ぼくは、スライム?〜偽物勇者と再生の子〜   作:ワンダ・プレイア

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勇者が不在の間に①

 カリエスを胡散臭い医者の元へ送って帰ってきたサニタスさんが、俺とヴェクタさんを部屋に呼んだ。

 

 さっきまで鼻歌を歌いながら荷物をまとめてたのに、作業を止められてちょっと不機嫌そうなヴェクタさんを横目に椅子に座った。

 

 道中で買ってきた品だとかで、サニタスさんはお茶と簡易的な茶菓子を並べて先に座っていた。

 

 眼鏡を掛けたまま、どこか暗い顔をして俺達の顔をじっと見つめていた。

 

 テーブルにはカップに注がれたちょっと酸っぱい匂いのするお茶と、小麦とバターとモルフのジャムを練り込んで焼いた一口サイズの焼菓子がある。俺は知っている、こういう時ってのは長い話が待っているって。

 

 嫌だなぁ……俺、朝は弱いからもう寝ようと思っていたのに。バレないようにチラリと外を見れば、もう空は真っ暗になりつつあった。もう日も沈んでからのサニタスさんの長話……あー憂鬱だな。

 

 席を見ても椅子はみっつ。ルベラだけいないから、きっとカリエスのことだろうな。

 

 あいつが居たら話が進まないだろうからなんか理由つけておっぱらったのか、はたまた参加できない時間を狙ったか。サニタスさんにとって頭が冴えているルベラはある意味天敵だからな、聞かせたくは無かったと予想しておく。

 

「飲み給え、この辺りでは一般的なモルフの葉で淹れるお茶だ。澄んだ淡い黄色でありながら、モルフ特有の少々酸味を帯びたベリーの——」

 

「御託はいい、茶を振る舞いたいならルベラを風呂場に追い出さないだろう。カリィのことだろ?とっとと話せ」

 

 乱暴にカップを持って、中身を一気に喉に流し込んだヴェクタさんが結論を急いだ。

 

 大柄な性格だけど大切な話には首を突っ込まず、サニタスさんの長話をぶった切ることなんかないのに今日は食い気味に噛みついている。

 

 怒ったせいで整った顔に皺が寄ってかなり怖い。ヴェクタさんとは仲間になって日が浅いけど、こんな姿みたことないぞ。なにが気に障ったんだろう?

 

「ヴェクタ、はしたないぞ。もう少し品性を持て」

 

「どの口がその言葉を吐き出した?オレは隠し事を仲間にするなんざ嫌だ!ちゃんと全員の前で話せ!」

 

「ゔぇ、ヴェクタさん。サニタスさんがルベラを気にかけての俺達だけなんですよ……とりあえず、話。聞きましょう、ね?」

 

 魔物も裸足で逃げ出す覇気をまとっているヴェクタさんの威圧に、涼しい顔で茶菓子を口に運んでいたサニタスさんの間に入ってしまった。

 

 優雅にお茶を啜るサニタスさんの「放っておけ」という言葉を背中で感じ、ヴェクタさんのオーガ顔負けの威嚇に。まるで小さなトカゲになった気分でとりあえず目を逸らさないように目を見ていた。

 

 おい、ビビんなリゴル。俺はニムロージ重鱗(じゅうろう)流の斧術の免許皆伝している男だぞ。師匠のおっちゃんが今の俺の姿を見たら、尻を蹴り上げて活を入れるぞ!逃げたら駄目だって。

 

 ヴェクタさんは美人で俺より漢らしいし、怒ったらめっちゃ怖い……だとしても。

 

「後で、ルベラには私から話しておく。彼女は精霊族基準の年齢だとまだ未成年だぞ、こんな辛い現実を、私は聞かせたくないのだ」

 

「まだ卵産めないだけなのにな」

 

「えぇ!?ルベラって卵産むんすか!?——」

 

「あー話がややこしくなる、辞めろ!本題に戻るぞヴェクタ、リゴル」

 

 カップの中身を飲み干して、ようやく口を開いたサニタスさんの言葉にヴェクタさんとの睨み合いが終わった。

 

 目の前で俺ごとサニタスさんを切り伏せようとした圧が感じ取れた、正直もうちょっと早く喋ってくれよ。カリエス早く帰ってきて、お前みたいにうまい仲裁ができないよ。

 

「まぁとりあえず、サニタスさんもそう言ってますし……ね?ヴェクタさん。俺も話聞いておきたいですし、今後のため」

 

「全く、これだから最近の男共は。腰抜けサニィちゃんにお節介リゴちゃんめ、なにを言いたいかは分かっているが、ちゃぁーんと聞いてやる」

 

 納得はしていないようだったけど、ドガっと音を立てながら椅子に座り直したヴェクタさんに安堵しつつ。俺も席に着いた。

 

 サニタスさんは面倒くさそうに茶菓子にまた手を出していた。

 

「では改めて……まあ分かっているだろうがカリエス殿について。そして私達の行く末についてだ」

 

 サニタスさんはそう言ってローブの内ポケットから、一枚の手配書を取り出した。綺麗に折りたたまれていたそれを広げながら俺達にも見えるようにテーブルの上に広げて置いた。

 

「勇者として認められる、もとい魔王討伐への参加条件として。我々はこの手配書のような討伐依頼が出ている魔物を倒し、授与式が始まる前日までという期限内に、全員でカマアマに戻ることだった」

 

「で、オレ達が今回目をつけたのは『瑠璃の宝玉』と呼ばれる大型スライム……たしか、マザー・スライム?とかいうでっかいの」

 

「そうだ、我々にとってスライムは脅威ではない。しかし魔法を操り、母体として多くのスライムを生み出し続けるスライムの女王だ。奴は立派な討伐対象だった」

 

 ゆっくりと息を吐くように改めてマザー・スライムについて語りだした。

 

 スライムなんて、そこら辺に転がっている潤滑油や石鹸の原料とかに利用される弱い魔物のイメージなんだけど。

 

 その母体……マザーと名前がつけられる位の立派なスライム、初めて見たけどでっかかったな。俺の腰程度まであったんだよなぁ……放置するのはやっぱ危なさそうな魔物だったぜ。

 

「その魔石を回収することで、勇者としての実力を示せる。私達の目標にできる位には強い魔物だ」

 

 魔石。確か魔物ってのは血液のように体中に濃い魔力が流れていて、強い魔物ってのはたまに体の中で魔力を結晶化できる。それが『魔石』と呼ばれる石の一種。

 

 単体で持っていても魔法が強くなったりも、なにか能力の目覚めるものでもない。せいぜい呪い(まじない)の装飾品にあしらわれたり、純度が高ければ王族様の首飾りになる位しか使い道がなかった気がする。

 

 で、たまに山を掘れば出てくることもあるらしい。そういうのは死骸が地面に埋まっただけの古い魔石だから、宝石っていう魔力が籠もってない石としてアクセサリーになるってルベラから教わった。ドワーフが鉱山で暮らしているのは、その宝石を山から掘り出すためとも聞いた。

 

 ともかく俺は討伐した証明で持ち帰る程度しか、基本的には使わないんだよなぁ……宝石の良し悪しは分かんないな、専門知識がないと岩の中から取れるのと見分けつかないし。

 

「覚えているか?もう三日前になる。あの瑠璃の宝玉が生息するという住処を制圧した時のことだ」

 

「あー……あのチンケな住処な。でも予想してたより結構デカかった、オレが見てきた中じゃ文明もかなり進んでいた。人間の真似して文字が書いてある本もあった、それにサキュバスやコボルトも居たし……あのマザー・スライムはやっぱあの辺りのボスだったのかもな」

 

「ソロヴォル様の中で育まれた文明を……文字を魔物如きが使い始めるんだぞ。なんと恐ろしいことだろうか……はぁ」

 

 深い溜め息をついて下を向いたサニタスさんとは対照的に、ヴェクタさんは焼菓子をひとつヒョイッと口の中に放り込んでお茶を一口飲み込んだ。

 

 また話がだいぶ逸れているけど、重要なのはこの先のことだろう。

 

「でも俺達は、マザー・スライムは倒せなかった。他の魔物に苦戦して取り逃した……あのスライムを追いかけた筈だったカリエスは、物陰で倒れて虫の息だったってことっすね」

 

 今まで黙って聞いていた俺だったが、つい口を挟んでふたりの視線を集めてしまっていた。ハッとして慌てて口を塞いだが全部出ちまった、言葉にしてしまった。俺達の失態と捉えられる言葉をサニタスさんは繋いでくれた。

 

「そうだな、魔物の住処は落とせたと言えば聞こえはいいが……私達の祈願は叶わなかった、その事実は変わらない」

 

「この辺りだと残る討伐依頼は、『鋼鉄の大熊』と呼ばれるキャッスルグリズリー?だったか。マザー・スライム以上の大物だぞ、オレ達で太刀打ちできんのか?」

 

 そうか、明日にはここを出てくって言ってたけどそのキャッスルグリズリーっていう魔物を追うってことか。でも待てよ?今の俺達ってそんな魔物を追える位の準備ってできているっけか?

 

「カリエス殿の様子を見る限りだが、記憶喪失は深刻そうなのだ。あの医者が言うには頭を強く打ったというより、魔法を強く喰らった影響で脳に障害が残っているのではと……出鱈目な診断はともかく。今、戦闘ができるかどうかが問題なのだ」

 

「ま、魔法?魔法にそんな影響あるんすか?試行錯誤でやっと戦いでも役立つようになったシロモンですよね、人体に影響があるとは到底思えませんけど」

 

「西のエルフの差別主義者のゴミ共が使う、最先端の魔法でも人体……特に脳にだけ影響を与える魔法は存在してねぇ筈だ。それかあのスライムが本当にただのマザー・スライムじゃなかったとかな、まああり得ないけどな」

 

 ヴェクタさんの相変わらずの西のエルフに対する口汚い罵りには耳を塞いで自分なりに考えてみる。

 

 エルフ……と言っても明確には「東のエルフ」という括りにヴェクタさんはなっているけど、一応エルフだし……ルベラみたいに魔法に詳しいのかな?使ってるところなんか見たことないしイメージにもないけど。

 

 まあ、魔物の体内の魔力に引火して……とか凍らせて……ってメカニズムがあるらしい。体の中の魔力をどうこうして、いんがかんけい?とかいう奴がどうこうで……なんだっけ、教えてもらったのになにも頭に残ってないや。

 

 考えるのやーめた。やっぱ難しすぎて俺には無理だ、やっぱ物理が頭使わなくていいや。

 

「これ以上私達がどうこう話し合っても解決はしない。だからこれからのことを話そう」

 

 サニタスさんが手を組んで強く握り、ゆったりとした口調でまた会話を進めた。最後の茶菓子を取ろうとしたら横からヴェクタさんに取られた、俺まだ一個しか食べてないのに。

 

「カリエス殿の勇者への道のりは途絶えた、これはもう覆らないだろうな」

 

「熊倒しにいきゃあいいじゃん、近くなんだろ?」

 

「確かに残りの日数を考えれば無難だろうが、難しいな。それともヴェクタは戦えない人間を守りながら、教会が危険だと言った魔物を倒せると言うのか?……やはり勇ましき東のエルフだ、私達とは考え方が違うな。どうしてその勇ましさを賭け事に費やすのだろうな」

 

「うっせ!オレの生き甲斐だ、それは放っておけよ!」

 

 サニタスさんの皮肉をモロに喰らったヴェクタさんは、机を強く叩いて歯を軋ませながら立ち上がろうとしていた。慌てて止めにはいってなんとか収めたけど……やっぱ上手くいかない、辛いし面倒くさい。

 

「しかし、ただの人間である私達には危険な賭けになることが目に見える。倒せたとて都市に戻るまで傷を治せるかだが……治療にばかり金が掛かって、いざ念願叶っても文無し……なんてのは困るからな」

 

 ポットを傾けながら「おかわりは?」と聞いてくれたサニタスさんの優しさに、ヴェクタさんより素早く挙手して見事最後のおかわりを獲得できた。

 

 茶菓子の仕返しで取れた嬉しさに浮かれて、奪われないように一気に飲み干せば、このお茶特有の渋さを感じてすぐ顔をしかめてしまった。

 

 やっぱモルフの茶は渋くなりやすいな、うーん……意地を張るんじゃなかった。

 

「それを考えると、きっと他の勇者パーティの傘下に入るためにバラつくのが現実的だ。だから私達勇者カリエスのパーティはカマアマに着き次第終了となる」

 

 




ちょっと台詞長いっすね、精進しまーす
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