個性”黄金裔”が紡ぐ叙事詩   作:白豆男爵

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盤上に上がる

「……13号に、イレイザーヘッドですか。先日頂いた教師側のカリキュラムでは、オールマイトがここに居る筈なのですが……」

 

「…やはり先日のはクソ共の仕業だったか」

 

黒い靄のヴィラン、黒霧がリーダーらしきヴィランに対してそう言った一方で、昨日のマスコミ騒動の元凶が目の前のヴィランである事を悟った相澤は小さく舌打ちする。その間にもヴィランたちはこちらに歩みを進めている。

 

「どこだよ……せっかくこんなに大衆引き連れて来たのにさあ……オールマイト、『平和の象徴』、いないなんて……」

 

そしてヴィランを率いるリーダー、死柄木弔は、オールマイトがいない事に落胆しながらそう呟き…

 

「子供を殺せば来るのかな?」

 

まるで子供のような口調で、おもちゃを見つめるような目で、そう言い放った。その鋭い眼光に生徒たちは嫌な汗が流れる。

 

「ヴィ、ヴィラン!?バカだろ!ヒーローの学校に入り込んでくるなんて、アホ過ぎるぞ!」

 

「先生、侵入者用センサーは?」

 

「も、もちろんありますが……」

 

切島が声を上げ、八百万が13号に質問する。しかしセンサーがあり、それが反応していないということは、ヴィランたちがセンサーを無効化する手段を持っているということだ。それを聞いた轟は冷静に分析する。

 

「何にせよセンサーが反応しねえなら、向こうにそういうことが出来る奴がいるってことだ。校舎と離れた隔離空間(USJ)、そこにクラスが入る時間割り…バカだがアホじゃねえ」

 

「ええ。目的があって画策された奇襲、と取れるわね」

 

相澤は一歩前に出ながら思考する。

 

(愛乃の個性にはワープ能力もあるが、襲撃の詳細が分からん。ヴィランの出現がここだけではないと仮定した場合、校舎へのワープは愚策…。ひとまずここを出て事態を把握しなきゃ始まらん。今は集団で動く方が合理的だ)

 

「13号、避難開始。学校に連絡試せ。センサーの対策が頭にあるヴィランだ。電波系のやつが妨害している可能性がある。上鳴、お前も個性で連絡試せ」

 

「う、うっす!」

 

「愛乃、念のため校舎へのワープはナシだ。ヴィランの出現がここだけとも限らん。だが、本当に緊急の時はお前の判断で使用して構わん」

 

「分かりました、先生」

 

戦闘訓練の記録と個性の性質上、希結理ならある程度はワープを使う場面の状況判断ができるだろうという考えの元、最終判断を希結理に委ねる。そして相澤はゴーグルを装着し、捕縛布を握り戦闘態勢に入った。

 

「先生は!?一人で戦うんですか!?あの数じゃ、いくら個性を消すといっても……イレイザーヘッドの戦闘スタイルは、敵の個性を消してからの捕縛だ。正面戦闘は……」

 

「一芸だけじゃ、ヒーローは務まらん……任せたぞ、13号」

 

13号は相澤の言葉に小さく頷くと、イレイザーヘッドはヴィランの大群の中へと飛び込んでいった。

 

 

 

「す、すごい。多対一こそ、先生の得意分野だったんだ…」

 

イレイザーヘッドは個性を消しながら、混乱しているヴィランたちを捕縛布や格闘術で無力化する。その様子を見て緑谷は思わず足を止めて感嘆していた。

 

「分析してる場合じゃない!早く避難を!」

 

「あっ。う、うん!」

 

飯田の呼びかけで13号やクラスメイトたちとともに出口に向かう緑谷。しかし、その行方を先ほどまで広場にいたはずの黒霧が阻んだ。

 

「はじめまして。我々はヴィラン連合。僭越ながら、この度雄英高校に入らせていただいたのは────『平和の象徴』オールマイトに息絶えていただきたいと思ってのことでして」

 

その言葉に、生徒たちは息を呑む。それもそうだろう。目の前にいるヴィランたちはナンバー1ヒーローであるオールマイトを殺しに来たと言っているのだから。

 

「まあそれとは関係なく、私の役目はこれ」

 

黒霧がそう言うと動きを見せたため、13号は右手のブラックホールを構える。しかしその直後、爆豪と切島が黒霧に向かってそれぞれ爆破と硬化した拳を振りかぶった。13号と黒霧の間に爆豪と切島が立つ形となり、これではブラックホールに生徒を巻き込んでしまう。

 

「その前に俺たちにやられることは考えなかったか!」

 

「駄目だ!どきなさい、二人とも!」

 

「危ない危ない…そう、生徒といえど優秀な金の卵。私の役目は、あなたたちを散らして、なぶり殺す!!」

 

次の瞬間、黒い靄が一斉に広がり、生徒たちを包む。13号がブラックホールで退路を、飯田がエンジンで何人かを靄から外に連れ出すが、希結理も含めて靄の中に残っていた生徒たちは忽然とその姿を消してしまった。

 


 

「死ねぇ!!」

 

爆豪がそう叫びながらヴィランに対して爆破を食らわせる。爆豪、切島、希結理の3名はUSJ内の倒壊ゾーンに飛ばされ、ビル内でヴィランを迎え撃っていた。

 

「下からさらに4人登って来るわ。階段から3人、1人は……外の壁を這い上がってきてる。ここで迎撃しましょう」

 

「俺に指図すんじゃねえクソチビ!!」

 

「まーまー爆豪。索敵してくれてる愛乃を守るのが俺等の役目だろ?」

 

「んなこと言われんでも分かっとるわ!!」

 

キレ散らかしながらもヴィランの増援を片っ端から爆破する爆豪。戦闘訓練でもそうだったが、常にキレているようで冷静な部分もある。希結理に索敵に回らせているのもそうしたほうがいいと判断しているためだ。

 

実際爆豪の爆破と切島の硬化で攻撃の手数は足りているため、希結理は戦局を有利に進めるために、金糸を駆使して索敵に回っている。

 

(数は多いけれど、強さはそれほどでもない。勝己くんと鋭児郎くんだけで前衛が事足りるくらいには…。寄せ集めの集団ってことかしら?)

 

「考え事しやがって!その油断が……ぎゃあっ!?」

 

「ふふっ、ありがとう。切り替えが間に合わなかったから、助かったわ」

 

「勘違いすんな。てめぇがいた方が時短になるってだけだ」

 

分析をしている希結理をカメレオンの個性で背景に同化し、奇襲しようとしていたヴィランを爆破でねじ伏せる爆豪。しかし自分が助けに入ることを確信していたような希結理の態度は、爆豪を何とも言えない気持ちにさせた。

 

そしてその後も戦闘を続け、周囲の金糸の反応が完全になくなった。

 

「うん、この辺のヴィランは大方片付いたみたい」

 

「くそっ!ガキがこんなに強いなんて聞いてねぇっ…!」

 

そして希結理は唯一意識が残っているヴィランに対して歩み寄る。もちろん、金糸で拘束済みであり、個性で金糸が破れないことは確認済みだ。

 

「さて、あの黒い靄の人が言っていたわ。オールマイトを殺すのが目的だって。オールマイトを殺すってことは、それなりの策があるんでしょう?誠実に、素直に答えてちょうだい」

 

そう言いながら希結理はヴィランの目の前にしゃがみ込む。今の希結理に目は見えていないが、拘束されたヴィランは希結理の視線が自分を射抜いているような錯覚に陥る。

 

「もちろん、嘘は通じないわよ。金糸から伝わる筋肉の強張り方や心臓の鼓動の変化で分かるから」

 

「ほ、本当に知らねぇんだ!俺らはただ死柄木に焚きつけられただけなんだよ!」

 

(金糸に反応はない。本当みたいね。死柄木という男にとって彼らは使い捨ての捨て駒でしかないってこと……?)

 

希結理は少し戦慄した。これだけの人員を動員しておきながらその実、彼らはほぼ全員が捨て駒だということなのだ。死柄木のヴィランとしての悪意が垣間見える。

 

「とにかく、これ以上は何も聞きだせなさそうね」

 

「それなら早いとこみんなと合流しねえと!戦闘向きじゃない個性のやつらもいるし、心配だ」

 

「ンなことより、さっさと広場に戻ってあのヴィラン共をブチのめす!」

 

合流を急ごうとする切島に対し、爆豪は広場の主犯格のヴィランと戦闘する気満々だ。ワープ持ちを抑えればヴィラン側の脱出手段がなくなるというのは爆豪の言うとおりだったが、だとしても無謀な作戦にしか聞こえない。

 

「愛乃、お前のワープで他のやつ助けられねえか?」

 

「ダメね。ここの正確な位置関係が分からない以上、百界門を使うには不確定要素が多すぎるわ。もしかしたら戦場のド真ん中に開いちゃうかも」

 

「だったら救出なんか無理だろ。どっちにしろ俺らは広場に向かうしかねえんだ。ならあの野郎どもブチのめしても問題ねぇよなァ…!」

 

「お前はその野蛮な思考をどうにかしろ!」

 

「──『法』が星々に届きますように」

 

血気盛んな爆豪を宥める切島を横目に、希結理は『法』の神権を発動する。すると希結理の脳内で、今の状況と取れる選択肢、誰をどう動かすかの案が無数に提示されていく。

 

(これは、なるほど。自分で選択しろってことね。誰を守り、誰を切り捨てるか……基本的にはそういう選択肢ね)

 

それはまるで、希結理がケリュドラとチェスをしていたときのようだった。どう攻めてどの駒を守り、どの駒を捨て駒とするか。チェスも戦場も根本では同じ、ということだろう。

 

でも希結理は人を駒として扱い切り捨てられるほど割り切ることは出来ない。どうしても考えてしまうのだ。全員が助かる筋書きを。

 

(ごめんなさい、カイザー。あなたの考えに反するかもしれないけれど、クラスメイトを見捨てるなんて、あたしには出来ないの)

 


 

「やつめ、まさか本当にあの策を取るとはな」

 

ケリュドラはそう小さく呟く。ここは『創世の渦心』。希結理の個性因子内に存在する、ひいてはオンパロスにも存在したタイタンの火種を返還するための場所だ。その最奥にはタイタンの星座が描かれており、12の内の9つに光が灯っている。"黄金裔"という個性においてこの場所は、個性内の黄金裔たちが一堂に会することができる。といっても、今そこにいるのはケリュドラともう一人、銀髪の人柄のよさそうな青年だけだ。

 

「言っただろう、カイザー。彼女に力を与えれば、彼女はそういう選択をする。根でいえば、彼女はキュレネと同じなんだ」

 

「だから彼女に火種を渡すべきではないと?僕が認めた以上、『法』の火種の継承に口出しは許さんぞ、"烈日卿"」

 

「ははっ、そんなつもりはないよ。ただ僕は、彼女に重責を背負わせたくないだけなんだ。彼女は愛乃希結理であって、エリュシオン*1のキュレネじゃない。だからこそ………『世負い』の火種を継承させはしない」

 

銀髪の青年…『世負い』の半神・ファイノンはそう言うと創世の渦心から姿を消した。一方ケリュドラは不敵に笑う。

 

「自分一人が他よりも背負えば、か。貴様も同じようなものだろうに、烈日卿。……さて、どう動くか見ものだな」

*1:
スターレイルにおけるファイノンとキュレネの生まれ故郷




・個性内の『創世の渦心』
永遠の1ページと創世の渦心で迷ったけど個性の内容が火種の継承だし、渦心のほうかなと。

・爆豪の希結理の呼び方
クラスメイトとして多少関わりが出来たうえでチビとピンクの二択。ピンクだと芦戸と特徴がもろ被りのため結局変わらず『クソチビ』へ。希結理は多分ちょっとだけ気にしてる。

『法』:戦局を見る能力が上がり、現在の情報を元に様々な戦術や計画を練ることが出来る慧眼が手に入る。どの選択を行い、どう進めるかは希結理次第。

設定的に曖昧なところがあるかもしれない。ケリュドラのカイザーとしての指揮能力を前面に出したかった。原作でもサポーターだし。

・火種渡さないノン
希結理が『世負い』なんて継いだらもっと無茶するに決まってる。だから火種は渡さんという確固たる意志を貫いている。もし希結理が創世の渦心に来たら多分最初期のOFA2代目みたいに壁に向かって俯くかそもそもそこにいないと思う。
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