと「どうせ弾けん」と悪口を零していた。
「まあ……黙って聞け」
左手で楽器を掴んで、右手に持った弓みたいなのを擦りつけ始めると、大地に吹き上げる風のようなお腹の奥に響く優しい音が聞こえた。
「いい音だ。曲は……あれがいいな」
あんなに騒がしかった馬車の周りが、ヴェクタが右手を動かし始めた途端。全部無くなったかのように、その楽器の音しか聞こえなくなった。どういう仕組みなんだろう?
「ガサツな酒飲みが弾いているとは到底思えんな」
「綺麗……なんて曲ですか?」
「んー?『サルヒ』。オレのお師様が得意だった曲さ」
みんながうっとりと耳を傾け、ヴェクタの綺麗な音の続きを聞いていた。これが……曲ってやつなんだ、歌に近い気がする。声に出すみたいに人間は道具で歌うこともあるんだ。
「いい音色だ……きっとそいつも、新たな主人に出会えて幸せだな」
「……ほらおっちゃん。この出会いとあんたの計らいに対価を払わせてくれ、大切にする」
前の方で小さな袋を主人さんに渡していた……お礼なんだろうな、中身はお金かな?遠慮気味に受け取っていたからきっとそうだ。
「そんなつもりは無かったが、美人には従うのが俺の信条なんでな……お!カマアマが見えたぞ」
主人さんの言葉にまだ眠ったままのリゴル以外が全員前を見あげた。
ルカタより大きくて、遠くからでも見える大きな壁、その奥に背の高い建物が見えてきた。大きいなって眺めていると、ゴォーン……ゴォーン……となにかを強く叩いた音が聞こえてきた。目を一生懸命凝らして見れば、背の高い建物に動いているものが見えた……あれが音の元なの?
「鐘の音だ、もう昼を回ったな。これからどうすんだい?」
「関所で降ろして頂ければ助かるのだが……」
「了解です神父様、ねーちゃんはそれまで弾いててくれよ」
「しゃ!東のエルフの弦捌き、しっかり覚えていきな」
また再開されたヴェクタの演奏を聴きながら、正直複雑な思いになっていくがどんどん強くなっていくのを感じる。
サニタスが言っていた、結界がどうこうって……ルカタとかは大丈夫だったけど、カマアマはもっと結界ってやつが強いのかな?
強かったら、ぼくの正体がバレるのかな?
「そもそも……ぼくの正体ってどうやってバレるんだろう?」
人間はパラサイトスライムがき……き……えっと、そう。寄生したのとの見分け方はどうしてるんだろ?魔法ってそういうのあるのかな?……怖いな、嫌だな、みんなと離れることになるのだけは。
「怖がっちゃ駄目だ……ぼくは……僕は勇者になるんだから」
ただ気合を入れるために『勇者』という言葉を口にした、それだけだったのに。あの時のカリエスの会話が急に頭の中を支配した。
「いっぱい殺してね……
急いでカリエスの声を頭から振り払い、また考えないようにヴェクタの音に耳を傾けた。
「ぼくは、殺したくて勇者にはならない」
ぼくの目的はお母さんに会うこと、そのために人間に寄生して世間に隠れている仲間を探して元に戻る方法を探す。それが見つからなければ……見つからなければ?
「うーん、あんまり考えなかったや。でも大丈夫、きっと方法を知っている仲間はいるさ」
カリエスごめんね、必ず君の身体を返す方法を探してみせるよ……だからそれまでは頑張るね。
それからは……知らない。