「さあ熱が冷めないうちに…今年の第1種目はこれ!障害物競走!!コースはスタジアムの外周約4キロ。コースを守れば、何をしたってかまわないわ!さあさあ、位置に就きまくりなさい!」
ミッドナイトがムチを振るった先には、スタート地点となるゲートがあった。多くの生徒たちが我先にとゲートの前の方に詰め寄る中、希結理はスタートダッシュに周囲の人を巻き込まないために後ろの方で準備をする。
「――『大地』が道を護りますように」
ゲートに付いている三つのランプが一つずつ消えていく。そしてランプがすべて消灯した瞬間、全生徒が一斉に走り出した。
『さーて実況していくぜ!アーユーレディ?A組担任よぉ!』
『無理やり呼んだんだろうが……』
『早速だが、序盤の見どころは?』
『今だよ』
相澤の言う通り、障害物競走はスタート地点からすでに始まっていた。大勢の人数が通るにはゲートは余りにも狭く、スタートダッシュを決めようとした者達はすぐさますし詰め状態となってしまった。
(なるほど、スタート地点がすでに最初のふるいってわけね)
希結理は大地の神権で龍霊を呼び出し、その背に飛び乗る。
「でも、あたしには関係ないわ」
「一人だけ先には行かせねえぞ!」
それに続いて轟がスタートダッシュを兼ねて地面を凍らせ、大人数の生徒たちの足を拘束する。だがA組のメンバーは轟の氷結を掻い潜り、前方にいる希結理と轟を追いかけていく。
「甘いですわ、轟さん!」
「待ちやがれ!クソチビ、半分野郎!!」
「チッ、想定より抜けられたな。それに、愛乃が思ったより速い」
龍霊の背に乗って上空を進む希結理には、地上からの妨害が届きにくい。さすがの轟も手を出しづらく、今回は希結理に分があった。ある程度進んでいくと、希結理の視界に見覚えのあるロボットたちが立ちはだかっていた。
「あら、久しぶりね♪」
『おいおい、言ってる間にさっそく第一関門!ロボ・インフェルノ!!』
『ターゲット…大量!』
それは、入試の時に出てきた仮想ヴィランだった。1~3Pの他、0ポイントが大勢用意されている。
「あれ、入試ん時の0ポイントヴィランじゃねえか!」
「嘘!?ヒーロー科あんなんと戦ったの!?」
(あの時は逃げる判断しかできなかった。出久君がロボットを破壊する様を見ていることしかできなかったけれど、今のあたしは違う!)
希結理が念じるように目を閉じると、その手の中にはいつの間にか槍が握られていた。そして、一度深く呼吸をし、目の前のヴィランを見据える。
「龍よ、我が命を聞け」
『そうだ、呼吸を整えろ。そうすれば、生命は応えてくれる』
希結理の声に、青年の声が重なる。希結理の脳内に声が響く。その声は『大地』の半神、丹恒・騰荒のものと同じだった。
希結理の呼びかけに呼応するように、希結理の周囲には多くの龍霊が姿を現した。そしてエネルギーが希結理の持つ槍に収束していく。
「『不朽不滅を以て八荒を翔け、厄災を払え!』」
祝詞が響くと同時に、槍を包み込むように龍霊たちが旋回した。次の瞬間、希結理は槍を構え、龍霊たちと共に0ポイントへと突撃する。轟音とともに槍が装甲を貫き、0ポイントは完全に機能を停止した。その巨体が、地面へ倒れ込む。
これが、希結理が体育祭までの約二週間で会得した個性の新たな使い方。蓄積されたエネルギーを消費して、黄金裔たちの必殺技を再現し放つことが出来る。
エネルギーは時間経過で少しずつ蓄積されていき、消費量は神権ごとに異なる。だがどの技でも、計画なしに何度も使用すればすぐにエネルギーが尽きてしまう。ここぞというときに使える、正に必殺技だ。
「せっかくならもっとすげぇのを用意してほしいもんだ。――クソ親父が見てんだからよ!!」
そして轟も負けじと個性を使い、0ポイントをあっという間に氷像へと変えてしまった。さらに轟の氷結は0ポイントを伝って、攻撃するために高度を下げた希結理の龍霊を凍りつかせた。
「…!やるわね!――『紛争』が戴冠して王になりますように」
希結理は即座に神権を『紛争』へと切り替え、凍りついた龍霊を足場にして大きく跳躍した。役目を終えた龍霊は姿を消し、希結理は依然トップのまま走り抜ける。
「やっぱ一筋縄じゃいかねえか。……それとやめておけ。不安定な体勢で凍らせたからな」
――倒れるぞ。
後続の生徒たちは氷像となった0ポイントの足元の隙間をくぐり抜けようとした。しかし轟の忠告通り、不安定な体勢の0ポイントは崩れ出し、大きな土煙を上げて倒れ込んだ。
「轟アイツ、不安定な時にわざと凍らせやがった!!」
『1—A愛乃、最速で0ポイントを撃破!てかなんだあの龍は!そして轟も攻略と妨害を一度に!初っ端から飛ばしすぎだろ!さすがは入試トップと推薦入学者!!こいつはシヴィ〜!!』
「勝つのは俺だ!!」
「やっぱり愛乃さんも轟くんもすごい!でも、僕だって!」
トップを走る二人に続いて、A組や他の生徒たちも着々とロボ・インフェルノを突破しつつあった。一方希結理は、走りながらも目の前に広がる光景に少し驚いていた。
「これは…」
『本当に速ぇなおい!! もう第二の障害物か!?ならこれはどうだ!! 奈落に落ちたら即アウト!!「ザ・フォール」!!!』
そこにあるのは数々の孤島と、それらをつなぐ細いロープのみ。落ちた先に広がっているのはプレゼントマイクの言う通り、まさに奈落だった。
落ちないように慎重に渡れば、後続にすぐさま追いつかれてしまうのは目に見えている。だが焦ってもし落ちてしまえば一巻の終わり。
(轟君も迫っている以上、龍霊を呼び出す時間はない。神権を切り替えれば身体強化が途切れ、速度が落ちる。まして、召喚したところで高度を稼ぐ前に凍らされる可能性もある……!)
「紛争集約、出力45%!」
『おいおいマジか!愛乃、一切減速しねぇぞ!?』
ならばと、希結理は身体強化を両足のみに集約していく。希結理の成長に応じて、個性の扱いも上達している。紛争の身体強化を一点に集中させた時の出力を、100%中45%まで引き上げることに成功していた。
そして崖が希結理の目の前にまで迫ったその瞬間、右足で強く地を蹴り、跳躍した。何度も跳躍を繰り返し、孤島から孤島へと渡り継いでいく。
足場は数人立てるかどうかの狭い場所。もし着地点を見誤れば、奈落へと落ちてしまう。一度落ちれば、大きく順位を落としてしまうだろう。
慎重に、かつ大胆に。どれに飛び移ればいいのか、解をはじき出しながら進んでいく。
『1−A愛乃!目を見張る速度で孤島から孤島へ!なんつー判断力と胆力してんだよオイ!!』
そして遂に、希結理はザ・フォールを突破した。轟や、それに続く生徒たちも次々にザ・フォールへと挑んでいく。その様子を見て、観客席からは大きな歓声が上がった。
『おいおいお前のクラスすげぇな!どんな教育してんだよイレイザー!!』
『俺は何もしてねえよ。あれは愛乃が自分で出した答えだ。それを見てアイツらが互いに火付け合ってんだよ』
未だ希結理の順位は一位。それに轟が続く形となっている。しかし、そのトップ争いに、一人の少年が加わった。
「待てや…!クソチビ!半分野郎!」
「爆豪君…!」
スロースターターの爆豪がここで参戦。爆風を利用して一気に加速し、轟とほぼ並んで希結理を追いかける。
『爆豪も追いついてトップ争いは三つ巴に!そしてそして、早くも最終関門!一面地雷原!! よく見りゃ位置がわかるようになってるから目と足酷使しろ!!ちなみに地雷は威力はねぇが、音とかやべぇから気を付けろ!!』
「――『詭術』がただの戯れでありますように。さあ、一気に駆け抜けるわよ!」
『ビビったら駄目だよ?大事なのは、前に進むことだからね!』
「ええ!」
希結理の脳内に『詭術』の半神・サフェルの声が響く。その声に答えながら、地雷原を前にして希結理が取った選択。それは……一点突破だった。
コインを宙に投げ、圧倒的なスピードで駆け抜ける。そのスピードは地雷を踏み抜きながらも、地雷が爆発するよりも前に次の一歩を踏み出し、爆発を置き去りにしていた。
『は、速ェェェ!?愛乃、地雷を置き去りにして高速移動!もう何でもアリだな!!』
『それがアイツの強みだからな』
そして希結理の高速移動の効果が切れ、再度コインを投げて走り出そうとしたその時、希結理の足が突如凍り、移動に失敗してしまった。
「なっ!轟君の氷結…!」
「ソレにインターバルがあるのは分かってるからな。地雷を凍らせて後続の道を作っちまうのは不本意だが……今のうちに追いつかせてもらう!」
「あいつを追い越すのは俺だ半分野郎!どきやがれ!」
「――『紛争』が戴冠して王になりますように。『詭術』をもう一度使う時間はなさそうね…!」
希結理は即座に神権を『紛争』に切り替え、氷を砕いてそのまま走り出す。一度静止したためか、轟と爆豪はもうすぐそこまで迫ってきている。
地雷原を抜けるまで後少し。このまま三人でトップ争いを繰り広げるかに思われた、その時だった。
――BOOOOM!!!
「「「!?」」」
地雷原のスタート地点の方で、その大爆発は起きた。思わず三人とも振り返ると、緑谷が爆風を利用して猛進してきていた。緑谷は地雷を集めて自発的に大爆発を起こしたのだ。
『おおっと!まさかのここで緑谷、愛乃、轟、爆豪を追い抜いて一気にトップへ!!』
緑谷はトップ三人を追い越し、爆風の勢いのまま、手に持っている何かを地面に叩きつける。するとそこにあった地雷が爆発し、緑谷をさらに正面へと押し上げた。争いを中断して緑谷に追い付こうとする三人だったが、地雷の爆風で体勢を崩してしまう。
(あれは…仮想ヴィランの装甲!?ここまで持ってきたの!?)
緑谷が持っていた物の正体は、第一関門の仮想ヴィランの装甲板だった。一気に一位となった緑谷は三人が地雷に怯んでいるうちに、そのままゴールへと走り出す。
『オイオイ!まさかまさかの逆転劇!!誰が予想出来たよ!?今一番にスタジアムへ帰ってきたその男――“緑谷出久”の存在をよ!!!』
プレゼント・マイクが叫んだ瞬間、一斉に歓声が爆発した。
爆風に体勢を崩されながらも、いち早く立て直した希結理は、緑谷に続いて二着でゴールした。
「やるじゃない、出久君……!!」
希結理は一位となった喜びを抑えきれていない緑谷の背中を見つめていた。
・個性"黄金裔"の成長点
エネルギーを消費して必殺技が発動可能に。時間経過で溜まる版のスタレのEPみたいなシステム。
あとは火種によって黄金裔との繋がりが強まった結果黄金裔たちが脳内で話しかけてくるようになった。
話しかけたり必殺技発動は神権使用中の黄金裔限定。
何かどんどんスタレが侵食してきてる気がする。……まあいっか。