翌日、再びやってきたヒーロー基礎学の時間。担任の相澤が教壇に立つ。そしてRESCUEと書かれたプレートを見せてきた。
「今日のヒーロー基礎学だが、俺とオールマイト、そしてもう一人の三人体制で見る事になった。災害、水難、なんでもござれのレスキュー訓練だ」
今回は人命救助を想定したレスキュー訓練。相澤はコスチュームの着用を各自の判断に委ね、訓練場まではバスで移動するため準備を始めろと言い放った。
男女に分かれて更衣室に移動し、各々自分のコスチュームに着替える。
「水難なら私の独壇場、ケロケロ」
「確かに、『蛙』の個性なら活躍間違いなしね!」
「それを言うなら、愛乃の個性も色んなことできるから、こういう訓練でも活躍しそうじゃない?」
耳郎の言う通り、黄金裔の多岐にわたる希結理の個性は救助にも向いていると言える。しかし、少なくとも今は水難に関しては蛙吹の方が一枚上手だと言えるだろう。『海洋』の試練も受けておけばよかったと思った希結理であった。
「んー、さすがに水場だと梅雨ちゃんには敵わないわね」
「確かに、専門分野になると突出した個性のほうが活躍しやすいですものね」
「そういうことよ。後は、響香ちゃんの『イヤホンジャック』とか」
「えっ、ウチ?」
着替えている途中、突然話題にされた耳郎が振り向く。
「でも索敵も攻撃も愛乃さんは出来るし…ウチに比べて愛乃さんの方が……」
「前にも言ったけれど、あたしの個性は並列使用ができないの。それに金糸は糸から伝わる感覚を元にしてるから、聴覚に特化した響香ちゃんの方が長けている場面もあるわ」
そう言いながら希結理は耳郎に近づき、手を思いっきり握った。
「わっ、ちょっ!?」
「だから、もっと自分に自信を持って!誰だって、自分の物語の主人公なんだから!ねっ?」
「……うん。ありがと、愛乃。あんたや轟、爆豪見てネガティブになってたけど、そんなのロックじゃないよね!」
そうして着替え終わった女子たちは移動を開始した。
「A組集合!バスの席順でスムーズにいくよう、番号順に二列で並ぼう!」
「飯田君、フルスロットル……」
「やっぱり委員長ね~」
飯田がさっそく委員長として皆を仕切って整列させるが、いざ乗ってみるとバスは想定していたようなタイプではなく、路線バスのような座席が対面してるタイプだったのであまり意味がなかった。
「くそっ、こういうタイプだったか…!」
そしてバスで移動中、みんなが話す中蛙吹が緑谷に疑問を投げかけた。
「私思った事を何でも言っちゃうの、緑谷ちゃん」
「あ!?ハイ!?蛙吹さんッ!?」
「梅雨ちゃんと呼んで」
蛙吹に話しかけられてキョドる緑谷。希結理と麗日に対してはまだマシになってきたが、結局女子への免疫が殆どないのは相変わらずだ。
「あなたの個性、オールマイトに似てる」
「えっ!?そ、そそそうかな!?いやでも僕はえっとその…」
意図的ではないにしろ緑谷の秘密について核心を突く質問をされ、さらに動揺した。誤魔化すのが下手くそである。
「待てよ梅雨ちゃん、オールマイトは怪我しねえぞ。似て非なるアレだぜ」
「ホッ…」
図らずとも切島のフォローで難を逃れた緑谷であった。
「しっかし増強型のシンプルな個性はいいな!派手でやれることが多い!俺の硬化は対人じゃ強ぇけど、いかんせん地味なんだよな~」
「僕はすごいかっこいいと思うよ。プロにも十分通用する個性だよ!」
「プロな、しかしやっぱヒーローも人気商売みてぇなとこあるぜ?」
切島の言うとおり、ヒーロー飽和社会となった今市民からの人気もプロヒーローを評価する軸の一つになっている。
「派手で強えやつといったらやっぱ、轟と爆豪、それに愛乃だよな!」
「あら、あたし?あたしの個性は見た目はそこまで派手じゃないと思うけれど」
「いやいや、色んなことができるって愛乃が思ってる以上に派手だよ!」
「そうだよね!身体増強に高速移動、索敵、ワープ系、治療…ありとあらゆる分野に対してアプローチができる愛乃さんの個性は本当にすごいと思うよ!プロの現場からしたら重宝されるだろうし、さらに言えば訓練で見た愛乃さん自身の分析力や判断力の相乗効果で更にブツブツブツ……」
「爆豪ちゃんはキレてばっかだから、人気でなさそ」
「んだとコラ!!出すわ!」
「ホラ」
「この付き合いの浅さで、既にクソを下水で煮込んだような性格と認識されるってすげぇよ」
「てめぇのボキャブラリーは何だコラ!!殺すぞ!!」
切島の言葉に反応した緑谷がブツブツモードに入ったり、爆豪がいじられたりとバス内の会話が盛り上がっていたが、目的地が見えてきたところで相澤の言葉で打ち切られるのだった。
バスを降りた目の前には大きなドーム状の建物が建っており、その前には宇宙服のようなコスチュームに身を包んだプロヒーロー・13号が待ち受けていた。ヒーローオタクの緑谷や13号ファンである麗日は興奮気味に喜んでいる。そして13号の案内で中に入ると、中もかなり広くテーマパークのような作りになっていた。
「すっげぇー!USJかよ!」
「水難事故、土砂災害、火災、暴風……etc、あらゆる事故や災害を想定し、僕が作った演習場です。その名も……
(((本当にUSJだった!!)))
そんな13号に相澤が近づき、小声で尋ねる。
「13号、オールマイトは?ここで待ち合わせるはずだが…」
「それが、通勤時に制限ギリギリまで活動してしまったみたいで……」
「不合理の極みだなオイ…」
ため息をつきながらも予定通りに授業を進めるようで、13号が再び前に出る。
「えー、始める前にお小言を一つ二つ……三つ……四つ……」
(((どんどん増える…)))
「皆さんご存じとは思いますが、僕の個性は"ブラックホール"。どんなものでも吸い込んで塵にしてしまいます。これは簡単に人を殺せる力です。みんなの中にもそういう個性がいるでしょう。超人社会は"個性"の使用を資格制にし、厳しく規制することで一見成り立っているように見えます。しかし一歩間違えれば容易に人を殺せるいきすぎた個性を個々が持っていることを忘れないでください」
相澤の体力テストで自身の力が秘めている可能性を、オールマイトの対人戦闘訓練でそれを人に向ける危うさを体験した。そして今回は心機一転、人命のために個性をどう活用するかを学んでほしいと、13号は告げた。
「君たちの力は人を傷つける為にあるのではない。助ける為にあるのだと、心得て帰ってくださいな。以上、ご静聴ありがとうございました!」
13号がそう言いながらお辞儀をすると、生徒の皆は歓声と拍手に包まれた。
「よし。そんじゃ、まずは…。……?」
早速授業を始めようとした相澤だったが、何かに気が付いたかのように振り返った。何人かの生徒が視線につられて同じ方向に目を向けると、広場の噴水の前に黒いモヤが出現していた。正体不明のそのモヤは瞬く間に大きくなっていき、漆黒の渦を巻きながら広がっていく。そしてモヤの中から悪意に満ちた瞳がこちらを覗いた。
瞬間、相澤は叫んだ。
「…!一固まりになって動くな!13号、生徒を守れ!」
急激に増大した黒いモヤから次々に人間が現れる。しかし、ほとんどの生徒は状況を把握しておらず、相澤の声に対して、呆けたような反応を示していた。そんな生徒たちに、相澤は一喝する。
「また入試ん時みたいな、もう始まってんぞパターン?」
「動くな!あれは……
ようやく戦闘に入れるぅ~~