「「「個性把握テスト!?」」」
生徒一同、まるで示し合わせたように声が揃った。体操服に着替えて相澤から告げられたのは、個性把握テストをやるというもの。入学初日なのに、である。
「入学式は!?ガイダンスは!?」
「ヒーローになるなら、そんな悠長な行事出る時間ないよ」
皆の気持ちを代弁したであろう麗日の疑問をそう言ってバッサリと切り捨てる。雄英は自由な校風が売り文句で、教師もまた然りとは言うものの、あまりに前代未聞の出来事に生徒たちは困惑している。
「中学の頃からやってるだろ?個性禁止の体力テスト…合理的じゃない。実技入試成績のトップは…愛乃だったな。中学の時、ソフトボール投げ何mだった?」
「えーっと、30mだったかしら?」
「じゃあ個性を使ってやってみろ。円から出なきゃ何しても良い。はいよ、思い切りな」
ボールを渡された希結理はどの能力を使うか悩んだ結果、安定の『紛争』に落ち着いた。一方爆豪は不満げな顔でギロリと希結理のことを睨みつけていた。理由は単純、実技入試の成績が自分より上なのが気に食わないからである。合格通知の際に『実技入試成績次席』という事実を突き付けられた時にはひどく狼狽した。希結理のことを思いっきり舐めているため、『何でこんなクソチビが…!』と思っている。
「──『紛争』が戴冠して王になりますように」
(((急にポエム…?)))
クラス一同は突然のポエムに同じ疑問符を浮かべるも、その直後のインパクトに意識を持って行かれた。投げる一連の動作は普通だったのにも関わらず、そこから繰り出されたのは華奢な体からは考えられない風圧と、投球速度。そして測定器が示した結果は『450m』だった。その結果にクラスの皆は大盛り上がりで歓声を上げたが、『面白そう』という言葉に、相澤が反応した。
「面白そう…か。ヒーローになるための三年間、そんな腹づもりで過ごす気でいるのかい?…よし、トータル成績最下位の者は見込み無しと判断し、除籍処分としよう」
「「「はぁーっ!?」」」
ニヤつきながら突然そんなことを言い始める相澤に猛抗議の声が上がるが、そんなものは気にも留めない。希結理は悟った。あれは冗談などではなく、本気の目だと。同時に、面白い先生だとも思った。
(ふふっ、随分と刺激的な幕開けじゃない)
「生徒の如何は教師の自由。ようこそ、これが雄英高校ヒーロー科だ」
そうして入学初日からまさかの個性把握テストが幕を開けた。
第一種目:50m走
出席番号の関係上、愛乃とプライドの高そうな男子、青山が一番手である。
「──『詭術』がただの戯れでありますように」
「なぁ、いつも言ってるそれってなんなん?あっごめんね?走る直前に…」
「別にいいわよ、個性の発動に必要なの。これくらいの下準備はいいですよね、先生?」
「何でもいい。とっとと走れ」
特にスタートダッシュの態勢に入るわけでもなく、『スタート』の合図とともに希結理はコインを上空に投げ、50mを一気に駆け抜けた。
「2秒98!」
個性のレーザーを駆使して距離を稼ぐ青山を置き去りにし、以降塗り替えられない記録を叩き出した。クラスメイトからはまたしても歓声が上がった。
第二種目:握力
握力はどうあがいても工夫のしようがないため、普通に『紛争』で身体能力を強化することにした。きっと大半の種目は『紛争』にお世話になることだろう。
記録・96kg
因みにだが、無個性による握力測定では女子高校生の平均は25kg前後である。『紛争』のパンプアップは偉大だった。
第三種目:立ち幅跳び
この種目は希結理の独壇場だった。理由は単純。彼女は空を飛べるからである。念のため被害が及ばないように、隣の青山が飛んだ後に『龍霊』を召喚し、空へと飛翔した。
「愛乃、そいつはどれくらい持続する?」
「あたしが力尽きない限りいつまでも。飛行だけなら後2時間は続けられます」
「分かった、もういい。降りてこい。これ以上は測定できん」
記録・∞
「すげぇ!無限出たぞ!」
「さすが実技入試主席!」
「…チッ」
またしてもクラスの注目を集める希結理に対して、爆豪はまたしても嫌悪感を募らせていった。
第四種目:反復横跳び
こちらも握力同様に『紛争』の身体強化で乗り切った。
記録・78回
「希結理ちゃん、さっきの高速移動は使わんの?」
「『詭術』だと速すぎて複雑な動きが難しいのよね~。天哉くんもそうでしょう?」
「ああ。反復横跳びとなるとそこまで器用なことは出来ないな」
「へぇ~。色々あるんやなぁ…」
第五種目:ハンドボール投げ
希結理の結果は先ほどとほとんど変わらない。『紛争』で強化してからボールを投げる。結果も最初と同じだった。
そうしてやがて緑谷の番になった。緑谷は現在突出した記録を出せておらず、その顔には焦りの色が見えている。希結理の見た限り、緑谷が今までの種目で個性を使った様子はなく、先の入試のように行動不能になるほどの重傷を負ってしまうからだろうと結論付けた。緑谷は何か意を決したようにボールを投げたが、『46m』という普通の記録だった。
「な…今確かに使おうって…!」
「個性を消した。つくづくあの入試は合理性に欠くよ…お前のようなやつも入学できてしまう」
絶望の二文字が似合いそうな表情をする緑谷を、その赤い瞳は視界にとらえていた。
「個性を消した?はっ、あのゴーグル…そうか!見ただけで人の個性を抹消する個性!抹消ヒーロー・イレイザーヘッド!!」
「イレイザー?俺知らない」
「あたしも少ししか聞いたことないけれど…極度にメディア露出を嫌ってるから情報が少ないのよ」
「希結理ちゃん、物知りやね?」
「ふふっ、これでもヒーローには詳しいのよ?」
クラスの男子の誰かが発した声に対して希結理はそう反応した。希結理たちには緑谷と相澤の詳しい会話内容は聞こえなかったが、見る限り相澤が緑谷に対して何か指導をしているのだろうと希結理は推測した。
「お前の個性は戻した…ボール投げは2回だ。とっとと済ませな」
緑谷は円に入ると、暗い表情でブツブツと独り言を言い始め、そして…
「SMASH!」
緑谷はその超パワーを指先だけに込め、圧倒的風圧と共にボールを遥か彼方にブッ飛ばした。記録、『705.3m』。爆豪をわずかに上回ったその記録は、相澤を確かにニヤつかせた。
「先生…まだ、動けます!」
「こいつ…!」
同時に、希結理もその顔に笑みを浮かべた。やはり彼は面白い、と。
「…どういうことだ!コラ!訳を言え!デクてめぇ!」
そこへブチ切れた爆豪が緑谷に襲い掛かろうとするが、相澤によって即座に捕縛された。
「んだこの布は…硬ぇ…!」
「炭素繊維に特殊合金の鋼線を編み込んだ捕縛武器だ。ったく、何度も何度も個性使わすなよ・・・俺はドライアイなんだ!」
(((個性すごいのにもったいない!)))
そうして相澤に促され、次の種目へ移った。
第六種目:持久走
持久走は1周1kmのレーンを5周走るというものだった。希結理は『詭術』を使って走り始めるが、1周半走ったあたりで効果が切れ、もう一度コインを投げて再走というサイクルを繰り返していたが、何度か止まっているうちに飯田やバイクを創造した八百万に追い越されてしまった。
記録・3位
1位は取れなかったが、持続力という『詭術』の新たな弱点が浮き彫りになったと、希結理はプラスにとらえることにした。
第七種目:長座体前屈
この種目は特に希結理の個性で出来ることはなかったので普通に取り組んだ。強いて言うなら身長が低いため若干伸びが悪かった。
記録・55.0cm
第八種目:上体起こし
遂に残すところ最後の種目となった。希結理は『紛争』…ではなく別の能力を使うことにした。
「──『理性』が真理を広めますように」
(((また別のポエムだ…)))
スタートの合図と同時に、希結理の背には小さな植物の根が出現し、体を持ち上げるのをサポートし始めた。根で持ち上げ、体を下げるの繰り返し。
記録・45回
これをもって全種目が終了した。相澤の宣言通りなら、記録が最下位だったものはここで除籍となる。ソフトボール以外で目立った記録が出なかったため、まず間違いなく緑谷が最下位だろう。誰の目から見てもそれは明らかだった。
「んじゃ、パパッと結果発表。トータルは単純に各種目の評点を合計した数だ。口頭で説明すんのは時間の無駄なので一括開示する」
相澤が端末を操作すると今回の順位を示したホログラムが表示された。最下位は予想通り…緑谷出久だった。
「ちなみに除籍はウソな。君らの個性を最大限引き出す合理的虚偽」
相澤はホログラムを消し、鼻で笑いながらあっさりとそう告げた。当然、多くがポカンとした表情を浮かべる。
「「「はあーっ!?」」」
「あんなのウソに決まってるじゃない。ちょっと考えれば分かりますわ」
(本当かしら?除籍という言葉に嘘はなかったように思えたけど…でも『浪漫』で真偽を確かめるのはマナー違反よね?)
「これにて終わりだ。教室にカリキュラムなどの書類があるから、戻ったら目ぇ通しとけ」
相澤は緑谷に保健室利用届けを渡し、その場を去っていった。
個性把握テスト 最終結果
1位 八百万 百
2位 愛乃希結理
3位 轟 焦凍
龍霊の射程は半径20mくらいの設定なので、ハンドボール投げは『紛争』使った方が伸びます。立ち幅跳びは自分が乗って射程という概念を無視する荒技。
『紛争』の状態ははOFAのフルカウルをイメージしていただけると。
一応全種目で個性を発揮したため順位は轟より上です。多分ヤオモモには勝てない。「創造」って便利やなぁ~…。